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架橋相談事務所へようこそ  作者: 女川 るい
胸の大きな女性に囲まれる夢
6/44

006話 エライことですわ

    1


「むむ……。これはけしからん……」


 架橋(かけはし)相談事務所に出勤したらまだ架橋さんがいなかったので、私はドリームシェアを使って夢を見ることにした。


 いまやカラーテレビと同様のレベルまでドリームシェアは普及していた。一家に一台はドリームシェアの機体があって、家に機体がない子供は「でも友達の◯◯くんは持ってるよ」と親にねだるのである。


 架橋相談事務所にも一台あるので……というか私がこの事務所用に一台買ったのでそれを使って私は夢を楽しんでいた。


 スマートフォンに入っているドリームシェアのアプリを起動して、検索機能を使って自分のお好みの夢を探す。ランキングもあるのだけど、自分で検索をした方が好みの夢が見つかることが多い。タグなんかも設定してあってハッピーエンドとかバッドエンドとか、異世界とか現実世界とかを選ぶことができるのだ。


 もちろん年齢制限のある夢もある。私はもう成人しているので何も関係ないが。年齢制限は設定せず、無料のみのチェックボックスをタップして、あるワードで検索をしていた。検索結果をアクセス順に並べ替えてから気になった夢のあらすじを見ていく。


 人気のある夢はあらすじの書き方もうまくて、ついつい夢を試したくなってしまう。だけどそんな時間はない。だいたいいつも通りの時間に架橋さんが来るならあと三十分ぐらいだ。大事をとって二十分ぐらいでお目当ての夢を探す。


 そして見つけ出した夢を見ているときに漏れた感想が冒頭のあれである。


 私は今、夢の中で胸の大きな女性たちに囲まれていた。


 ……。


 いや? 別に私の胸が小さくて胸の大きな女性に憧れているからこんな夢を見ているわけではないですけど? 邪魔そうだな、私には必要ないなということを再認識するためにこの夢を見ているだけだから。


 別に胸の大きい女性に憧れているっていうわけじゃないから!


 私は自分の心の中で自分に言い訳をして今は夢を楽しむ。


「しっかし、これまたエライことですわ……」


 私は私を囲んでいる胸が大きな女性たちを眺めながらひとりひとりの胸を見比べる。皆、水着やタンクトップなどある程度の胸の形や大きさがわかる服装だった。


 一人の水着を着ている女性はとても綺麗な胸の形をしていた。周りと比べると大きさは少し劣るかもしれないが、整った胸だ。


 一人のネグリジェを着ている女性はとても大きな胸だった。少し垂れ目の胸でだらしない、と言って差し支えないような胸だった。もちろん褒め言葉である。


 他の女性も皆、素晴らしい胸であった。それに引き換え私は……。


 いやいや。これは夢だ夢。そもそも私はこの国じゃ平均的なサイズくらいだし、たぶん。とか思っていると自分の腕が二人の女性の胸に伸びる。ついに来たか。これだけ胸の大きな女性に触れるのははじめてかもしれない。


 いったいどんな感触が……?


    2


「…………え?」


 次の瞬間、私の意識は現実に戻ってきていた。ひとりの女性の胸にも触れることなく。ただ二十分間、女性の胸を眺めるだけで終わってしまった。


「なんだよ、詐欺かよ……」


 有料から探しておけばよかった。無料の夢だとこういうことが多い。あらすじに書いてある夢とはかけ離れたものも多いのだ。だからいつもは評価とか他の人のレビューとかを参考にするのだけど、今日は時間がなかったらついあらすじだけで判断してしまった。よく見ればレビューでボロクソに叩かれていた。


「おはよう。業務サボってどんな夢見てたんだ?」

「架橋さん!? 何でもういるんですか!?」


「何でって、業務時間に俺がいるのは当たり前だろ。いつもは少しばかり遅れてくるけど今日は何とか間に合ったな」

「何で今日に限って……!」


 でもよかった。もう少し夢から覚めるのが遅くなっていたら、架橋さんに夢を覗かれて私の見ている夢の内容がバレるかもしれなかった。少し早めの時間設定をしていた私、グッジョブ!


「なんであんな巨乳の女性に囲まれる夢見てたんだ? 嫉妬?」

「夢の内容を見たとしても私にそのことを伝えないでください!」


「どしたの、そんな『浮気をしても私に言わなければいい』って言ってくれる優しい恋人みたいなこと言って。でもそういうやつに限って浮気してないか証拠をめっちゃ探してくるんだよな」

「えらく詳しく語りますけど、経験談ですか?」

「そんな女とは最初っから付き合わねえよ」


 そんなことより、と架橋が私に向かって言う。私はドリームシェアの機体を手に持ったまま架橋の方を向いて話を聞いていた。


「依頼人来てるけど?」

「え?」


 慌てて事務所の扉の方へ振り返ると、そこには眼鏡をかけた一人の男性が立っていた。その男性は身長が少し低めの男性だった。


「うわっ! すみません! 今すぐ片付けますので!」


 そう言ってせかせかとドリームシェアの機体を片付ける。この事務所に来たということは夢に不具合があるということだから、この機体を片付ける必要はあまりない。だけどさっきまで私が使っていたものをそのまま使ってください、というのも失礼な話だからとりあえず片付ける。


 私は改めて、その男性と向き合う。


「架橋相談事務所へようこそ! 夢のご相談でしょうか?」

「はい。少し言いづらいのですが……」


「ご安心ください。私どもは依頼人様の個人情報は必ずや順守いたします」

「それなら……」


 そう言ってその男性は夢の内容を話す。


「僕の見た夢っていうのが『胸の大きな女性に囲まれる夢』なんですけど」


 ……ん?


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