23.壊れる感情
起きたばかりの寝ぼけ眼をこすり、なんとか起きようとしていた。
その時、「ピンポーンパンポーン」と、ふざけた声のアナウンスが入った。
「クラスメイトの皆さま、ゲームマスターからご連絡がありまぁ〜す」と、ピエロ男の呼び出しだ。
要するに、誰かが死んだから教室に早く来いってアナウンスだ。
全く、【人狼】は恐ろしいねぇ…… モブにも容赦ないとか……。
皆の前で演技をするために、僕は他人事のように振舞って気持ちを切り替えていた。
僕は軽く身支度を済ませて教室へ移動し、僕が教室の席に着くと部屋が暗くなった。
ピエロ男はヤケに嬉しそうな声でクラスメイト全員に話しかけてきた。
「はーい、皆さん!! Lookルックーー!!」
ココから始まったのは、祈里が襲われた時と同様に襲撃の映像がモニターに映し出された。
「今回の【人狼】は、ゲーム開始初日から市民を殺害していくんだね。
怖いねぇー!! 恐ろしいねぇ!!
次は貴方の元に襲いに来るかもね!! アヒャヒャヒャ」と、ピエロ男は余計な一言を残していった。
再び、人狼による襲撃が起きた事実にクラスメイトが騒然としていた。
「この人殺しが出てこいよ!!」 という声や、「次は私が狙われるかも」という恐怖に泣き出す子もいた。
「みんな、落ち着こうよ!!
僕達が生き残るには、【人狼】を、みんなの力で探し出すしかないよ」と、僕はそれらしい事をクラスメイトに言っておいた。
「そうだね、その件に関しては人吉君の意見に同意するよ。
誰が、人狼か見極めるためにも昼の会議を始めよう」と、小西が会議を進行し始めた。
「まず最初に、前回の占いの結果を聞こうじゃないか」
小西の進行に対して、山下さんが挙手して占い結果を言い始めた。
「前回の会議の流れと、野瀬さんに提案されて人吉君を占いました。
占い結果は【白】です、人吉君は人狼ではありません」
あっ、苗字読みに戻ってる。
そっか、ココで僕を名前呼びしちゃうとへんな疑いかけられるしな。
「嘘よ!! 山下さん、人吉君を名前呼びしてたじゃない!!
アナタ、人吉君を庇ってるんだわ!!」と、野瀬がムキになって言い始めた。
「おいおい、野瀬さんよ……。
【占い師】の結果だぜ? 信じれないの?」
「私が占ったわけじゃないから信じれないわ!!」と、野瀬が言い切った。
同じ役職の山下さんは、野瀬さんの言動を不快に感じているような表情をしていた。
「おーい、小西君。 この場合はどうするんだ?
会議を仕切ってんだから対応考えろよ!!」と、僕は小西に話を飛び火させてやった。
「えっ!! それは」状況を掴めない小西が少し戸惑っていた。
しばらく考えて、小西は発言した。
「たしかに野瀬さんが、人吉君の事を疑う気持ちもよくわかる。
それなら、次は野瀬さんが人吉君を占ってみてはどうだい?」
「ちょっと待てよ!! 占い師の回数を増やすことの意味わかってんのか小西!!
人狼の襲撃で、クラスメイトが一人余計に死ぬんだぞ!!」
僕の発言にクラスメイトがざわつき出した。
「人吉君。私は貴方が信じられない」と、野瀬が言ってきた。
「へぇへぇ。
立派な思考ロックですね。
こんなんじゃ僕の占い結果に【白】が出ても、君が騙って【黒】とかいう、クラスメイトのみんなに対する裏切り行為もやりかねないね。
いや、その場合はキミが人狼なのかな?」
「違う!! 私は人狼じゃない」
「それならいうよ。
僕も人狼じゃないし、山下さんに占い結果で【白】をもらってるよ?
クラスメイトの事考えず、もう一度僕を占う行為は市民側に対する利敵行為だと思うけどね」
「それでも、私は貴方が疑わしいの!!」
「へぇ、そりゃどうも!!
それじゃ、次の占い結果で僕に【黒】を出してきた際は、彼女を先に吊ってください。
それで僕は、その次の処刑されることになっても文句ありませんので」
「えっ!!」と、野瀬が驚きのあまり声を上げた。
「えっ!! じゃないでしょ?
市民側に利敵行為を行なって、すでに占いの結果が出てる人間に対して、【黒】を出して結果を騙るんだから、その場合は君か僕にしか人狼はいないでしょ。
そうなった場合、一番疑わしいのはキミだよ。野瀬さん」と、僕は笑顔で言ってあげた。
「まぁまぁ、人吉君。
それは次の彼女の占いの結果を見てから決めようよ」と、小西が日和ってきた。
まぁ、これで野瀬も占い結果を騙った場合=自分の死という事を理解できただろう。
「それで僕は【白】をもらったんだけど?
前回に引き続き、僕はまだ処刑位置なのかい? 小西君」
「いや、流石にそれはないだろう」
「そりゃ、どうも」
案の定、野瀬の占い師が怪しい論や、いろんな論がクラスメイトから出てきていたが、結局は誰も処刑位置には上がらなかった。
「次に探索班からの連絡だが、前回の探索で人吉君をパーティから除外する事を決めた。
今後は僕達が探索班の主力となる事を市民班は理解しての欲しい」と、小西が僕のパーティ除外を皆に告知した。
まぁ要するに、市民班に資金提供を惜しみたいんだろ。
「それはどういう事だ!!」と、鍛冶屋の金子が言った。
「ここから先の戦いで一層、僕達の戦闘は激化すると思う。
より強い装備を整えるため、僕達の稼ぎは僕達で管理する」と、小西が市民班にお金を落とさない宣言をした。
「そこの元人狼の、パーティをクビにされた人が市民班の為にお金稼いでくれるでしょ」と、御影が皮肉を言ってきた。
市民班が、「横暴だ!!」「ふざけんな」などと、罵声を小西達に浴びせたが小西達は無視を決め込んでいる。
小西達も探索で生き残る為に必死なんだろうな……と、そこの部分だけは理解していた。
「あー。
ちょっといいかい」と言って、僕は挙手した。
「小西達の言い分も多少はわかるよ。
現に5人パーティで探索の難易度が上がって二階分しか先に進めなかったもんな」
「あぁ、そうだ!!
君が僕達のフォローしてくれるなんて、どんな風の吹き回しだい?」
「いや、それは事実だし。
クラスメイトの皆も理解しておいた方がいいと思ってね。
まぁ、僕はどうせソロパーティだから、すでに攻略済みの階をソロ狩りで稼ぐ予定だ。
その稼ぎを市民班の方に流すから、それで市民班は納得してくれな」
「まぁ、それなら……」と金子は言った。
「僕にここまでさせるんだ、君達は気合入れて攻略しろよ!!」と、僕は言っておいた。
「フン、役立たずに言われたくないね」と、小西が言い返してきた。
僕と小西達のパーティと険悪のまま昼の会議は終了した。
そして、一人で夜の時間を過ごし人狼会議の時間になった。
モニターはついているがモニターの先には誰もいない。
さてさて、今日はだーれをやろうかな。
「よし、君に決めた。
モブBさん、おめでとうございます!!」と、僕は独り言をつぶやいていた。
誰もいないモニターの先にヒョコッとピエロ男が顔を出してきた。
「いやぁ、人狼君。
襲撃相手を選ぶのに躊躇なくなってきたねぇ」
「何か問題でも? 」
「いやいや、普通は良心の呵責がぁーだとか!!
僕にはそんなことできないよっ!!(キリッ) とか、あるだろう」
「何言ってんの? これはゲームだよ。
だから、僕はゲームの勝利に向けて進んでるだけだよ」
良心の呵責? そんなもの……佐々木が処刑された瞬間に捨てたに決まってるだろ。
「おおぅ、怖い怖い。
それじゃ、もっと面白いShowを私に見せてくれよな。人狼君」
ピエロ男は言葉を残して、モニターの先から消えていった。
次の会議で、野瀬が僕に対して【黒】と騙ってくれば、僕はその次の会議で死ぬ。
【白】となってしまえば、完全に市民班扱いになってしまうので、僕は昼の会議で市民班の連中を強引に吊り推せるようになる。
友人を殺した連中を処刑する流れに持っていって、それ以外は助けるようにフォローすればいいだろ。
まっ、野瀬が死を覚悟してまで、【黒】騙りが出来るわけがないと解っていた。
その為、これ以上は無駄な考察だなと考えて僕は眠りにつくことにした。