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悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業  作者: クロウ・タイタス
第一章:幼年期の終わり
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三話:仲間

『ロイヤルダークソサエティ』。


 その名は、まるで闇そのものを凝縮した呪文のように響く。遥か昔、侵食型寄生モンスター『歩く地獄:ダイモス』の細胞を研究・実験する組織として生まれ落ちたこの集団は、今や別の貌を纏っている。細胞の暴走を起こした者たちを『忌み子』と呼び、この世の害悪として始末する活動に手を染める。


 だが、それは表向きの仮面に過ぎない。真実はもっと悍ましい――彼らは自分たちの罪を隠すため、攫った子供たちをさらなる実験材料として利用しているのだ。


 元は、ダイモスを討伐すべく孤児を集め、強化実験を施す機関だった。その歴史が、まるで必然のように、今の腐敗へと繋がったのだろう。さらに恐ろしいことに、『ロイヤルダークソサエティ』は自らダイモス細胞を繁殖・培養し、攫った者に植え付ける可能性すらある。


 推測の域を出ない情報も混じるが、蠢く野望の片鱗を知った以上、ラスティの心は静止を許さない。貴族としての『ノブレス・オブリージュ』、そして転生前の愛読漫画の言葉――「強いものは弱いものを守り、弱いものは強くなるために努力する」――その信念を胸に、彼は戦うことを決意する。まるで運命の歯車が、静かに、しかし確実に動き出したかのように。


「つまり、この世界には、『ロイヤルダークソサエティ』という自らダイモス細胞を植え付けて、暴走したら回収して、公的に実験体にする組織がある。私はそれの被害者、ということでしょうか?」

「ああ。そうなる。気分が悪くなる話だ。私は、これと戦おうと思う」

「戦う……ですか? しかし相手は、権力者や国家システムに介入できるほど大きな組織です。磨り潰されて終わりかと」


 エルフの少女は、メイド服に身を包み、静かに言葉を紡ぐ。その姿は、まるで闇の中で一筋の光を求める花のように儚く、しかし強い意志を宿している

「やめましょう、そんな危ないことは。やるとなれば私も手伝います。しかし私は、貴方が普通に過ごして平和な日常を送ってくれる方が嬉しいです」

「その意見は素直に嬉しい。しかしやらなければならないのさ」

「何故?」

「ノブリス・オブリージュ。私は恵まれて育った。そしてその裏では悲しむ人が多くいて、だから人を守りたいし助けたいと思った……っていうのは本心だけど、一言は憧れ、だ」


 エルフの少女は、まるで時間を止めるかのように、静かに言葉を待つ。


「憧れ。信念を貫く格好良い主人公ではなくても良い。カリスマのある悪役じゃなくても良い。何か信念や、大切なものじゃなくても良い。泥臭くて、人からバカにされるとしても、私は何か真剣に何かを一生懸命頑張れる人を尊敬しているし、憧れている」


 目的があるからやるんじゃない。立派になりたいからやるんじゃない。やってみたいから、今やるのだ――ラスティの言葉は、まるで彼の魂そのものが刃となって響く。


「だから、私は人生目標としてダイモス細胞の完全制御方法の確立と、『ロイヤルダークソサエティ』の解体を掲げる。みんなが笑顔になれる世界を、自分の精一杯目指してみたい」


 エルフの少女は、ゆっくりと口を開く。彼女の瞳は、まるでラスティの言葉を飲み込むように、静かに揺れている。


「私を助けたのは特に意味はない?」

「ないだろう。きっと君じゃなくてもあそこにいたなら助けた」

「人を救いたいとか、大切な人を守りたいとか、そういうのもない?」

「妹のメーテルリンクや、君を守りたいし笑顔にさせてあげたいとは思うが、世界中の人々の幸福は重すぎる」

「貴方は、自分のことをなんだと思う?」

「偽善者」

「この世界の真実を知って、自分のやることが命の危険があることを理解している?」

「理解してるさ。だからやるんだ。人生をかけたプランなんて上手くいかない事がほとんどだ。だけど、やりたい事をやって途中で死ぬのなら、後悔はない。やるなら、今からやらないと、私は言い訳を続けて何もしないだろう」


 エルフの少女は黙り、ラスティを見つめる。その視線は、まるで彼の心の奥底を覗き込むようだ。


「わかりました。私も微力ながらお手伝いしましょう。貴方のその憧れた先にある景色を見てみたいわ」



こうして、ラスティはエルフの少女――記憶も名前も失い、ラスティが「エクシア」と名付けた彼女――と共に、闇に蠢く『ロイヤルダークソサエティ』を正道で解体する『慈善活動組織アーキバス』を結成した。


 リーダーとして、ラスティは活動を開始する。だが、ヴェスパー家の貴族としての生活も並行する彼にとって、慈善事業と政治の両立は、まるで綱渡りのように困難を極める。エクシアの存在がなければ、組織はとうに立ち行かなくなっていただろう。


 彼女は文武両道を超えた超絶的なスペックを持ち、戦力増強、資金確保、情報収集を着々と進める。その才覚は、まるで神が与えた奇跡のようだ。


 とはいえ、ラスティは彼女に見限られないよう、頼り切らないよう、自らを戒める。武力と知力を数十倍、数百倍、さらにはそれ以上に高めるため、努力を重ねる。年少期から『アーキバス』を本格運用するのは、まるで星を掴むような難事業だった。


 それでも、結成から2年。ラスティとエクシア以外の仲間が3人増え、『慈善活動組織アーキバス』は合計5人の小さな集団となった。ダイモス細胞の暴走で『忌み子』として殺害や迫害の対象だった者たちを救い、魔力制御ワクチンを施して引き取ったのだ。彼らは、まるで闇から光へと導かれた星屑のように、アーキバスの一員として新たな道を歩み始めた。


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