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36.演劇

「ただいまーー!!」と、僕は教室で市民班に無事帰還してきた事を伝える。


 市民班の各々は僕達の帰還に気づき教室へと集まってきた。


 市民班は僕達の無事な姿を見てホッと安心したようだった。

 常識的に考えると、前回の探索で腕一本が無くなってる訳で、市民班が心配するのも無理はないだろう。


「47階まで、攻略すんだよ。

 あと3階で攻略完了だ!!」


「おぉぉぉぉーー!!」と、クラスメイトから歓喜が上がった。


 市民班に希望を適度に与えないと、暴走して何をしでかすかわからないからな。

 僕はダンジョンでの稼ぎを金子に渡して、自室に戻ることにした。


 恐怖と希望のバランスを程よく調整していかないとな。

 前回みたいに市民班達の私刑で小西達が殺されかねない、それに私刑に反発して小西達が暴れる懸念もあるんだし。


 僕はその後、自室に戻りシャワーを浴びて翌日の昼の会議まで睡眠を取ることにした。

 探索の後は、山下さんも疲れているのか僕の部屋にあまり来ないんだよな。

 まぁ、それはどうでもいいか……疲れたし、とりあえず寝よう。


 ……

 …………


 案の定、ピエロ男のアナウンスで僕は目を覚まさせられた。

 所謂、最悪な目覚めというやつだ。


 御影への襲撃が決まっているので、ピエロ男は明らかに声が嬉しそうにしている。


【ロンドン橋】かぁ……。

 橋が落ちるで想像するのは、圧死か転落死だよなぁ。

 人形劇をやめて演劇やるとかピエロ男が言ってたが、何をするつもりなんだろうな。


 そんな事を考えて、軽く身支度を済ませてから教室へ向かうことにした。

「拓郎くん。 おはよう」


「あぁ、山下さん。

 おはよう」


 道中、山下さんが僕を待ってくれていたので、お互いに挨拶をして一緒に教室へ向かった。

 僕達は教室の席に着席し、その隣に彼女も着席した。


「うーん!!

 今日は一人、教室に来ていないみたいですねーー!!」

 ……と、わざとらしくピエロ男は声を上げた。


「小西くんの部屋の鍵を開けておきましたので……

 市民班の皆さんのお力で連れてきてくださいね」


 と、ピエロ男が言ったが誰も立ち上がろうとしなかった。


「おい、ピエロ男さんよ。

 どうせ、今日も処刑は行われないし。

 襲撃される相手もわかってるんだろ……無理に連れてこなくていいよ。

 どうせ、小西(アイツ)は死ぬんだし」と、僕はピエロ男に言い放った。


「うわぁ……厳しいね。

 人吉君は同じ人間なのに、クラスメイトを見捨ててるんだね。

 君は鬼かな悪魔かな? いや、この場合は()()かな?」


「笑えないジョークはよしてくれ。

 僕としても、働きもしない探索班には迷惑してるんだ」


 最期の人狼という言葉に少しドキッとしたが、クラスメイトに僕の感情は悟られてはいないようだった。


「まぁ、仕方ないね!!

 それじゃ、今いる人間で演劇の鑑賞会を始めようか。

 お題目は【ロンドン橋】だ!!」


 今日はモニターが、二つではなく一つだ。

 ピエロ男が指をパチンと鳴らすと部屋の明かりが消え、モニターが【LIVE】の文字と共に映し出された。


 良くも悪くも女性らしい部屋といった感じだ。

 誰かの汚部屋との違いを感じ取れた。

 まぁ、誰の部屋かというと御影の部屋だし、探索班の部屋はかなりの拡張を繰り返していて広い部屋になっていた。


「す、すげぇ……。

 探索班の部屋って、こんなに充実してんのかよ」と、クラスメイトから声が上がっていた。


 そ、そんなことはないと思うがな……多分。

 僕の部屋も大きめのベッドを置いてるし。

 個室用の風呂・トイレも完備済みだし一応物置もあるし、市民班の部屋と比べれば広いのかもしれない。


 クラスメイトの発言で、僕は余計な事を思考してしまっていた。

 その最中も、カメラが部屋の奥へと少しづつ進んでいく、カメラを動かしているであろうピエロ男がタンスらしきものを発見したみたいだ。

 部屋の奥に進むのを一時中断して、タンスの方へとカメラは進んでいく。


 クラスの男性陣から、「おぉ!!」と声が上がった。

 女性陣は、男性陣に冷ややかな目を向けていた。


 ピエロ男はおもむろに、タンスを開けた。

 カメラは、御影のモノと思われる下着をモニターに映し出していた。


 流石に御影の下着は派手だな等と考えていたら、僕の方に山下さんから冷ややかな視線が送られていた。


 いかん、いかん。

 邪念撲滅……邪念撲滅……


 僕は邪念を払うためにモニターから視線をそらすと、男性陣から「おぉぉぉ!!」という声が上がった。

 僕は恐る恐る、視線を戻すとかなり過激な下着の上下をピエロ男が手に持っていた。

 そして、その下着をピエロ男は何処かに隠したみたいだ。

 まるで、手品だな。


 最低、変態、等のピエロ男に対する罵倒をする女性陣に対し。

 男性陣は、視聴者プレゼントとか……等と馬鹿な事を言っている奴もいた。


 女性陣と男性陣で明らかに反応が違う……。

 後、僕は山下さんからの視線が痛い。


 はよ、ピエロ男はよ本題に戻れよ!! と、言葉にはできないが内心では叫んでいた。


「おっと、失礼。

 男性陣が気になったと思ったので、私なりの大サービスさ!!」


「おぉぉぉーー!!」と、男性陣が歓喜に沸いた。

 全く、余裕あるのなコイツら。

 今から御影が襲撃されるってのに、そんなに御影の下着が気になるって言うのか?


 まぁ、僕も少しはきになるけどさ……

 それ以上に山下さんに嫌われたくない。

 カメラが再び部屋の奥へと向かって行くようだ。


 少しずつ、部屋の奥へ近づくとそこには縄で縛られている御影がベッドに眠っていた。


 カメラが御影を映し、次にピエロ男を映し出した。

 そして、ピエロ男は先ほどの過激な下着の上下セットを手に持っていた。


 そこで、女性陣は大ブーイング。

 男性陣は半ばポカんと口を開けていた。


 そして、ピエロ男が指をパチンと鳴らすと先程の過激な下着がなくなり、割とおとなしめの下着をピエロ男が手に持っていた。


「視聴者プレゼントを期待していた!! 君!!

 当選だ!!」と言って、ピエロ男は再び指をパチンと鳴らすとピエロ男の手元にあった下着がなくなっていた。


 先程の視聴者プレゼントの発言した男が、明らかに挙動不審な反応をしだした。


 モニターで視聴者プレゼントされたであろう男を指差すピエロ男。


「そこの彼に先程の下着はプレゼントしておいたよ!!」と、笑顔で言ってくるピエロ男。


 ピエロ男のせいで女子の敵となった下着プレゼントされたクラスメイト。


 女性陣のヘイトが、その男子に向けられていた時……


「いやぁ、君達は面白いね。

 でも、本番はココからなんだ!!」と言って、ピエロ男は御影に姿を変えた。


 そして、モニターの映像は今までとは明らかに違う場所が映し出された。


 ・ロンドン橋が落ちる〜落ちる〜

 ・ロンドン橋が落ちる〜

 ・マイフェアレディ


 ……と、陽気に歌う御影の姿をしたピエロ男がモニターに映し出された。


 御影の声色まで真似できるのか、あのピエロ男。

 かなりヤバい奴という事を今更ながら実感することができた。

 けど、演劇ってピエロ男は言ってたが、ロンドン橋から落としたり圧死させるだけなら、演劇でも演技でもなくないか?


 その一点だけが、僕の心残りだった。


 舞台である【ロンドン橋】に到着したみたいだ……橋は未だ建設中みたいだ。

 今まで幾度建設しても、呪われているように落ちてしまう【ロンドン橋】。


 幾らお金を投資しても、建設失敗してしまう曰く付きの橋だった。

 そこで、最終的に提案があったのが【人柱】である。


 そして、ピエロ男は話をトントン拍子に進め自ら、御影の姿で自らが人柱になると橋の建設に携わるお偉いさんにアピールしていた。

 ピエロ男は明らかに、日本語を喋っていなかったが……

 丁寧に日本語字幕をつけて会話の解説を入れてくれていたので僕達にも状況が理解できた。


 人柱役になるところまでを御影として演じるって意味か?


 そのまま、ピエロ男とお偉いさんの話が進み逃げられないように御影の姿をしたピエロ男は牢屋のような場所に監禁された。

 そう、今のピエロ男の姿は彼女の部屋にいた御影の姿そっくりに縄で拘束されていた。


 指をパチンと鳴らすとピエロ男の監視役の男がガクッとうなだれるようにして倒れた。

 ピエロ男に強制的に眠らされたのだろう。

 そして、ピエロ男は拘束等何もなかったかのように縄を抜け元のピエロ男の姿に戻った。

 そして、再びパチンとピエロ男が指を鳴らすと、ピエロ男の足元に縄で拘束された御影がドレス姿で拘束されていた。


「はい、コレで私の()()はここで終了だね。

 ココからは主演女優に頑張ってもらいましょう。

 さぁ、目を覚ましなさい。 可愛いお嬢さん」


 ……と、声だけを残しピエロ男は消えていった。

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