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例えば、そんなプロローグ

作者: Mです。

 自転車のペダルを懸命に漕ぎながら、僕はその場に向かった。


 出迎えてくれたのは不機嫌そうな顔の学生服の少女が一人。



 僕はその不機嫌な視線から逃れるように、周囲を見渡すが……

 彼女以外の人物を探せず、目線は彼女の元へと戻った。


 「不満そうじゃん」

 ここに居るのが自分でごめんなさいという事を申し訳なさそうに言う。


 「いや……別にそんなんじゃないし」

 目を反らし、明らかに動揺してそう答える。


 幼馴染に呼び出された。

 家が近所で母親通しが仲が良く、昔からよく遊んでいた。

 その時は特に何の感情もなく日々を過ごしていた。


 年を取り、小学、中学、高校と……運動も学力も平行だった僕らは自然と同じ学校に通ってきた。

 小学、中学、高校と共にするうち、なんとなく周りが彼女の事を意識し始めて……

 どことなく、僕と彼女の距離感を感じるようになり……


 気持ちが悪い……自覚して言おう。

 なんとなく、彼女は僕のモノなんだって気持ちでいた。


 離れていく焦りのようなものと……

 今更、彼女に恋をしていたんじゃないかとわからせられる。


 そして、そんな彼女からの呼び出し僕は慌ててここまでやってきた訳だが。


 そんな幼馴染とは別の女生徒が待っていた。


 中学2年の後半に転校してきたんだっけ……


 家が幼馴染の家の隣、結果僕の家からも近く、

 暦は浅くともそれなりの付き合いだ。


 「伝言頼まれた……お父さんが迎えにくることになったから来なくていいって」

 そう彼女は僕に言う。


 「それって……ここに来る前に送るべき伝言だよね?」

 峠になった公園……辿り着くまでに30分近くかかった。


 「で、お前どうするの?」

 僕に伝言するためだけにここにいた彼女。

 帰りはどうするのだろうか。


 「いや……さすがにバスで帰るし」

 幼馴染のバス代代わりにすらなれなかった僕……


 僕は自転車を押しながら彼女の歩行に合わせて歩き、

 バス停のある場所まで歩く。


 田舎の街。

 都会の人間が想像するような田んぼ道などは無いが、

 バスは1時間に一本くらいしか通らない。

 

 僕は彼女の代わりにバスの時刻表を眺め


 「20分後みたいだよ」

 そう言って、バスの待合小屋の近くに自転車を止めると、

 ベンチに座る彼女と少し距離を置いて座る。


 「……なに?」

 なぜ、僕までも一緒にバスを待つのか?という意味だろう。


 「……こんな場所で女の子一人でバス待たせるのもさ」

 そう返事をする。


 「……告白……とかするつもりだった?」

 唐突に彼女は僕に尋ねる。


 「……えっ……いや、僕は足で呼び出されただけだぞ?」

 そう僕は否定するように答える。


 「……でも、近々とか……好き、なんでしょ?」

 結構ストレートに聞かれる。


 ……うまく答えられない。


 「……あのさ、引くなよ……」

 僕はそう前置きをして……


 「前に見た青春映画でさ、主人公の乗る自転車の後ろにヒロインが横向きに座っててさ、身体だけを正面に直して主人公の腰に両腕をまわしてしがみつくの……なんか羨ましくてさぁ……」

 そんな自分の気持ち悪い恋愛感を語りながら……


 「……幼馴染って最強補正かなとか……思ったり……周りの連中がそんなあいつに色目を使い始めてるのが見えて……」

 ここまで、語って自分でも何が言いたいのかわからなくなる。


 「……もし、僕が告白する相手がいるとすれば、やっぱ……そうなのかなって」

 僕はそう彼女に答える。


 「ふーん……」

 聞いておきながら実に興味が無さそうに適当な相槌が返され……


 「なぁ……女ってどんな場所で告白されると嬉しい?」

 僕のそんな問いに……


 「なにそれ……」

 鼻で笑われる。


 「別にどこだって同じじゃん……場所で人の気持ちなんて変わるわけないし」

 そう返される。


 「まぁ……私ならずっと、ずっと高い場所がいいかな」

 そう空を見ながら言う。


 「……なぜ?」

 ぎこちない距離感……そんな距離の彼女のそんな天を仰ぐ、夕暮れに染まる横顔を見ながら……


 「わからないけど……高い場所って低い場所より幸せな感じがしない?」

 そんな謎めいた理由を告げられる。


 「わかるような……わからないような……」

 同じように彼女と同じ空を見る。


 「わかってないじゃん、ぜったい」

 そう、言い当てられる。


 「ねぇ……じゃぁ、あんたの幸せってどういう事?」

 そう彼女が僕に尋ねる。


 「……18歳のくそガキに聞く事かよ」

 そう僕は返し……


 「……生き様じゃね?」

 そう答える。


 「生き様?」

 そう不思議そうに尋ねると丁度、バスが停車する。


 「……愛とか金……今の世の中、幸せを掴める奴ってそれらを上手く手に入れられる奴だろ?」

 そう答える。


 「言ってることかわってるじゃん」

 そう返される。


 「でも……それを手に入れるまでの過程がやっぱ大事っていうか……それが生き様なんじゃないかなって」

 僕は返す。


 「幼馴染って設定に酔ってみたり、ドラマのシチュエーションに憧れてみたり……それもそんな生き様の一つなのかなって」

 そんな心のうちをベラベラと語っていると、彼女の目線が僕の方を向いていることに気づき、今更発言を取り消したいくらい恥ずかしくなる。


 ここを通る行き先の違うバスは1つもない。

 バスの運転手は不思議そうな顔をしながら扉を閉じバスを走らせる。


 バスが通り過ぎた、バスの待合小屋にはまだ……二人、微妙な距離を保ちながら座っていて……


 「バス……いっちまったぞ?」

 なんとなく走り出したバスを目で追う。


 「うん……」

 彼女はそんな乗るはずのバスに目もくれず、どこか上の空で返事をする。


 「どうすんだよ?」

 冒頭の質問に戻る。


 「歩く……」

 そう言って、彼女はベンチから立ち上がると歩き出す。


 「ちょっ……歩くって……」

 上り坂だったとはいえ、チャリで30分近くかけてきた道だ。

 僕は慌てて自転車のスタンドを慌てて外しその後を追う。

 自転車を漕ぎ彼女の前に回りこむ。


 「乗れよ」

 そう彼女に言う。

 僕の儚い夢を適えるために存在するリアキャリアに彼女は跨る。


 「邪魔しちゃったね……」

 そう背中で彼女は言う。


 「何がだよ」

 僕はそう返すが……


 「あんたの生き様……」

 そう少し本当に申し訳無さそうなトーンで言う。


 「だから、何がだよ」

 何も始まってないし、何も邪魔をされた覚えもない。


 「嫌な女って思わないでね……迎えが不要になったのに連絡させなかったの私なんだよね……私が代わりに連絡するからって……」

 その連絡をせず……ただ、そこで待っていた。

 そもそも、幼馴染と二人であの場所で何をしていたのかは詳しくは知らない……


 ただ……そんな幼馴染の父親が迎えに来てくれ、おそらく彼女も一緒に送って行くという話になっただろう……それを断って、ただ不機嫌に僕に伝言を伝えるために待っていた。


 「なんで……?」

 背中の彼女にそう尋ねる。


 「なんで……だろう?似たような感じなのかな……」

 そう背中から返される。


 



 4年前にこちらに越してきて……

 少し不器用な彼女は何処か孤高のような振る舞いで……

 何処か人を寄り付けなくて……


 片親の彼女はいつも一人で……

 

 結構精神的に参っている時もあって……


 そんな時に彼は……


 些細な会話の中で、最後に、


 「まぁ……僕はいつも傍に居るからさ」

 それは家が近所だって意味で……

 特別な意味は無かったのだろう。

 それでも……多分同じで……


 いざ、彼がそんな幼馴染のモノになってしまったらと……

 そんな不安があったのだろうか……


 「ねぇ……止めて、お尻が痛くなってきた」

 そう彼女に言われ自転車を止める。

 そして、座り方を変えるように彼女は一度自転車を降りると、

 リアキャリアに横向きに座り……

 ぎゅっと僕の背中から腹部に腕を回し、頭を僕の背に押し付けた。


 18時前だっていうのに、空はすでに真っ暗で……

 吐き出す息が白く吐き出される。

 

 「……寒くないか?」

 そう僕は空を見ながら尋ねる。


 「うん……」

 お互い厚手のコートを着込んでいる。


 「寄り道していいか……」

 そう僕が背を見ず尋ねる。


 「ん……?」

 彼女は少し不思議そうに……


 彼女の返事も聞かずに僕は自転車を反転させると……

 再び下った坂道を駆け登る。


 「なに……?」

 少し戸惑うように尋ねられる。


 「忘れ物……」

 僕はそう返す。


 全力でペダルを漕ぐ。


 「忘れ物って……?」

 彼女の質問に……


 「いき……ざ……ま」

 息を切らせながら……


 「って……何処に向かってるのさ」

 先ほどのバスの待合小屋も過ぎ、僕が幼馴染を迎えに来た場所も過ぎ去る。

 とにかく、もっと……もっと……


 「てっーーーぺっんっ!!」

 僕は右手で天を指差して言う。


 「何しにさ?」

 困惑した表情で彼女は尋ねるが……


 「天辺ついたらう」

 僕はそう告げ、ひたすら自転車のペダルを漕ぐ。


 「わかった」

 彼女はそう言って、振り落とされないようぎゅっと僕の背中にさらに強くしがみついた。



 例えば僕はどんな生き様を望むのだろう。


 例えば彼女はどんな変化を望むのだろう。


 例えば幼馴染はどんな明日を迎えるのだろう。


 今日にどんな変化をもたらして、どんな明日を迎えるのだろう。


 それが、どんな生き様になるのだろう。



 そんな今日という日が僕の生き様に関わるとするのなら……



 辿り着いた峠の天辺で……


 乱れた呼吸を整えながら……


 そんな今の僕が辿り着ける一番高い場所で……


 星空の下……僕は彼女に告げる。


 始まる僕の青春いきざまの……






 ーーーーーーーーーー例えば、そんなプロローグ。


ご覧頂き有難うございます。




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