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物語の結末

「殿下!落ち着いて下さい!今ならまだ間に合います!」


 王太子をどかそうと必死でもがきながら説得を試みるも聞く耳持たず。


「こら。暴れないで。大丈夫。すぐに良くなるから」


 ギャーーーーー!!

 何言っちゃってんのこの人!?

 このままじゃ大変な事になってしまう!

 私は止む無く不敬覚悟で手を振り上げて思いっきり王太子の頬を引っ叩くと、初めての経験に王太子は頬を押さえながらよろめいた。


「殿下!正気に戻って下さい!殿下はあんなにクリスティアナ様の事を愛していらっしゃったではありませんか!」

「クリスティアナ…」


 正気に戻った?

 呆然と呟く王太子を眺めていると腕を掴まれ気付くとベッドに寝かされていた。


「今はルネールを愛している」


 ダメだ!!

 どうしたらいいの!?

 そこでふとアデラインから貰ったキャンディーの事を思い出した。

 そうだ!あのキャンディーなら!

 ドレスのポケットを探ろうと手を動かしていると王太子は不気味な笑みを浮かべた。


「ルネールが積極的で嬉しいよ」


 何が!?

 ポケットのキャンディーを取り出したいだけですから!!

 パニックになりながら何とかキャンディーを取り出すも王太子に手首を掴まれキャンディーをベッドの上に落としてしまった。


「余所見をしないで私だけを見て」


 顎を掴まれ正面を向かされると王太子の顔が迫ってきている。

 ごめんなさい!と心の中で叫びながら今度は思い切り頭突きを食らわせるもダメージを受けたのは私の方だった。


「ルネール、大丈夫?キスをしたいならもっと優しく顔を近付けないと…」


 違うから!!

 しかし王太子は私の額をさすっており掴まれていた手首が自由になった。

 今だ!とキャンディーに手を伸ばし片手で包みを外すと手に握り締めた。

 あとはこれを口に入れれば!

 王太子の方に顔を向けると…!


「ギャーーーーー!!」


 迫ってきていた唇に手を滑り込ませて寸でのところで王太子の口にキャンディーを押し込んだ。

 と同時に部屋の扉が勢いよく開かれた。


「ルネール!!」


 入って来たのはクライヴだ。

 とんでもない状況にクライヴが一瞬固まった。


「ごごは私の寝室だぞ!だどえグライヴでも無断で入るごどは許されない!!…もごもご」


 キャンディーを頬張りながら王太子がクライヴを怒鳴りつけた。

 なんか締まらないな…。っていうか効いてない?


「殿下。あなたが今なさっている事は犯罪です。今ここであなたを捕らえてもいいのですよ」


 クライヴの諭すような静かな声音に王太子の動きが止まった。

 もしかして効き始めた?

 私はソロリとベッドから抜け出すとクライヴの元に駆けた。

 クライヴは私を隠すように抱きしめると俯いている王太子の方に視線を向けた。


「殿下。もしあなたが本当にルネールを愛しているのなら、彼女の気持ちを第一に考えてあげて下さい」


 それだけ言うと私を連れて王宮を後にした。



 馬車に乗り込むと緊張が解けたのか手が震え、ポロポロと涙が溢れてきた。

 自分が想像していたより体は恐怖を感じていたようだ。

 クライヴはそんな私の隣に座り抱きしめてくれた。


「無事で良かった…」


 呟かれた言葉に涙が溢れた。

 そんな私をクライヴはいつまでも抱きしめ続けてくれたのだ。

 私はもうこの人以外は愛せない。

 クライヴの温もりに包まれて私は自分の心を自覚したのだった。



 王太子から今度の夜会で重大発表があると連絡を受けたのはそれから数日後の事だった。

 クライヴからはあれ以来王太子は口数も少なくなり、あまり話もしていないと聞かされていた。

 そんな王太子が何を企んでいるのか…。

 唯一参考になるのは少しずれてしまった手帳の内容だ。

 手帳では主人公の誘拐事件のあとに主犯の婚約者を王太子が呼び出し夜会で断罪するという流れになっている。

 しかし実際に誘拐したのはクリスティアナではなく王太子だった…。

 だが物語通りに話を進めるのであれば間違いなくここで断罪イベントが来るはず。

 なんとしてでも阻止しないと!



 夜会会場では王太子の重大発表の話で持ち切りだった。

 ついにクリスティアナと結婚かという噂からクリスティアナとの不仲説まで様々な憶測が飛び交っていた。

 しかしそれも王太子の登場で一気に鎮まった。

 みんなの前に立った王太子は会場を見回し私の姿を見つけると一瞬不敵に笑いそしてすぐに視線を余所に動かした。

 心臓が嫌な音を立てて激しく鳴り響く。


「皆も知っての通り、今日はこの場を借りて重大な発表をしたいと思う。まずは婚約者のクリスティアナの事についてだ。彼女はそこにいるルネール・レリア・マルセル伯爵令嬢に対し…」


 ゆっくりと私に視線を合わせてきた。

 それとともに会場中の視線も私に注がれる。

 処罰されてもこの断罪を阻止しないと!!


「殿下!その件についてですが…」


 全てを言い切る前に王太子の言葉を遮り、声を上げた瞬間だった。

 会場の扉が勢いよく開かれ、入口付近で悲鳴が聞こえてきた。


「殿下…私はあなたを愛しております…」


 現れたのは刃物を手にしたクリスティアナだった。

 クリスティアナはゆっくりと会場を突き進んだ。

 近衛兵達もクリスティアナを取り押さえようとにじり寄るも、クリスティアナが刃物を振り回し近衛兵達を威嚇するため近付けないでいる。

 クライヴは最悪の事態を想定して王太子の傍に移動した。


「殿下…あなたが私を捨てると仰るのなら…」


 刃物を振り上げるクリスティアナに嫌な予感がした。

 まさかこれは…!


「この場で自決します!!!!!」


 自分の胸に目がけて刃物を振り下ろすクリスティアナの腕を掴んだ。


「何をするの!?離して!!」


 暴れるクリスティアナから何とか刃物を落とそうとするも右に左に激しく揺らされる。


「死んでは駄目です!!必ず何とかしますから!!」

「あなたに何とかされても嬉しくないわ!!」


 目を覚まさせようと必死で叫ぶもプライドの高いクリスティアナをますます逆上させてしまった。


「ルネール!手を離すんだ!」


 クライヴの声が近くで聞こえてくるがこの手を離したらクリスティアナは死んでしまう。


「王太子殿下はクリスティアナ様を愛していらっしゃいますから!!」

「うるさい!!!!!」


 クリスティアナが私の手を振り払おうと勢いよく腕を振り回した。

 次の瞬間、私の腹部に衝撃が走った。

 一瞬何が起きたのか分からず呆然となるも腹部から激しい脈が打たれているのを感じ視線を下に向けると刃物が私の右腹部に突き刺さっていた。


「あ…違う…違うの…そんなつもりはなかったの…」


 動揺した様子でクリスティアナがゆっくりと後退った。


「ルネ!!」


 聞こえてきたのは懐かしい私の名前。

 幼い頃、自分をルネールと言えない私は練習のため自分を名前で呼んでいた時期があった。

 けれどなかなかうまく言えずルネとなってしまっていたのだ。

 私の知り合い達はそれを知っているから私をルネとは呼ばない。

 それを唯一呼ぶ人がいるとしたら…。

 力が入らず膝をつき倒れそうになる私を逞しい腕が支えた。

 倒れた拍子にポケットから飛び出した手帳は灰が舞うようにゆっくりと崩れて消えかけている。

 ああそうか…。物語は主人公がいなければ成り立たない。

 主人公がいなくなれば良かっただけなんだ。

 あまりにも簡単な答えに口元が緩んだ。

 そんな私の頬に雫が落ちてきた。

 見上げると大粒の涙を流すクライヴの姿が。

 一度だけ会った男の子と被るその姿に私はクスリと笑った。


「泣き虫は健在なのね」


 クライヴの涙を指で拭うと私はそのまま意識を失った。





読んで頂きありがとうございます。

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