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…………。

今のうちに。

彼がいない今のうちに落ち着かせないと。

大丈夫。

これまでだって出来ていたんだから、大丈夫。

それに今日で全部終わったんだ。

うん、大丈夫……






じゃない。






まだ、あの手の感覚が這い回っている。

振り払おうと意識を集中させると、余計鮮明に這い回る感覚を感じてしまう。

気持ち悪い。

でも、早く落ち着かせないと。

彼が飲み物を買いに行ってくれている間に……!!

早く……!!

こんなことなら1人で時間を……ううん、そんな選択肢は最初からない。

1人だったら"潰れてた"。

誰でもいい。

誰かいてほしかった。

ちょうどいた彼でいい。

恩人だし、お礼も言わないとって。

最低。

でも、今だけでいいから。

もう少しでいつもの私に戻れるから。

それまでの間だけで……


「先輩!?」


予想より早く彼が戻ってきてしまった。

でも、あれ?なんか視界がぼやけて……ううん、私、泣いてるんだ。


「あ、あれ?おかしいな。ごめん、すぐ落ち着くからちょっと待ってて」


みっともない所を見せてしまった。

早く……!!


「あ、あの……先輩……今は、その…………せ、"先輩しかいません"。だから、泣いても、だ、大丈夫……です、たぶん……」


ぼやけた視界が更にぼやけてもう何も見えなくなった。


ーーーーー


な……なんて気持ち悪いことを言ったんだ、ボクは!?

ほら、余計泣いてるじゃん!?

ああ、どうしよう帰りたい。

買ってきた麦茶とお釣りを置いて帰ろうか?

いや、さすがにそれはないか。

ボクの15年程度の人生経験じゃ、こんな状況の対処方法がわかるはずが無く、漫画やアニメを参考にした行動を取ればきっと痴漢だ。あれは漫画やアニメだから許される行為であって、ボクみたいなチビなオタクがやっても逆効果なのは火を見るより明らか。

よって、ボクに残された行動は一つ。


待機。


ベンチの端に座って、彼女が落ち着くまで素数、いや、雲が数でも数えよう。

でも、見上げた空は悔しいくらい雲一つない快晴だ。


「ふぅ……」


一息ついて冷静になって考えてみればわかるはずのことだ。

ボクはあの行為を"見てしまっただけ"で恐かった。

おぞましいと思った。

身の毛もよだつというのは、ああいうことを言うんだと思う。

本当に恐かった。

じゃあ、彼女は?

平気でいられるはずがない。

でも、平気なふりをしていたんだ。

ボクの想像を絶する恐怖に耐えていたんだ。

逆の立場だったら引きこもってたと思う。

少なくとも不登校は確定だろうな。

隣で止めどなく泣いている彼女。

そんな彼女にボクが出来ることなんて何もない。

精々パシりだ。

いや、パシりでも何でもいい。もしも、ボクに出来ることがあったら何でも言ってください~って言えたらいいのに……。




どれくらい泣いていただろう?

落ち着いた様子の彼女が顔を上げた。


「ごめんね。そばにいてくれてありがとう」


「いえ、ボクは何も……」


いや、ホントに。

泣き止むまでの数十分ただ座ってただけ。


「あまり謙遜し過ぎるのは良くないよ。それに……別に何か言って慰めてほしかったわけじゃなかったし、そばにいてくれただけで嬉しかったよ。だから、ありがとう」


まだ少し引きつっているけど、相変わらず眩しい笑顔だ。


「あ、そうだ。飲み物とお釣りです」


ボクはようやく買ってきた麦茶とお釣りを渡すことができた。

もう選ぶのも大変だった。

自販機には20種類くらいの飲料があって、季節的にホットの種類は少ない。冷たい飲料から選ぶことになるけど、コーヒーはブラックと微糖で好みが分かれそう。紅茶やミルクティー類はボクが飲まないから却下だ。飲んだことがないものを勧めるなんて出来ない。となると炭酸飲料かスポーツドリンク、その他のジュース類、麦茶。炭酸飲料は……まあ定番の商品があるが、いや、相手はスポーツ選手。なんか飲まない印象があるな~。じゃあ、スポーツドリンク?まあ、候補か。ジュースは白くて甘いやつがあるから、よし、これなら~って、男子から白い液体(あくまでジュースだけど)もらうとかダメだ、絶対ダメだ。

そんなことを考えながら結局無難な麦茶を選んだ。


「フフフ、麦茶選んだの?」


「無難だと思って……」


「無難過ぎ~。でも、ありがとうね」


「い、いえ……」


ああ、幸せ。

絶対接点を持てない、精々登下校や学校でたまに見かけるだけだと思っていた彼女と、ボクは今一緒に麦茶を飲んでいる。

ああ、この時間をいつまでも……

ん?時間?


「ああ!!先輩、時間!!」


「え?ああ!!」


気付けば次の電車までの時間はわずかしか残っていなかった。

悔しいやら寂しいやら、この時間が終わってしまうことへの拒否反応で頭の中がぐちゃぐちゃになった。

でも、彼女は鞄を持って走り出す。


「ほら、君も急いで!!」


「は、はいぃ!!」


急げと言われても全国大会に出場するレベルのバレー部と運動音痴のボクじゃ、当然のように走る速さも段違いなわけで。

ボクはほぼほぼ全力疾走しているのに、先を行く彼女は息一つ乱れていない。余裕綽々である。


「あ、そうだ。ねえ、君。私のボディーガードをやってよ」


「へ?はぁはぁ……ボディー……ガード?」


「今日みたいなことが今後ないとは言えないでしょ?だから、君にお願いしたい」


「ぼ、ボク……はぁはぁ、ボクなんかでぇ……はぁはぁ……良ければ……はぁはぁ」


「ほんと!?じゃあ、決まり!!」


本当は「ボクなんかじゃなく、もっと頼れる人に頼んで」と言いたかったけど、そんな余裕は無かった。




追伸

おばあちゃん。この数十分で、パシりから、ボディーガードに昇進したよ。

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