私がほしかったのはそんな物ではありませんでした
私には、
家族も、
友達も、
恋人も、
私を愛してくれる人は1人もいませんでした。
だから私には何もいりませんでした。
毎日、何の為に生きているのか分からないまま過ごしていました。
ある日、私はベッドに入り目を閉じた瞬間、何か異変に気づき目を開ける。
すると目の前には永遠とも言えるほど遠くまで続いている、螺旋階段が現れました。
ここにいても何も変わらないので仕方なく上り初めました。
上っても上っても、上は階段だけ。
「何なのよこの夢は!」
私は大きな声で叫んでいました。
「どうしたの?」
後ろから声が聞こえて、恐る恐る振り向くと。
そこには笑顔の可愛い男の人が立っていました。
男の人に可愛いは失礼なのかもしれないが、とっても可愛いらしい印象の人でした。
「さっきまでいなかったよね?」
「今、来たから」
彼はそう言うと下を指差す。
彼が指差した方を見るとさっきはなかった扉が階段の途中に出来ていた。
「さっきはなかったのに」
「君がここを通ったら扉ができたんだ」
「私が?」
「君は僕を助けてくれた。
あの扉から僕を出してくれたんだ」
私はいつの間にか彼を助けたみたいだ。
「この階段の先には何があるの?」
「僕も分からないんだ。
でも、僕は君と一緒にこの階段を上るよ」
「この階段に終わりがなくても?」
「うん。
だって君は僕を助けてくれたから」
「この先に何があるか分からないならあの扉に戻ったほうがいいよ」
「僕は絶対にあの扉の中には戻らない」
扉の先に何があるのか気にはなったが、彼の顔を見ると私も行くのを止めた。
彼の表情を見れば誰でもそう思うほど彼は恐怖で怯えていた。
2人で階段を上る。
先はまだまだ見えない。
「待って」
彼に呼ばれ私は振り向く。
彼の後ろに扉が現れていた。
「また扉?」
「僕と同じ思いの人が出てくるのかも」
彼はそう言ってドアノブに手をかける。
「待って」
私は彼の手の上に手を置き、彼の手の動きを止める。
「ダメよ。
階段に出てきても先が分からないのに、そんなところに誰かを出すなんて」
「僕は救われたんだ。
それならこの扉の向こうにいる誰かだって救われる」
「それはあなたが決めることじゃないの。
その扉の中にいる誰かが決めないと意味がないのよ」
すると、扉が開く。
中から美人な女の人が出てきた。
「ありがとう。助けてくれて」
彼女は泣きながら私に言った。
彼女も扉の中で何かあったのか、恐怖が私に伝わってきた。
私は彼女には何も聞かず、一緒に階段を上ることを提案した。
彼女は嬉しそうに頷いた。
私達は階段を上る。
先はまだまだ見えない。
「あなた達は恋人なの?」
「違うよ」
彼女の言葉にすぐに私は答えた。
「今はそうでも、いつか恋人になったりするのかもよ」
彼女はそう言って彼にウインクをした。
彼はすぐにうつむいた。
彼の表情は私には見えなかった。
美人な彼女のウインクに照れてるんだと思う。
そして少し経つとまた、扉が現れた。
扉が少しだけ開いている。
私が覗こうとした時、手が扉から出てきた。
私は驚き、尻もちをつく。
手はすぐに扉の中へ消えた。
「何?」
私は呟いた。
「助けて」
扉の中から声がした。
「誰かが助けを求めてる」
彼はそう言うと扉を開ける。
扉の少し向こうに小さな女の子が立っている。
「助けて」
女の子の声を聞いて彼は扉の中へ足を踏み入れようとしている。
「ダメよ」
私は彼に叫ぶ。
彼は動きを止めた。
「ねぇ、扉の中のあなた。
あなたは自分でここから出なきゃ意味がないよ。
そこが嫌なら自分の足で出なきゃ。
何も変わらないよ」
私が女の子に伝えると女の子は走って私の胸に飛び込んだ。
そして扉は静かに閉まった。
女の子は私から離れようとはせず、私は女の子と手を繋ぎながら階段を上る。
先はまだまだ見えない。
次の扉から誰が出てくるのか気になりながら私は階段を上る。
そしてまた扉が現れた。
しかし、今回の扉は異常に小さい。
人間が出てこれる大きさじゃない。
扉の向こうで何か音がする。
扉にはドアノブがない。
私は扉に触れてみる。
すると扉にドアノブが現れた。
今回は私が開けないといけないと直感で思い、私は扉を開けた。
「ワン」
扉から真っ黒の犬が出てきた。
犬は私の顔をペロペロ舐める。
「ワンちゃんだ可愛い」
女の子は真っ黒の犬を撫でている。
「パピヨンね」
美人の彼女が犬種を言った。
真っ黒の犬は私達1人1人にしっぽを振って挨拶をしているように見えた。
そして私達はまた階段を上る。
先はまだまだ見えないはずだった。
「あの扉は何?」
少し先にある扉に私は気づいて言った。
さっきまでは何もなかったのに。
扉が階段の道を塞いでいる。
「行き止まりになっちゃう」
「その扉が僕達が向かいたい場所なのかも」
私が言うと彼は呟きながら言った。
私は扉を開ける。
私の目の前には
「私?」
「そう。君だよ」
彼は笑顔で私に言った。
「僕達は君の未来で会うはずなんだ」
「会うはず?」
「今の君は生きる意味を何も持たず、ただ何となく生きている。
そんな君だったら僕達は君と会わないで、あの扉の中へ戻るんだ」
「私のせいであの扉の中に?」
「扉の中はただずっと暗闇だけ。
それがどんなに苦痛か君は分かるだろ?
君もその扉から出て来たんだ」
「私も?」
「君は今の自分を変えたいと思ったから扉から出てきたんだ。
僕達だって君のお陰で扉から出られた。
さあ、最後は君の勇気を見せて」
「私の勇気?」
「君は幸せになる為に生きるんだ。」
彼の言葉は私の冷たい心を暖めた。
「私は愛してくれる人がほしかった。
幸せにしてくれる人がほしかった。」
「それなら早く、この扉の向こうの君の元へ行こう」
「うん。
最後に聞いてもいい?」
「何?」
「あなたは私の何?」
「君の友達で、恋人で、家族になる相手だよ。
そしてここにいるみんなそうだよ」
「私の家族?
私、一生1人なんかじゃなかったんだ。」
「そうだよ。君は僕達の大切な家族なんだよ」
「みんな、ありがとう。
また絶対に会おうね」
私はそう言って扉の中へ入る。
入った瞬間、まぶしい光に目を閉じた。
目を開けると自分の部屋にいた。
今までのことが何だったのか頭で考える。
「彼に会いたいなぁ」
さっきまで一緒にいた彼に会いたくなった。
そして私は家を出て、まだ朝日が昇っていない星空が綺麗な夜の道を歩いた。
ただ何となく目的もないまま歩いた。
「ねえ」
私は誰かに声をかけられ振り向く。
「君も眠れないの?」
彼は可愛い笑顔で私に言った。
「会いたい人がいるから会いにきたの」
「会えたの?」
「うん。会えた」
私はそう言って彼に笑顔を見せた。
「君の相手が羨ましいな」
「どうして?」
「そんな顔をする君に愛されたら絶対幸せだよ」
「どんな顔?」
「可愛い笑顔」
彼は顔を赤くしてうつむいて言った。
私には、
家族も、
友達も、
恋人も、
私を愛してくれる人は1人もいませんでした。
だから私には何もいりませんでした。
私がほしかったのはそんな物ではありませんでした。
私がほしかったものは、
家族も、
友達も、
恋人も、
私を愛してくれる人がほしかっただけです。
読んで頂きありがとうございます。
なぜ生きるのか考えたとき、今が楽しければ生きていきたいと思うけれど、もし楽しくなかったら私だったら楽しいことを自分の足で探して、生きていきたいと思っています。
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