47.仲間の形見
僕とハーティーの戦いはまだ続いている。
大ダメージを食いながらも、弓矢での一撃を加え一矢を報いた。
そこからは防戦一方で、矢を撃ちながら牽制して、なんとか追い詰められないように壁際から逃げている感じだ。
脱出する為の扉側には正反対の部屋の奥へと、僕は追いやられていた。
これで、完全に逃げる事はできないな。
今はまだ矢の数に余裕はあるが、矢の数が心もとなく感じはじめている。
や、ヤバい……この状況を、なんとかしないとまた追い詰められると悪い予感を感じていた。
無、無理かもしれない。
僕には、この状況を打破できる方法が思いつかない。
打開策もないまま戦闘は続けている。
案の定、悪い予感は当たった。
僕の生命線である……矢の予備をすべて撃ちきってしまった。
僕が予備の矢が持っていない事を悟った、ハーティーは僕に少しずつ距離を詰めてきている。
や……ヤバイ、ヤバイ、、ヤバい。
どうする? ど……ど、、どうしたらいいんだよ。
僕の悩みなど御構いなしに、ハーティーの大爪が僕に降り降ろされる。
しかし、なんとか回避はできた。
大きな風切り音が耳奥に残っている感じだ。
この一撃をまともに食らえば、即死は免れない。
なんとか、バックステップで距離を離すが、次の手がない。
ココで、死、死ぬのか……僕は?
仕方ないよな、僕は四人を逃がせたんだ。僕の仕事はココまでかな。
佐々木……。
お前の仇はとったから許してくれよな。
「拓郎。
諦めんなよ!!」 と、懐かしい声が頭の中で聞こえた気がした。
「佐々木? どこだ?」
声は聞こえた気がしたが、気のせい? いや、僕が不甲斐ないからアイツが心配して出てきたんだ。
可能性が……あ、あった!! 佐々木が残してくれた希望がひとつだけ。
近寄ろうとしてきた、ハーティーに対して僕は持っていた武器を投擲した。
それを、ハーティーは距離をとるようにして軽々しく避けた。
装備を手に取るチャンスだ!!
僕は、利き腕を【アイテムボックス】へ入れて、仲間の形見を手に取った。
【人狼の爪】を装備した。
武器を投げて少しだけ時間は作れたが、ハーティーの大爪は無情にも僕に振り下ろされていた。
反撃はできない、完全回避も無理だ。
ならば、犠牲にするなら……。
僕は盾を持つ片腕を犠牲にして、武器を持つ利き腕は死守した。
ハーティーの大爪が振り下ろされた結果、僕の腕が盾ごと地面に切り落とされている。
状態異常:大量出血 (治癒しなければ、2分で死亡)
状態異常:部位欠損(左腕の欠損)
片腕を切り落とされた結果、部位欠損と大量出血のステータス異常を引き起こした。
片腕を失った僕に治療する余裕はない……。
もう、後には引けない。
僕は利き腕を、ハーティーに向けて振り上げた。
ハーティーの顔面に、大きな傷が入った。
何故? 簡単に当たった?
【人狼の爪】による、ステータス上昇? それとも威力上昇?
わからないが、これなら勝負できる!!
僕に残されたタイムリミットはあと2分、一撃に勝負をかけよう。
僕の一撃に脅威を感じたハーティーは再び距離をとって僕を警戒している。
このまま距離を取られると、それだけで状態異常を起こしている僕の負けだ。
僕は覚悟を決めて、ハーティーに向かって特攻をかけた。
ステータス上昇が効いているおかげか、移動速度も上がりハーティーに対して一瞬で詰め寄れた。
ハーティーはそれに驚いたのか、僕を振り払おうと横薙ぎで大爪を払ってきた。
僕は横薙ぎに合わせて、利き腕を振り上げた。
ガキィィーーンと、金属同士がぶつかり合うような音が響いた。
お互いの爪と爪がぶつかり合い膠着した。
「お前は、一匹の狼だろうが。
俺には狼が二人分いるんだよ!! 負けるわけがねぇ!!」と、言ったあと膠着していた爪撃の撃ち合いを僕が制した。
残り1分……
大爪を振り払われて体制を崩したハーティーに向け、思いっきり僕の爪撃を叩き込んだ。
ハーティーは大量の血を吹き出しながら、もがいている。
「逃すか!! 」と言って、更に踏み込んだ。
僕の爪が刺さったまま、ボスモンスターのハーティーは横に倒れた。
僕は倒れるハーティーの巻き添いを受けて、ハーティーの横腹に爪が刺さったまま宙に浮いた。
ズ、ズドーン……と、爆音を立てハーティーは倒れた。
ドンっと、僕はハーティが倒れるのに合わせて宙に浮いた僕は地面に叩きつけられた。
ボスモンスター:ハーティーを討伐しました。
ハーティの血で僕の目の前が赤く染まっていく。
そして、僕の視界は赤から黒へと……染まっていった。
残り30秒……
「皆さんに報告がございます。
まさかのまさか、人狼君がボスモンスターを一人で倒しちゃったよ。
けど、彼の命もあとわずか……助かるかな?」と、ピエロ男のアナウンスが入った。
……
…………
「人吉!!」
「拓郎君!!」と、誰かが僕を呼んでいる。
「ひどい怪我、今回復させるから……」
誰かが僕を回復させてくれてるのかな?
あたたかい……
「拓郎君、起きてよ!!」
起きたいけど、起きれないんだ。
再び、誰かが僕を回復させようとしていた。
気持ちでは起きたいが、体が動かない。
「起きてよ……ぅ」と、誰かの声が聞こえ僕の顔に何かの液体が落ちてきた。
「人吉!! オマエは、山下さんを泣かせたままでいいのか?
目を覚ませよ!!」
山下……さん? あぁ、唯香か?
もしかして、僕の為にキミは泣いてくれてるのか?
「ダメだよ、唯香。
僕は君の笑った顔が好きなんだから」
ダメだ、視界が広がらない、いや赤い。
「た、拓郎君?」
唯香は、僕に抱きついた。
「ご、ごめん。僕の顔を拭いてくれないかな。
何も見えないや……」
「うん、ちょっとまってて……」と、言って唯香は僕の顔を濡れた布で拭きあげてくれた。
「拓郎君、目を洗うから、顔に水かけるよ」と唯香が言って、僕は顔に水をかけられた。
水をかけられたあと、しっかりと布で水分を拭き取られた。
視界が広がる、僕は唯香に抱かれるようにして、彼女を見上げていた。
「ただいま。
なんとか、死なずにすんだよ」
「おかえり……」と言って、彼女が抱きついてきた。
「いてて、唯香ごめん。
傷が深いんで痛むわ、そういうのは後にしてくれると嬉しい」
「ごめんなさい」と言って、唯香は僕を膝枕の状態にしてくれた。
「お二人さんがお暑いのは仕方ないが、ひとつ質問していいか?」と、金子が僕に聞いてきた。
「ん? 何だ?」
「人吉、お前が装備してる武器は何だ?」
「あぁ、佐々木の形見みたいなもんだよ。
僕はコイツに助けられた。コイツが僕が諦めかけた時に呼びかけてくれたんだよ」
「へぇ、そうか……。
仲よかったもんなオマエら」
僕は目の前に、人狼の爪を動かした。
「ありがとう……佐々木。
お前に助けられた」
僕がそういうと、【人狼の爪】は、サラサラの砂塵のようになり消えていった。
いや、僕の利き腕に溶けていくように僕には見えた。
「「え!?」」と、二人とも僕の腕にあった武器が消えて驚いている。
「なんで、武器が無くなったんだ?」と、金子が聞いてきた。
「この武器は、一度の戦闘にしか使えない武器だったんだ。
だから、最後の最後に親友の形見が僕を救ってくれたんだ」
「そ、そうか。
佐々木も人吉をを救えたことを喜んでるさ。
ココで話し合うより、早く人吉を医者に見せようぜ。
みてるコッチが痛々しくてキツイ」
「あっ、そうだね」と、唯香も賛同した。
「人吉。
今は山下さんの膝の上で至福の時間かもしれないが、諦めて俺の背中に背負われろな」
「いや、ありがとう。
助かるよ」
金子に背負われた僕は、パーティリーダーとして、【帰還】を行なった。
「みんなで、元の世界に帰ろう」
「あぁ……(うん……)」
僕は、金子の背に乗った状態で、教室へと帰って来ることができた。




