のんびり村人ライフ
「あ、サイン! 今日のノルマは終わったの?」
「終わったよ! おっ母! バッチリだって!」
「嘘おっしゃい! ちゃんと数えてたんだから! まだ9000回とちょっとでしょ!」
「えー、1万超えたって! 途中で数えるのわからなくなったから多目にゆっといたもん!」
「駄目です! あと1000回! そんなんじゃ、勇者様がいらっしゃった時に、”あわあわ”なって恥ずかしい目に合うのはあなたなんですからね!」
「わかったよ……。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。(中略)ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。はい! 1000回! 遊びに行ってくるね!」
サインは勇者様がいらっしゃった時に「ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。」と案内する役目を与えられている。
サインの母に与えられたのは、サインがそのために「ようこそ、勇者様、ここはソノツギーの村です。」を練習するのをサボらないための監視役。直接勇者様と接する役目でないため母親は不満もあったが、後方支援も大切だと割り切って息子のノルマを監視している。
ここはソノツギーの村。
ハジマリーの村で勇者としての役割を理解した勇者がその次にやってくる村。
勇者が来たときに、過不足なく対応するために村人たちは今日もいろいろ準備にいそしんでいる。
武器屋や防具屋は近隣の村の品ぞろえや金額を調査しては、ちょうどいい感じの店づくり。
例えば、ハジマリーの村よりちょっとだけ良い装備を適切な価格で。
間違っても、その次の次の街で買えるようなもう少し良い装備を扱うわけにはいかない。
宿屋も宿泊価格は前の村以上、次の街以下という価格を徹底している。
また、勇者がやってきた時に、なんのイベントも無いのは失礼にあたるため、わざと近隣の山賊を放置している。
山賊に若い娘を攫われては、数日放置。勇者が来なさそうな時を見計らって救出。
そして、すぐにまた攫われるように手配。
村長は自主練として「ああ、勇者様! このようなことをお願いするのは失礼に当たるかもしれませんが、実は困っておるのです。山賊が村の若い娘を攫ってしまって。山賊ですか! 東の草原を進んで行った先に見える北の山脈の中腹の綺麗な泉が沸いているところのちょっと下ったところにやつらの拠点がありますのじゃ。山賊の親分は魔法も使えるため、注意が必要ですじゃ。共に出現する子分は薬草などを沢山持っていて親分の体力を回復してしまうため、同時に戦う時には子分から倒すほうが良いでしょう」という長台詞を毎日2~7万回唱えている。
のんびりとした暮らしであるがそれなりにやることがいろいろある。
だが、彼らは知らない。
特にフラグもないこの村を、勇者がスルーして次の街に行ってしまうことを。