19.人狼ゲームの始まり
「最深階の30階!! 攻略だ!!」と、小西の威勢のいい掛け声が上がった。
【人狼】の僕は、こんなクソゲー世界にうんざりしていたので、こんな世界から現実に早く戻らせてくれと考えていた。
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「3_A組の諸君。いや、勇者の一行かな。
このダンジョンの最深階に到達おめでとう!!
君達の勝利の暁には、なんでも一つの願いを叶えてやろうと言ったのを覚えてるかい?
私は君たちの願いをかなえることができないんだ」
「ふ、ふざけるな!! 最深階まで、クリアしただろうが!!」と小西が謎の声に対して罵声をあげていた。
「いや、脱出の為の条件をクリアしただけで、追加条件はクリアしてないぞ」と、僕は言った。
小西が罵声を上げていたので逆に僕は冷静になれたので気づいた。
「そう、市民として君達の勝利はまだ確定していない。
私が言っている意味が解るかい?」
勇者の役職を持つ小西が謎の声に対して声を上げる。
「それは、オレ達にクラスメイトの【人狼】を殺せって事か?」
そう言って、小西は僕と佐々木に視線を向けてきた。
……
…………
しばらく返答を待ったが……
小西の声は謎の声には届かなかった……。いや、返答がなかった。
返答がなかった為、小西は「教室へ戻ろう」と皆に同意を求めた。
拠点へ戻ることに異論がなかったので、全員がそれに同意した。
小西が言っていた【人狼】とは、ダンジョンの攻略に人狼ではあるが探索班として加わっていた人狼の僕と佐々木のことである。
友人の佐々木は、人狼としての職務(クラスメイトの殺害)を放棄して、ダンジョン攻略を手伝う旨を伝え役職をクラスメイトに公表した。
その結果、人狼と市民班が協力してダンジョン探索を行い現在の最終階への到達出来たのだ。
ちなみに、僕はクラスメイトを信用していないため人狼であることは伏せている。
(一部例外はあるが……)
純粋に友人の佐々木がダンジョン探索に出ているから、それに追従している形で僕はダンジョン探索に出ている形を取っていた。
今まで協力してきたの僕達を、クラスメイトの皆が自分の願いのために裏切るなんて? あ、あるわけがないよな?
あるわけがない……あるわけが……ない。
僕達、【人狼】は皆が無事に元の世界に戻る為に協力してきたんだ。
最後に裏切りなんてないよな?
僕達のパーティは最深階30階から、拠点のある1階へと戻ってきた。
ゲームマスターの差し金かお誂えと言わないがばかりに、教室内に処刑用の壇上ができていた。
普通だと翌日に行われる昼の会議が、最新階到達ということで、帰還直後に会議が開かれた。
そこで僕と佐々木のダンジョン攻略班は処刑会議なる議題のやり玉に挙げられた。
いや、人狼である友人の佐々木が会議のやり玉に挙げられた。
佐々木が人狼であることをカミングアウトをしたため、完全なる【黒】がわかっている。
最後の最後に勝ちが確定した盤面で、クラスメイト全員が人狼の僕達を裏切ったのだ。
いや、クラスメイトは欲に駆られて報酬を取りに来たが正しいだろう。
あれよあれよと、佐々木が人狼である事について議題を上げられた。
クラスメイトの冷たい目が人狼である佐々木に向けられた。
「この人殺し!! 死んで償え」
「戻ったら、俺たち金持ちジャン」
「人狼の連中は、すでに人殺しなんだ。
ボク達がヤツらを裁いても問題ないさ!!」
……
…………
「おい、待……(てよ)!!」と、僕はクラスメイトに怒鳴ろうとすると。
佐々木は、僕の方をみて首を振った。
この流れに突っ込んでくるなと僕の方を見て静止をかけてきた。
いやいや、おかしいだろ。
なんで、僕達が殺し合いなんかしてるんだよ。
【勇者】の小西が話し合いの決を取った。
「裏切り者の【人狼】の処刑に賛成の人間は挙手してくれ」と言った。
処刑に躊躇して、手を上げないもの……
勝ちを確信して、笑って挙手するもの……
流れのままに、挙手するもの……
様々いたが、結局は僕の友人が吊られることが決まった。
そして、佐々木は必死の抵抗をしたが……
小西達や市民班に押さえつけられ、壇上へ引きづられていき佐々木は首を吊られた。
最後の【人狼】の僕は友人を助けることもできず、その流れを見守ることしかできなかった。
そして、【人狼】の処刑が済んだ時、謎の声が再び聞こえてきた。
「約束通り、君達を元の世界に返してやろう。
今日は個室に戻り、各々の部屋の備え付けのポストに願いを書いて手紙を投函してくれたまえ」
謎の声がそういうと、首を吊られた友人の姿も見えなくなってしまった。
ゆ、許せない……コイツら。
友人がいた虚空を見ながら、僕は涙していた。
僕達、人狼側はすでにノルマを達成して、いつでもリタイア(ダンジョン脱出)できたのに……
僕達がコイツらを救う価値あったのか?
今は姿が見えない友人に無言で問いかけていた。
友人から返事は当然返ってこなかった。
許さない……許さない……許さない……
皆が個室に戻るのにあわせて僕も自室へと戻った。
そして、僕が謎の声の主に対して書いた願いは……
【コイツら全員、皆殺しにするチャンスをくれ】
……と手紙に記入して、部屋のポストに投函して僕は一眠りすることにした。
◇◆◇◆
部屋にいた僕は小西の叫びに近い声で目覚めた。
「何故!! オレ達がこの世界にいるんだよ!!
オレ達は人狼を殺して助かったんじゃないのか?
約束はどうなったんだよ!! オイ!!」と、小西が罵声を上げていた。
僕は部屋の中にいたが、ザワつきを感じ取ることができた。
なんだ、そういう事か。
僕は全てを……謎の声の主の考えを理解することができた。
【コイツらを殺すチャンスをくれたんだな】
今までのヌルい人狼ではなく、僕は本当の【人狼】になる。
ただ巻き込まれただけの僕達(人狼)を平気に殺してしまう悪魔のような連中だ。
人狼の僕が一人残らずコロシテヤル。
そんな気持ちを胸に秘めて僕はターゲット達がいる大部屋へ向かった。
……
…………
個室から、大部屋へ着いた時……
再び謎の声が聞こえてきた。
「はい、皆さん全員揃ってますね?!!
おはようございます」
なんとも、拍子抜けするように普通の調子で謎の声が僕達に話しかけてきた。
それに対して、小西が謎の声に対して罵声を上げた。
「ふざけるな!!
オレ達は、オマエの無理難題をこなしてダンジョンをクリアしただろ!!
なんで、元の世界に帰れないんだ!!」
謎の男は急に笑い出した。
「あははははは!!
面白い!! それは誰もが元の世界へ帰りたいと願わなかったからだよ。
皆、お金持ちになりたいだの……
イケメンで金持ちの彼氏が欲しいだの……
元の世界に戻った後の願いを書いていたね。
この世界から戻れたら、君達の願いを叶えてみせるよ」
「ふ、ふざけるな!!」
小西や取り巻きが罵声を上げて、クラスメイト全員が罵声を上げ謎の男に反論していた。
「おやおや心外だねぇ。
私としては、君達の願いを叶えるつもりだよ。
元の世界に戻りたいと書いてくれれば、その子だけは、 この状態でも元の世界に帰したさ。
じゃあ、ここからが本題だ!!」
謎の男の姿が大部屋にあるスクリーンに映し出された。
ピエロのような格好をして、人を馬鹿にしたような姿をしていた。
「君達が帰れなかった理由はね。
君達を皆殺しにしたいと思っている【人狼】が、キミらの中に生き残ってるからさ……
あははははは!!」
ピエロ男は、スクリーン越しに僕達全員を指をさしてスライドさせるようにしてから言った。
「君達が殺した人狼君。
アレを許せなかった残った人狼の仲間がね。
【コイツらを皆殺しにするチャンスをくれ】って、望んでくれたんだよ。
いやぁ、楽しいねぇ!!
このまま、ゲームを始めると面白くないので役職は振り分け直させてもらおうか。
それと前回は30階まで到達したんだし、次は50階を目指してみようか」
……‥と言って、ピエロは下卑た笑いを浮かべスクリーンから消えていった。
クラスメイト全員が誰が人狼かわからないため、人狼を警戒するように全員を見回していた。
さぁ、クラスメイトの諸君……楽しい人狼ゲームの始まりだ。