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麦秋
辺り一面、小麦が黄金色に輝き大地を覆い収穫の時を知らせる。
家族全員で小麦を刈り取って、天日乾燥する。
大変な重労働だが、年に一度の収穫の喜びと相まって笑顔が綻ぶ。
「今年は豊作だね」
「今年もこれで安心出来る」
「計画的に農地を開墾しているから」
「この領地も少しずつだが豊かになって行く」
父母の言葉に僕たちも頷く。
収穫の合間を縫って、姉と僕二人で兄に体力が尽きるまで稽古をつけて貰った。
身近に存在する強者に対して、我武者羅に木刀を振るう、ただひたすらに無心に、周り景色が溶け出し白銀の世界が広がる。
兄の呼吸、剣筋か、ある場所に向けて白銀の一太刀が振るわれる。
切先が限界を超えて伸びて行く、あと一歩踏み越み。
切先に感じる感触、意識が薄れて行く。
「天武の才か……」
兄の頬には、うっすらと切り傷が浮き上がり血が滲んでいた。