28.人形劇
モニターと布団だけが置いてある自室で僕は目が覚めた。
個室の拡張を何度も加えているこの部屋が、結構広いんだなと何もない部屋を見て思った。
今から、探索だというのに全く関係のないことを考える余裕ができたという訳だ。
処刑位置を回避できたのは、本当に奇跡みたいなものだ。
それと僕は彼女に約束=告白したんだ。
彼女を元の世界に絶対に連れて帰るってな。
僕は自室の風呂で身奇麗にして、装備を整えて教室へと向かった。
ダンジョン内では安全策をとりつつ、一回の探索で1→2階進めるように探索を行っている。
装備に関しては、僕一人しかいないので最上級の装備を持って、ダンジョン探索に挑めるのは非常にありがたい。
僕の戦闘スタイルが弓での遠距離攻撃もできる、短剣装備の回避型アタッカーなので、役職:人狼との相性が非常に良いのだ。
僕は今回の探索で44階まで探索を終わらせ、ダンジョンから【帰還】を行い。
いつものように、探索で得た稼ぎを教室の机に置いていった。
教室には、占い師の山下さんや鍛冶屋の金子なんかもいたが、もう一人の占い師の野瀬さんの姿は見かけることはなかった。
まぁ解ってた事だけどね、ピエロ男の人形劇だっけ?
どうなる事やら……。
クラスメイトに恐怖を与えなきゃ効果ないんだけど、人形劇で大丈夫なのかな?
そんなことを考えながら、自室に戻り僕は眠りについた。
……
…………
「ピンポーンパンポーン!!」と、相変わらず間の抜けた声でアナウンスをしてくる謎の声。
いつものように、早く教室に来いと急かしている。
仕方ないな……と、諦めて僕は身支度して教室へと向かった。
途中、山下さんと会ったので耳打ちをした。
「これから起きることは見ない方がいいかも」とだけ伝えておいた。
彼女は何も言わずに頷いた。
僕は教室の椅子に着席すると、教室が真っ暗になった。
いつもは一つだったモニターが二つ用意されている。
一つ目のモニターはなんだろう?
よく見慣れたような、高い建物の屋上から見たような街の景色だ。
二つ目のモニターには、いつものピエロ男の映像だ。
ピエロ男はノリノリで、身振り手振りを加えながら僕らに話しかけてきた。
「レディースアンドジェントルメーン!!
本日は当劇場にお越しくださり、誠にありがとうございまーす!!」
僕を含めクラスメイトは、ピエロ男の行動に困惑していた。
「本日、みなさまに見ていただきますのは、人形劇 【ハンプティ・ダンプティ】でーす」
・卵男は塀に座った。
……と、ピエロ男は卵男の人形劇を持って、こちらに向けてアピールをしている。
その時、もう一つの方モニターも動き出した。
カメラが上空を映し、そのまま正面を映した。そして、地面を映した。
もう一つのモニターには【Live】という表記がされていた。
モニターには、建物の屋上に身動きが取れないように縛られて眠っている野瀬さんが映し出された。
先程のカメラの動きで、この場所は物凄く高い場所であるという事は簡単に想像がついた。
そして、野瀬さんが目を覚ました。
野瀬さんは状況が飲み込めず暴れていたが縛られているため動けていなかった。
そして、ピエロ男は人形劇モニターからもう一つのモニターに移動するワイプ芸を見せる。
卵男の人形をひらひら振って、モニター越しにいる僕達と目の前にいる野瀬さんにアピールしていた。
「はーい。 【占い師】の野瀬さん。
襲撃決定おめでとうございます!!」と、彼女はピエロ男に面と向かって死刑宣告を行われた。
「それと……!! 野瀬さん、君はダンジョン脱出第一号!!
おめでとうございまーす!!」
ん? どういう事だ?
「無事に脱出出来た野瀬さんには、願いの【有名人になりたい】を、心優しいこの私が叶えて見せまーす」と言って、ピエロ男は指をパチンと鳴らした。
野瀬さんを縛っていた縄は解けた。
すると、野瀬さんはまっすぐ歩き出し、建物の柵に座り出した。
再びワイプ芸で人形劇用のモニター移動を行ったピエロ男が次の言葉を放った。
・卵男は塀から落っこちた。
ピエロ男は画面外に卵男の人形をポイとゴミを捨てるように投げ捨てた。
その時もう一つの画面でも、野瀬さんが屋上から飛び降りた。
その落ちる瞬間までしっかりとカメラは追っていき、彼女だったモノが地面に叩きつけられる瞬間までを鮮明に映していた。
そして、彼女は肉片として……あたり一面に散らばった。
この瞬間を目にして、クラスメイトは一同恐怖し、泣き始めるもの嘔吐するもの……反応は様々だった。
だ、、れが、、クラスメイトをココまで恐怖に落とし込めと言った……と、僕は軽くピエロ男を恨んだ。
ピエロ男は先程投げ捨てた卵男の人形を拾い直して、他の沢山の人形を卵男の上にのせていった。
・人がいっぱい集まってきたよ!!みんな興味津々で集まってきたよ!!
・それでも卵男は元に戻らなかったよ。
野瀬さんのだったモノが映っている、モニターにも沢山の人が集まっていた。
ただ……それだけだ。
そして、映像は暗転しプツンと途絶えた。
暗転したモニターには、ビデオロスの5文字が表示されていた。
……
…………
少しの間を取って、再びピエロ男が話し始める。
「あんな死にかただけど……
それでも有名にはなれたでしょ」と、ピエロ男は冷たく一言を付け加えた。
「……というわけで、占い師の野瀬さん死んじゃいましたー。
パチパチパチー!!」と、ピエロ男だけが盛り上がっていた。
今までの襲撃は人の生き死にはあるが、ある意味淡白な感じに片付いてたが今回のは酷い。
僕も軽く彼女に同情してしまった。
まぁ、辞めないけどな……。
「ひでぇ!! 【人狼】の人でなし!!」と、クラスメイト達から人狼に対してのバッシングが起きていた。
「おー、怖っ!!」と言って、ピエロ男はモニターから退散していった。
人狼バッシングかぁ。
まぁ、そんなのどうでも良いんだけどね。
「それで、今日の昼の会議はやるのかい?」と、僕は何事もないかのようにクラスメイト達に質問してみた。
「で、できるわけないだろ!!
あんなのを見せつけられたんだぞ!!」と、小西が涙目になりながら言った。
「ふーん。
でもさ、今まではピエロ男がオブラートに包んでくれただけで、同じくらいの事されてたんじゃないの?
いや、違うな。お前らが今までやってきた事だろう」と、僕は小西に言葉を突きつける。
「まぁ、昼の会議は別になくてもいいんじゃないかな。
どうせ死ぬのは、お前らだし」と、僕は冷たく言い放った。
そして、今回の昼の会議はピエロ男の渾身の人形劇により中止となった。
一足先に僕は部屋に戻り、山下さんが来るであろうという事を予感していた。
胸のトキメキとかそういうのじゃなく、クレーム的な意味でな。
昼の会議が早く終わったことで長い休憩時間ができた為、いつもより早い時間に僕の部屋の扉がノックされた。




