表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

"あのあと"のこと

ああ、せっかくチャンスが来たって思ったのに!!

オタク君ったら相変わらず女巨人先輩のボディーガードばっかりで全然話ができない~!!

テスト前期間になって、部活が休みだから、授業が終わったらすぐ駅に向かってる~!!

そのせいで放課後に声をかけるひまもない~!!





だけど、その日は違った。

授業が終わるチャイムが鳴るといつもならすぐに駅に向かうのに、その日はスマホを見て、のんびりとした足取りで教室を出ていった。

行き先は学校前のバス停。

このバス停を使うっていうことは……ひょっとして、今日は女巨人先輩と帰らない!?


ッシャ!!


ウチの生徒がバスを使って向かう先はだいたい商業地帯。

ショッピングモールやゲームセンター、カフェ、カラオケなんかがあって、放課後デートするならだいたいここ。

でも、たぶんオタク君が行くのは本屋!!ショッピングモール内の本屋はこの辺じゃ一番大きいし、品揃えもいい。それに、こないだオタク君が愛読している漫画の最新コミックが発売されたばかり。しかも、最新刊は通常版とトクソウバン?っていうのがあって、きっとこのトクソウバン目当てで本屋に行くはず!!



作戦はこう……

オタク君が本屋のコミック新刊コーナーに立ち止まり、トクソウバンを手に取ろうとした瞬間、アタシも手を伸ばして、アタシ達の手が重なる。


「あ、ごめんなさい」


「ああ、い、いえ、こちらこそすみません……」


「この漫画面白いですよね」


「え?は、はい、面白いですよね!!ボク、コミック派だから、前回の終わり方が気になって気になって仕方がなかったんです!!」


「アタシもコミック派!!そう!!前回あんなことがあっての、あの終わり方だったから……週刊誌を見るの我慢するの大変だった……」


「ボクもです……あとネタバレしないように注意しなきゃいけなくて……」


「そうそう!!……ねえ?立ち話もなんだし、本買って、そこのフードコートで一緒に読まない?」


「え?……ええ、是非!!」


その後、アタシ達は意気投合。


「アタシ、こんなに気が合う人初めて♪」


「ボクも……こんなに気が合う人は初めて……です。あ、あの良ければ、ぼ、ボクと……付き合って……ください……!!」


完・璧!!






なのになのに!!

ナンデ!?

オタク君ときたら、ショッピングモールの本屋の前を素通りして、別なお店に入ってった。

しかも、手芸店!!

ナンデ!?

この時のアタシは知らなかったんだけど、彼はアニメ専門のオンラインショップで既に特装版を購入した後だったそうだ。

店内を覗くと、店員に何か聞いてお目当ての商品を探しているようだった。


「まだ時間かかりそうね。今のうちにタピって来よ……」


この判断のせいで、アタシはオタク君を見失ってしまう。


ーーーーーー


ボクは何をしているんだろう?

そんなことを思いながら、何種類かの紐の束を見つめている。

場違いだ。

不審者だ。

そんなことを思いつつも、紐の束を取っ替え引っ替え、色の組み合わせを試してる。

最終手段と言わんばかりに、脳が"嫌な記憶"を引き出した。

それはボクがまだ小学生の低学年の頃にクラスで行われたクリスマス会での出来事。

クリスマスだから当然プレゼントの交換タイムがあって、円形に並んだクラスメートがそれぞれ持ち寄ったプレゼントを隣に渡していく形で、プレゼント交換を行った。

その時のボクは本当にバカで、"誰かのためのプレゼント"ではなくて、"自分がもらって嬉しいプレゼント"を用意してしまった。

当然、そんな物をもらったクラスメートが喜ぶはずもなく、クリスマス会が終わった放課後にボクが受け取ったプレゼントとボクが用意したプレゼントをこっそり交換した。

ボクは別にそれで良かった。

ただ今でも脳裏にはあの時ボクのプレゼントを受け取ったクラスメートが心底嫌な顔をしていた記憶が残っていて、それが"しこり"と言うかトラウマのように残っている。

幼心に『ああ、ボクのプレゼントは喜ばれないんだ』って思ってしまった。

きっとそういう問題じゃないっていうのは今ならわかる。

でも、そういう思いをしたくないっていう防衛本能からか、さっきから頭の奥で警告が鳴り響いている。

なのに、ボクの心が脳に成り代わって、ボクの体を動かしていた。


「レジ袋はお使いですか?」


「ああ、えっと……これにお願いします」


ボクはこのショッピングモール内の書店のビニール袋を取り出した。

このビニール袋なら中身は見えないし、誰かに見つかっても「本屋に行った」で誤魔化せる。

手芸店を出たボクは右手の戦利品を見た。


「こんなに後悔する戦利品は初めてだよ……」


買い物を終えて、来た道を戻ろうとすると、早足で歩いてくるボクと同じ高校の女子生徒の姿が目に入った。

長身でポニーテールを左右に揺らす女子生徒は間違いなく"彼女"だった。


「先輩?」


「え?」


先輩の顔色はなんだか悪いような気がした。

あとは知っての通り。

公園に行き、ポニーテールについて熱弁して、男子バレー部の主将先輩に殴られ蹴られ、先輩に助けられて、先輩と恋人になったんだ。

先輩に会った時は手芸店での買い物がバレたらどうしようって焦ったけど、誤魔化せたみたい。


ーーーーーー


失敗した!!

せっかくのチャンスだったのに失敗した!!

アタシはまだこの辺にオタク君がいるかも知れないと思って、探し回った。

幸い、すぐに見つけたんだけど、何あの状況?修羅場?

女巨人先輩と、その彼女を守るように二人の女子生徒。その視線の先に長身の男子生徒が今にも誰かに殴りかかろうとしている。

しかも、その相手はオタク君だった。

助けに入らなきゃ!!って思う前に、女巨人先輩が先に動いた。


「私の"彼氏"から手を放せ!!」


女巨人先輩は自分の鞄で長身の男子生徒をぶん殴った。

しかも、顔面に直撃!!

ッシャ!!ザマァみろ!!

女巨人先輩はオタク君に駆け寄った。まるで、お姫様を助けに現れた王子様みたいに。

あれ?そう言えば今、「彼氏」って。


「誰が"アンタの女"よ!?」


「え?」

「は?」


「い、いや、それは言葉のあやって言うか、そう言えばその痴漢の一年も……」


「痴漢じゃない!!私の……"彼氏"!!」


変な間。


「私、アンタの女になんかならないから!!これ以上私と私の彼氏にその汚い手で触らないで!!」


女巨人先輩はそう言い残してオタク君の手を引いて、公園から立ち去った。

間違いなく、今オタク君のことを「彼氏」って言ってた。

いや、そんなはずない!!

だって、ずっと"観察"してきたけど、そんな素振り一度も無かった!!

か、仮にそうだったとしても、二人の間に溝が……あったと……思うんだけど、なぁ……



公園に残ったのはアタシと、女子生徒二人と長身の男子生徒。


「ねえ?」


アタシが衝撃の事実に動けないでいると、まだ修羅場が続いていた。

せっかくだから、オタク君を殴ろうとしていた奴の末路を見ていこう。


「"俺の女"ってどういう意味?」


「いや、だから言葉のあやってやつ?こう言えば、もう寄り付かないと思ってさ」


「そっか、ならいいんだ。だって、君の彼女は"わたし"だもんね」


「え?」

「は?」


「黙っててごめんね。わたしと彼、1年の時から付き合ってるんだ」


「んなっ!?」


「え?ウソ……」


「彼から秘密にするようにって言われてたんだけどさ、いい機会だと思ってさ。黙っててごめんね」


「え?いや、そうじゃなくて……"あたし"も彼と付き合ってるんだけど……」


「え?」


青ざめる長身の男子生徒。


「え?ちょっ……ちょっと待って?え?」


「……え?どういうこと?」


女子生徒二人は事態が飲み込めていないようだったけど、すぐに結論に至った。


「え?二股?」


「ちょっと、どういうこと!?説明して!!」


「いや、それは……その……」


「え?まさか、"そのため"の秘密!?嫉妬されないように~とか言ってたけど、"二股するための秘密"だったの!?」


「違っ……」


「まさか、ウチのエースにも手ぇ出そうってしてたの!?だから、今日妙にあの娘に絡んでたの!?」


矢継ぎ早に責め立てられて、190cmはあろう長身が完全に畏縮して、女子生徒二人の方が大きく見える。

ちょっとかわいいかも。


「ねえ?まさかとは思うけど、他にもいるんじゃないよね?」


「い、いねぇよ……」


「信じられない。ちょっとわたし女子バレー部のグループLINEで、コイツと付き合ってる人いないか確かめるね」


「ちょっ!?おまっ!?ふざけんな!!」


「ふざけてるのはどっちよ!?」


「あ、あたし、他の部活の娘にも連絡してみる」


「そ、そこまでしなくていいだろ!?信じられないのかよ!?」


「ええ、信じられない」


女子生徒二人はLINEを駆使して、長身の男子生徒の二股を暴露して、その話は時間差はあるもの凄まじい速度で高校中の女子生徒に行き渡った。


女子バレー部キャプテン

『部活用のLINEを使って悪いんだけど、重要なことなので使わせてもらうね。

実はたった今、男子バレー部の主将が二股を掛けていることが発覚しました。

コイツは、二人の関係を秘密にすることで、自分の浮気がバレないようにしてます。

こんなクソ野郎と1年の頃から付き合ってたなんて吐き気がする!!

別れるか別れないかは各自に任せます。以上!!』


その後、男子生徒のスマホの通知音がひっきりなしに鳴り響いてた。

たぶん、事実確認の連絡や別れの連絡などなどだろう。


「じゃあね!!……行こ」


女子生徒二人はお互いの肩を抱き合いながらゆっくりとした足取りで公園から立ち去った。

アタシの横を通る時、二人とも泣いていた。

ま、アタシには関係ないことだけどね。

それよりもオタク君のことだ。

一体いつから二人は付き合っていたんだろう?

ひょっとしたら、"あれ"も言葉のあやだったのかな?

とにかく!!

アタシは諦めない。

だって、アタシはオタク君と同じ1年生!!

対して、女巨人先輩は3年生!!

アドバンテージはアタシにある!!

長身の男子生徒をぶん殴ったことに免じて"今は"見逃してあげる。

でも!!いつか必ずオタク君と恋愛成就(おと)してみせる!!


ーーーーーー


通知音が止んだ。

日はとっくに暮れて、辺りは暗い。

どうしてこんなことになったんだ?

どこで狂ったんだ?

今日まで完璧だった。

なのに、全部壊れた。

全部、崩れた。

どうして壊れた?

誰のせいで崩れた?

俺?

違う。俺じゃない。

俺のせいだったらもっと前に壊れていたはずだ。

でも、今日までは壊れず、崩れたのはついさっきのことだ。

だから、俺以外に原因がある。

俺以外。

そうだ。

"アイツ"だ。

今日、この場所には"アイツ"がいた。

あの"1年"!!

アイツさえ……アイツさえいなければ!!

アイツのせいだ。

アイツのせいだ。

アイツのせいだ。

アイツのせいだ。






「全部、アイツのせいだ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ