17.人狼カミングアウト
探索から帰還し、謎の山下さんからの名前呼び事件(仮)から退避し。
僕は翌日の昼の会議まで、眠りにつく事にした。
……
…………
二回続けての長期探索だったため、疲れも溜まっていたのか昼の会議の開始時刻まで僕は眠っていた。
目が覚めた。
胸にかけている懐中時計を確認すると、そろそろ昼の会議の始まる時刻だ。
前回の収入で追加した個室用のお風呂でシャワーを浴びて、身支度をして教室へと移動した。
占い師の情報の漏えいのせいでザワついているのではない。
先日の山下さんの名前呼び事件(仮)のせいで、ザワ……いや、浮ついているのだ。
僕が、この浮つきの渦中にいるのは理解していたが、それを軽くスルーして教室の席に着いた。
とりあえず、市民班からの諸事情関係の報告から始まる。
続いて探索班の稼ぎについての報告が終わり、昼の会議が始まった。
会議が始まると同時に佐々木が挙手を行なった。
クラスメイトの皆が佐々木の行動に驚いていた。
……と、言うより僕自身も驚いていた。
小西は状況を掴めないが、佐々木が何かやるつもりなのを察して手振りで佐々木に話して良いよと合図を送った。
「今回の会議の進行は、僕にやらせて頂けませんか?」と、佐々木がみんなに対して言った。
クラスメイトのみんなは顔を見合わせてどうする? ……的な表情をしていた。
昼の会議に関しては、小西が進行しても佐々木が進行しても対して変わらないだろうと皆が判断して、佐々木が今回の進行を務めることになった。
「僕が進行役で問題ないみたいですね。
クラスメイトのみなさん、ありがとうございます」と言って、クラスメイトに向けて佐々木は頭を下げて礼をした。
「それでは今より、昼の会議を始めます。
まず最初になんですが……
今日は占い師の占い結果から発表して頂けますか?
前回は山下さんだったから、今回は野瀬さんかな?」
野瀬は占い師の指定を受けたことで立ち上がった。
「はい。前回の占い結果は市民班を占って【白】でした」
あぁ、よかった……。山下さんは僕を裏切らなかったんだなと理解できた。
あっ、その為に佐々木が進行役を買って出たのか?
「そっか、野瀬さん。
市民班への【白】出し把握しました。
次に話し合いの内容なんですが、今日の会議の中心人物は僕です!!」と、佐々木が言い始めた。
ん? 佐々木、お前は何を言い出してるんだ? ……と内心思い、僕は佐々木の行動を理解していなかった。
「僕は、クラスメイトの皆さんに……
僕が【人狼】であることをカミングアウトします!!」
ちょっ!! おまっ!!! いいこと思いついたって、その事かよ!!
正気か? 自分から吊り位置に行くとか正気か?
佐々木のカミングアウトにクラスメイト全員がザワついている。
小西が佐々木に対して問いかけた。
「佐々木君、冗談にしては笑えないよ。
そう言うのは、人吉君がやるものだろ?」
ひ、ひでぇ!! 小西が僕のことをどう思ってるか、よくわかる発言だった。
小西の発言に、ニヤリと佐々木は笑った。
「冗談じゃないよ。僕が正真正銘の人狼だ」
「君がカミングアウトしてきたのには何か意図があるんだろ?」と、小西が言った。
「よく聞いてくれたね。
僕達の探索班は現在26階の探索まで終了している。
あと3階ほど階層を進めれば僕達はゲームクリアできるわけだ。
市民班も探索班もそれは理解してるよね?」
「あぁ、佐々木の言う通り。
うまくいけば次の探索でクリアできると思うぞ」
僕は先日話をしていたこともあり意図を理解できたので、僕は佐々木のフォローに回った。
そのフォローに、クラスメイトが おーーー!!と、沸いた!!
嬉しさのあまり泣き出す子や、喜びを感じている人や様々の反応を見せていた。
「そこで、今日吊り位置に上がったのは僕だ。
探索班に聞くよ、僕の力抜きで30階のボスに勝てると思うかい?」
なるほど……
そういう事か、佐々木も僕がやろうと思ってた事を考えてたんだな。
「まず、小西君達に聞いてみようか?」
小西達は顔を見合わせて相談していた。
「26階まで、来れたんだきっとやれるはず」と、小西は言った。
「それじゃ、僕の相方を務めている拓郎に聞こうか」
「おいおい、小西。お前ら、15階で死にそうになった事もう忘れたのか?
僕は少なくとも、お前らに背中とか死んでも預けたくないぞ。
それに今現在の26階の探索だって、僕と佐々木二人で到達した階層だ。
これで、30階の踏破を出来るとか慢心しているあたり全滅は確実だな」と、僕はハッキリと言ってやった。
僕にハッキリと否定され、小西達は非常にバツの悪そうな表情をしていたが、それはどうでも良い話だ。
引き続き、佐々木が話を続けていた。
「結論から言わせてもらうと、人狼側はクラスメイトを襲撃する意思は微塵もない。
それは先日に襲撃が起きなかったことで、理解してもらえないだろうか」と、佐々木が言った。
「とりあえず、クリアできると舞い上がってる人もいるから言っとくぞ。
ココで佐々木が死んだら、探索班は完全に詰むぞ!!
誰が、探索班のエースプレイヤーなのかを理解してくれ。
当然、僕じゃないぞ?
佐々木がフォローしてくれたから、僕達、二人でもダンジョン探索で通用してたんだ」
……と、僕は念押ししてクラスメイトに言った。
僕の言葉を聞いて、佐々木は笑みを浮かべた。
「占い結果が【白】と出た以上、今日の吊り位置は僕だ。
ただし、人狼側には襲撃の意思はない!!
更に僕は探索班の中でもエースプレイヤーだ。
皆が生きて帰る為の選択はわかるよね?」と、佐々木はクラスメイトに説明を行なった。
結果は無投票だった。
その日、【人狼】の佐々木は吊られることはなかった。
僕は、昼の会議から生き残れた佐々木とハイタッチを交わした。
僕達、【人狼】が生存できるルートを僕達は見つけることができたのだ。
その喜び故のハイタッチである。
昼の会議が終了し、僕は人狼会議が始まる前に佐々木の部屋を訪ねた。
僕は佐々木に部屋に案内され、椅子に座り話し始めた。
「勝ったな……」と、僕が言うと。
「あぁ、勝ったな」と、佐々木が返してきた。
「やるねぇ!! アレは無理だわーー!!
自分から吊られ位置に飛び込むか普通?」と、僕は言った。
「いやいや、拓郎が山下さんにカミングアウトした理由も同じような理由だろ」
「まぁそうだけど、全員の前で人狼カミングアウトは凄いよ。
絶対、胃に穴が開くわ」
「人狼会議は今日は無しでいいよな」
「あぁ、それで良い」と、僕は言った。
「後は30階を踏破するだけだな……。
僕の仕事はそこまでかな」
「そういえばさ、既に狼側の追加勝利条件って達成してね?」と、素直に疑問に思っていたことを聞いてみた。
「達成はしてるけど、クラスメイトをこのまま放置してはいけないだろ。
それに拓郎は、山下さんと名前呼びの間柄になっちゃって……」
「そう言うんじゃ、ないって……
言ってて悲しいけどな」
「そうか……」と、二人とも素に戻った。
「それは良いとして、明日は頑張ろうぜ!!」と、佐々木は言ってきた。
「おう!!」と言って、お互いの拳を突き合わせてから僕は個室へ戻った。
その後の人狼会議は1秒で終了し、翌日の探索のためしっかりと眠りにつくことにした。