56.Ex2
再び探索を始め……
月日は進み……役3年の月日が経った。
僕と金子は無事に、探索をつづけていた。
いや、この先にいるボスを倒してしまえば僕達の探索は終了だ。
「金子。 先に進む覚悟はできてるか?」
「あぁ、行こう。
ピエロ野郎をぶん殴ってやろうぜ」
「とりあえず、この階のモンスターはドラゴン系ばかりだったし。
最後のボスはドラゴン系の何かなんだろうな……」
「炎と吹雪対策もできてるし、できる対策はすべてやったさ。
後は、ボスを倒して娘達に会いたい」
「そうだな。唯香達に会うためにも負けられないな。
行くぞ!!」
僕はボスの部屋の扉に手をかける。
ボス部屋の大扉は、大きな音を立てながらひとりでに開いていった。
僕達二人は大扉に誘われるかごとく、部屋の中へ入っていった。
部屋に入ると、75階にあったボス部屋と変わらないような造りの部屋で、ボス戦用のMAPだなという雰囲気をヒシヒシと感じていた。
僕と金子は部屋を見渡すがなにもいない。
仕方ないので、周りを警戒しながら先に進んでいった。
「ピーンポーンパーンポーン」
……と、ボス戦の緊張を台無しにするアナウンスが流れてきた。
そうだ……このダンジョンを作った元凶のピエロ男の声だ。
「君達二人で……よく、ここまで辿りつけたね〜。
他のクラスの子を含めても75階で全滅したんだけどね。
人狼君、やっぱりキミは面白いな」
アナウンスが聞こえている最中……何者かが僕達に近づいてくる。
そう、ピエロ男だ。
「それじゃ、コレが最後の戦いだ!!
お互いに全力でやりあおう」
と、ピエロ男が言った直後、指をパチンと鳴らすと。
ピエロ男は姿を変えていった。
どんな姿になるのかわからないので、僕達はピエロ男から離れた。
ピエロ男は、僕達の予想通り特大のドラゴンとなって、僕達に火炎の息を吹きつけてきた。
予想はしていたので、炎に関しては回避することができた。
ピエロ男と僕達の距離は離れすぎている。
相手が遠距離なら、こちらも遠距離で攻撃をしてやる。
と、弓を引きモンスターに対して放ったが矢は刺さることなくドラゴンの皮膚に叩き落とされた。
「「えっ!?」」
「ハハハハハ!! 君達が遠距離で攻撃してくるのはわかっているさ。
そんな距離で、チマチマ戦っていても決着はつかないよ。人狼君!!」
い、いくしかないのか!! 僕は金子に視線を流した。
金子も、前に出ることを決意したみたいで頷いてくれた。
「行くぞ!!」
「おう!!」
2年も共に戦ってきた相棒なんだ、二人の息はあっており。
ボスモンスターへのダメージを、積み重ねていく。
ボスモンスターとの戦闘は長期戦となっていたが、僕達がおしていた。
勝てると気づいて、更に踏み込み思いっきり爪装備でドラゴンの横腹を突き上げてやった。
それには、ドラゴンも距離を取って体勢を立て直そうと後ろへ下がった。
「さ、させるか!!」
更に追い討ちをかけるように、僕は前へと進んだ。
ドラゴンはトドメを刺されると、気づいたのか姿を変えた……。
友人の懐かしい姿だった。
「拓郎……助けてくれよ。
友達じゃないか」
僕の足が止まってしまった。
「さ、佐々木」
「って、ざーんねーん。
隙だらけだよ!!」
しま……った!!
ピエロ男は元のドラゴンの姿に戻り、大爪を僕めがけて振り下ろしてきた。
避けれない!!
僕の目の前に入り込む、影が一瞬見え僕はその影に突き飛ばされた。
「か、金子?」
金子が強引に僕をかばってくれたのだ。
ドラゴンが隠し持っていた大爪の一撃は、非常に強く鎧さえも切り裂き友人のHPを0にしてしまった。
ぼ、僕が躊躇したから……こんなことに……。
こんなことに…こんなことに……
僕の中で、プツン……とナニカが壊れる音がした。
無理だよ……防御重視の金子を一撃で仕留める。
あんな攻撃もってる相手に勝てるわけない。
僕は無意識に後方へ下がっていった。
「あれあれ? どうしたんだい?
攻めてこないのかい?
それなら、私から攻めさせてもらうよ」
ピエロ男は、距離を詰めて火炎の息を僕に吹きつけてきた。
戦意を喪失してしまった僕は、火炎の息の直撃を食らってしまった。
あ、熱い……。も、え、燃える。
髪が焦げる匂いが自分の死を更にイメージさせてしまい身体が硬直する。
「あはははは!! 残念でしたー!!
私の勝ちみたいだね」
そう言って、ピエロ男は大爪を再び振りかぶった。
……
…………
「拓郎!!
諦めんなよ!!」
佐々木の声に、ハッと気づいて僕は全力でピエロ男の攻撃を回避した。
「また、もう一人の人狼君の仕業かい。
本当に、迷惑な奴だねぇ」
僕は親友を助けに来たんだ!!
負けられない……。
何故? ピエロ男は今まであの攻撃を使わなかったんだ?
完全に僕達がおしていて、状況が悪くなっていた。
それを覆すための一芝居……と、防御型の金子を一撃で屠る最強の一撃。
否――最強ではなく、捨て身の一撃?
もしや、ピエロ男もピンチなのでは?
佐々木、金子……この一撃だけでいい、力を貸してくれ。
僕は、目を瞑り。 ピエロ男の攻撃を誘った。
集中しろ……集中しろ……
「あれあれ……目を瞑って。降参してくれるのかな?
それじゃ、遠慮なく!!」
……
…………
ピエロ男の大爪は既に振り下ろされている。
大爪による風切りの音が、耳に届いた。その瞬間、目を見開く――今だっ!!
大爪をによる攻撃を回避し、僕はボスモンスターのドラゴンに思いっきり攻撃を叩き込んだ。
カウンターが完全に決まり、爪はドラゴンの腹部に突き刺さり、ドラゴンの急所である心臓にまで一撃を届けた。
弱り切っていたドラゴンも、この一撃に耐えきれず横転した。
完全に爪が刺さって、身動きが取れない僕はまた地面に叩きつけられて、大ダメージを受けると察知した。
僕自身も、色々あってHPに余裕のある状態じゃない。
このボスモンスターは、ハーティの時以上のサイズだ叩きつけられると……ヤバい。
勝負に勝って、試合に負けるのか?
身体が浮き上がろうとして、諦めたその時……。
ドラゴンの姿がピエロ男に戻った。
「いやはや、参ったねー!!
まさか、あの状態でカウンター狙ってくるとはね」
僕は状況が掴めずキョトンとしている。
「ん? もしかして人狼君は?
地面に叩きつけられて死ぬかもしれないと思ってたのかい?」
「いや、それは……」
「流石にゲームマスターとして、そういうのは面白くないのでやらないさ」
「そうだな。公平公正なゲームマスターだったな」
「11年も前に言った台詞をよく覚えていたね。
それじゃ、このゲームをクリアした人狼君願いをいいたまへ。
なんでも、一つ叶えてやろうじゃないか……」
「なんでも、いいんだな?」
「あぁ」
「それじゃ、お前の被害にあって命を落とした人達をすべて生き返らせて元の世界に帰してくれ」
「おいおい、そりゃまた大層なお願いだねぇ。
まぁ、出来るけど」
と、言ってピエロ男は馬鹿笑いしていた。
「人狼君。一つ質問をしていいかい?」
「なんだ?」
「何故? 君は自分の為の願いを叶えようとしないんだい?」
「オマエのせいで、自分の願いなんかより大事なものがあるって気付かされたのかもな」
「ふふふふ、、、ホント、人狼君は面白いねぇ」
ピエロ男は、そう言って指をパチンと鳴らした。
「これで僕が原因で死んだ人達は、元の世界で生き返ったよ」
「そ、そうか……」
「ちなみに僕は帰れるのか?」
「フハハハハ!!
残念ながら……」
「……!!」
「帰してあげるよ」
「ふざけんな、ビビったじゃないか」
「君に呪いをかける相手もいないしね。
そりゃ、クリアをしたんだ約束は守るさ」
「公平、公正か……。
意外と良いゲームマスターなのかもな」
「それで、君を元の世界に返すのに条件がある」
「条件?」
僕はどんな無理難題を出されるのか身構えた。
「いやいや、そんな難しいことじゃないさ。
人狼君。コレを貰ってくれないか」
ピエロ男の手には指輪みたいなアイテムが乗っていた。
「指輪? コレがどうした?」
「コレは、私が全力で作ったダンジョンに行く為の鍵さ。
君は大層この世界を気に入ってくれたからね。
きっと気に入ってくれるさ」
「いやいや、戻ってこれないようなアイテム渡されても困るぞ」
「それは、安心してくれて構わない。
この指輪さえあれば、ダンジョンの行き来は可能だし。好きなメンバーを連れてダンジョン攻略もできるようになっている」
「へぇ……楽しそうだな。
でも、そんな余裕あるかどうか?」
「キミが死にそうなときにでも、起動してくれれば良いさ。
ダンジョンを攻略するのに最適な年齢に戻すようになってるからね」
「そりゃ、僕にピッタリな世界だこと」
「貰ってくれるかい?」
「あぁ、これを貰わずに戻った挙句。
今度は息子達にちょっかい出されても困るしな」
「それはもうないから安心してくれて良いよ。
私はこのダンジョンに挑戦できる人間を探すために、この計画を立てたからね。
この指輪さえ渡せれば、余計なことはしないさ」
ピエロ男は、そう言って僕に指輪を渡してきた。
それを僕は受け取った。
ピエロ男は指をパチンと鳴らした。
「それじゃ、キミも元の世界に戻ると良いよ。
あっ、キミは私を殴るんじゃなかったけ?
あぁ、残念。 そんな時間はないみたいだ。また会おう人狼君」
僕に向けて手を振る、ピエロ男に言われて思い出した。
僕はあいつを殴るつもりだったのだ、ソレを完全に忘れてしまっていた。
もう……間に合わない。
視界がグラッと揺れている。
も、元の世界に戻れる。
だけど、次は絶対殴るからな覚えとけよ……ピエロ野郎!!




