50.なにもみえない
人狼の僕が最終日に投票位置に上がった。
ここから、クラスメイト全員が僕の処刑について投票を取るのだ。
彼氏の仇なのだ……花田的には気分がいいのだろう。
花田がイキイキと投票を仕切っている。
「【人狼】を生かすべきだと思う人は挙手してください」
前回、六人いた投票者数が三人と減っていた。
唯香、金子、薮のみが僕を生かすべきと挙手してくれた。
「ホント、最悪な連中だな。
人狼に助けられてるくせに、恩も感じないクズ共だわ。
お前らクズは犬にも劣るよ」と、クラスメイトに言葉を言い捨てた。
僕の皮肉など我関せずと言った感じに、花田は次の投票に進めていった。
「人狼を処刑するべきと思う人は挙手してください」
1・2・3・4・5・6
投票したのは6人か、無投票が4人となった。
無投票の連中が、僕を生かすべきと投票すれば結果は変わっていたのだ。
無投票の人間も僕を救う意思がないのだ。
自分は人殺していないという意思を守りたいが故の無投票、結局は人狼である僕の処刑に納得したクズと同様だ。
こんな事を考えているが、僕は投票に負けたのだ。
「はぁーい!! 投票の結果、人狼君の処刑が決定でーす。
君達じゃ、相手ができないだろうから私が人狼君は連れていくね」
教室の灯りが消えた。
そして、モニターが映し出された。
いつものように、モニターの部分には【Live】の文字が映っていた。
ピエロ男がモニターに映り、言葉を発した。
「さぁ、寂しがり屋の人狼君。
処刑の時間だよ」と言って、ピエロ男は指をパチンと鳴らした。
まただ、視界がグラつくような感覚だ。
また僕はどこかに飛ばされたのか。
グラつくような感覚は取れて、目を見開いているが全く前が見えない。
暗闇だ……誰もいないし……何も聞こえない。
聞こえるのは僕の心臓の音と呼吸の音だけだ。
「何処だ、此処は?」
暗闇を使って僕に襲いかかる気なのか?
僕は、虚空に向かって警戒をしていた。
……
…………
しかし、何も起こらなかった。
……
…………
しばらくして、僕はこの場所は暗いのでは無い、何も無いという事に気付いた。
そして、虚無の時間をひたすら続けていった。
◆◇◆◇
「寂しがり屋の人狼君。
誰もいない、空間に一人だけ取り残されて寂しく死ぬんだね」
もう一つのモニターに映った、ピエロ男はそんな事を言い始めた。
「何も起こらないじゃない
早く【人狼】を殺しなさいよ!!」と、勝ちを確信した私はピエロ男に対して言った。
「なんで、そんな勿体無い事しなきゃいけないんだい?
人が壊れる様を見るのが楽しいんじゃナイカ。
あーでも、無音じゃ君達も何があってるかわからないよね。
あちらの音も聞かせてあげるよ」
……
…………
そこから先は、彼の仇の【人狼】がクラスメイトの名前を呼んで、挙動不審になる姿を見せていた。
憎い【人狼】が苦しんでいる。
けど、これじゃラチがあかない、【人狼】が生きている限り私達の勝利が確定しないのだ。
最初こそ、皆は面白がってみていたが進展のない映像に一人一人と飽きていき自室へと戻っていった。
この場所に最後まで残っていたのは、私と【人狼】を救おうとした3人だけだった。
「拓郎君!!」と、山下さんが我を忘れるかのように【人狼】の名前を泣きながら連呼している。
金子君と薮さんは手で目を覆うようにして、【人狼】が殺されていくさまを見ないようにしていた。
そして、一日が過ぎたが映像に進展はない……。
たまにうわ言のように、山下さんの名前を【人狼】が呼んでいる。
しまいには、ピエロ男や、死んだはずの佐々木君の名前を呼び始めて【人狼】が壊れてきたのが理解できた。
「うーん? 君達以外は部屋に帰ったみたいだね。
もう、【人狼】の彼は完全に壊れちゃったみたいだからね。
君達、市民班の勝利として認めてあげるよ。
1回目の願いと同様に部屋にあるポストに願いを書いて投函してくれ。
それで、君達の願いは叶うから。
君達が呪われてなければね……」
「呪いなんて、あるわけないじゃない!!」
今まで、教室でモニターを見ていた3人もピエロ男の発言で自室に戻って行った。
私は彼の仇を討って願いを叶えるため自室へ戻った。
◆◇◆◇
暗い……。
誰かいないのか?
おーい!!誰かいないのかーー!!
僕は先の見えない、暗闇を少しずつ先へ進んでいく。
何も見えないし、何も聞こえない……。
いや、僕の心臓の鼓動だけが激しくなっている。
怖い、寂しい……誰か助けて……
唯香、ピエロ男……誰でもいいから返事してくれ。
当然、返事は返ってこない。
……
…………
移動と呼びかけを続けたが、なんの反応もなく僕は仰向けに倒れた。
自害するにも、僕はハーティー相手に武器を投擲して武器を紛失している。
何もない場所で、ピエロ男は死ねないようにしているのだ。
もう、流石にあがけないかな。
僕は全てを諦めて、眠りにつこうとした。
もう疲れたし眠いよ。
もういいよな、僕はやれることはやったさ。
こんな絶望的な状況、アイツがいてもどうしようもないよな。
僕はこの状況を諦めた。
……
…………
視界が重くなり、闇の世界へと僕を引き込んでいった。




