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注文の多い魔王城

┏━━━━━━━━━━┓

 魔王を追い詰めたが、

 とどめを刺せなかった


 どうして?

┗━━━━━━━━━━┛


↑のスピンオフというか、派生ではありますが、どっちから先に読んだほうがいいとかはありません。

そして1000文字以内で終わるだろうと思っていたら、長くなってしまいました。冗長

 魔王城に辿り着いた。


 城は溶岩の池で覆われており、大きな門へ至るには、城や門の大きさと比べると、なんとも不釣り合いな、粗末な木の橋を渡らねばならない。


 その木の橋の横手には立札が立てられていた。


「ははあ、まずはとんちで牽制ってわけだな」


 勇者はその立札を読みました。


「この橋は壊れやすいので、注意して真ん中を渡ってください……」


 勇者は素直にそのとおりにしました。端っこのほうは穴が開いてたり、朽ちていたりで、真ん中の人が一人通れるぐらいの幅だけは、何度も補修しているようで、見るからにそこ以外を踏む気にはなれませんでした。


 門の前にはまた、立札が。


「魔王を討伐するのは仕方ありませんが、出来る限り魔王の希望を叶えてやってください……、って、知るか!」


 知ったこっちゃないと言葉では跳ねのけつつも、勇者の心の中にはいくばくかの引っ掛かりが生まれました。


 つい先日倒した魔王軍の幹部とか、生まれたばかりの子供がいて、最後に一目会いたいとか涙ぐましい希望を述べつつも、「それももはや叶わぬ望みか」と言い残して、勇者に倒されたのです。

 他の幹部もローンが残ってたり、色々心残りがあるようで、立場上見逃すわけにはいかなかったのですが、メンタルは削られました。


 さて、順調に魔王の元に到着します。特に、小麦粉浴びたり、バターを塗りこんだりはしてません。


「魔王よ! もはやこれまでだ!」


「覚悟はしておった、もはやこれまでか」


 わりとあっさりと観念したみたいな魔王と勇者の間に沈黙が流れます。もう少しなんか魔王側からの話題提供があると思って油断していたのです。


 沈黙に耐えかねて、勇者はついつい口を開きました。


「最後になにか言い残すことはないか?」


「それを聞いてなんになる?」


「いや、それを言われると返答に困るんだけど。他の幹部とか色々言いたいことがあったみたいなんで、とりあえず定型文的に、社交辞令みたいなもん?」


「そうだな、天気の話をするのもこの状況に似つかわしくはないしな。ならば聞くだけ聞いてくれるか」


 そういって魔王は語り始めました。

 要約すると、魔王に生まれてしまって、本能(魔王脳とでもいうべき魔力的な影響も受けている器官)がそうさせるので、悪事を働いていたが、心のどこかでこれで良いのだろうか? とは疑問に思っていたということ。なので、勇者が来て倒されるのは覚悟していたということ。

 そもそも、幹部のほうが魔王より強くなったので、幹部と連戦でもない限り、幹部を倒した勇者には勝てないだろうということ、などです。


「で、ほぼほぼ諦めてはいるのだが、念のために訊いておく。今後悪いことしないと約束したら見逃してはくれんか?」


「バカなことを言うな! お前の行動がどれだけの人を不幸にしたことか!」


 ついつい声を荒げた勇者の言葉を聞いて、魔王の目が輝きました。


「それ、詳しく!」


「どういうことだ?」


「どんな不幸な目にあったかの詳細が知りたいわけではないし、それを聞いて儂が悦に浸ると思われても心外だが、そういうシチュエーションに憧れておったのじゃ。勇者がやってきて、これまで犠牲になった仲間達の想いを口にしながら儂と戦うというような」


「それを聞いてしまえば、言いにくくなるじゃないか」


「それもそうか」


「言わなければあるいは……、ここに来るまでに沢山の仲間を失った……。おっと、これ以上は。お前の望みなんか叶えてやるものか」


「だが、それを、その仲間達の名前を口にせねばならないという理由もある」


「どういうことだ?」


「儂の体は多重の結界に守られておるし、命のようなものも多数持っておる。それをひとつずつ滅ぼす際には、心の中で儂のために犠牲になった人物を思い描いたりして、正義の心を震わせつつ、悲しみを呼び起こして勇者力を高めなければならんと思う。で、思い描くよりも口に出したほうが効率が良く威力も高まる」


「それを教えなければ、あるいは倒しようがなかったのでは?」


「ここまでくる勇者であれば、様々なものを背負っておるだろうし、素でも一定以上の勇者力は発揮できるだろう。時間がかかるというだけだ」


「なるほど……」


 勇者は考えました。

 王様に見いだされて旅を始めた時は一人でしたが、すぐに仲間が出来、勇者の旅のほとんどは一人ではありませんでした。

 辛く困難な道のりを仲間たちと、時に励まし合い、時に過去を偲びながら歩んできたのですが、先日の幹部戦で最後の仲間を失い、そこからは孤独でした。ちょっと人恋しかったりもしていたのです。


「ならば仕方ない。仲間たちの力を借り、彼らと共にお前を倒すという意味でも、名前だけでも、述べさせてもらおう」


「我儘を言ってしまってすまないな」


 勇者はそれから、「これは○○の分!」と仲間たちの想いをのせて、魔王に斬りかかりました。





「主要な仲間の名前は言い尽くしたが、あと結界とか魂とか、どれくらい残っているんだ?」


「お前が削った分はまだ誤差みたいなものだな」


 魔王はピンピンしてました。


 仲間達の名前を言い尽くしてしまい、今度は旅の途中で会った人々やその人達から聞いた悲しさや苦しさの詰まったエピソードを思い描きながら、魔王を斬り続けます。


「やはり、思い浮かべるだけよりも口に出すほうが、勇者力が高まって効率がよいようだ。できるだけ詳細に、具体的に。そうせねば、日が暮れる処どころか年が変わってもこの戦いは終わらんだろう」


 というアドバイスに従いながら。結局魔王の言いなりです。結果として魔王を倒すためとはいえ。




「はぁ、はぁ、思い出せるだけのエピソードは語りつくしたが、まだまだ結界みたいなのは残ってるのか?」


「半分くらいは削られたかのう。修復には時間がかかるから、もうちと頑張れ」


「仕方ない、もう一周すればよいということだな」


「いや……そういうわけにはいかん」


「どういうことだ?」


「一度使った名前やエピソードだと効果が薄れて、素の勇者力からの威力上昇幅は微々たるものだ」


「そう言われても、もう語るエピソードは残ってないぞ?」


「仕方がない。あまり気は進まないが、儂が趣味で集めていた、部下たちの非道な行いの記録集がある。それを朗読しながらというのはどうだろう? 中には既出のエピソードもあるだろうが、量が多いので重複分を省いても十分だろう」


「何もかもお前の思い通りというわけか」


 勇者は悔しくなりましたが、他に方法はありません。


 まだ先は長そうなので、食事休憩を取りながら、戦いを続けます。文字通り、腹が減っては戦はできないので。




 魔王城に勇者が食べられる食料の備蓄は少なく――基本的に魔王や魔物と人間の食べるものは異なり、多少共通している食材もあるがそれを食べ尽くしてしまったので、出前を頼みながら。


「人間の食べるものはどれも珍しくて美味いものだな」


「魔王であるお前にも食べさせるのはどうかと思いもするが、居候みたいな身分だしな。戦闘中とはいえ」


 既に戦いが始まってから何日も経っています。不眠不休というわけにもいかないので、戦闘は一日8時間(途中食事休憩一時間)と決めています。


「それにしてもこの魔法通信と、伝書鳩を使った出前というシステムは便利だな」


 この異世界の鳩は大型なので4人前ぐらいは運んで飛べるのです。


「ああ、俺の元居た世界にあったサービスの応用だ。ドローンは規制があり、人間が自転車で運んでいたんだがな、あちらでは」


「なるほど、ならばこの奇妙なサービス名もそこからの由来か?」


「そう、ユーシャーイーツ。ここまで流行るんだったらもっとちゃんと考えればよかったと後悔しないでもないな」


「確かに、聞きなれん組み合わせだから覚えにくい」


「こっちの世界ではそうだろう。だが、これがあるおかげで、この世界にあるあらゆる料理が注文し放題だ」


 この異世界の鳩的な鳥は凄く早く飛べるので、世界中から冷めないうちに料理が届くのです。





 今日も魔王城にはたくさんのユーシャーイーツの配達鳩が飛来します。

 

 魔王城に住む他の沢山の魔物達も注文するようになったからです。



 おわり。


頭痛が痛いみたいな気がするが誤用とかあんまり適切な表現ではないのだろうか、立札が立てられている。気にしたら負けか。

あとそもそも立札であってるのか。現代ではお花とか送る時とかに使うやつっぽいけど。他の用途がないからそっちがメーンなわけであって、深く考えないようにしました。


悦に浸るご溶接とかも、気になって調べて放置。執筆にはある程度勢いとリズムも大事。

推敲時に見直せばよい、といいつつ推敲はしてませんが。

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