13.犠牲者
目が覚めた……
視線の先は、何度も見上げている天井だ。
胸の懐中時計が、起きる時間を示して音を立てていた。
懐中時計の音を止めて、僕は軽く身支度を済ませて風呂に入った後に教室へと向かった。
身奇麗にして教室へ向かい、僕を待つパーティメンバーと鍛冶屋の金子の元へ移動した。
「おはよう」と、いつも通りに挨拶した。
「おはよう、拓郎。
今日はいつもより少し早いな……」
「おはよう!!
前回、渡し損ねた装備もあるから。
しっかり持って行ってくれよ!!」と、金子が言った。
「あぁ、今日は時間に余裕があるからね。
確認させてもらうよ」と、僕は答えた。
小西達の救出の件で、装備品を受け取り損ねていたので今回は全身の装備品の交換となった。
弓矢も新調したし、属性矢もたっぷりと用意してもらっている。
「へぇ……
新装備も、イイ感じじゃないか」と、僕は素直に鍛冶屋を褒めた。
「へへへ、ボスモンスターの稼ぎは流石に大きかったからな。
二人の装備は奮発させてもらったよ!!
それとな、次の昼の会議で発表になると思うが、料理人が二人いるから食堂をオープンすることになりそうだぞ」
「へぇ、そうなんだ。
それは朗報だね。
みんなが過ごしやすくなれば、心持ちも変わるだろうし」と、僕は言った。
「佐々木は金子と話すことないのか?」
「僕は君が来る前に話を終わらせてるさ」と、佐々木はしっかりと僕に毒を吐いてくれた。
「へぇへぇ」と、僕はやる気なさそうに答えておいた。
「それじゃ、拓郎も準備も済んだみたいだし探索へ行こうか。
今日は18階からだね……小西達と合流する時は16階に戻るだろうし。
今日は、しっかり稼いでおこうぜ」と、佐々木が言ってきた。
「あぁ、そうだな」
僕達はダンジョンに入った。
今回は、18階から20階の探索をじっくりと行い指定の時間まで狩りを続けた。
僕達の装備とレベル共に安定してきているので、苦労することはなく探索は順調に終了した。
ダンジョンの20階から教室へ帰還し、いつものようにテーブルへドロップ品とお金をテーブルに置いていった。
小西達が僕達を待っていたみたいで、僕達に話しかけてきた。
「佐々木、人吉 、13階まで攻略したぞ!!
次は、あの牛野郎にリベンジしてやるから見とけよ!!」と、名取が言ってきた。
「次は、いけるんじゃないかな?
余計な慢心はないだろうし、前回は壊滅はさせられただろうけど、一度戦った相手だし」
……と、僕は小西達に言っておいた。
僕が肯定的な意見を言ってきたので、小西達は面食らっていた。
「ん? 何? その表情は? 僕がいつも突っかかてるとでも思ってんの?
君達は四人パーティなんだし、役割をしっかり理解しておけば苦戦しない相手だと思うよ。
ピンチだったとはいえ、小西はボスモンスターの攻撃一人で耐えてたんだし。
小西がタンクをやって、他が攻撃と役割分けりゃ僕等が倒した時より簡単に倒せると思うよ?」
「役割か……
人吉はあの状況を見て、そこまで考えてたんだな」と、小西が言った。
「15階の攻略とりあえず頑張ってね。
そこからは、僕らも合流するから」と、佐々木が小西達パーティにエールを送っていた。
小西達と話を終えて、僕達は自室へ戻った。
自室に帰った僕は、翌日の昼の会議まで眠りについた。
……
…………
「ピーンポーンパーンポーン」と、間の抜けた声で放送が入った為、僕は飛び起きた。
な、なんだ? 何があった?
「ゲームマスターから大切なお話があります。
昼の会議の前に3_A組みなさま、教室にお集まり下さい」
大切なお話? 今まで何もアナウンスを入れてなかったピエロ男が急になんだっていうんだ?
僕は身支度を行い皆が集合している教室へ向かった。
佐々木が僕に話しかけてきた。
「今日は、拓郎にしては珍しく早く起きてきたね?」
「あのふざけたアナウンスに起こされたよ」と、僕は謎の声に皮肉を言っておいた。
「それはそうと、彩子さんが集まってきてないと思うんだが?
拓郎は彼女を見てないかい?」
見てないと首を横に振って佐々木に伝えた。
「はーい!! 皆さん、お集まり頂きありがとうございます」と、謎の声が言った瞬間に部屋の明かりが全て消えた。
「みなさーん!! 目の前のモニターの映像にご注目下さい」
ん? なんだ?
真っ暗な部屋の中、誰かの個室であろう部屋がモニターに映し出された。
ダンジョン内の部屋という事は、なんとなくわかる。
整理整頓もされて綺麗に内装されていて、女性の部屋っぽいなとなんとなく予想ができた。
少しずつ、映像は部屋の奥へ奥へと進んで行く。
あの後ろ姿は……彩子さん?
しかし、彼女の首に縄をくくり宙に浮いている状態で彼女の足元には水だまりができていた。
えっ!? ど、どういう事だ!?
僕は軽く混乱しそうになった瞬間、周りでも女の子の叫びや人の死ぬ恐怖による泣き声が出始めた。
「はーい!! おめでとうございます!!
このダンジョンの初の犠牲者 気弱な【人狼】の彩子さんでした!!
パチパチパチ〜〜」と言って、拍手しながら教室にいる全員を煽ってきた。
「次の犠牲者は誰かなーー?」と言って、謎の男の声はフェードアウトしていった。
「彩子さん!!」 と言って、僕は彼女の部屋に走って向かった。
人狼会議の際に表示されてた番号を覚えていたので、僕は彼女の部屋の前に着いたが部屋は飛び番号になっていて、部屋そのものがなかった事にされていた。
何が起きたのか理解できず、僕は頭を抱えたまま教室に戻っていった。
教室にもどる途中、佐々木も僕を追いかけてきていた。
「拓郎!! 彩子さんは?」と、聞いてきた佐々木に対して僕は首を振って反応したが理解してもらえなかった。
「拓郎!! ハッキリと言ってくれ」
「あぁ、すまん。
彼女の部屋が無かった事にされていた」と、僕は佐々木に答えた。
「わかった……。
とりあえず戻ろう皆も心配している」と、佐々木が言った。
重い足取りで教室へ戻り、教室に着くと同時に皆から質問をされた。
・彼女はどうなったと?
・あの映像はなに?
・首を吊ってなかった?
「あの映像が本物ならば……
占い師の黒出しの結果の自殺だと思う。
それと、彼女の部屋自体が無かった事にされていた」と、僕が言うと周りが騒然となった。
騒然としている中にも、いろんな憶測の言葉が飛び交っている。
・人狼が口封じの為に殺した
・市民班が虐めていた
・彼女を殺したのは占い師の野瀬だ!!
など、収集がつかなくなっている。
や、ヤバい、この状況はどうすればいいんだ?
言葉が出ない……
時刻は昼の会議の開始時間になっているが、会議どころではなくなっている。
その時、ひとりの女の子が「役職:霊能者をカミングアウトします」と言った。
「みんな落ち着いて彼女は【黒】。人狼よ」と霊能者の女の子が言った。
「おい、なに言ってんだよ? 祈里?」と、僕は祈里に対して問う。
「何? ってナニ?
彼女は人狼なのよ!! 私達の敵でしょ?」
ふざけるな……!!
クラスメイトだろ僕達は? 僕達は君らの敵なのか?
そんな考えが脳内に回り続けていた。
そして、僕が祈里に掴みかかる前に、もう一人の人狼の能丸が彼女に掴みかかる。
「ふざけんなよ!! テメェ!!」と、能丸が彼女に怒鳴りつけた。
「ふざけてないわよ!!
いつ私達を襲って来るかわからない輩を信じろって無理な話なのよ」
ヤバい自分も能丸と一緒になってキレそうになった時、佐々木が僕の肩を叩いてくれた。
危ねぇ取り乱す寸前まで来てた。佐々木、サンキュ。
泣きっ面に蜂とはこの事で、占い師の山下さんが占い結果を言った。
「前回の占い結果を報告します。
能丸君 は、【黒】人狼です」
霊能者の祈里を助けようとしていた周りの人間が、能丸から離れていく……
「人狼の汚い手で、私を触らないで!!」と、祈里は能丸の手を振り払った。
状況が悪すぎる……能丸吊られるんじゃないのか? 等と、心配しながら様子を見ていた。
僕は動けずにいたが、佐々木がこの場を収めようと動いてくれた。
「みんな、とりあえず落ち着こう。
占い結果で市民班の能丸君が黒なのは理解した。
霊能者は祈里さんだね、彩子さんが【黒】、つまり人狼って事も了解したよ。
ただ、一つ訂正してくれないか? 人狼の人達もこの場に連れて来られるまでクラスメイトだったでしょ?
敵っていうのは、あんまりじゃないか?」
「そうかもね。
けど、彩子の口封じしたのは人狼なんじゃないの」と、素っ気なく佐々木の問いかけに噛みついてきた。
「こうなってしまうと、能丸が会議にかけられるのかな?
君達は仲間割れがしたいのかい? 僕は処刑するべきじゃ無いと思う」と、佐々木は皆に同意を求めた。
「僕も今日は佐々木君の顔を立てて、能丸君の処刑はなしでいいと思うよ。
ただ、祈里君その考えは頂けないね。
僕達と人狼側は協力関係なんだよ、その考えじゃ歪みが出ちゃうよ」と小西が言って、珍しく僕達の役に立った。
「小西君、ありがとう。
それじゃ、今日この場で能丸君を処刑する必要があると思う人挙手お願いします」
僕は恐る恐る辺りを見回した。
良かった……手を挙げている人はいなかった。
「挙手をしている人はいなかったので、今日の処刑はありません」と、佐々木が話を締めて昼の会議が終了した。