14.襲撃
昼の会議の後、僕は誰の部屋に行く気にもならなかった。
只々、僕達がもっと彩子の事を気にかけてれば、自殺なんて事にはならなかったんじゃないのかと悩みは深まるばかりだった。
そんな無駄な時間を過ごしていたら、人狼会議の時間が始まった。
正直な話、気が重い。
自室のモニターに映像が映る。
モニターに映っている映像は、僕と佐々木と能丸のものだけだ。
気が重かったが僕は言葉を先に発した。
「佐々木、能丸。
今日も襲撃なしだよな?」と、二人に問いかけた。
「あぁ、そうだ。
ここで争そうより、ゲームクリアを目指そう」と、佐々木が言った。
そ、そうかそれなら良かった……。
そ、そう思った矢先に能丸が、「すまんな二人とも、俺は祈里の奴が許せない」
「やめろって、そういう冗談は笑えないって」と、僕は能丸に言った。
「すまん。
もう投票済みだ」と、能丸が答えた。
[ここで祈里を襲撃すると、お前まで死ぬことになるぞ! ]と、僕は言いたかったがそれはわかった上での投票だろう。
僕も佐々木も投票を放棄していたので、票を入れてしまった能丸に関しては諦めるしかなかった。
今日の【人狼】と【霊能者】のやり取りを見て、三人のうち一人でもいいから【守り手】が、祈里を守ってくれるのを期待するしかない。
「本日の人狼会議は、祈里に1票で祈里への襲撃が決定しました」と、佐々木が会議を締めた。
そして、モヤモヤして眠れないまま夜が終わった。
昨日の決定の段階で、襲撃が行われているハズ。
生存の確認の為に、祈里の部屋をノックしてもいいが……
探索班の僕が、そして人狼の僕が確認を行うと色々と拙いと理解している。
だから、僕と佐々木は祈里の件で何か行動を取ることは一切無かった。
それと僕達のパーティは、探索に出ず教室内で待機していた。
今日は、小西達がボスモンスターに挑戦する予定なので、一応は念の為ではあるが……
探索に出るのを二日遅らせている、いざという時に小西達を救出に向かうためだ。
(教室からダンジョンの階数の指定はできるが、ダンジョン内からの階数の指定が出来ないため)
なにもしない、コレが無為な時間というヤツだろうか?
そして、二日目に入った直後に【緊急招集】が入った。
小西が【緊急招集】を行いました。
場所:16階入り口
【オレ達でボスモンスターを倒したぞ!!】
小西達やるじゃん……。
久しぶりにいい情報を聞けた気がするよ。
僕達は小西達の無事を確認できたので、僕達も探索に向かうことにした。
「よし、拓郎。
僕達も気合入れて行くよ!!」と、佐々木が言ってきた。
「今日さ、三日限定の指定破らね?
僕達二人で狩りするのはコレで最後になるし。
ウチらの装備まともに整えられるの今回で終わりそうだし」と、僕は佐々木に提案した。
「あぁ、なるほどね」と佐々木が答えてくれた。
「今回は六日程、探索出てくるからヨロシクねーー!!」と、僕は市民班に向けて話しかけた。
「拓郎は、あの件気にしてないみたいで良かったよ」と、佐々木が言った。
教室内で人狼側の発言をする場合は、言葉を濁し言う必要があるので、
「あぁ、こっちの事を引きずってたら、ダンジョン内では自分自身が危険になるからね」
……と、僕は佐々木に返答しておいた。
僕達のダンジョン探索が、再び始まった。
今回のダンジョン探索は20階の途中から始まり……
そこから六日間かけて、26階に入るところまで僕達二人で探索を進めた。
コレが、探索班としての僕達の強みだ!!
ここまで攻略を進めている僕達が、運悪く占い位置に入ってしまい人狼とバレたとしても、ダンジョン攻略の重要人物として処刑の対象から逃れる事が出来ると予想できたからだ。
そして、僕達は探索を終えて教室へ帰還した。
いつものように、教室のテーブルに六日間で稼いだお金とドロップを置き、鍛冶屋に僕と佐々木用の装備の作成の依頼をかけて自室へ戻った。
精神的にも肉体的にも疲れていた為、僕は自室に入ると同時に眠りについた。
……
…………
本当に気乗りがしない……
人狼側が初めて襲撃を行った。
完全に悪役を探すための会議に参加しなければならないのだ。
僕は自室から教室までの道のりを足取り重く歩いて行った。
そして、人狼側の運命を決める昼の会議が始まった。
僕が教室の席に着席すると、部屋の灯りが消されてしまった。
あぁ……
守り手は祈里を守らなかったんだ……と、全てを察してしまった。
「はーい!! 皆さんおはようございまーす!!
今日は遅刻魔君も定時に来てるなんて、びっくりだねー!!
それじゃ、皆さんモニターを ルック!! ルック!! ルック!!」
と、ウザいくらいに謎の声が煽ってきていた。
彩子の時と違い、能丸が霊能者の祈里に投票を入れた人狼会議の終わった後の時刻が映像に記録されている。
映像に時刻がついていて、いつ襲撃が行われたのかを細かく記録していたのだ。
彩子の部屋と違い、明るめの色調で統一している部屋みたいだ。
それと、いい具合に部屋は散らかっていた。
カメラが奥へ奥へと部屋の奥へと進んでいく。
祈里がカメラの方に視線を向けて!!
「あなた 誰?」と言った瞬間。
……
………
画面が揺れて、一瞬真っ黒になった。
何かで斬りかかるような音だけが聞こた。
微かに……祈里の声がタスケテと聞こえた。
真っ暗な画面が再び元に戻り、赤い液体が広がる床から舐めるようにカメラを祈里に向けて撮影をしている。
祈里は何かの爪痕のような深い傷をつけられ絶命していた。
クラスメイト、一同騒然となり叫び声、鳴き声、罵声、様々な声が飛び交い始めた。
パンっと柏手を打つような音が部屋に響いた瞬間に部屋に灯りがついた。
「それじゃ、私はここで失礼するよ!! 楽しい会議になりそうだね」と言って、謎の声はフェードアウトしていった。
明るくはなったが……
明るくなった部屋で、クラスメイトの視線が全て能丸に向けられた。
この人殺し……
人狼は全滅させるべき……
裏切り者……等、能丸に対する言葉が飛び交っている。
小西が能丸に掴みかかるようにして、「能丸君。祈里さんの襲撃は人狼がやった事なのか!!」と、声を荒げていた。
その質問に能丸は答えなかった。
「能丸君。他の人狼は誰だい?
悪いようにはしないから、教えてくれないか?」と、小西は能丸に尋ねた。
「教えれる訳ないだろ、彩子が死んだ時の祈里を見ただろ。
最初から、人狼を疑ってやがる。俺もお前らの事を信じれねーよ!!」
と、話し合いではなく言い合いになっていた。
「そうか……残念だ」と、小西が言った。
「おいおい、小西君。何が残念なんだ?
まさか、クラスメイトを処刑するとか言わないだろうな?」と、僕は小西に問いかけた。
「僕も、そんな選択したくないさ!!
現に人狼達が祈里さんを襲撃したのは事実じゃないか!!」と、小西が僕に対して言ってきた。
「いや、それでも……」と、僕は言葉に詰まった。
僕は言葉に詰まったが、佐々木が僕の代わりに弁論を始めた。
「待ってみんな、前回の会議で能丸と祈里さんがぶつかってたのを見てたよね?
人狼だからって、あんな扱いする時点で能丸君からすると、祈里さんは相当な怨み買うのは当然な事だと、みんなは思わないのかい?」
「だから、コイツが祈里を殺したんだろ!!」と、クラスメイトの誰かが叫んできた。
「違うそうじゃない!! 人狼は今まで何もしてこなかっただろう?
なんで信じてやれないのかな? そんな状態だから能丸君、いや人狼側は襲撃に出たんじゃないのかな」
と、佐々木が誰かの叫びに対して返答した。
「つまり僕が言いたいのは、コレは事故だと思う点が2点あるんだ」
「何が言いたい、佐々木?」と、小西が聞いてきた。
「まず一点、市民班は人狼に対して都合よく捉えすぎじゃないか?
彩子さんが自殺して色々聞いてみたんだが、彼女が人狼とわかった途端に無視し始めたりイジメに近い事を始めたんだろ?」
佐々木の発言に、クラスメイトがザワつき出した。
「その次の件ね、なんで【守り手】が三人もいるのに、この前の能丸と祈里の件があったのに祈里を守ろうとしてないんだ?
【守り手】の役職に就いている人は脳死しすぎじゃないか?
どうせ小西の言った勇者と魔法使いを守れって言葉を鵜呑みにして、守り先を固定してたんじゃないのか?」と、佐々木は最後は声を荒げた。
「人狼を煽るだけ煽って、殺されないって思ってるなら。
死んだ祈里が考え不足としか思えないよ」と、僕も佐々木の意見に同調した。
「そうだね、君達二人はこの状況でも冷静に状況が見えてるんだね。
けど、祈里も彩子も死んでるんだよ!!」と、御影が泣きながらに言ってきた。
「あぁ、その件は済まない。
冷静に判断しないと、無駄にクラスメイトが命を失うことになるからね」と、佐々木は謝りながらも意見を変えなかった。
「ここで能丸君を処刑すると、人狼側は協力してくれなくなるんじゃないかな?」と、山下さんが言ってきた。
そ、そうだね。
山下さんの言う通り、僕はクラスメイトに愛想をつかすだろうよ。
(ただし、君を除く……)
「わかった……
能丸君を除く27人で、この二択で投票してくれ」と小西が最後のまとめに入った。
・人狼が許せない
・佐々木案のコレは事故と考えるか、人狼を許す
吊り位置にいる能丸は無言だ……。
クラスメイト全員が意思表示を行い挙手をした。
15票と12票で……
結果は能丸が処刑される事になった。
その瞬間、再び部屋が真っ暗になり。
モニターの画面に人狼の能丸が首にロープを巻かれた状態で映っていた。
モニターの中にいる能丸はクラスメイトを見ているようだった。
「せっかく、部屋を明るくしたのにー!!
また、私のお仕事だね!!」と、謎の声は陽気な声を上げている。
この謎の声の主は悪趣味が過ぎる。
「今日の吊り対象のキミィー!!
クラスメイトに遺言はないかい?」と、謎の声が能丸に問いかけた。
「クラスメイトのみんなに言っておく!!
今回、祈里を襲撃したのは俺だけだ!! 残りの人狼は僕の行動を止めてくれてた。
それでも僕は祈里が許せなかった、それだけだ」と遺言を残し、能丸の足元にあった足場が消えて能丸の体が宙にぶらんと浮いている。
能丸は首を吊られて、このゲームから退場する事になった。
処刑の結果を確認したあと、部屋は明るくなり。
モニターに映し出されていた能丸の姿も消えていた。
「はーい!! 人殺しの諸君ーー!!
ねぇ!! 今どんな気持ちぃ? どんな気持ちぃぃ!!
アヒャヒャヒャ!!」と、爆笑しながら謎の声はフェードアウトしていった。