43.
自室に戻り僕はベッドに座り込んだ。
フゥ……。
人狼である事をカミングアウトをしたが、なんとか生き残ることができた。
流石に、コレは生きた心地がしないな。
むしろ、僕を活かすことに賛成した人間が6名しかいなかった事に軽く恐怖を感じていた。
活かす事に賛成していたのは、探索班だと唯香と金子、医者の藪、他市民班の役職無しの3名だった。
投票していない無投票組が、敵に回れば僕は死ぬのか?
ブンブンと、首を振って悪いことは考えないようにした。
コンコンとノックの音が、外の扉から聞こえてきた。
来客みたいだ。
山下さんと金子さんが、扉をノックしています開けますか?
▶はい
いいえ
……と、表示か出たので、【はい】を選んだ。
「どうぞ、開いてるんで入ってきて」
「お邪魔します。拓郎君」
「失礼しまーす!! って、広っ!!
ちょっ!! 個室の風呂とトイレ別であってベッドもでけぇ!!
物置まであるじゃないか!!」と、金子が大げさに驚いている。
ん? どういうことだ?
「金子? どうした?
探索班の部屋はこんなもんじゃないのか?」
「いやいや、おかしいおかしい。
それに人吉は市民班に全額渡してたじゃないか!!」
「装備を下取りに出した分は貰ってしな。
細々とした分は、こっちで取ってたりとかはしてたしな。
チリツモって奴かな」と、僕がそうやって誤魔化していると唯香が笑っていた。
「だよねー!!
イッパイ、へそくり溜めてたもんね」
「ちょっ!!」と、唯香の思いがけないネタバラシに声が出てしまった。
「ヘソクリ? まだ、金を溜めれる要素があったのか?」
「もう、誤魔化せないじゃん。
唯香、ワザとだろ!!」
「いいじゃない。
探索班で、拓郎君が殺さないって決めた相手なんだし。
さっきの投票でも、拓郎君を救う方に挙手してくれたんだし」
「唯香にはかなわないな。
探索に出て気づいたことない?
敵を倒すとアイテムのドロップもあるけど所持金も増えてるでしょ」
「あぁ、増えてるな」
「アイテムのドロップに関しては、ドロップ分を探索後に均等に別けてるよな。
今は三人パーティだから、バトル設定の兼ね合いで、所持金は三倍になってるけど三人パーティで三分割になってるよな?
それじゃ、僕一人だった時は?」
「一人で、三倍の稼ぎを叩き出してた?」
「そして、1/3だけ僕のヘソクリとして貯めたり、部屋の拡張に使ってた。
正直、探索の効率も小西達より上の自信あるし稼ぐ事自体はそんなに難しい事じゃない」
「なるほどな……」
「医者の藪なんかは、探索班の治療で結構稼いでるハズだぞ。
市民班の知らないところで、手や足の指が一本無くなってたりとか結構してたし。
片足がぶっ飛んだ時は、佐々木にごまかして貰いながら、医者に連れて行ってもらったしな。
そういう事やりながら、僕達は攻略を進めてるが市民班ってそういう部分を見てないよな。
市民班が私刑にかけてたのをよく思ってないのは、そのせいだよ……。
しかも、今回の投票結果には軽く呆れたよ。無投票がほとんどじゃないか」
「いや、それは人吉がヘイトを買いすぎたのが原因じゃ?」
「違うわ!!
まだ市民班の連中は自分で物事を考えようとしてないってだけだろ。
僕が何故?【人狼】として、カミングアウトしたかわかるか?」
「イキりたい年頃だったとか?」
「金子。ふざけてるのなら、部屋から出て行ってもらって構わんよ」
「あぁ、すまんすまん。
それで、理由は?」
僕は何も言わずに唯香の方を指差した。
「山下さんが、どーしたんだよ?」
「僕が唯香の事が好きなのは、クラスメイトの中には知ってる奴がいるのはわかってるし。
それは事実だし、この部屋に唯香がいる事で、ある程度は察してくれるとは思う」
「あぁ、それはこの前聞いたしな」
「僕は彼女を無事に元の世界に返してあげたい。
だけど、最終日に彼女が処刑位置に上がる可能性がかなり高いと考えてる」
「なんでだよ。
彼女は市民班で【占い師】だろ。あっ……」
「占い師は二人いただろ。なんで、片方死んで片方が残っている?
そして、何故? 今まで【人狼】を探せていない?」
「イヤイヤ。それだけで処刑位置にはならないだろ」
「御影の件で男子の中には軽く性欲猿と化してる連中も何人かいるだろう。
最後の最後に好きにヤレるとなれば、本来、投票しないハズの場面で猿どもが女性に票を入れかねない。
もし、唯香がそういう場面になるのなら、僕はその場で全員を皆殺しにする」
「おいおい、何故? そうなる事前提なんだよ」
「金子は、御影の処刑の時はモニターをガン見だったもんな。
お前も性欲猿の一匹だもんな」
「いやいや、御影は見る分には最高じゃないか。
お前も見てたんだろ」
「唯香が怖がっていて、それどころじゃないよ。
アレを楽しむ男子連中を見て危機感を覚えたさ。
それに、ピエロ男はそう言う事をやりたがってたしな。
野瀬を襲撃した段階で……」
「男なら、アレは仕方ないんだ」
「まぁ、それもわかるが……」と、返答したら唯香に思いっきりツネられた。
「いてぇ!!」と、思わず声が出た。
一呼吸置いて、唯香が話し始めた。
「金子君は、今日の件は拓郎君が人狼としてカミングアウトして、私を助けただけと思ってるけど。
市民班の女性を助けるためにカミングアウトしてくれたんだよ」
「何、お前。スッゴい良い奴じゃん」
「あのまま花田さんが処刑位置に上がったら。
男子は好きにしたんでしょうね」と、唯香は金子に言った。
「いや、オレはそんなことは……」
「無理じゃね? いつ死ぬかわからんのだし。
ヤレる時やりたいってのは、男としての本能だろ?
御影程じゃねーけど、花田さんも見てくれはいいしな」
……と、僕が言うと唯香に睨まれた。
「いえ、違うんです。
僕には唯香さんがいればいいんです。
他の女に興味はありません」
「意外と山下さんって、お前には主張してくるんだな」
「そんな、唯香も好き……」
「はいはい、ごちそうさん」と、金子が呆れていた。
おっと、雑談が過ぎたな。
「それで、二人で来て本題はなんだよ?」
「えっとね……。
金子君が拓郎君が襲撃しないか確認しておきたいって」
「……と、言うことは金子は今日ずっとここに居るわけ?」
「まぁ、そうなるな……」
えー、勘弁してくれよ!!
唯香と二人でいれる時間なのに……グスン。
人狼のカミングアウトしたんだし、それも仕方ないか。
「それで唯香は、どーする?
小西の襲撃あったけど、自室で寝れるか?」
「うーん、パジャマ持ってこっちくるね。
後、お風呂貸してね」と、唯香は完全にこちらに転がりこむつもりだ。
「ちょっ!! お前ら一体どう言う関係なんだよ!!」
「僕が告白して、唯香が頬にキスしてくれた……以上!!」
「もう、完全にできてんじゃん。
えっと、それじゃ何? オレって凄いお邪魔虫?」
「「うん」」と、僕と唯香から即答が入った。
「がーん……がーん……がーん」と、金子はショックを受けていた。
「まぁ、それは一部、本気だが別に構わないよ。
僕は元の世界に戻れたら、唯香に告白の結果を答えてもらうって言ってたからさ。
唯香を抱くのは元の世界に戻ってからかな」
「えー、そうなの?」と、唯香が軽く残念そうに言った。
「それじゃ、一度部屋に戻ってまた来るね」と言って、唯香は僕の部屋の通常の扉から出て行った。
……
…………
「それで、金子。
僕が襲撃するかを確認しにきたってのは建前だろ?」
「あぁ、一つ確認したいことがある。
小西を直接殺したのはオマエだな」
「スズメなんじゃないのか?」
「いや、あの弓の形状というか盾付きの弓とか、オマエ位しか装備してないだろ」
「あぁ、僕だよ。
ピエロ男の演劇に巻き込まれたんだよ」と、言って僕はピエロ男から渡された演技の指示の書いてあった紙を渡した。
「なんだこれ?」
「今日の演技の内容」
「あの、人狼が超鬼畜に仕上げられていた字幕とえらく違うじゃないか」
「あぁ、あの字幕は当の本人が後で確認して泣けたよ」
部屋の奥の物置の扉から、パジャマを持った唯香が出てきた。
「ただいま。拓郎君」
「おかえり」
「えっ!? どう言うことだ」
「御影が殺された時に、唯香が怖がったんでピエロ男に頼んで僕の部屋で寝れるようにしてもらったんだよ。
それで、僕のヘソクリ全部持っていかれたけどな」
「何故? 人吉はゲームマスターを、そんなポンポン呼び出せるんだよ」
「呼び出すどころか、人狼の襲撃会議の度にモニター越しに乱入してくるぞ。
アレを一人で相手する気持ちになってくれよ」
「あぁ、なんとなく心労察するよ」と、金子が言った。
しばらく、話を続けている最中。
「拓郎君。 お風呂借りていいかな?」
「あぁ、いいよ」と、僕が了承したら彼女はお風呂へと向かった。
金子はソワソワし出している。
「なぁ……? 覗いたりとかしないのか?」
「しないし、させない」
「お前の考えは男としてつまらん!!」と、金子が言い放った。
「そうそう、つまんないんだよね!!」と、モニターが勝手についてピエロ男が金子の意見に同調していた。
「げぇっ!!」と言って、金子が驚いていた。
「げぇっ!! ……って失礼だなぁ。
せっかく、彼女のお風呂シーンをモニター越しに提供しようと思ってたのに」
「おい、モニター切るぞ!!」と、僕は即答した。
「ちょっ!! 待ってくれよ。
ちょっとした、ジョークだよジョーク。それで、今日は襲撃しないのかい?
人間の仲間になりたくて、カミングアウトしちゃった人狼君」
「しないし、させない。
次にお前の顔を見るのは最終階に到達した後だ!!」と、ピエロ男にたいして指をさして僕は宣言した。
「ほんと、つまんないねーー!!
じゃあいいや。バイバーイ!!」と言って、ピエロ男はモニター外に消えていった。
「けど、さっきの言い草からすると山下さんのお風呂シーンを覗けたのか?
いや、今、女子が入っている大浴場も……」と、金子の頭がピンク色になっていた。
「え? お風呂がどうかしたの?」とお風呂から上がってパジャマ姿の唯香が僕達の元にやってきた。
「いや、金子が……」と、僕が金子の悪事を伝えようとすると僕の口を塞がれた。
「な、なんでもない!! なんでもないよーー!!」と、金子は必死に言っていた。
ガブっと!! 金子の指を噛み付いた。
「いてぇーー!!
何すんだよ人吉」
「人狼の前に手を出すんじゃねーよ。
噛まれるよ、ガブっとな!!」と、僕は冗談を言った。
そんな発言に唯香は笑ってくれた。
「もう、どうせ金子君がお風呂を覗こうって言い始めたんでしょう。
ダメだよーー!! 私は拓郎君が先約でいるんだから」
「くぅーー。ただ、だだ、悔しい」
それから後は、三人で明日の探索について話し合い。
僕と唯香は同じベッドで、金子には簡易ベッドを与え、三人は同じ部屋で眠りについた。




