15.カミングアウト
クラスメイト自らの手で人狼を……いや、人間を処刑した。
僕は、このクラスメイト達に対して強い不信感を覚え始めていた。
脳死している【守り手】連中……
同調するしか能のない市民連中……
僕達に迷惑をかけることしかできない無能勇者ども……
僕が好きな山下さんにでさえ多少の不信感を覚えている。
僕は人狼に対しての【黒】出しの行為は危険な行為だと、注意したにもかかわらず彼女は能丸に【黒】を出したのだ。
占い師として、市民側として、その行為は正しいことなのだろう。
結果、【霊能者】の祈里が死んで、【人狼】の能丸は処刑された。
今回の件で、順調だったダンジョン攻略が一転してきている感がある。
もう、無能勇者は無視して僕達だけで、30階の探索をしてしまった方が早いのではないのだろうか?
……と、考え始めていた。
「えいっ!!」と言う声を出して、佐々木が僕の頭にチョップを入れてきた。
「何すんだよ!!
人が考え事してんのに」と、佐々木に突っかかるように言った。
「余計な事考えんなよ。
僕達がクリアしてしまえば、これ以上の犠牲者は出ないさ」と、佐々木は僕の考えを読んでいるようだった。
そして、僕達二人は自室へと帰っていった。
「そうだな……。
こんな所、早く抜け出したいな」と、僕は誰に言うでもなく一人で呟いていた。
僕は自室に帰り 、夜の人狼会議の開始時間を待った。
……
…………
コン、コンコンと、ノック音が聞こえた。
山下さんがノックをしています対応しますか?
▶︎YES
NO
えっ、こんな時に山下さん? なんで?
「どうぞ!!」と、僕は扉越しに言った。
「お邪魔します」と言って、彼女が僕の部屋に入ってきた。
「ど、どうしたのかな?」と、僕は正直に聞いてみた。
「あのね、聞いてもらいたいことがあるの」
「いや、僕じゃなくとも……
小西とか、変な奴だけど佐々木とかのほうが僕より相談事には向いてると思うけど?」
……と、肝心なところで日和るのは、僕の女性耐性の低さがもたらす結果である。
僕の発言を否定して彼女は首を振った。
「ううん、人吉君に聞いてもらいたいの」
「な、なんで?」
「この前、私達に注意してくれたでしょ」と、彼女が言ってきて全て腑に落ちた。
「あぁ、なるほど……。
わかった、聞ききましょう」
「あのね、私が能丸君と祈里さんの事を殺したのかな?
能丸君に投票してないよ、私。
なんで? みんな、クラスメイトの事を平気に殺せるの?」
「やっぱり、その件だよね。
僕は佐々木と同意見で、コレは事故だったと思ってるよ。
けど、彩子さんの市民班での扱いを聞いたら……
正直、事故とも言い難いと思い始めてるよ」
「事故じゃ無いって事は……やっぱり」
「ストップ!!その思考は良くないよ。
山下さんは、市民班として【占い師】として仕事をしただけだ。
悪いとか悪くないとかは考えない方がいい。
能丸の遺言聞いただろ、単なる喧嘩レベルで人の生き死に繋がるんだよ。
だから、ミスは許されない……って、みんなにも言ってるつもりだけどね」
「それなら、私はどうすればよかったの?」
「キミが信用に足る相手と思えば、占い結果を騙っちゃえばいいと思うよ。
少なくとも人狼はクラスメイトを殺すつもりはないって、能丸の遺言にもあったからね」
「騙る?」
「黒が出たなら、白ですって嘘を言ってしまう事だよ。
【占い師】の仕事としては邪道かと思うけど、人としての真目は上がると思うけどね」
「じゃあ、そのまま結果を正直に言い続けていたら何になるの?」と、彼女が聞いてきた。
「この状況に陥って、そんな状態で結果しか話せない占い師なんて人間じゃないと僕は思うよ。
そうだね。ただのゲームの駒って感じかな」
「駒かぁ、それじゃ。
誰も信用してくれないよね」
「そんな難しい事じゃないよ、自分なりに色々と考えれば良いんだよ。
いるであろう【守り手】三人が、脳内お花畑の脳死状態で小西達を守ってたんだろ。
今回の件がゲームだとしたら大戦犯はそいつらだし、山下さんはそんな気に病まなくて良いよ」
「ゲームだったらか……」
「そう、誰が悪いかって言い切るなら僕も悪いさ。
市民班に入らず探索班として活動してるんだからね」
「それは違うと思うよ」
「違わないさ……」と、僕は言った。
「うーん、なんか良い感じにまとめたいけど思いつかないなぁ。
んー? あっ、そうだ。
つまり、みんなが悪いって事にしとこう。
だからこそ、皆で考えていかないとこの先もこんな事が起きそうではある」と、結論を僕が言った。
「ここから先の事を考えるしかないのね。
そして、自分でも考えて動くって話よね?」と、彼女が僕のまとめについて返答した。
「まぁ、内心はさ……
さっさとダンジョンを攻略して、ココから脱出したい」
「あはは……
やっぱりそうだよね」
「とりあえず、僕の考えを君だけに伝えるよ」
「聞かせてください」
「人狼は市民側に敵対するつもりは微塵もない」と、僕は唐突なカミングアウトを行なった。
「えっ!? それは、どういう意味?」
僕は自らの胸に拳を当てるようにして言葉を発した。
「僕が【人狼】だ」
「えっ!?」
「正直な話。
僕が【人狼】とバレても僕は処刑される事はないと思っているからね。
そして、今から僕は夜の襲撃を行う人狼会議に参加する必要がある」
「つまり、私に【人狼】がバレても私を襲撃出来ると?」
「しないけどね。絶対に……
そんな事するようなら、人狼のソイツをぶっ殺してでも山下さんを守るし」
「そうなんだ……。
けど、私が明日生きてれば……
拓郎君は私を襲撃しなかったって事だよね」
「えっ!? 拓郎君って名前呼び?」
「だって、秘密を知り合った仲だし」
「あはは、参ったな。
とりあえず、山下さんに宣言しておくよ。
僕がみんなを最終階まで必ず連れて行く。
だから、君も人狼を信じてくれないか」
「信じる」と、彼女は言ってくれた。
「ありがとう」と、言って僕達の話はお開きとなり、彼女は自室に戻り。
続けて人狼会議が始まった。
「拓郎。今日は僕の部屋に来なかったけどなんかあったか?」
「能丸の件があって、遊びに行く気分じゃなかったんだけど、山下さんから相談を受けてさ」
「初々しいねぇ……
それで恋の進展は?」と、佐々木が悪ノリして聞いてきた。
「すまん。
山下さんに僕が人狼だってカミングアウトしてしまった」
「ハァ? 恋は盲目だねぇ。
バレたとしても、拓郎がつられる事は無いだろうから良いけどさ」
モニター越しで佐々木の様子をみていると佐々木が何かを思いついたような感じだった。
「あっ、そうか良い方法を思いついた。
拓郎、お前が驚くような方法で僕がゲームクリアまで導いてやるよ」
「へぇ……
僕の失態から、名案でも思いついたようだな」と、僕は佐々木に期待の言葉をかけた。
「まぁ、見てなよ」と言って、ブツブツブツ……と、佐々木が独り言をつぶやいている。
「まずは、拓郎の件があるから占い師から結果を言わせるのが前提だな。
裏切られてる可能性もあるし」と、失礼な事を佐々木がつぶやいてた。
「おい!! そんな事はない!!
僕は彼女を信じる!!」と、佐々木に言い返した。
「おぉう、すまない聞こえてたか。
とりあえず、今日の襲撃は無しな!!」と、佐々木が言って人狼会議が終了した。
そして、探索開始まで僕は眠りについた。