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硝子の部屋

作者: 村田やく
掲載日:2009/02/13

 初めまして。こんにちは。

 私はごく普通の大学生をやっています。毎日しっかり授業に出ている、真面目な大学生です。

 しかし、ごく普通の大学生の私は、少し普通でない集団――宗教とは違うと思いますが――に属しています。



 今私は、とある会社のビルの地下室に来ています。

 広くて綺麗な所です。そこには人がけっこう沢山います。みんな近くの人と口々に好きなことを喋りあっていて、とても賑やかです。たまにナンパされたりもします。迷惑です。

 広い部屋の奥には、分厚いガラスで囲まれた部屋があります。

 その部屋はガラス張りだけに、周りから中が丸見えです。その部屋の奥には、大きなドアがあります。今まさに、そのドアから人が入ってきました。

 あたりが一瞬で静まり返ります。みんなその部屋に入ってきた人に注目しているのです。

 入ってきたのは、今回は二人のようです。これはたまに変わります。

 一人は二十歳くらいの女の人で、なんだかワクワクしたような表情をしています。この人はさっき、名前をアナウンスされていました。もう一人は男の人で、斧を持っています。ちなみに前回は鉈でした。

 みんながその二人に注目しています。誰も視線を逸らしません。もちろん、私も例外ではなく。

 男の人がおもむろに斧を振り上げました。女の人が陶然として目を瞑ります。

 そして、その脳天に斧が振り下ろされました。

 見事に割れた女の人の頭から飛び散った血と脳漿が、シミ一つない床を汚します。

 誰もがその様子を、いいえ、頭の中身をまき散らせながら床に崩れ落ちる女の人を、羨ましそうに見つめていました。

 「次は誰だろう」「俺だ」「いいえワタシよ」という興奮した声が聞こえてきます。

 私は心の中で、いいえ次こそは私だと言っていました。

 もうある程度おわかりでしょうか。此処に集まっている人たちはみんな、他殺による死に憧れ、それを与えられることを強く望んでいるのです。

 私たちは二日に一回、夜にこうして集まってこの行事に参加します。そこでは毎回一人ずつ、その願望を遂げることができる人の名前がアナウンスされます。どうやら、この団体への登録者の中から抽選で選ばれるようです。選ばれた人は、あのガラス張りの部屋に行くことができます。

 どうして二日に一回なのかと以前訊ねたら、汚れた部屋の掃除と、道具の手入れのためだと言われました。なるほど。

 ちなみに、どういった方法で逝きたいかは、名前が呼ばれた後に申告するそうです。その方法が可能ならば、それで殺してくれるらしいです。まあ、今までに拳銃とかも出てきましたから、大抵のことはオーケーのようですけど。

 とりあえず、今日はこれでおしまいです。家に帰ろうと思います。

 

 

 またこの日がやって来ました。

 今日は誰がその願望を遂げるのでしょうか。

 私だといいです。

 そわそわしながら体育座りをしていると、三十代前半くらいの女の人が声をかけてきました。

「あら、あなたも志願者? そわそわしちゃって可愛いわねー」

 頭を撫でられました。完全に子供扱いです。

 私が、

「子供ではありません、大学生です」

 と言うと、

「あら、悪かったわねー」

 と、悪びれもせずに、からからと笑いました。

 私がちょっとムッとした顔をすると、

「ごめん、ごめんね」

 と謝ってきました。

 まあ、せっかく知り合ったのですし、次に会うことがあるのかどうか疑問なので、少しお喋りすることにしました。

「あら、あなたK大学なの。わたしの旦那もそうだったのよ」

 と、最初は世間話から。そして、

「で、あなたはどうして此処で死にたいの?」

 突っ込んだ話になりました。

 私は、

「死ぬのって、一生に一度きりじゃないですか。一大イベントですよ。きっと最高の快楽ですよ。それを、事故や病気、自殺みたいなありきたりな方法で済ますのは勿体ないじゃないですか。私はもっと違う方法で死にたいんです。ここではそれが叶いますからね。つまらない死に方をするより、自分の望む死に方で死にたいです」

 と答えました。今の私の素直な気持ちです。

 女の人はそれを聞いて、なるほどねと言いました。

 そして、どんな方法で死にたいかを訊いてきました。

 そういえば、まだ決めていませんでした。私がその旨を話すと、彼女は、

「早く決めたほうがいいわよ。いつあなたの番になるかわからないんだから」

 と言いました。

 確かにそのとおりです。いざ自分の番が回ってきたときに、なにも考えていないでは全く意味がありません。

 参考までに、彼女の願望を訊ねてみました。

「わたしはね、チェーンソーで首を切られたいの。旦那の実家が林業を営んでいてね、一回チェーンソーで木を切るところを見せてもらったの。そしたら、その大きな音と回転する刃に魅せられちゃってね。ああ、これで首を切られたらどんな感じなんだろうって、ずっと思っていたの。わたしには子供がいたから今まで死ぬわけにはいかなかったけれど、その旦那と息子がこの前交通事故で死んじゃってね。ようやくわたしはチェーンソーを体験できるってわけ」

 彼女はそう言って、嬉しそうに笑いました。

 チェーンソーですか。なるほど、それは確かに魅力的です。とても痛そうですが。

 一応候補に入れておこうと思いました。

 ――アナウンスが流れました。

 するとその女の人は、

「じゃあね、ばいばい」

 と言って、部屋を出て行きました。

 しばらくして、彼女がガラス部屋の中に現れました。後ろにはチェーンソーを持った男の人も一緒です。

 彼女は私に気づくと、笑って手を振りました。私もそれに応えました。

 チェーンソーの男の人が何かを言い、彼女が頷きました。すると、男の人がチェーンソーを起動させました。分厚いガラスに阻まれて音は聞こえてきませんが、高速回転する刃はとても迫力があります。

 男の人がチェーンソーを振り上げました。女の人が恍惚の表情を浮かべます。

 そして、彼女の頭と体はさよならをしました。

 今日はこれでおしまいです。

 


 今日もいつもの集まりです。

 今日の私はそわそわしてはいませんでした。なにせ、今順番が来てしまっては困るのです。

 早く死に方を決めないといけません。

 ああでもない、こうでもないと悩んでいると、男の子が近づいてきました。制服を着ているので、おそらく高校生でしょう。

「きみカワイーねー。どこのがっこ?」

 ナンパくんでした。年上に向かって失礼なやつです。

 私が大学生だと言うと、

「えー、まじ? 年上? 見えないって」

 と言いました。ますます失礼なやつです。

 私はもう、無視を決め込むことにしました。そして死に方を懸命に考えていたのですが、

「きみも死にたいの? なんで? もったいなくね? ねえなんで?」

 としつこく訊いてくるので、仕方なく以前のチェーンソーの女の人のときと同じように答えました。

 すると彼は、訊いてもいないのに、自分の願望を話し始めました。

「俺さー、カッコよく死にたいんだよねー。交通事故とか、なんかカッコ悪いじゃん? 老衰なんてもってのほかだよね。だから俺さー、拳銃で眉間を撃ち抜かれたいんだよね。バーンって」

 彼はそう言うと、私の眉間に向かって、バーンと拳銃を撃つ真似をしました。眉間を撃たれることのどこがカッコイイのか理解できません。おかしな人もいるものです。

 しかし、撃たれるのもまた良いかもしれません。候補に入れておきましょうか。

 その後も彼はいろいろとよくわからないことを話していたのですが、アナウンスが流れると、

「おっと残念。今日こそはと思ってたのになー」

 と言って、語るのをやめました。

 呼ばれた名前は外人さんのものでした。

 しばらくして、ガラスの部屋に金髪の男の人が現れました。

 そして切腹しました。介錯はいつもの男の人です。なんでもできるんですね。

「あー、ジャパニーズ・ハラキリに憧れてたっぽいねーあの外人」

 男の子はそう言って、まるで喜劇でもみているかのように、ゲラゲラと下品に笑いました。

 私は外人さんらしいと思いました。偏見でしょうか?

 とにかく、今日の集まりも終わりました。

 帰ろうと思ったのですが、そのナンパくんが、一緒に遊ぼうよ家に帰るのはまだ早いとしつこく言ってきました。あんまりしつこいので、思わずグーで殴ってしまいました。顔面です。自分でもびっくりです。

 殴り返されるかなと思って、痛む拳を気にしながらも身構えていたのですが、彼は呆然と鼻血の出る顔を押さえて、

「これいいかも……」

 と言って、ふらふらと去って行きました。

次の集まりのとき、その男の子が、ガラス部屋で綺麗な女の人に殴り殺されていました。とってもカッコ悪かったです。

 それにしても、どうして彼は願望を変えてしまったのでしょうか?

 

 

 今日も今日とて集まります。

 あれからまた何回か集まりがあったのですが、私は未だに死に方を決めかねていました。なかなか良いのが思い浮かびません。

 今日も頭を悩ませます。

 一人で悩んでいても、なかなか考えが進まないと思いました。そこで私は、誰か適当な人に話しかけることにしました。

 ちょうど初老の男の人が目に入りました。

 私は近づいて、

「ちょっとすみません、あなたはどうやって死にたいんですか?」

 と訊き、隣に座りました。

 その人は一瞬驚いたようでしたが、すぐに表情を緩めて、

「いや、どう死にたいとか、そういう願望はないのだよ。ただ死にたいだけなのだよ、わたしは。娘に先立たれてしまってね。妻もずいぶん前に逝ってしまったから、もうわたしには何もないのだよ。生きる意味も、目的もね。そのことを親戚に相談したら、だったら死ねば良いと言われてね。わたしはなるほどと思ったさ。でもね、わたしには自殺をする勇気がなかったのだよ。まったく情けないね。また悩んでいたら、その親戚が親切にも此処のことを教えてくれてね。それでわたしは此処にいるのだよ」

 と答えました。

 この人はバカなのでしょうか。本当に親切だと思っているのでしょうか。

 なんか複雑な事情がありそうですが、とりあえず、この人は参考にはならないとわかりました。

 困ってしまいました。

 ――アナウンスが流れました。

 呼ばれたのは女の人の名前でした。

 ちらりと彼を見ると、ほっとしたような顔をしていました。

 彼はどうやら、死ぬのが怖いようです。こんな人もいるのだなと思いました。

 ――ガラス部屋のドアが開きました。

 今回の女の人は、私と同じくらいの歳のようです。いったいどのような死に方をするのでしょうか。

 彼女は部屋に入ると、そこに置かれた板の上にごろりと仰向けに寝転がりました。そしてその後から、斧を持った男の人――いつもの人です――が入ってきました。

 斧が降りあげられます。隣の男の人が目を背けました。

 そしてまず、右腕が叩き切られました。

 続けて左腕、右脚、左脚。

 斧が振り下ろされる度に、女の人の身体がビクリと震えました。

 四肢を全て切った後、男の人が切断された右腕を掴み、女の人の目の前に掲げました。腕から滴る血が、彼女の顔にポタポタと落ちます。

 女の人の身体が、またビクリと、今度はさっきよりも大きく震えました。

 ちらりと見えた彼女の狂ったような、まるで淫らなことでもしているかのような恍惚とした笑顔がとても印象的でした。

 今日もおしまいです。帰ろうと立ち上がったら、

「君も死にたいのかね」

 と、隣の男の人が訊いてきました。

 はい、と私が答えると、彼はその、優しそうな顔を少しゆがめて、そうか、と言いました。どうしたのでしょうか。

 すこし気にはなりましたが、理由を訊けるような雰囲気ではなかったので、軽く挨拶をしてそこを離れることにしました。

 ――さようなら。

 

 

 今日も飽きずに集まります。

 いつもの地下室に入って、周りを見回してみました。

 この集まりは、だんだんと人数を増やしているようです。以前よりたくさんの人を視界に収めることができました。こんなにいたら、二日に一人のペースでは、私に回ってくるのはいつになるかわかりません。まだまだ死に方を考える余裕はありそうです。

 今日は、私と同い年くらいの女の子に話しかけてみることにしました。

 少し探すと、すぐにそれに該当する人が見つかりました。

 私はその女の子に近づき、いつものように死に方を訊ねました。

「アタシかー。いやー、アタシも決めかねてるんだよね。なんか普通じゃない死に方をしたいって思ってはいるんだけどさ。なかなかいいのが思いつかないんだよね。あなたはどうなの? 参考までに教えてよ」

 彼女はそう言うと、にっこりと笑いました。

 私もまだ決めてないと言うと、彼女はうーんと唸り、

「そっか。やっぱり難しいよね」

 と言いました。私も「そうだね」とそれに同意し、二人で唸っていました。そこへ、

「あら、どうしたの? そんなに唸って」

 と、若奥様っぽい人が話しかけてきました。

 私たちが、死に方で悩んでいると話すと、若奥様はうんうんと頷き、

「確かに難しいわね。だいだい一回しか死ぬことはできないから、いろんな方法をためすことはできないし。でもね、そんなに急いで考える必要はないと思うわよ。これだけたくさん人がいるのだから、めったに回ってこないでしょうし。それにね、もしも名前を呼ばれた時にまだ決まっていなかったら、パスもできるみたいよ。以前に、二回アナウンスが流れたことがあったから」

 と言いました。どうやら、私が此処に来る前の話のようです。

「あなたは決めたんですか?」

 と、女の子が訊きました。すると若奥様は、ふっと笑って言いました。

「わたしはね、踊ってみたいのよ」

 踊る? と私たちは首を傾げました。

 そこでアナウンスが流れました。話は打ち切られました。

 しかし呼ばれた名前は女の子でも若奥様でもなかったようで、女の子はうんと唸り、若奥様はふぅと溜息を吐きました。

 ガラス部屋に入ってきた人は、私たちと同年代の男の子です。というか、私の高校時代のクラスメートでした。そしてその後から、マシンガンを持った男の人が入ってきました。

 すると若奥様が、ちょっと驚いたような顔をして言いました。

「あの子、わたしと同じ願望みたいね」

 なるほど、『踊る』の意味がわかりました。マシンガンの弾の雨にさらされた男の子は、確かに踊っているように見えました。人が死ぬ瞬間なのに、その様子はひどく滑稽に見え、 私たちは、踊りたいと言った若奥様ですら、くすくすと笑っていました。

「わたしの時も、是非とも笑ってね」

 若奥様が笑いながらそう言いました。

 私たちは痛む腹筋を押さえながら、わかりましたと頷きました。

 そして私たちは、そこを後にしました。若奥様とはビルを出たところで別れ、女の子とは一緒に買い物をしながら帰りました。次の集まりには一緒に行こうと、約束もしました。

 今回は友達ができました。

 

 

 今日も集まりの日です。

 この前の女の子と駅前で落ち合い、いつもの場所へ向かいました。

 地下室の扉を開けた私たちは、その人の多さを再認識しました。私が初めて此処に来た時の、倍はいるのではないでしょうか。

「うわ……多すぎでしょこれ……」

 女の子が呟きました。私もそれに同意しました。今日はいつもより遅く来たため、その人数の多さがよくわかったようです。

 そして私たちは、ガラス部屋がよく見える位置まで移動しました。今日は誰が死ぬのでしょうか。

「こんだけいたらさ、いつまで経っても回ってこなさそうだよね……」

 彼女があごに手をあてて、そう言いました。

 たしかにそのとおりです。なにか対策をしないと、本当にいつまでも回ってこないかもしれません。いったいどうするのでしょうか。

 とりあえず、アナウンスを待つことにしました。

 しかし、いつもの時間になっても、アナウンスが流れません。

 流石になにかしら対策を考えているのかもしれません。一日に死ぬ人数が増えるのでしょうか?

 あれこれ推測しながら女の子と話していると、不意に地下室のスピーカーがバツンと鳴りました。そしてピンポンパンポーンというチャイムの後に、感情の感じられない無機質な声でアナウンスが流れました。

 

 ――みなさん、こんばんは。あまりにも人が増えすぎたので、一度リセットすることになりました。どうかご了承ください。

 

 リセット? 

 私と女の子は顔を見合わせて、首を傾げました。

 地下室のドアが開きました。人々が一斉に振り向きました。

 そこからは、マシンガンを持った男の人が、たくさん入って来ました。そして一列に並び、その銃口を私たちの集団に向けました。

 そこで私は理解しました。人数のリセットなのです。

 そして一斉に銃撃が始まりました。

 ドアの近くにいた人から順番に倒れてゆきます。まだ立っている人々は恐慌に駆られ、ドアとは反対方向――ガラス部屋の方へと走り始めました。私や女の子に、何人もの人がぶつかってゆきます。よろける私を、彼女が支えてくれました。

 なんということでしょうか。私たちは死ぬために此処へ来ているのです。それなのに皆、自分に死をもたらすその凶器から少しでも離れようとしています。

 いえ、それはおかしなことではないのかもしれません。私たちは確かに他殺に憧れていましたが、自分の望む方法での死を望んでいたのです。このような、突然与えられる、選択の余地のない死ではありません。これでは、事故と、どのような違いがあるのでしょうか。

「に……、逃げましょ、こんなのってないわよ!」

 女の子が、呆然としている私の手を取り、走り始めました。しかし突然右の太腿に衝撃を感じ、私は転んでしまいました。少し遅れて、灼熱感が脚を襲いました。

 スカートを捲り、脚を見てみました。そこには肉がささくれ立ち、赤黒い液体を垂れ流す物体がありました。

 その色は、今まで何度も見てきたものです。しかしそれは、わたしの心に恐怖をもたらしました。今までは何も感じなかったのに。

 慌てて私を助け起こす女の子の頭に二つ、穴があきました。

 私は再び床に倒れました。

 女の子は動きません。

 彼女は死んだのでしょうか。頭にあいた穴は見間違いだったのではないのでしょうか。

 あの若奥様は死んだのでしょうか。だとしたら満足なのでしょうか。これは彼女の願望とほぼ同じのはずです。

 あの初老の男の人はどうなったのでしょうか。彼は必死になって逃げているかもしれません。

 周りに倒れている人々は死んでいるのでしょうか。彼らの願望はいったい何だったのでしょうか。

 私は今から死ぬのでしょうか。

 わかりません。どうしてこうなってしまったのでしょうか。私はまだ願望を決めていません。自分の望む死に方がわからないままです。


 ――どうして此処で死にたいの?

 

 こんな死に方をするためではありませんでした。

 

 ――カッコよく死にたいんだよねー。

 

 これはカッコいい死に方になるのでしょうか。いいえ、そんなはずはないでしょう。

 マシンガンを乱射する人たちが、少しずつ前進してきました。

 脚を撃たれた私は立ち上がることができず、ズルズルと床を這って移動を始めました。

 地下室にドアは一つしかありません。そのドアはマシンガンを撃ち続ける彼らの後です。逃げても追い詰められるだけで、意味はありません。しかし私は少しでも彼らから離れたかったのです。

 少しでも遠くへ――。

 私の身体が跳ねました。何度も、何度も。

 

 ――君も死にたいのかね。

 

 まだ――。

 

 まだ、死にたくありません。


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