10.緊急招集
コン、コンコン……と、ノック音が聞こえた。
山下さんがノックをしています対応しますか?
▶YES
NO
……と、この辺りはゲームらしく確認を取ってくるんだな。
僕は佐々木の部屋に行く側だから知らなかった。
しかし、山下さんが僕の部屋に何の用だ?
ま、、まさか……愛の告白!?
お、おちつけ、、落ち着け……
「ド、どうぞ」と言うと、扉が開いた。
「お邪魔します」と言って、山下さんが僕の部屋に入ってきた。
「山下さん、こんばんわ。
こんな時間に、どうかしたのかな?」
「えっとね、今日の事で謝りに来たんだ」と、山下さんが言ってきた。
「とりあえず、そこの椅子にでも腰掛けてよ」と、椅子に座ってもらうように僕は誘導した。
その誘導に従って彼女は椅子に座ってもらい、それを見計らって再び話を再開した。
「ど、どう言う事?」
「今日のお昼の会議で、私達に注意してくれたでしょ。
人殺しになるつもりか? ってね。
私達のために真剣に注意してくれてたから、本当に申し訳なくって謝りに来たの」
「そっか、、僕の方こそキツい言い方になってゴメン」
首を振って、山下さんが答えてくれた。
「違うの……人吉君が言ってくれたから。
私達の役職の重さを理解できたの」
「そっか、わざわざ。
ゴメンね……」と、僕は山下さんに言いつつ、この子は本当にいい子だと僕の中での彼女の評価が上がっていた。
けど、僕の部屋で山下さんと二人きりか……
そこはかとなく彼女から石鹸の香りがするし、顔が赤いし髪が少し濡れてる?
……って事は、風呂上がり?
ピエロ男の山下さんに変化した姿が……思い出された。
いかん、いかん……と思いつつ。
清純派黒髪ロングの彼女が髪を洗ってる姿を、軽く想像しつつトリップ仕掛けるところで……
山下さんが僕に声をかけてきた。
「人吉君? どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ。
正直言うと、髪が少し濡れてたからね」
「あぁ、さっきまで女子の入浴時間だったんだよ?
知らなかった?」
「あぁ、僕は市民班の皆がお仕事してる時に、お風呂頂いてるからねぇ」
「そうなんだ。
探索班のみなさんのおかげで生活できてます。
ありがとう」
「いいえ、君のためなら……
ごにょごにょ」と、いざとなるとドモって台詞を決めることができなかった。
「えっ? 何?」
「いいえ、なんでもないです」と、僕は続きのセリフを言うのを諦めた。
「それにしても、大半の資金を市民班に渡してたから、人吉君の部屋って初期状態のままだと思ってたけど、部屋を広く改造してるんだねー」
「あぁ、お金とドロップに関しては本当に渡してるんだけど……
元々使ってた装備とかあるじゃん?
ああいうのを売って金策してるから最低限の拡張とかはしてるんだよ。
流石に初期の部屋の仕様だとネットカフェのスペース並みに狭いしね」
「あはは、やっぱりみんなそんな感じに思ってたんだね」と、山下さんが笑ってくれた。
「うん、自室に風呂もないし……
どーしたものかと、大浴場作ってもらって本当に良かったよ」
「うん、その件は人吉君と佐々木君に本当に感謝してる」
「え? 小西達も市民班に資金提供してくれてるんでしょ?」
小西達と市民班の現状について知ってはいたが念のため確認をとった。
山下さんは、首を横に振ってしていないと教えてくれた。
「えっ? 僕は市民班の人とは鍛冶屋の金子くらいとしか話さないから。
山下さん 、一つ聞いていいかな?」
「良いよ。答えられる事なら答えるよ」
「それじゃ……
僕達が初日の探索から帰ってくるまで、キツかったんじゃないの市民班のみなさん」
「あはは。
そのせいで小西君達と市民班で軽く言い合いが続いてた所に、君達が帰ってきたから小西君から標的にされたんだよね」
「あー、そういうことね。
えっ!? ……という事は、僕は初期装備を奪われ1回目の稼ぎも小西達に奪われたって訳か」
「でも、2回目の探索からは市民班じゃ君達の方が評判良いよ」
「お金を市民班に落としますからね」と言ったら。
山下さんに笑われた。 ああ、守りたいこの笑顔ってこういう事かな。
「あっ、消灯時間だね。
人吉君、色々とありがとね。
おやすみなさい」と言って、山下さんが部屋を出ていった。
この幸せな時間と正反対の時間がすぐにやってきた。
あぁ、気が重い…… 気は重いが人狼会議を始めるために部屋にあるモニターを付けた。
人狼4人とも、モニターの前に座って会議の開始をまっていたみたいだ。
「こんばんわ!!
とりあえず彩子さん、元気出せよ!!
僕達も君を守るように頑張るからさ」と、僕は彩子に言った。
「う、うん」といったが、彩子はこの前と違って消え入るような声だった。
彩子がこの状態では話が弾むわけもなく、会議にさえならないと皆が判断して人狼会議を早めに終わることにした。
「今回の彩子さんの件もあるし、今回も襲撃はなし」と、佐々木が人狼会議をまとめて終わった。
色々と状況が変わりつつある中……
僕達はクラスメイトを信じるしか方法は残されていなかった。
そして、夜の時間がきたが人狼による襲撃は本日も行われなかった。
……
…………
僕の胸にかけている懐中時計が、起床時間を示している。
毎回、佐々木に皮肉を言われているんで、いつもより30分早く起きてやったぞ!!
これで一時間半位は風呂に入れるな。
そんな事を考えながら、遅刻前提で僕は一人で大浴場に突入した。
僕は風呂に入り、ボーっとして何も考えない無為な時間を過ごしていた。
30分程、風呂に入っていると……
小西から【緊急招集】が行われました。
ハッ!? 何事!?
場所: 15階ボスモンスター部屋内
ど、どういうこと?
あいつら、5階から慣らしていくんじゃなかったっけ?
なんで、なんでボス部屋から緊急招集かかるの?
【逃げる】とか【帰還】は使えないの?
……と、風呂の中で僕は困惑していた。
バタバタと忙しい駆け足で、誰かが大浴場に入ってきた。
「拓郎。早く風呂から上がって!!
あのバカ達を助けに行くぞ」と、佐々木の声と共に扉が開かれた。
僕も【緊急招集】で、困惑していたので湯船の中でタオルを巻かず立った状態だった。
佐々木についてきた御影も大浴場にいたので、僕は真っ裸を同級生の女子に見られてしまった。
流石に恥ずかしくなって、湯船に隠れた……。
「ゴメン、御影さん。
着替えるから、大浴場から出てくれ」
「……」
御影は無言で大浴場から出ていった。
御影が大浴場から出たのを確認して、僕は佐々木に話をした。
「風呂入ってるときに、女子を連れてくんなよ。
お婿に行けないじゃないか!!」
「はいはい、 それなら御影にお婿にしてもらおうな。
……って、冗談はその程度にして早く着替えてくれ」
「あぁ、わかった」と言って、僕は湯船から飛び出るようにして着替えを始めた。
「何がどうなってんだ?」
「御影が単独で逃げてきたんだが、ボス部屋では【逃げる】と【帰還】が使用不可らしい。
ボス部屋から逃げれた御影はすぐ【帰還】で戻れたが、他がボスと交戦中らしい」と、佐々木から小西達のピンチについての説明があった。
「クソっ!!
何やってんだあいつら」
「僕達のパーティができる事だから、自分らもできる程度に名取と巻島が言って、戦闘方法を変えて15階に即チャレンジしたらしい」
「はぁー? バカだバカだとは思ってたが……
あの、ウェーイ系の生き物達はトコトン馬鹿だな」と愚痴をいって、頭を抱えたくなる所だが着替えをするのが優先だ。
下着、服よし!! 装備よし!! 準備よし!!
「行くぞ!! 佐々木」
「準備できたか?」と、佐々木が確認を取ってきた。
「あぁ大丈夫だ、時間が惜しい。
僕の分の新装備は後回しでいいから救出に向かうぞ」
と言って、僕達二人は大浴場を出た。
泣き顔の金髪少女が僕達に懇願してきた。
「佐々木ぃ、人吉ぃー。
お願い小西達を助けて!!」
「わかったよ、全力は尽くす」と僕は御影に言った後、ダンジョンへ続く教室の扉へと向かった。