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大会~前編~

「「ごめん!!」」


唐突に目の前にいる二人の女子生徒、しかも上級生が頭を深々と下げる。

ここは体育館の裏。

体育館と塀の間のわずかな空間のため、外部からはまず見つからない。

それをいいことに告白の名所になっていたり、逢瀬の場所になっていたり、不良の溜まり場だったりと様々な噂がある便利な場所。

ボクは今日の午前中のテストが終わったら、体育館の裏に来てほしいと先輩に言われて、少しルンルン気分だった。

なのに、行けば先輩の他に見知らぬ女子生徒、しかも上級生が二人もいる。

そして、ボクが近付くや否や、唐突に謝られた。


「あ、え?あの……」


「まさか君がウチのエースの彼氏とは知らずに酷いこと言って、本当にごめん!!」


少しだけ思い出した。

"あの時"確か男子バレー部の主将先輩の他に誰かがいて、脅迫だなんだと言われた……ような気がする。

それがこの二人……のようだ。


「あ、あの……ボク、気にない、と言うか、あ、あの時のことはよく覚えていないんです。混乱してて……全然……あの……」


これ以上なんて言えと!?

困ったボクは先輩に視線を向けた。


「二人とも、許すってさ」


「ほんと?」


「うん。だから、もう気にしないで」


「よかった~……あ、でも、それはそれとして、後輩君ちょっといいかな?」


上級生の1人に手招きされて、先輩から少し離れた場所に誘導された。


「あ、あの……」


「いいか?お前、変なことして少しでもウチのエースを泣かせてみろ?……ただじゃおかねえからな?」


まるで別人のような声音と気迫。


「ひゃい……」


「話は終わりだ。…………ごめ~ん。話も終わったし、帰ろ」


上級生二人はそれ以上何も言わずに体育館裏から立ち去るけど、ボクの横を通る時には冷淡な眼差しで睨み付けていた。

あくまでも"警告"だ。


「大丈夫?顔色悪いよ?」


先輩だけが優しい眼差しでボクを見つめてくれた。


「だ、い、じょうぶ、です……」


「何言われたの?」


「せ、先輩を泣かせるなって……」


「ああ……そっか。うん、まあそうしてくれると私も嬉しいな」


少し含みのある意味深な言葉のような気がした。


「さ、私達も帰ろ」


「あ、あの、先輩!!」


ーーーーーー


彼は私のことを呼び止めた。


「ん?なに?」


「あ、あの……こr、あ!!」


彼はポケットから一枚の紙袋を取り出した。

花柄の可愛らしい紙袋……だけど、ポケットに入れてたせいか、ちょっと表面がシワになってる。

彼はシワを伸ばそうとしているけど、思うようには伸びていない。


「どうしたの?」


「あ、あの……えっと……すみません。ちょっとぐちゃぐちゃになってしまって……」


中身はともかく、何なのか察しているから、ちょっと胸が高鳴った。


「もしかして、私にプレゼント?」


「え?は、はい……どうぞ」


「ありがとう!!開けてもいい?」


「あ、あの、いいですけど、そのあまり良いものじゃない……と思います。なので、期待は……」


私は紙袋を破った。

中からは更にビニールの袋が出て来て、その中に三色の紐の束が入っている。

ミサンガだ。


「こ、こないだ、もうすぐ大会だって聞いて、気の利いたことも言えなくて、だから、何かしたいって思ってて、でも、何がいいのかわからなくて、こんなのしか思い浮かばなくて、色のセンスとか先輩の好みとか全然わからなくて、と、とにかくネットで調べて作ったんですけど、思ったより難しくて、ちょっと不恰好ですけど、それでも一番上手く出来たと思います。でも、もしその気に入らないなら捨ててもらっても……」


彼は私の顔を全然見ないで、しかも妙に饒舌に早口でペラペラ喋ってる。

自信が無い……というよりは、何か恐がっているようにも見える。

私は両手で彼の頬を挟み、視線を私に向けさせた。


「しぇ、しぇんふぁひ?」


「……嬉しいよ。本当に嬉しい。ありがとう」


ーーーーーー


先輩は笑っていた。

曇りの無い、素敵な笑顔。

いつか見た笑顔とは違うその笑顔が、ボクの"しこり"を取り除いてくれた。

そんな気がする。

それが嬉しくて嬉しくて、涙が溢れた。


「ちょっ、ええ!?なんで!?」


「す、すみません……その、嬉しくて……」


ああ、ボクが用意したプレゼントで喜んでくれる人がいる。


「エヘヘ……」


ボクは涙を拭い、もう一度先輩に向き直った。


「先輩、応援してます!!」


「うん!!頑張ってくるね!!」






テスト期間が終わると地方総体に向けての練習が始まった。

テスト期間で空いた時間を埋めるように、激しい練習が連日遅くまで続くことになった。

それに伴い、帰宅時のボディーガードは部活の方が変わることになった。


「あの……何かあったら連絡ください」


「わかってるよ。じゃ、練習に行ってくるね」


先輩と過ごす時間が減った。

登校中のボディーガードは継続しているものの、今までのようなルンルン気分で帰れないのも事実だ。

一回だけ、先輩を待ってみようかと思ったけど、親に早く帰ってくるよう連絡が入って、断念した。

幸い、"あの日"以来痴漢は現れていないようだ。




それから、しばらくして地方総体が開催された。

先輩のいる女子バレー部は、まさに破竹の勢い。

準決勝までは全てストレート勝ち。

決勝で惜しくも1セットを奪われるも、続くセットは全て取り、見事優勝を果たして、全国大会へとコマを進めた。

特に気にしていた訳ではないけど、全国制覇を掲げていた男子バレー部は地方総体の準決勝で敗退するという結果に終わったらしいという話がボクの耳にも聞こえてきた。

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