ゆきつく未来のために~星花女子プロジェクト5周年記念/第5期スピンオフ~
◆◆◆↑本編◆◆◆
◆◆◆↓立成25年4月◆◆◆
車体からピピッと音が鳴ったのを確認して、つくしがアタシの後ろをついてくる。
「いらっしゃいませー」
「あ、何食べる?」
「まだ何も決めていないわ」
アタシ、政所弓稀は周囲の助けもあって、高校卒業後はプロの水泳選手をさせてもらっている。オリンピックに出られるほどのレベルではないが、まあ人を養うことはできる程度の収入を得られている。
「カップ麺とか?」
「つくしの作ったものが食べたいわ」
「……んー、気持ちは嬉しいけれど……こんな時間だとねー……。だからニアマートに寄ったわけだし?」
流石に疲れているのか、いつものような下ネタが飛んでこない。
昨日は関東である大会の選抜会があったのだが、それが偶然納車と被ってしまった。あたしは新幹線で会場へ向かい、つくしは納車後、迎えにきてくれることになったのだ。それまでは一緒に交通機関で移動していた為、一人でもなんら問題は無いけれど、彼女曰く「早く慣れたかった」とのこと。……結局、我が家初のドライブは東京静岡間の夜間長距離運転となってしまった。疲れるのも無理はない。
つい、わがままを言ってしまった。
「……適当に惣菜で済ませましょ。……これがいいわ」
「……きんぴらごぼう。いいね。じゃああたしはー……ポテトサラダと……からあげサマにしよっかな。一緒に食べよ?」
「ええ」
◆
「ありがとうございましたー」
「……それにしても、あなたがこういう車を選ぶとはね」
「ん?」
リモコンで鍵を開けたつくしが、首をかしげてきた。
「らしくない……といえばらしくないもの。四輪駆動なんて」
それも、前と真ん中と後ろ、計3列のシートがある、低い天井の駐車場には入れないタイプの車種だ。
「ゆったりしてていいてしょー」
「確かに車選びを一任したのはアタシだけど……」
「どこへだって行けちゃうよっ!」
その自由さ、というか融通の利く感じが、彼女とこの車を引き付け合ったのだろうか。
「……それに」
「何?」
「座席を倒してカーテンを閉めれば……『ゆったり』できちゃうでしょ?」
レジ袋を持ったままの腕をアタシの首に回し、抱きついて内股を擦り付けてくる変質者もとい変態もとい「彼女」。
「……破廉恥ね」
「それもあたしの良いトコロ政所ーっ……でしょ?」
「そーね」
「ひどーい棒読み!?」
「早く帰るわよ。アタシお腹空いたわ」
「うー、冷たい……」
そうやって「いちゃついている」間に、海の向こうから太陽が昇ってきた。
時刻は午前5時。わずかに残る群青の空の星々は白みに飲み込まれ、道端の花が顔を見せ始める。
星花女子学園。
アタシ達の母校は、今日も後輩達の学び舎として、物語を紡いでいくのだろう。