これはボクが彼女に一目惚れした話
「続いては男子バレー部による部活紹介です。男子バレー部の皆さんお願いします」
放送部の女子生徒の歯切れのいいアナウンスの後、男子バレー部の普段の練習が目の前で始まった。
ここまでいくつかの体育会系の部活紹介があって、その大取りに選ばれたのがバレー部。
このバレー部は男女共にボクの住むこの地方では1,2を争う強豪校で全国大会にも出場することもある。
その為、選手の身体能力の高さは漫画じみている。
同じ三次元にいるはずなんだけど、正直住んでる次元が違うとさえ思える。
アタックと為に跳躍すれば、まるで重力に逆らっているのか、それとも背中に羽でも生えているのかと思う程、高々と跳び、放たれたボールはまるで砲弾のようだ。
オタクで運動音痴なボクは、そもそも入部しようなんて思いもしないけど、入部してもたった5分も経たずに辞める自信しかない。
模擬試合でアタックが決まる度に歓声と拍手が起こった。
中でも一際目立つ先輩のアタックの時は女子生徒が小さく黄色い悲鳴をあげている。
それもそうだ。
180cmを超える長身に涼しげで甘い顔。しかし、ユニフォームから溢れる細身ではあるが、鍛え上げられた迸る筋肉とのギャップ。
「水も滴るいい男」という言葉があの先輩のために用意されていた言葉だという論文が何かの学会で発表されても反論できないレベルのイケメン。
そんなイケメン先輩が模擬試合を終え、後輩のボクたちに向けてメッセージを送った。
「自分たち、男子バレー部の今年の目標は全国制覇です。昨年、惜しくも全国ベスト4という結果に終わってしまいましたが、その悔しさをバネに、今年は必ず全国制覇を成し遂げてみせます。一緒に全国を目指す部員の入部をお待ちしております」
盛大な拍手が起きた。
男子生徒の一部は間違いなく男子バレー部への入部を希望して、この高校を受験した者も多いだろう。後で知ったが、中学校の地方選抜選手や隣接する地方の選抜選手なんかが集まっているらしい。
え?ボク?ボクは運動音痴のオタク。中学の同級生があまり進まないだろう、地元からちょっと離れた高校を受験しただけの高校一年生。何でちょっと離れた高校を選んだか?いや、特にそんな理由はないんだけど、いじめがあった訳じゃないし、親から離れたかった訳ではないし、この高校にどうしても通いたくなる理由は……
「「「おおー!!」」」
理由はないはずだった。
でも、たった今出来た。
「綺麗……」
気がつけば女子バレー部の部活紹介が始まっていた。その中で一際輝きを放つ選手がいた。
彼女はまるで、コートに舞い降りた天使。
ポニーテールにした綺麗な黒髪を優雅になびかせ、アタックのための跳躍はまるで天に飛翔するかのごとく。
周囲からも「綺麗」だの「すごい」だのという声は聞こえてきて、ボクもそう思った。その一方で「エロい」「胸デカっ」「背ぇデケー」という小声も聞こえてきた。主に男子の声。
確かに"彼女"は他の女子バレー部員に比べ、圧倒的に長身だ。ユニフォームのサイズが合っていないのかそういうユニフォームなのか、豊かな胸が強調されてしまっているのが否めない。
ボクも思春期なんだな……ああ、それでさっき話した理由っていうのが、"彼女"。コートに舞い降りた天使にボクは一目惚れしてしまったのだ。
アニメや漫画、ゲームのキャラクターにしかときめいてこなかったボクが。
三次元の、しかも、年上の絶対接点の無い人に恋をしてしまった。