結婚までの道のり(クライヴ視点)
俺は焦っていた。
王太子のルネへの想いが強くなってきていること、そしてルネ自身が最近とても綺麗になってきていることに。
婚約関係とはいえ、いつ他の男に盗られるか分かったものではない。
いっそ結婚してしまうか?
だがルネはきっと呪いのせいで求婚したと思うだろう。
どうすれば本心だと分かってもらえるか…。
そんな中、ルネがクリスティアナに呼ばれたとの情報を得てすぐに迎えにいったのだが…。
明らかにルネの様子がおかしかった。
断じて差し出した手を拒否されてショックを受けているわけではない!
避けられたのが悲しいとかでもない!
絶対にルネは俺のために何かに耐えている!…はず…。
案の定、翌日に会った時の包帯が全てを物語っていた。
嫌われたわけではなかったと少し安心した事は黙っておきたい。
ルネはなぜか俺に遠慮気味に接する。
俺の推測ではたぶん巻き込んでしまったという申し訳なさからきているのだろうと思ってはいるが。
それでも俺は婚約者なのだ。もっと頼ってくれればいいのに…。
そんな悶々とした悩みを抱える中でついに俺はルネに求婚しようと決意した。
それは王太子が本格的にルネと結婚しようと動き始めている情報を得たからだ。
これ以上は待てないと意を決して求婚してみるも、ルネの返事が聞けないままとなってしまった。
王太子の動向を監視しながら仕事をしているとおもむろに王太子が声をかけてきた。
ルネと婚約してからは最低限の会話しかしてこなかった王太子が珍しいと警戒した。
「今日は午後から陛下に呼ばれているから帰っていいぞ」
急な予定変更に嫌な予感がした。
王に呼び出されるってまさかルネとの結婚話についてとかじゃないだろうな!?
状況を知るため慌てて伯爵邸に向かうもすでにルネは王宮へ呼び出された後だった。
助けに行くか?
いや、でも王に呼び出されたのであれば俺が行っても入口で待たされるだけだ。
こんなことなら無理にでも結婚を迫るべきだったか?
いや、しかしルネの嫌がる事はしたくはないしな…。
伯爵邸でルネの帰りを待たせてもらっているも落ち着かず玄関先でウロウロとしているとルネが疲れ切った顔で帰って来た。
どうやら王太子に呼び出されただけのようで安堵したが、ルネの様子から王太子の暴走ぶりが窺えた。
俺は確かに王太子よりは地位は低いがルネの為なら王太子にだって対抗してもいいんだ。
そんな想いもエイベル伯爵令嬢の登場によって中断されたのだった。
エイベル伯爵令嬢が呪いをかけた動機が判明した。
王太子妃になりたいという願望ではなく、クリスティアナへの復讐というのには驚いたが。
何より俺がクリスティアナに懸想を抱いているという噂話が聞けたのはよかった。
これでルネが俺に対して遠慮気味になっていた理由もなんとなく察したからだ。
ルネの様子からも勘違いしているようであり、誤解を解くには今しかないという絶妙なタイミングでの行動が功を奏した。
これについてはエイベル伯爵令嬢には感謝しかなかった。
俺は今、やる気にみなぎっている。
なぜなら想い人のルネと想いが通じ合えたからだ。
ルネからもらった手紙を何度も読み返した。
『私もクライヴ様に会える日を楽しみにしております』
癒される。
この一文だけで意地悪上司に仕事を多量に押し付けられても難なくこなせてしまいそうだ。
だが一つ問題もあった。
王太子もルネからの手紙を貰っているということだ。
この男、手紙だけではなくルネに高い装飾品まで贈っているらしい。
さすがのルネもお礼の手紙を書かざるをえないようで…。
ニヤつきながら手紙を読む王太子にイラっとした。
たぶん俺への当てつけだ。だって手紙にキスまでしているし。
そんな矢先、ルネが何者かに誘拐されたという事件が起こった。
しかも俺がルネを送り届けた直後だという。
犯人は王太子かクリスティアナのどちらかだと疑われた。
物語で考えればクリスティアナが犯人ではあるが…。
しかし今回の誘拐には違和感があった。
ルネは俺が伯爵邸を離れてから玄関に入るまでの短い間に誘拐されたと伯爵家の使用人のリタという女性が証言している。
彼女はルネが俺の馬車から降りるのを確認し玄関に出迎えに行ったのだが、なかなか入って来ないルネを心配して外に出たと言っていた。
事前に伯爵邸を監視していなければここまで手際よく動けないだろう。
王太子のようにルネの内情を知っているような者でなければ…。
そんな俺の元に王宮の方に物凄い勢いで走っていく馬車が通ったという決定的な証言を得た。
ルネの誘拐はやはり王太子が仕組んだものだと確信して王宮へと急いだ。
ルネを助けだし、無事に伯爵邸に送った帰り道。
俺は先程の王太子の様子について考えていた。
呪いの影響とはいえ、ここまで理性を失い動くものなのだろうかと。
ルネがキャンディーを食べさせ呪いの影響は一時的に消失したはずなのだが…。
帰り際にみた王太子の表情は困惑というよりは思慕の念を抱いているような感じだった。
もしかして王太子は本当にルネの事を…。
憶測でものを言ってはいけないと首を振り、考えを消したのだった。
その後だったルネが刺されたのは…。
あの時の事は二度と経験したくはない。
動かなくなったルネを抱きしめ泣き崩れる俺に会場は静まり返っていた。
そんな俺の目の前に小さな小瓶が差し出された。
「魔女の秘薬よ。これを飲めば今なら間に合うわ」
顔を上げるとエイベル伯爵令嬢が躊躇うことなく言い切った。
彼女の言葉に会場はざわついたが俺は小瓶を受け取り口に含むとルネに飲ませた。
するととめどなく流れ出ていた血は止まり、ルネは小さく呼吸し始めた。
良かったとルネを抱きしめエイベル伯爵令嬢にお礼を言おうと顔を上げると、彼女は王宮の近衛兵達に取り囲まれていた。
「待て!彼女を乱暴に扱わないでくれ!」
俺の叫びに近衛兵達は一瞬躊躇いを見せるも職務だと彼女を捕縛した。
連れて行かれる直後に彼女は俺の前で立ち止まるとポツリと呟いた。
「ルネが目を覚ましたら言っておいて。巻き込んでごめんねと」
それは彼女が火あぶりの刑を覚悟した表れでもあった。
恐らくもう二度とルネには会えないと思ったのだろう。
だが俺は彼女を処刑させる気はない。
彼女のお陰でルネに想いを伝える事が出来たんだ。
正直彼女には感謝しているし恩も感じている。
それに…。
まだ青白いルネの顔を優しく撫でた。
ルネが起きた時、君が処刑されたと知ったらルネが悲しむから。
こうしてエイベル伯爵令嬢を助けるため俺が奮闘し半年が経った。
ルネは目覚める事なく眠り続けているが、牢獄にいるエイベル伯爵令嬢によると魂を修復している最中だから時間がかかると言われた。
あの時なぜ魔女の秘薬を持っていたのか尋ねると、キャンディーを作る際、魔女の秘薬のページが妙に気になったらしい。
見つかったら処刑されるが、もしもの時の為に作っておこうと思ったそうだ。
魔女の血がそうさせたのかは分からないが、牢の中で語る彼女は何かから解放されたようなすっきりとした顔をしていた。
ルネはというと毎日見舞いに行っていたのだが、目覚めるのを待ち続ける俺を見かねた伯爵が呼び出した。
「ルネールとの婚約を解消して下さい…」
伯爵の発した言葉に固まった。
「あの子がいつ目を覚ますか分からない以上、侯爵家の御令息をこのまま縛り付けておくわけには参りません。それにルネールもきっとそれを望むでしょう」
ルネは本当に俺と婚約を解消したいと望むだろうか?
「俺はルネ自身の口から気持ちが聞きたいです」
「…しかしあの子には…傷が…」
クリスティアナに刺された傷が残った事を言いたいのだろう。
「あの傷は彼女の優しさで出来た名誉の負傷と呼べるものです。俺は命を懸けて他人を助けようとするルネだからこそ結婚したいと思っています」
引き下がらない俺に伯爵は溜息を吐いた。
「ではルネールが直接あなたに返事が出来るようになるまでお見舞いは控えて頂けますか?」
時間を空ければ俺が諦めるだろうと思っているのかもしれない。
だが俺は幼少期からずっとルネの事を想ってきたんだ。
たとえ会えなくても想いは変わらない事を証明してやる!
俺は伯爵との約束に同意したのだった。
しばらくしてルネが目を覚ましたという知らせが入った。
すぐに会いに行きたかったが伯爵との約束を反故には出来ず、連絡が来るのを静かに待っていた。
そんな俺に届いたのは婚約破棄の書類だった。
しかも震える字でルネのサインも書き込まれている。
だがこれはルネ自身から聞いた答えではない。
俺は書類と共にルネの口から直接聞きたいと手紙を添えて伯爵へと送り返した。
ようやく面会の許可が貰えたのはそれから一ヶ月後の事だった。
「はあ…」
王太子がまた溜息を吐いている。
手帳が消えた後、キャンディーを食べたから呪いは完全に消えているはずなんだ。
なのにこの溜息…。
「ルネール…」
無意識に呟いた王太子を睨んだ。
「人の妻の名前を勝手に呼ばないでもらえますか?」
王太子は肩をすくめると物言いたげに俺を見た。
「ちょっと呼んでみただけだろ…。ところで今度お茶会でも開かないか?」
未練タラタラじゃねえか!
王太子はどうやら本気でルネを愛してしまっていたらしく、呪いが解けてからもずっと隙あらばルネに会おうと画策しているのだ。
クリスティアナは呪いの影響だからと無罪にされたが、自分の行いを反省し自ら婚約破棄を申し出て婚約は解消された。
次の婚約者は…王太子がこの調子では決まらないだろう。
この国の行く末は大丈夫か?
「それにルネは妊娠中なんです。あまり負担をかけさせないで下さい」
「クソっ!私がもっと早く動いていれば…!」
俺に聞こえないように悔しがっているがしっかり聞こえているから。
「殿下。以前もお話ししましたが、それは犯罪ですからね」
このやり取りをもう何回したことか…。
早く王太子の新たな想い人が出来るのを願うばかりだ。
これでこの物語は完結となります。
今回、どこまでやるとR15でも引っかかるのか試そうと挑戦してみたのですが、小心者過ぎて結局マイルドな展開に仕上がってしまいました。
本当は誘拐のところをもうちょっと過激にしようと考えていたのですが…。
R15、R18の境界が曖昧過ぎて正直どの作品書いていても毎回それが悩みです。
検索項目を全て外しておいたので探しにくい作品だったのですが、作者の予想を上回る方が読んで下さったこと感謝しております。
読んで頂きありがとうございました。




