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42.カミングアウト

【勇者】が死んだ直後に昼の会議が始まった。

 いや、強制で昼の会議を始めさせた。


「さて、【勇者】と【魔法使い】が死んだんだ。

【見習い】がいるだろう? 正直に挙手してくれ」と、僕はクラスメイトに提案した。


 市民班から二名が手を挙げた。


「ふむ、キミ達が()()()【勇者】と【魔法使い】か?」


「確かに、僕達だが探索なんて絶対にいかないぞ!!」


 新しい【勇者】と【魔法使い】は、探索に出た事ないので無理だと探索に出ることを全力で否定していた。

 結果、探索に参加する事に乗り気でないようである。


「オイオイ!!

 探索に出なくなった【勇者】と【魔法使い】の扱いは、元市民班の君達が一番よく見てただろ。

 大人しく僕達のパーティに参加しろって、無理はさせないからさ」と言って、僕は二人を有無を言わさずパーティに加入させた。


「とりあえず、みんなにも言っておく。

 この二人は探索のズブの素人だけど、役に立てる方法がある。 

 その方法は、僕達が使用してこなかった仕様を変更する。

 探索での戦闘モードを今までの【リアルモード】から【ゲームモード】へ切り替えるつもりだ。

 これで、この二人がレベルで劣っていて技術がなくても戦力として使えるという判断だ。

 それに二人用の装備は既に準備しているから、次の探索で最深階を攻略するぞ!!」


 ダンジョンの攻略できると聞いてクラスメイトから歓声が沸いていた。


「それと、僕から一つ皆に伝えておくことがある!!」


 ……

 …………


 僕は、人狼をカミングアウトする前に一呼吸貯めた。


 フゥ……。


 佐々木もこんな気持ちだったのかな。

 僕の重要性を考えれば、吊られるハズは無い……だけど。


 理屈じゃないが死の恐怖がつきまとってきて怖い物は怖い。

 だが、ココで僕がカミングアウトして出ておかないと、最終日に人狼を探す際に唯香が吊り位置に上がる可能性がかなり高いし、それだけは絶対に避けたい。

 彼女が男どもに襲われる姿なんかを見たら、僕は半狂乱になってしまいかねない。


 自分でも理解していた。僕は人間としてナニカが壊れかけている。

 僕の気が狂った際に、クラスメイトだろうが皆殺しにする恐れがあるのだ。

 だからこそ、それを回避する為にもカミングアウトする必要がある。


「クラスのみんな聞いてくれ。

 僕が【人狼】だ!!」


 辺りが騒然としている。


「この人殺し!!」と、小西の彼女である花田さんから凄い勢いで罵声を浴びせられた。


「いや、待てよ!! 人吉は【白】だったろ!!

 それに、【占い師】の山下さんがステータスの確認を一度やったじゃないか!!」と、金子が僕の事をフォローしようとした。


「【白】の件については、ピエロ男が言っていただろう。

【占い師】の占いを避ける特別な狼だったんだよ。【守り手】二人を同時に襲撃するまではな」


 僕は金子のフォローを拒否した。

 うーん? 唯香のステータスを騙った件を皆に教えるよりは僕にヘイトを向けた方がいいだろう。


「占い師の山下さん、僕の今の役職を皆に発表しなよ」


 彼女は大丈夫なの?……と、心配そうにこちらを見ていた。

 僕は無言で首を縦に振って、それを彼女への合図にした。


「人吉君は、【黒】と出ています。【人狼】です」と、唯香は僕が人狼であることを皆に告白した。


「バカな人狼が自ら出てきたわよ!! この人殺しを皆で処刑しましょうよ!!」


 案の定、彼氏の仇の僕を殺すために、花田さんが僕を処刑位置にあげてきた。


「まず、最初に皆に言っておくことがある。

 僕は佐々木の仇を討つのが目的で、1回目の願いに君達を巻き込んだ。

 だが、僕の敵討ちはもう終わった」


「いや、オレが残っているじゃないか!! 人吉」と、金子が言ってきた。


「罪滅ぼしとか言われて、探索班に参加したりされると僕の気持ちも変わるさ。

 人狼として、これ以上の襲撃も処刑も行うつもりはない。

 あとさ、花田さん? 現状を理解して話してる?」と、僕は花田さんを煽るようにして言った。


「まぁ、わかってないから言うけど。

 僕を処刑位置にあげるには、二つ無理があるよ?

 まず一つ目は、根本的なヤツね。

 ある意味、花田さんはクラスメイトに対して利敵行為を行っているに近いね」


「だから、何が!!」と、花田さんが食ってかかってきた。


「まずさ、探索班のリーダーは僕だよ?

【見習い】だった【勇者】達を連れて、僕抜きでクリアできるとでも思ってんの?

 どこかの()()みたいに引きこもるのがオチでしょ」


「それはどうかしら!!

 ゆっくり攻略進めれば……アンタなんかいなくても、どうにでもなるわよ!!」


「ふーん。 ……と、言うことは花田さん、君の都合で他のクラスメイト達をこのダンジョンに閉じ込めておくんだ。

 やっぱり、みんなからすると利敵行為じゃないか。

 下手に探索失敗したら市民班も全滅するって、わかって言ってるの?」


「そんな訳ないじゃない!!

 できるよね? 金子君、山下さん?」


「一番慣れてる、拓郎君が私をかばうために腕を斬り落とされたんだよ?

 勝手な事を言わないで!!」と、唯香は意見を突っ返した。


「うーん!! 無理だろうね。

 このクラスの中に腕を斬り落とされて痛みもあるのにジョークを言いながら。

 笑って済ませれるヤツ、このクラスにいないだろ?

 人吉はそう言う修羅場を潜ってる人間だけど? なぁ、いるか?

 オレはゴメンだね……。正直、アレにはドン引きしたしな。

 逆に言えばそれくらいやれる奴がいなけりゃ、無理なんじゃねーの?」と、金子が言い返していた。


「え? そんな目にあいたくないんだけど?」と、【勇者】になったばかりの元市民が恐怖していた。


「あぁ、大丈夫。

 それについては僕が対策もするから、君達に苦労はかけさせないよ」


 僕がそう言うと、【勇者】と【魔法使い】はホッとしている素振りをしていた。


「これでも僕抜きで、クリアできるって言えるの? 花田さん」


「アンタに出来るんなら、時間さえかければどうにでもなるわよ!!」


「話になんないね。

 このままだと、僕と花田さん、君とで昼の会議の処刑位置が決まりそうだね」


「なんで、そうなるのよ!!

 私は市民で、アナタは人でなしの人狼でしょ」


「だから、花田さんの発言が探索班にとっても、市民班にとっても利敵だと言ってるよ。

 とりあえず、君達全員に一ついいことを教えておいてあげる。

 もし君達が処刑位置に上がったからと言って、普通に死ねると思うなよ。

 今まで処刑をしてこなかったんだ、ピエロ男は確実に処刑位置に対して、何かしらの演目を突きつけてくると思うよ」


「それは脅し?」


「ふーん……そうだね。

 僕が野瀬さんを襲撃する時にピエロ男は、女性の尊厳を奪うような提案をしてきたぞ。

 それに、御影さんの時もそうだ。

 アレは僕も予想付かなかったけど……

 結局、そう言う方向でピエロ男は女性陣を殺したいみたいだぞ」


「そんな脅しに屈さないから!!」


「じゃあ聞いてやろうか?

 おーい!! いい趣味しているゲームマスター。

 二点程、聞きたいことがある。

 相談に乗ってくれないか?」と、僕はピエロ男を呼び出した。


 モニターの画面がつき、そこにピエロ男が現れた。


「なんだい?

 寂しがりやの人狼君。公平・公正なゲームマスターの僕になにかようかい?」


「まず、一点目だ。

 今日の処刑位置は僕と彼女だ。

 僕が処刑位置になった際、ゲームマスターは前回の発言を覆して僕を強制で処刑に持っていくのか?

 それと、彼女が処刑位置になった場合はどうなる?」


「うーん? そうだね。

 僕は最終日までは処刑位置の準備に関しては手伝わないよ。

 だって、そっちの方が死人が出そうじゃないか!!

 さっきの言い方からすると、処刑位置に上がれば人狼君は市民班を皆殺しにするくらいのつもりでいるんだろう?

 それと、彼女ね……」


 ピエロ男は、品定めをするように花田を見回した。


「良いね彼女も!!

 海賊にやられちゃった彼女は抜群にスタイル良かったけど。

 彼女もソコソコスタイル良いし器量もいい。

 ただ、頭のネジは緩そうだけどヤル分には問題ないし、男性諸君は逆に大喜びでしょ」


「え? どう言う意味?」と、花田はピエロ男に聞き返した。


「君が処刑位置に上がったら、クラスメイトの男子全員の慰みものにしてあげるよ。

 当然、すぐ死ねるように準備もバッチリしてあげるね」


 ピエロ男がそう言うと、花田さんの顔色が一気に悪くなった。


「まだ、彼女は処刑位置確定じゃないから、それ以上虐めんな。

 二つ目の質問だ!!

 今回僕が処刑されて、探索が停滞した場合攻略ペースが一気に落ちる。

 その際にゲームマスターとして、何かしらのペナルティをかけてくるんじゃないのか?」


「そ、そうだねぇ。停滞は良くないねーー!!

 探索班に死ぬ気で頑張ってもらうために、その場合は一人ずつ市民班にランダムで死んでもらおうかな?」


「そ、そうか。

 想像通りの悪趣味してるな、ピエロ野郎」


「いやぁ、褒めても何もでないよ?

 質問は他にないのかい? ないのなら私はこれで失礼するよ」


「あぁ、 質問に答えてくれてありがとう」


 質問がない事を理解したピエロ男は手を振って、モニター外に消えていった。


「さぁ、話を続けようか。

 この状態で処刑位置に上がるのは僕か花田さん、どっちだ?」


 状況を理解した花田さんは泣き始めた。

 まぁ、これ以上イジメてもかわいそうだし、この辺にしておくか。


「僕としては、僕と彼女で会議の槍玉に上がると花田さんが処刑になるだろう。

 だが、僕は彼女を処刑させる気は無い。

 今回、昼の会議の議題は僕を活かすか、殺すかにしようか?

 ココで殺すをみんなが選んだとしたら僕は大人しく処刑台に立ってやるよ」


 クラスメイト達がざわついている。

 人狼を活かすか、全滅を選ぶか? と、【Dead or Alive】を人狼の僕に問われているのだ。


 ……

 …………


「さぁ、みんな考えは決まったか?

 僕を処刑したい人間は挙手」


 一人だけ、手を挙げている人間がいた。

 案の定、花田さんだ。


「アンタだけは許さないから!!」


「ふーん。 好きなだけ恨み言を言ってくれ。

 それじゃ、僕を活かす判断した人は挙手」


 1・2・3・4・5・6……


 探索班を含めて6人か……思ったより少なかったな。

 残りは無投票ってやつか。


「それじゃ、6票と1票で僕は活かされることになった。

 これで昼の会議は終了だ!! 僕はこれで失礼するよ」


 僕はそう言って、自室へと戻っていった。

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