48.不穏な空気
最深階のボス戦が終わった僕達パーティは、クラスメイトが待つ教室へ戻ってきた。
「た、だいま」と、いつものような元気はないが、皆に無事を伝えるために帰宅の挨拶をした。
な、なんだ? いつもなら、大喜びで帰還を祝ってくれるのに?
今日は、クラスメイトの視線を冷たいものに感じれた。
金子と唯香もそれに察したのか、僕を【医者】の部屋へと連れていってくれた。
「薮さん、人吉が大怪我しているんだ。
治療をしてくれ」
「扉は開いている。
入ってくれ」と、いつもの淡々とした声が聞こえてきた。
「「お邪魔します」」と、金子と唯香は部屋に入る際にいって部屋に入っていった。
「患者をそこに移動させてくれ」
金子は【医者】の指示通り、僕を指定された位置へと配置した」
「人吉君。やるじゃないか?
一人でボスを倒して、この大怪我か?
いつもキミは無茶をするが今回は大概だな」と言って、薮さんは呆れていた。
「はは……面目無い。
それでも死ななかっただけ良かったよ。
これで、唯香。いや、みんなを元の世界に戻せるからな」
「あぁ、その点には感謝しているよ。
こんな目にあってまで、私達を守ろうとしている人間がいるんだからな」
【医者】が治療を始めた。
「それで、切り落とされた腕は?」
僕は首を振った。
「なるほどな……。
それじゃ、回復術をかけて回復薬の投与の後、培養液に入ってもらわないとな」
「うげぇ……
また、アレに入るの?
治療終わるのに時間かかるじゃないか……アレ」
「流石に、すでに失ったものを作り出したりは【医者】にも出来んよ。
ゲームマスターが、部位欠損の際の治療方法を作ってくれてるだけありがたいことだろう?
それとも元の世界に帰る際に片腕ない状態で帰りたいか?」
「う……うぐっ。
薮さんの言う通りだよ。大人しく治療を受けさせてもらうよ」
僕は薮さんに一通りの治療を受けて、部位欠損の回復用の培養液の壺からに顔だけ出すような形で、培養液に突っ込まれた。
「さて、これで人吉君は大人しくしてると思うので残りの二人に話がある。
場所を変えて話さないか」と、薮さんは僕に聞かれないように別の場所に動こうとしていた。
「えっ? 薮さん僕を一人にするのか?
ここで、話してもいいじゃないか?」
「あぁ、すまんな。
キミは治療に専念してくれ。
あまりキミに聞かれたくない話なんだ」
「仕方ないなぁ……。
二人とも行ってらっしゃい。
僕は暇で仕方ないから、また来てくれよ!!」
そして、【医者】を含めた三人は僕の視界から消えていった。
あぁ……暇だし寝るかな。
◆◇◆◇
【医者】は私達二人を連れて、別室の診察室へと戻ってきた。
「それで二人に話したいことなんだが、市民班の一部がキナ臭い動きをしている。
二人にはソレを確認してもらいたい」
「キナ臭いって? 一体どんな事?」と私は藪さんに聞いた。
「人吉君と、花田さんがやりあった件は覚えているだろ。
それで君達がいない間に、彼女が人吉君を処刑位置にあげようと画策している」
「えっ!! 佐々木君と同じように、拓郎君を裏切るつもりなの?」
「私的に、そんな話ありえないさ。
【医者】として、彼らの苦労を目の当たりにしてきたからな。
だが、他の市民班は違うみたいだ」
「いやいや、探索班は市民班よりステータス面で圧倒してるんだぜ?
さらに人吉は、一人でボスを倒すくらい強いんだし?
僕達探索班が協力しても処刑位置に持っていくのは無理筋だろ」
「ソレガな、花田さんが皆の前でピエロ男を呼び出したんだよ。
人吉君と同じ方法でな」
「まぁ、だからと言って拓郎君は処刑位置に上がったら、市民班を皆殺しにするって宣言してるんだし。
無理でしょ?」
「それが、問題なんだよ。
あのピエロ男がな最終日までは処刑に協力しないが、最終日は協力すると市民班に宣言したんだ」
「いやいや、おかしいだろ!!
なんで、花田の言うことに他の連中も納得してんだよ」
「あっ……。
それが、拓郎君と花田さんの投票の時の無投票の結果なの?」
「ソレをオレ達に教えて、キミはどうしたいんだ?」
「人吉君が治療している間に、みんなの考えを改めさせてくれないか?
私の言葉では皆には通じなかった」
「わかった……。
行こう金子君」
「あぁ、そんなフザケタ事をさせてたまるかよ」
私達は薮さんの部屋を出て、市民班のみんなと話し合いを行うために教室へと戻った。
教室にいたのは、ピエロ男から御影さんの下着をプレゼントされた男とその友人だ。
「ねぇ、二人とも……最終日に拓郎君に投票するって話、本当なの?」
「えっ、なんでそのことを探索班の山下さんが知ってるの?
あー、薮から聞いたんだね。アイツは必死に反対してたからなぁ」
「そうじゃなくて、なんで拓郎君を裏切ろうとしているの?
貴方達の命の恩人でしょ?」
男二人は、お互いに顔を合わせて笑い始めた。
「ハハハハハ、冗談でしょ?
1回目の願い自体は、元の世界に帰れれば叶うんだぜ?
2回目の願いで、無事に帰りたいって願えば、裏切り者は死んでるんだ。
人狼さえ死ねば願いは叶うし」
「そんな、酷い。
拓郎君は、みんなを助けるために死ぬような目にあってるのに」
「そんな大げさな、ゲームみたいなもんなんだろ?
キミ達、二人がやれてるワケだし」
「お、お前!!」と、言って金子はその男を殴り飛ばした。
ドゴッと鈍い音を立てて、殴られた男は隣の机にぶつかった。
「何すんだよ!!」ともう片方の男がくってかかってきた。
「イテテテテ、ひでぇよ。
気に食わなかったら暴力なのかよ!!」
「クソッタレが頭打って死ねよ。
オマエみたいなクズは……」
「いててて、キミ達も必死みたいだし。
じゃあ、考えを変えてあげてもいいけど?」
「どう言うこと?」
「山下さん。今日の夜の間、僕の部屋に招待されるってのはどうだい?
当然、僕の友人も同伴するけどね」
「えっ、それって?」
「このクズが!! 」
「酷いなぁ、僕達は考えを変えてもいいって提案してるんだよ。
どうせ山下さんは、人吉とヨロシクやって、いい関係してるんでしょ。
俺らにもやらせてくれよ」
「無理よ。拓郎君とはまだ……」
「……って、事はまだなの?
ウェーイ!! 初物かよ!!」と言って、クズ二人がハイタッチしていた。
「オマエら二人を、この場でぶっ殺してやろうか!!」
「辞めて、金子君。
なんで? あなた達はそんなことを言うの?」
「だってなぁ?
花田がさ、【人狼】に投票すればやらせてくれる……って言ったし。
俺らは、元の世界にもどれりゃ、1回目の願いがあるから女に苦労しないしな」
……
…………
いや、こんな人達に抱かれるなんて考えたくもない。
けど、拓郎君を助けるために……。
そんな考えが過った時に金子君が言った。
「山下さん。キミは人吉と一緒にいてあげな。
こんなクズ達の相手すんのはオレ一人でいい。
キミは人吉としっかり添い遂げなよ」
「うん、ありがとう。
金子君、あとはお願いしていいかな」
「ココまで市民班が腐ってるんなら。
キミは相手するべきじゃない」
私は、金子君の言葉に甘えてそれから以降は薮さんの部屋で、拓郎君と一緒に過ごした。
……
…………
「唯香? ココに来るの遅かったけど何かあった?」
「う、ううん。なんでもないよ!!」
「それなら、いいけどさ」
私は拓郎君に本当の事を伝えることができなかった。




