35.決心
朝だ……。
僕の隣には山下さんが眠っている。
寝てる姿も可愛いな……って、違う違う。
昨日の襲撃の件で彼女が怯えてる様子もないみたいだし、とりあえずは安心した。
「スゥーー」と、小さく彼女が寝息を立ててる。
うん、可愛い……。
この状態なら、キ……キスとかしても気づかれないかも。
いやいや、そういうのはダメだ。
元の世界に戻れたら告白すると彼女には言ってるんだ。
……と、僕は思考の沼に陥りそうだったので、首をブンブンっと振って頭の中の煩悩をふるい落とした。
そして、僕は身支度をする為と頭を冷やす為に自室の風呂場へと移動した。
その時、目をパチっ!! と、開けた彼女が目を覚ましたようだった。
「意気地なし、別にいいのに」と、小さく彼女は呟いたが僕は風呂場に移動していた。
僕はその事に気付いていなかった。
……
…………
風呂場から出てきた僕は着替えを済ませてベッドに戻ると、山下さんが目を覚ましていた事に気付いた。
「あっ、おはよう。
山下さん、昨日は眠れたかい?」
「おはよう、拓郎君。
うん、おかげさまで」と、笑顔で答えてくれた。
守りたいこの笑顔……って、ナニカでよく聞く言葉だが、それがピッタリの言葉だった。
僕は彼女の笑顔を見て、僕はどんな手を使ってでも彼女は元の世界に戻してみせると心に誓った。
「ねぇ、拓郎君。
私って魅力ない?」
「え? どういう事?」
「拓郎君に半ば告白までされていて、同じ部屋で一緒に寝てるのに何もされないのも少し傷つく」
「いやいやいや………!!絶対にそれはない!!
つい、今しがた…… 守りたいこの笑顔!! とか考えてたくらいだし」
「あははは、今しがたって、普通使わないよね。
うん、わかった」
「もう、からかわないでよ。
僕は、そういう駆け引きは得意じゃないからさ」
「んー? 今日はこの辺にしておいてあげるね」
ある程度、仲良くなってわかった事だが彼女もなかなかの策士なのかも?
僕は恋愛に関しては、彼女の手のひらで踊らされてるのかもしれないな。
まぁ、コレは惚れた弱みというやつだし甘んじて受け入るとしよう。
「あははは、お手柔らかにお願いするよ」
「それじゃ、私は部屋で身支度をしてくるね。
また、後で会おうね。拓郎君」
……と言って、彼女は自室に繋がる扉へ向かっていった。
さて、今日はどうしようかな……。
装備は新調できると思うが、前回の探索では普通だったら致命傷クラスの傷を負ってしまった。
その事もあるので、下手に階を進めない方が安全なのかもしれない。
うーん。 と頭にてお置くようにして悩んでいた。
もう一度、46階を探索しなおしてから47階の探索をして様子を見よう。
三日あれば、なんとかなると思うし。
僕は今回の探索のプランを考えながら、装備を身につけていった。
しかし、山下さんがあんな事を考えてたのは予想外だったな。
……と、思考が脱線してしまった時、身体に違和感を感じた。
あっ、装備品を右手と左手、逆につけていた。
いかん、いかん、、頭の中の邪念を消さないと、次の探索では首を飛ばされるかもしれない。
邪念撲滅!!邪念撲滅!!
僕は、顔を二度ほど、パンパンと叩いて邪念を飛ばした。
装備品の忘れが無いのを確認て身支度を終わらせた後に僕は山下さんと金子が待つ教室へ向かった。
教室には金子が、装備一式を揃えて僕達がくるのを待っていた。
彼女は僕の部屋から自室に戻ったので、身支度するのにしばらく時間がかかるだろう。
「おはよう!! 人吉。
二週間分の稼ぎで、パーティの用の新装備作っておいたぜ」
「おはよう、金子君。
ホォーー、 どれどれ?」と言って、
「まずは、各自にインナーの代わりに鎖帷子を渡しておく。
防具のしたにでも、つけておいてくれ」
「防具の下に、防具って付けれんの?」
「あぁ、サブ装備扱いでキチンと装備できるみたいだ。
重量の兼ね合いで扱いやすい装備って事でこれを採用した。
あとは、各自の防具と武器をランクアップさせておいた。
それと、人吉は前衛でアタッカーやるから被弾の可能性があるから、利き手用に手甲を作っておいた」
「それは助かるよ。
流石に何度も腕を切り落とされたく無いしな」
「あと……なんだが」と、金子が続きを話そうとしている時に山下さんが教室に入ってきた。
「拓郎くん、金子くん。
二人ともおはよう!!」
「「おはよう」」
「丁度良いところに来てくれたね。
山下さんには武器を二つ作ってみたんだけど……
確認してもらえるかな?」
……と、金子は山下さんに提案してきた。
「ん? 何?」
僕達の前に杖らしきものを二本、金子は用意した。
「一本は今まで通りの杖装備ね、【攻撃魔法】を主流に扱うための装備だね。
もう一本は、初めて作ったんだけど……ロッドだね。
意味合い的には似た感じの装備なんだけど、【支援魔法】を扱うための装備っぽいんだよね」
「へぇーー。
それなら私は、ロッドにするよ。
二人が怪我するのを見たくないし」
「そうか、一応、杖も山下さんが持っておいてくれ。
必要な展開が来るかもしれないから」
「うん、解った」
「あとは自分用に大盾を作ってみたよ。
どうだ? 強そうだろ!!」と、金子は自慢げに大盾を見せてきた。
「あぁ、良いじゃん。
タンクらしい割り切りって、結構いいと思うよ」と、僕は素直に答えておいた。
そのあと、金子に新装備のレクチャーなどを受けてパーティの皆は装備を一新した。
「装備のおかげで、ワンランク強くなれた気がするけど。
今日は念の為に47階からじゃなく46階から探索しようと考えてるが、二人にも意見を聞きたい」
……と、僕は二人に提案した。
「あぁ、それでいいと思うよ。
下手に先の階層に進んで、また腕を切りおとされるのは勘弁したいしな」
「賛成!! 拓郎くんが腕を切り落とされ時、怖かったし。
それで、平然としてる姿も怖かったよ」
「あぁ……良くも悪くも慣れててさ。
ああいう重症はその箇所が焼ける用に熱くなるけど、薬飲んでさえしまえば痛みが消えるんだよね。
多少の切り傷くらいなら回復剤ぶっかければ治るし、そのあと回復剤を飲んどきゃ完璧よ」
「それができるのは人吉くらいだろ。
普通は恐怖でパニックになるだろ」と、金子が冷静に突っ込んできた。
「そうは言っても、それくらいやってこれなきゃ。
僕はここまで来れてないと思うよ」
「まぁ、そうなんだが……」
「これからは、私が治療するからね」と、彼女にハッキリと言われてしまった。
「お、お願いします」と、僕は答えるしかなかった。
えっ、僕がズレているのか?
二人の反応を見ると、僕の考えはズレているんだろうなぁ。
……
…………
よし、気にしないでおこう。
これが僕のスタイルだ。今更、変えることは出来ない。
そして、話し合いを終えた僕達はダンジョンの探索を開始した。
……
…………
装備を新調した僕達は三日間かけて46階から47階の探索に成功した。
結論から言うと、46階でじっくりレベルを上げた事で新加入の二人のレベルに余裕が出てきた事。
更に装備を新調し役割を決めた事で安全性が増したのが良かったのだろう。
「レベル的な意味合いもあるけど、二人ともダンジョン探索に慣れてかなり余裕が出てきたね。
これなら次は48階もいけそうだね」と、僕は二人を褒めた。
「人吉がいなけりゃ、確実にダメだったろうよ。
役割決めて貰えたからこそ、それに専念できるし」
「ウンウン」と言って、山下さんがうなづいていた。
「そっか、あと少しでみんなを元の世界に連れて帰れるから。
二人とも力貸してくれな」
「あぁ、佐々木に対しての罪滅ぼしにもなるだろう」
「うん。私も頑張るよ」
金子の言葉を聞いて決心が決まった。
よし、決めた。金子は襲撃しない。
小西を最期の標的にして、僕の【人狼】としての役目は終わりだな。
僕達は47階の探索を無事に終えて、ダンジョンから帰還した。




