39.意外といいヤツ
僕達のパーティは探索前に教室に集まり、いつものように準備を行っていた。
「とりあえず、今回の探索では48階を攻略目標にしよう。
なんで、攻略済みだけど47階から一度探索をしなおす感じかな」
と、僕は【鍛冶屋】の金子と【占い師】の唯香に提案した。
「ねぇ、それだと。
ピエロ男さんが、悪さする機会が増えるんじゃ?」
「山下さんは、あの胡散臭いピエロの事をさん付けするんだね」と、金子が言った。
「そうなんだよ。
あんなピエロ野郎は呼び捨てで、いいと思うけどね」
「最初からそう呼んでたからね。
急に変えるのも難しくて」
「その割には、人吉の事は名前呼びになってたりしたよね」と、金子は唯香をからかっていた。
「その辺で辞めておこうぜ、山下さんも困ってるだろ」
僕がそういうと、唯香は僕からソッポを向いた。
あっ、しまった……。
「え? なになに?
山下さんが、急に人吉から背を向けるようになったんだけど?」
「あぁ、ごめん。
唯香……慣れてなくてさ、機嫌なおしてくれよ」と、僕が名前を呼んだらコチラを向いてくれた。
「エェ!! お前ら、そう言う関係になってたの?
いつ? いや、山下さんは何度か人吉の部屋を訪ねた履歴があったし、その時か!!」
「まぁ、金子。
そんな話する為に集まったんじゃないし、本題を進めよう」
「あぁ、すまん……。
山下さんが、人吉と付き合うとは思ってなくてな。
昨日の会議の時はソレっぽい流れだったが、アレはどう見てもその前から付き合ってるような感じだし」
……と言って、金子はブツブツと独り言を呟いていた。
「金子ぉ!! 話を進めてくれる気あるの?」
「あぁ、すまんすまん。
ってか、人吉……オレの事を呼び捨てするようになったんだな」
「あぁ、気になったのなら謝るよ。
金子が本題を進めないのに少しイラついたからな」
「あぁ、すまんすまん。
ソレで山下さん、コイツとどんなきっかけで?」
金子は僕に対して謝りながらも、聞いてしまわないと納得してくれないようだった。
「ソレは……」と、僕が言うと……。
「人吉、オマエには聞いていない黙っとけ!!」
「ひ、ヒデェ!!」
「こんな人吉みたいな冴えないゲームオタクと、山下さんみたいな美人が付き合うなんて絶対に何か裏があるハズ」
「ほ、ほんと酷い言い草だな。
僕は市民班の為に、かなり尽くしたと思うんだがな?」
「それだけじゃ、絶対に山下さんはなびかないハズだ。
なんかあったんでしょ?」
完全にデバガメと化した金子は唯香に問いかけた。
「金子君は拓郎君の事を悪く言い過ぎよ。
こんな状態になっても、クラスメイトを脱出させたいって考えてくれるの拓郎君しかいないじゃない。
何人も死んでるのに、うちのクラスの男子は動く気配もないし……。
ソレに御影さんが襲われてるのを喜んでる男子もいるとか信じられない。
そんな中で、現状が一番見えてるのは拓郎君だよ!!」
「いや、ソレはわかってるけどさ……
腑に落ちないんだよ」と、金子が納得をしていない様子だった。
「あぁ、僕は元々から唯香の事が好きだったから。
守ってみせるって唯香に言ってたんだよ」
「そ、ソレダ!!
生きるか死ぬかのデスゲームで吊り橋効果もあって、人吉の良さに山下さんが気づいてしまったと……なるほど。
……と、言うことは探索班に入ったオレもモテるのかもしれない」
「あー、ハイハイ。
終盤手前じゃなく、序盤から探索班してたら可能性はあったかもな」
「ぐぬぬぬ……そうか手遅れかぁ。
オレ達がここまで来てるのも、人吉の功績の積み重ねがあってこそだしな」
「わかったのなら、大人しく探索行くぞ。
全く、しょうもない事で時間を取らせやがって」
「あはは……」と、唯香は軽く乾いた笑いを返してくれた。
金子はブツブツと言いながらも、僕達についてきた。
そして、僕達は教室の扉の前に立った。
「ココからは、雑念を消してくれ。
僕みたいに、腕を斬りおとされる程度ならなんとかなるが……。
首を落とされたり頭を割られたら、一撃で死ぬぞ」
僕が腕を斬り落とされたのを思い出し。
金子も、真剣になったみたいで目つきが変わった。
「あぁ、ココからは真剣にするよ」と金子が言った。
皆とアイコンタクトを取り先に進む決意を決めた後、僕は47階へと続く扉を開いた。
……
…………
そこから後はいつものように探索を進め、47階から48階へと探索を進め無事48階の探索を完了した。
そして、三日程の探索を終わらせた僕達は、いつものように教室に僕達は【帰還】した。
「ただいまーー!!」と市民班に無事を知らせる為に、僕は帰還した事を市民班に言葉で伝えた。
市民班の面々がコチラを確認して無事なのを確認した後、市民班の面々は仕事に戻っていった。
「なぁ……。
人吉が毎回帰ってくるたびに「ただいま」と言ってるのは、市民班に無事を伝える為なのか?」
「あぁ、ソレもあるよ。
僕が無事なら、市民班もとりあえず安泰だから、市民班が大きく荒れる事は無い。
だから、僕はわざとらしくでもいいんで、【帰還】の度に「ただいま」と言っている」
「成る程な……。
確かにオマエは状況が良く見えてるよ。
オマエ達の色恋沙汰を聞きたさに新作の装備を渡し損ねた鍛冶屋には耳がいたい話だよ」
あっ……そうだよ。
今回、新装備貰ってない。
「今からでも装備を配るか?」
「いや、いい。
今回の人狼の襲撃で【勇者】が死ぬだろうし、【見習い】二名が【勇者】と【魔法使い】に繰り上がるから、今日作った装備はその二名に使わせよう。
今回の探索の稼ぎの分を僕達の装備に回す流れでいこう」
「ナルホドな。
しかし、小西が死ぬっていうのに人吉は容赦ないな」
「僕としても佐々木は親友だったし、親友を殺したアイツらはある意味、仇みたいなものさ。
ソレに市民班としても、引きこもりとなった【勇者】とか不要だろ」
「まぁ、そうなんだがな。
確か、人吉が会議の時に佐々木を殺した人間が、ターゲットにされてるって言ったんだよな」
「あぁ、誰もその事に気付いて無いからな。
襲撃に怯えさせて、クラスメイト全員を混乱させるより良いと判断して発言したよ」
「オレも、そういう意味では襲撃位置なんだよな」
「例えそうだとしても、次の襲撃は小西なのは間違いないよ。
市民班としても探索班としても不要だしな」
「人狼がそのあたりを考慮してくれたら……」と言って、金子は最後まで言葉を口にする事はなかった。
「まぁ、装備も予備があるし。
【見習い】の二人を加えれば50階もなんとかなるさ」と、金子が襲撃位置に来る前にダンジョンをクリアしてしまおう」
「あぁ、そうだな。
けど、探索に慣れるのに僕達二人は二週間近く掛かったけど……
市民班の人間を再び一から慣れさせるのなら、また時間がかかるんじゃ?」
「あぁ、ソレについては考えがあるから安心してくれな。
【見習い】に期待しているのは、装備と小西達から引き継がれたLVにしか期待してないし」
「……と、言うと?」金子は僕の発言に聞き返してきた。
「あー、【見習い】には戦闘訓練させるのは面倒なんで、49階50階に関しては戦闘モードを【ゲームモード】に切り替えるつもりなんだよ。
だから、装備が揃っていてLVさえ引き継いでくれれば、素人でもソレなりには使えるって訳」
「けどさ、【見習い】の連中が既に襲撃と処刑で死んでるとかないか?」
「んー? その可能性もあるかもしれないけど。
例え、そうだとしても……ゲームモード切り替えで、僕達三人で50階に行けばなんとかなるさ」
「成る程な。
だから、オレも死ななくて済むって訳か。
人吉、お前変な奴だと思ってたけど以外といい奴だな」
「褒めるのか貶すのかハッキリしてくれ。
あと以外とは余計だ……」と、僕は金子に言葉を返しておいた。
探索後の話し合いが終了後、いつものように探索の稼ぎを教室の机に置いて僕達は自室へと戻っていった。
そして、僕達は翌日にある昼の会議まで各自休憩を取った。




