40.グッジョブ
探索が終わり僕は眠りにつく前に考えていた。
そ、そう言えば……。
山下さん……いや、唯香が僕と恋仲になって良いって言ってくれたんだよな。
所謂、恋のABCをやっちゃって良いと本人の意思も聞けちゃった訳だし。
もしかして、今から彼女が僕の部屋に来たりして?
いやいや、僕も彼女もこの前は殆ど眠れなかったから、今日は彼女も自室に居るだろうな。
いや、いっそのこと僕が彼女の部屋に……?
いかんいかん……頭の中が色恋で埋まってたら、ナニカが起きた時に対処できないよな。
そんなことばかりを考え、眠りにつく前に思考を堂々巡りさせてしまっていた。
既にシャワーは浴びていたが、寝付けなかった。
「ハァ……
風呂入って寝るか」と、誰もいない部屋で僕は独り言を呟いた。
自室のお風呂に湯を張って、お湯が浴槽に入るのを待った。
湯船にお湯を張り、風呂に入った後、僕は邪念を少しだけ忘れることができたので眠りについた。
……
…………
そして、翌日の昼の会議の時間が近づいてきた。
ピエロ男のアナウンスに起こされることなく、僕は目を覚ました。
僕の体に、何か柔らかいものが当たっている。
何事だと思い僕は視線を動かすと、僕のベッドには唯香が潜り込んでいた。
え? どういう事? 昨日は来ないのじゃなかったか?
「山下さん、起きて」と、僕は動揺して苗字呼びで唯香を起こした。
「んにゅ……。後5分……」と、唯香が寝ぼけている。
寝ぼけた姿も可愛いなと思いながら見ていたが、しぶとく起きる気配を見せないので彼女の頬をツンツンしてみた。
「山下さん、起きて……
そろそろ昼の会議が始まるよ」
「ん? 拓郎君。
おはよう」と、軽く寝ぼけてはいるが唯香は目が覚めたみたいだ。
「ねぇ? 山下さん」
唯香は寝ぼけ眼から一転して、目を見開いてコチラを見てきた。
「拓郎君。
私の事は名前で呼んでね」
「あっ、そうだったね。
唯香、おはよう」
「おはよう。 拓郎君」
「違う違う、なんで僕のベッドで寝てるの?」
「拓郎君が私の部屋に来てくれるのかな? ……って期待してたのに来ないし。
仕方ないから、お風呂に入ろうと思って大浴場行ったら男子の入浴時間だったの。
拓郎君の部屋にお風呂あったから、使わせてもらおうと思って来たら、寝てるんだもの。
お風呂のお湯は入ってたし、まだ暖かかったから、お風呂を頂いて拓郎君の寝顔見てたら私も一緒に寝てたみたい?」
「んー? なんか恥ずかしいぞ。
でも、僕もさっき唯香の寝顔を見れたからおあいこだね」
「なんか、恥ずかしいね」と唯香は僕のことを見ながら照れていた。
「うん、僕も唯香の事が頭から離れなくて。
寝れなくて寝れなくて、既にシャワーは浴びたけどお風呂入れて、その事を忘れるようにして眠りについたよ」
唯香は何の事が気づいたみたいで顔を真っ赤にしていた。
「拓郎君のエッチ」
「いえ、面目もない……。
僕も前回の件で、多少は欲情してるのかも知れないね」
「それじゃ、今日はこれで我慢してね」と、唯香が言って僕の頬にキスをしてくれた。
「頬へのキスは2回目だよね」
「唇が良かった?」
「いいえ、朝からソレは大変なことになるし。
今から人前に出る事考えると、ソレは拙いかな」
「あはは、そうだね。
お昼の会議が近くなってきてるけど、いつもだったらこれくらいの時間にピエロ男さんは連絡を入れて来るけど何で今日は連絡を入れてこないのかな?」
「そ、そうだよね。
今回の襲撃は、【勇者】のハズだから。
大喜びでアナウンスしてきそうなんだげどな。
けど、ピエロ男の事を考えてると精神的に疲れるから気にしない方向で……」
「そ、そうだね……」と言って、彼女はベッドから出た。
可愛いパジャマ姿だ。
「可愛いね、そのパジャマ」
「ちょっと、子供っぽいって思った?」
「いやいや、可愛いよ。
君の違う一面が見れて、ちょっと嬉しいかも」
「私も覚悟を決めて、お邪魔したのに当の本人は寝てるもんなぁ……プンプン」と、唯香は語尾をわざとらしく付けて怒ったふりをしていた。
「あはは、ソレは勿体無いことをしたなぁ。
また、チャンスを下さい。いや、ホント……」
「考えておきます」と言って、唯香は物置きの中にある扉を使い自室へ戻っていった。
胸に付けている懐中時計は、昼の会議の時間近くを示しているがピエロ男のアナウンスが入ってこない。
おかしいなとは、思いながら僕は身支度を済ませて、昼の会議が行われる。
教室へと向かった。
金子は僕の存在に気づき、僕に対して手を振ってくれたので、僕もそれに対して手を振り返した。
とりあえず、僕は空いていた席へ適当に着席した。
とりあえず、パッと見はクラスメイトは小西を除いて全員揃ってるみたいだが?
あっ、まだ唯香が来てないや……。
さっき別れたばかりだし、身支度も男と女じゃかかる時間も段違いだろうし。
そんな心配をしていたら、僕の隣の席に唯香が座った。
「お待たせ……」と、唯香は僕に小声で言ってくれた。
小西を除いて全員、揃ったハズなんだが?
「ピンポンパンポーン」と、ピエロ男の肉声でふざけたアナウンスが入った。
「お昼の会議の前に、残念なお知らせがあります!!
先日の襲撃は、なんと!!」
何もったいぶってるんだ、このクソピエロは……
もう結果はわかってるだろう?
「あ、ありませんでした!! 【守り手】さん グッジョブ(守備成功)でーす。
小西君は無事でーす!!
あれれ? これって市民班にとってもよくない事なんじゃ?
それに人狼がヘソ曲げて【守り手】殺すために、市民班のグレー位置を詰めちゃうかもネ」
……と言って、ピエロ男はケラケラと笑っている。
えっ、どういう事だ?
なんで、小西が守られてるんだ?
【守り手】の三人のウチ二人は確定で潰したが、残り一人は処刑が襲撃で潰したものだと考えてしまっていた。
「守り手さん、コレはどういう事?」と、僕はクラスメイトの中にいるであろう【守り手】に問いかけた。
しかし、誰も返事はせず。
クラスメイトは周りを見回して、誰が【守り手】なのかを探っていた。
「一つ、クラスの皆さんに言わせてもらうが……
僕が前の会議で、人狼に狙われてるのは佐々木に投票した人間だと言ったよな?
この守り手の行為は、役にも立たない小西を守るために、クラスメイトを犠牲にしたって考えでいいのかな?」
僕がクラスメイトに問うと、クラスメイトがざわつき出した。
「申し訳ないが……
僕達、探索班は現在48階まで攻略しているが、
探索班の安全の為に【見習い勇者・魔法使い】を連れて最深階へ挑もうと思っている。
今回の【勇者】守りは、探索班にとって、ものすごく不利益になる行為だ!!
だから、今回は探索にでず翌日の昼の会議を待とうと考えている」
「なんでよ!! 佐々木くんを殺したのだったら、そこの金子君でもいいじゃない!!
小西君は悪くないじゃない!!」と、クラスメイトの頭の緩そうな女子が僕に突っかかってきた。
「あー、キミは花田さんだよね。
なんで僕に反論できるのかな?
それにキミは市民班だよね? 探索班に加わってる金子と引きこもってる小西とじゃ、天と地の差があるんだけど?」
軽く、金子を引き合いに出してきたことに僕はイラついていた。
「君達、市民班は人狼に助けられている現状を、未だに理解していないのかい?
誰が【守り手】か、知らないが【守り手】を探すために市民班を襲撃してもおかしくないんじゃないの?」
……と、僕が軽くクラスメイトに事実を伝えた。
まぁ、十中八九……花田が【守り手】なんだろうけど。
多少、頭が回れば小西なんかは守らない。
僕としても、小西を襲撃にして【人狼】の役目は終わりにしたいんだがな。
「市民班は、クラスメイトの中にいる【守り手】をカミングアウトさせた方がいいんじゃないの?
それと、ピエロ男が処刑なしの状況が続いている現状で何もしてこないとか思うなよ。
そ、そうだな……。
あのピエロ男の事だし、女子が処刑位置に上がったら、このクラスの男子に襲わせるくらいやるんじゃないか?」
……と、クラスメイトを煽る為に言ってみたが、人狼会議でのピエロ男の言葉を借りたのは迂闊だったか?
案の定、女子は御影の件を思い出して泣きだす女の子もいた。
僕の隣で、僕の腕をつねる唯香の姿もあった。
唯香さん、そのつねりはどういう意味なんだ?
クラスメイトを怖がらせるなの意味? それとも、マズイって教えてくれてるのか?
「僕としては、市民班のグレー位置を処刑していってもらって構わないよ。
僕はみんなの事を【探索班】の仕事をやって守るつもりだけど、【守り手】いや【市民班】に邪魔されるんなら話は別だし」と、花田を睨みつけるようにして言った。
僕の発言で、クラスがパニックに状態になり。
人狼が誰か? より守り手は誰だという件が争点になっていた。
「どうせ、【守り手】が見つかるまで、昼の会議は続けるんだし。
【守り手】はクラスメイトの死という形で裏切り続ければ、いいんじゃないかな。
あっ、そうだ……どうせだし、グレー位置からあげるんなら女性がいいよな」
……と、軽く外道発言をクラスメイトに向けて放つと隣の彼女から思いっきりつねられた。
「痛いじゃないか、唯香さん!!」
「なんで、思ってもいないようなことを言うの!!拓郎君」
「いや、それは【市民班】があまりにも、利がない事をしてくるから。
ある種の見せしめ的にやるのも手だと思ったし」
「だとしても、花田さんは小西君の彼女なの」
「じゃあ、なんだ? 小西をココで皆で処刑するのか?
市民班の手を汚さずに、ぶっ壊れている人狼にやらせとけばいいじゃないか!!」
そういうと、唯香は俯いた。
あっ、いい過ぎた? ……違う。
彼女の表情を見て察してしまった。僕は既に壊れていたのか……。
「今日は投票はしない……。
明日も襲撃が起きなければグレー位置から吊り押すよ。
その時は花田さん。キミが処刑位置だ」と、僕は【守り手】であるだろう花田と、もしくは潜伏している【守り手】に宣言をした。
そして、その日の昼の会議は終了した。
当然のように、山下さんは僕の部屋に来ることは無かった。




