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架橋相談事務所へようこそ  作者: 女川 るい
胸の大きな女性に囲まれる夢
9/44

009話 さっさと上の階に行け!

    6


 草原の中にポツンと建っていた城の中に入ると、中は迷宮になっていた。一階部分は完全な迷路だった。迷路の壁は天井まで届いておりどこに向かえば二階に行けるのかすらもわからない。こんなものまともに進もうと思ったら残り時間が絶対に足りなくなってしまう。もう残り時間は三分しかないのだ。


「しゃらくせえ!!!」


 架橋さんが真上に目掛けて何かを投げたと思ったら大きな爆音とともに天井に穴があいた。爆弾か何かを投げたのだろう。穴があいたその部分目掛けて架橋さんはジャンプをする。よく見れば足元に大きなトランポリンのようなものがあった。


 その穴を通って二階に到達すると架橋さんは一瞬動きを止めてしまう。私の口からも思わず声が漏れてしまった。


「……え?」


 二階には何もなかった。文字通り何もない。何の部屋もないしただ四方八方を白い壁に囲まれているだけだ。


 架橋さんはすぐに先ほどと同じ手法で三階へと向かう。三階の様子を見たあとにすぐに四階へと向かう。四階まで到達して架橋さんは完全に動きが止まってしまう。


 二階、三階、四階。そのすべての階層に何もなかった。ただ真っ白で大きな部屋があるだけ。女性たちを探すための何の手がかりもなくただ壁に囲まれているだけ。


 何もない四階を見て私は心が折れてしまう。この城はハズレだ。ここには誰もいやしない。きっと架橋さんもそう思ってしまったのだろう。さっきから一歩も動こうとしない。完全に固まってしまっている。


 でもさっき架橋さんに言われた言葉を思い出す。


『諦めるのは失敗したあとでもできるだろうが!』


「架橋さん! 何止まってるんですか! 諦めるのは失敗したあとで良いって言ったのは架橋さんじゃないですか! さっさと上の階に行け!!!」

「くっ……!」


 私の声が聞こえたようで架橋さんは頭を左右に三回ほど振ったあと、さっきと同じように無理やり上の階へと向かう。これだけ爆弾を使っていたら城ごと壊れてしまいそうだ。


 私はいつもなら夢に傷がつかないように夢の世界を守っている。どれだけ架橋さんが現れたとしてもその夢が変わってしまわないように守っているのだ。


 だけど今はそれができない。私は夢の時間をとめるので精一杯なのだ。他のことをやれるだけの力は、今はまだない。


 五階に行くと、そこには後ろ手に縛られ声が出せないように布を口の中に入れらている五人の女性がいた。確かに胸も大きい。おそらくあの五人が依頼人の夢に本来は出てきていた女性たちなのだろう。


 ダッシュで架橋さんは女性たちのもとへ向かう。だが、その行手を阻むものが現れる。


「何だこいつは?」


 そこに現れた生き物を表現する言葉を、あいにく私は持ち合わせていない。とにかく異形で、とにかく巨大で、とにかく強そうな生き物が架橋さんの前に立ちはだかる。


「どけやぁ!!!」


 そんな乱暴な掛け声とともに架橋さんの前に巨大なハンマーが現れ、それを両手に持ってその異形の生き物に殴りかかる。だがその生き物は右手に持っていた金棒を使って架橋さんの攻撃を防いだ。ハンマーと金棒がぶつかって嫌な音が響く。周りに衝撃が走る。


 夢の外から見守っている私でもその衝撃が伝わるようだった。架橋さんと化け物、両者ともに動きはない。


 残り時間は、二分。


    7


「くそがぁ!!!」


 架橋さんはハンマーでもう一度殴りかかる。だが、また同じように金棒で止められるだけだ。すると架橋さんは止められた瞬間にハンマーから手を離し、今度は右手に大剣を持つ。この前のハエ退治のときの剣だ。


 ハンマーの処理で止まっている金棒を避けるようにして化け物に向かっていき身体に斬りかかる。そして架橋さんの思惑通りに化け物は身体が真っ二つに斬れた。


 よし! と言う間もなく架橋さんは化け物の後ろにいた女性たちのもとへと走って向かう。そりゃそうだ、もう時間がない。


「桔梗! 時間はあととりーー!」


 架橋さんの声はここで途切れた。この大事な局面で噛んでしまったわけではない。架橋さんの跡取りが気になったわけでもない。そもそも架橋さんに子供はいない……はず。


 架橋さんの後ろで信じられない光景が広がっていた。さっき真っ二つに斬られたはずの化け物が元の形を取り戻しており、その大きな金棒で架橋さんを思いっきり殴ったのだ。架橋さんは思いっきり横に吹っ飛ぶ。


「架橋さん!!」


 壁と架橋さんが思いっきりぶつかり壁が少し壊れ煙のようなものがあがる。架橋さんの姿が見えない。だが化け物の方に変化があった。


 化け物の周りが鉄格子で囲まれたのだ。これはハエのときと同じだ。化け物があのハエよりも巨大なので、さらに巨大な鉄格子の檻になっている。これならこの化け物に邪魔されずにーー。


「……嘘でしょ?」


 架橋さんが作った檻はまるで暖簾をくぐるかのように簡単に破壊されてしまう。架橋さんが飛ばされた方向を見るともう煙はおさまっていて架橋さんが壁にもたれかかって座っていた。


 ただし服は破れ頭から血を流しており動く気配はない。


 残り時間はあと一分。移動にかかる時間が約一分。夢の中で自由に動ける架橋さんは血を流し動くことができない。目当ての女性たちはもう見えているが攻撃の効かない化け物が行手を阻む。


 詰みだった。


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