24.利敵と崩壊
僕はいつも通りに目を覚まし、探索に向かうことにした。
探索に行く前に、市民班の連中が僕の事を見ている。
特に鍛冶屋の金子が、コチラを心配そうに見ていた。
「ん? どーしたんだ?
みんな?そんな心配そうな顔して」
「小西達に続いて人吉まで市民班を見捨てるようなことがあれば、市民班は終わるんじゃないかと心配してるんだよ!!」
「ハハハ、そりゃないわ。
佐々木が言ってたからな。
クラスメイトのみんなを助けて脱出しようってな。
僕は人狼じゃなくなっても、佐々木の意思は継いでんだよ」と僕がいうと、金子がバツの悪そうな表情をした。
「そ、そうか……」
「それじゃ、探索にいってくるわ。
前回、小西達に不慣れなタンク職させられて、鬱憤溜まってんだよ!!」
僕は、教室の扉を開け31階へと移動した。
しばらく探索していると、この階のモンスターに出くわした。
「来たな、鎧野郎!!」
正式にいうと、ウォーキングアーマーだが面倒なので鎧野郎と僕は言っていた。
何度もコイツから攻撃をされて、かなり鬱憤も溜まっていたので勝手に名付けまでしたわけだ。
ガチャン……ガチャン……と足音をさせて、鎧野郎がこちらに歩いて来ている。
「タンクなんてしなくても、攻撃される前に沈めりゃいいんだよ!!」
……と言って、僕はダッシュで相手の側面に入りこみ、鎧野郎に短剣をつき刺しバックステップで距離を取り、弓スキルでさっくりと鎧野郎を片付けた。
その後も、31階と32階をソロで指定時間まで探索して、僕は【帰還】した。
「ただいまー!!」と、僕は教室到着と同時に明るく言ってみたがみんな暗い表情だった。
「アレアレ? ど〜うしたのミンナ?
そんな暗い表情して」
「お帰り、拓郎君」と、山下さんが再び名前呼びに戻していた。
うぅ、何かこそばゆいぞぉ……。
「小西君達がね。
昨日の宣言通りに、一銭もお金を渡してくれなかったの」
「あぁ、それね。
別にいいんじゃない?」
「よくないよ!!
市民班のみんなも生活してるんだよ」
「いや、わかってるよ。
山下さん。だから、僕がその分稼いでくるって」
「でも、拓郎君。 一人でしょ?
佐々木君がいたから、なんとかなってたんでしょう?
それに、小西君達に力不足でクビにされたって」
あのバカ達にクビにされたかぁ、それはなんかムカつくなぁ。
「山下さん。
僕がアイツらにクビにされたっていうのは、やめてくんないかな?」
「あっ、ごめんなさい」
「とりあえず、ミンナを安心させるために言っておくな。
僕が今日探索に行って来たのは、31階と32階だ!!」
「一人で? 拓郎君が?」と、山下さんが驚いていた。
「あー、通りで人吉が不満ぶちまけてたんだな」と、金子が全てを理解したみたいだ。
「ホレ!! これが証拠だ!!」と言って、僕は本日討伐分のドロップとお金を机に置いた。
「えっ!? こんなに?
前回の5人パーティの時より多いんじゃ?」と、金子が驚いていた。
「そりゃ、小西の指示で戦ってたら効率も下がるわ。
そもそもアイツらセンスねーし。
僕と小西の相性悪いのを理解しながら上手くまとめてた佐々木の凄さを実感したよ」
クラスメイトの皆は事の重さを理解して暗い表情になった。
「とりあえず、今後は僕一人パーティになるから、状態異常系の対策の相手とか回復薬の類は今まで以上に準備しといてね。
麻痺なんか戦闘中に下手に食らうと致命傷になりかねないからさ」
(麻痺:状態異常の一種、完全に動けなくなるわけではないが動きに制限がかかり動きにくくなる)
「最初から、その対策の薬を飲んで戦闘に入る訳か……」
「そうそう。
一人パーティで進みは遅いかもしれないが、ソコは技術でカバーして僕も探索を進めるさ。
なんで、装備はしっかりと揃えてくれよな」と金子に言っておいた。
「あぁ、任せとけ」
「じゃあ、山下さん。
また明日」と、最後に彼女に挨拶して自室へ戻った。
……
…………
いつものピエロ男の声で僕は起こされた。
これから起きるのは、人狼による襲撃の映像を見る時間だ。
これで二人目の襲撃が行われたが、誰が人狼か手がかりもつかめていない。
その為、クラスメイトの皆が人狼だと……疑いを深めている節があった。
あくまでも、ピエロ男が配った紙は役職についての説明と、前回の役職であって、それと同じ役職を現在の役職持ちの連中はカミングアウトしただけなのだ。
そこに人狼が隠れていても、わからない訳だ。
ピエロ男がフェードアウトして、部屋が明るくなるとクラスメイト同士で人狼の疑念を向けているのがわかった。
ハハハッ!!いい展開だ。
こうなれば、市民のグレー位置の皆さんには吊り位置に入ってもらって、処刑しようかな。
そんなことを考えていたら、一番の懸念材料の野瀬が声を上げた。
「先日の占いで人吉を占ったわ、結果は【白】だったわ」
「フン、無駄な占いしやがって。
お前のせいで、クラスメイトが余計に死ぬじゃないか」と、僕は野瀬に対して言っておいた。
「まぁ、いいや。
これで、僕は完全に【白】な訳だ。
先日、僕を吊り押した人達は申し訳ないけど、次は君達が吊り押される立場になった事を理解しようね」
僕の発言にクラスメイトがざわつき始めた。
「人吉君。
クラスメイトを煽るのはよすんだ!!」と、小西が偉そうに説教してきた。
「小西、何、言ってんの?
僕は、役職のカミングアウトした連中でさえ疑ってんぞ!!
オマエらの中に人狼が紛れ込んでねーのか?」
僕の発言で、より一層クラスメイトがざわつきだした。
「でも、役職持ちを吊りたいとはいうつもりはない。
話し合いの対象にするというなら、市民班のグレー連中だろ?
役職持ってんなら、処刑される前に大人しく役職のカミングアウトしてくれよ」
僕は、処刑予定のモブCに向けて、指をさした。
「完全に【白】の僕に向けて、君は吊り押してきたんだ。
吊られる覚悟はあるんだよね?
僕は、彼に挙手するよ」
「いや、待てよ!!
あれはああいう流れだったじゃないか!!」
「流れで無実の人間吊り推せるんだね君達は……。
ちなみに野瀬さんもね」
僕が、彼を吊り押した結果……。
当の本人は僕に対して報復投票してきた。
僕は当然、今日の吊り予定の彼に投票した。
そして、僕の他にも彼に対して投票する票が入り市民班の彼が吊られることになった。
パァン!!と、柏手を打つような音がなり、明かりが消え真っ黒になった。
「はーい!!
処刑される人が決まったみたいだね!!」と言って、ピエロはモニターでドアップで映っている。
「今回の処刑者は市民班の彼です!! みんな拍手ーー!!」
しーん…… と、静まり返っている。
当然のように誰も拍手しない。
モニターには、処刑者が映し出されていた。
「あれっ? 仕方ないなぁ、最期に遺言をどうぞ!!」と言って、ピエロ男はモニター内から消えた。
「人吉!!てめぇ覚えてろよ!!
投票した奴ら怨んでやるからな!!」と、最後に言葉を残して彼は死んでいった。
「不当だねぇ……。
自分達が吊り押して、自分が吊られると罵声をあげるって流石に酷くない?
まぁ死にたくないのはわかるけど、僕視点は吊り押した連中に人狼がいるって考えるのは妥当でしょ?」
そして僕達は、昼の会議の処刑と人狼会議の襲撃を繰り返し……
市民側にいる役職無しのターゲットを全滅させた。
更にダンジョン探索も40階まで進んだ。
僕は初日に全員から吊り押されているから、ターゲット以外は吊り押さずターゲットのみに絞って吊り押しただけだ。
占い師の野瀬が無能だった為、僕は2〜3手ほど得している状態だ。
……
…………
そして、市民班が半壊した昼の会議で僕は発言した。
「ここまで【守り手】さんが仕事しない事を見ると……
本当に【守り手】の3人は無能な小西達を守ってるんだろうねぇ」
「「なんだと!!」」と、取り巻き二人組みが僕に食ってかかってきた。
「人吉君、それは不当な言いがかりだよ。
僕達はダンジョン探索を45階まで進めている」
「へぇ、そりゃ頑張ってることで」
いや、コイツらだけでそこまで探索が進んでるのがまずおかしいぞ。
「ん? オマエらズルしてないだろうな?
15階でやらかして、まだ懲りてないのか?
今度は助けに行けないぞ? 僕は……」
「フンッ!! 危険がないよう最終階の手前ではじっくりレベル上げをして挑むさ!!」
「はい、左様ですか」と、僕は諦めたフリをした。
僕としては、ボス戦で死んでくれれば良いとも思っていたし。
コイツらはボス戦失敗して、市民班にリンチ的な私刑食らうのも見ものだったからだ。
「人吉、お前は偉そうにしているが!! お前は探索班としては落ちこぼれだ!!
僕が君に投票して君を処刑してもいいんだぞ!!」と、小西は僕に脅しをかけてきた。
「はーい。 ダウト!!
市民班の皆さん、僕に小西が投票したいと言ってます。
その場合、貴方達はどちらに投票されますか?」
市民班の視線が、小西に向けられた。
「まず、第1にオマエラに言っておくが、僕自身もすでに40階まではソロで到達してる。
ズルして45階まで行った奴と一緒にしないでもらいたいな。
次に、市民班は探索班の事をよく思ってないみたいだぞ!!
【勇者】と【魔法使い】を見習いに入れ替えた方が僕としても正解だと思ってるしな」
そんな流れで昼の会議が続いていく……