33.私刑
ピエロ男の人形劇が始まった。
今日は、襲撃者用のモニターが二分割になっている。
片方の部屋は割と片付いているが、片方の部屋はかなり散らかっていて、別の部屋だと言うことがわかる。
前回と同様に、襲撃者用のモニターには【Live】の文字が表示されていた。
襲撃者用モニターの下のモニターで、ピエロ男が人形劇を始めた。
女の子の人形を手に持ち、唐突にその人形が斧を手に取った。
・【リジー・ボーデン】斧を手に取り
主人公役の人形より一回り大きい女性の人形を登場させた。
・そして、斧を持った人形が一回り大きい人形を40回滅多刺しにした。
ピエロお得意のワイプ芸で、片付いている名取の部屋に移動するように見せていた。
そして、ピエロ男は名取の姿に変わって、モニター越しに人形のついた手をモニターに向けて振っている。
カメラが少しずつ先を映していく、カメラの先には縄で身動きが取れなくなっている名取がいた。
斧を片手に名取に姿を変えたピエロ男は、身動きの取れない名取を母の仇のように40回斧で打ちのめした。
カメラ目線で一仕事終えたようなポーズをとって、ピエロ男は元の姿に戻った。
そして、再びワイプ芸を見せる。
再び人形を動かし始め、人形が困惑したような演技を始めた。
・自分の行いに気がついたから、ついでにもう一人もやりましょう!!
主人公役の人形より一回り大きい男性の人形を登場させた。
・そして、斧を持った人形が一回り大きい人形を41回滅多刺しにした。
再びワイプ芸で巻島の部屋に移動し、巻島へと姿を変えるピエロ男……。
カメラが少しずつ巻島へと近づくが移動するたびに、部屋が片付けられていないので足元で何かを蹴って進む音がしていた。
片付けられていない部屋の奥には、縄で身動きを取れなくされている巻島がいた。
斧を片手に巻島に姿を変えたピエロ男は、身動きの取れない巻島を父の仇のように40回斧で打ちのめした。
40回目斧を振った際に、巻島の部屋が片付けられていなかったため。
棚の上からピエロ男の頭にいろんなものが落ちてきた。
その事に腹を立てたピエロ男は、更に大きな両手斧を取り出して、最後に追加で思いっきり両手斧を振り下ろしていた。
ピエロ男は斧を人形持ちながら両手斧を振り下ろしていたため、人形は血で赤く染まっていた。
名取と巻島に40回と41回斧を振るったピエロ男は、再びモニターに視線を映して巻島の姿からピエロ男に戻した。
正直、グロ過ぎて口に出すのも憚れる感じだが、例えて言うならまだ名取は人の姿をしている。
巻島の姿は既に、人ではない何かと言った方が正しかった。
両方の死体がモニターに映されたところで、映像が暗転しプツンと映像は途切れモニターは真っ黒になり【ビデオロス】の表記だけを残していた。
そしてワイプ芸のようにして、人形劇のモニターに戻ってきたピエロ男は悪びれることもなく血みどろの人形を手に持ち可愛くコチラに向けてアピールしていた。
正直な話、それが逆に怖かった。
僕はピエロ男が姿を変えれることを知っているが他のみんなは知らない。
名取と巻島の惨殺に加え、ピエロ男の謎まで追加されたのだ。
当然のように、クラスメイトはパニック状態になったのは言うまでもない。
あぁ、また会議にならないのか……と全てを察してしまった。
「それじゃ!! 私はこの辺で失礼するよーー!!」と言って、ピエロ男がモニター外に消えていき。
それと同時に、教室の明かりがついた。
【守り手】が二人死んだのだ……。
これで、小西達を守るものはいない……ハズ?
……等と考えていると。
ピエロ男から追加でアナウンスが入った。
「あー、言い忘れてたけど!!
今回の襲撃までは、【人狼】は占い師の結果が強制的に【白】しかでないようになってたから。
今後は【黒】が出るので、占い師は頑張って人狼を探してねーー!!
それと、そろそろ終盤だし残りの処刑は君達で片付けてね」
と言って、ピエロ男がクラスメイトに追い打ちをかけた。
「どう言うことだ?」
「既に占った人間の中に、人狼がいるってことじゃ?」
……等と色々な憶測と推測が飛び交っていた。
そんな中、小西と御影は呆然とモニターが映し出されていた場所を見つづけていた。
取り巻き二人の死は、二人にとってかなり大きいものだったのだろう。
自らの命を守るただ一つの救いみたいなもので、それが潰えたのだ。
その結果を呆然と見つづけるしかできなかったのだろう。
僕はソレを見ても、何も感じることはなかった。
会議もできず、収集がつかなくなりそうになっていたので、山下さんが皆に発表をした。
「みんな!!
聞いて下さーい!!」
身振り手振りを加えつつ何度も、クラスメイトに話を聞いてもらおうとしていた。
それでも、騒動が収まらなかったので僕は机を力の限り叩きつけた。
レベルが上がり、ステータスの上がった僕の一撃は素手でも机をぶち破る程度の威力を持っていた。
その音を聞き周りが静まり返った。
「山下さんが、君達に話があるって話しかけてるだろ。
聞いてやれよ」と、だけ僕は言った。
僕の力ずくのフォローもあったお陰で、場が落ち着き彼女は話し出した。
「皆さんに報告します。
私と金子君は先日から、拓郎くんの探索パーティに加わり探索を始めました」
「おぉーー!!」と、クラスメイト達から声が上がった。
「だけど、45階から難易度が急に上がり46階では拓郎くんの片腕が切り落とされる程、危険な場所でした」
僕はクラスメイトに切られた方の片腕で手を振った。
「人吉の腕、両腕あるじゃないか」と、医者の存在を知らないクラスメイトが言ってきた。
「んー、市民班には関連薄いけどさ。
【医者】のスキルのおかげだよ。
探索班は大なり小なり【医者】の世話になってんだぜ。
それも死ぬような思いしながらな……」と僕は言った。
「それを1階で、ぬくぬくとしてる連中が小西達を私刑にするのは少々納得がいかない。
今後は控えてくれないか?」と、僕は続けて言った。
「いや、それでも!!コイツらは許せねえよ!!」
「処刑だ!!処刑だ!!」
と、市民班が小西達に対して処刑の声を上げていた。
「ピエロ男がさっき言っただろ?
終盤になってきたから、処刑をするなら自分たちでやれってな?
あのピエロ野郎は御誂え向きに、処刑場まで用意してやがる」
「処刑すれば、【見習い】が【勇者】と【魔法使い】になるんだろ!!
だったら、そうした方が早いじゃないか!!」と、クラスメイトが糾弾してきた。
「ふーん。 じゃあ誰が小西と御影を捕獲すんの?
さっきの僕の力見たでしょ、探索班と市民班じゃこれくらい差があるんだよ。
だからこそ言うけど僕はヤダね……。
君達に彼等が私刑にされる筋合いはないと思うし」
「佐々木の時は、探索班も協力したじゃないか!!」と、クラスメイトに言われて僕は怒鳴った。
「ふざけるな!!
佐々木は無理に暴れようとしなかったし、小西達が強引に捕獲しただろうが!!
僕は何もしなかった……いや、できるはずがない」と、僕は感情をムキ出しでクラスメイトに言った。
「何でだよ、今日の処刑は小西か御影だろ?
そっちのほうがお前らに都合よくね?」と【料理人】の藤森がきいてきた。
「言っておくぞ、勝手に探索班を私刑紛いを行う市民班を信用していない。
小西達を吊りたいのなら自分たちでやりな、その結果、処刑相手が変わっても知らんがな。
お前らに小西達を裁かせない、やるなら【人狼】にやらせる」
僕はクラスメイトから批判を浴びたが、僕が宣言しているので小西達の処刑は中断された。
圧倒的な力の差で、クラスメイトを理解させた。
そのやりとりを見て、金子が聞きいてきた。
「おい、人吉、大丈夫なのか?
市民班に不満を与えて?」
「僕は最初から市民班に不満を持ってたさ。
何で、自分勝手なんだってな。
勝手に人を祭り上げて、使えなくなったら切り捨ててしまいにゃ処刑だぞ。
不満持たない方がおかしいだろ」
「まぁ、そうなんだが……」
「考えがあるから、任せといてくれよ。
ココで力の誇示しとくのも、計算のウチだからさ。
正直、ピエロ男のアレでみんな荒んでるから。
これくらいしないと、収集がつかないんだ」
「わかった」
強引な説得だったが、金子を納得させた。
正直な話、クラスメイトがかなり不安定な状態になっているので、僕にも何が起きるかわからない状態だ。
クラスメイトの連中には僕を恨んでもらっても構わないが、最終階までは山下さん達を無事に連れて行く目標がある。
そのためにも僕に多少のヘイトを向けておく必要があるのだ。
僕が恨まれる分には、ピエロ男の発言で僕は限りなく処刑位置に入らない。
それと、僕は探索班の処刑を手伝わないので、探索班からの返り討ちを恐れて市民班から、山下さんと金子も処刑位置に入らないハズだ。
あとは、ピエロ男が何をやってきてもなるようになれ……だ。
そんな事を考えながら僕は自室へ戻っていった。




