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4.お兄ちゃん勇者になる?

 お嫁さんが好きです、でも妹の方がもーっと好きです。

 そんなこんなで誤解を解きました。

 三人の妹達は抱き合い、(けい)は嬉しそうに跳ねている。おっぱいも跳ねている。


「お兄様かぁ〜。私達家族になるんだね、玖明(くあ)ちゃん、(こう)ちゃん!」


 玖明は「ええ、これからも宜しく佳、幸」と冷静に答えているが、その頬が赤らんでいるのをお兄ちゃんは見逃さない。

 幸はよく分からん。起きてるのか寝てるのかすらわからん。勿論起きてる。よく見ると「うんうん」と頷いているし、お兄ちゃんくらいお兄ちゃんレベルが高いと見逃さないのだ。

 さっきからなに呼び捨てにしてるんだと思っているかもしれないが、妹に強いのがお兄ちゃんなのだ。一歩間違えればクズっぽいよね。


 さて、彼女達が妹になった経緯だが、端的に言うと俺の神威(かむい)が発動した。

 俺が妹になってくださいと言ったところ、妹達の目の前に「(しゅん) 兄道(けいどう)の妹になりますか?」と文字か表示されたらしい。そしてそれぞれの言葉で俺をお兄ちゃんと呼ぶ事で契約が為され、妹になったらしい。田山さんにも、神威で彼女達の家名が俊となっている事を確認してもらった。


 ついでに佳は「お兄様」と呼び、玖明は「兄さん」幸が「あに」と俺の事を読んでいる。個人的にはお兄ちゃんと呼んで欲しいのだが、致し方がない。目指せ妹十二人。


 さて日も暮れた事で今晩は妹達と皆で眠ろうと思っていたが、ところがどっこいそうは問屋が卸さない。

 明日は朝一で魔獣狩りだとよ。田山さんのお守付きとはいえ、俺達兄妹で魔獣なんて狩れるんですかね? 魔獣狩られになる予感しかしないんですが?


 まぁ、そのなんやかんやの準備の為、俺達は孤児院の敷地にある倉庫へと足を踏み入れた訳です。

 異世界の倉庫はこんなに物騒なんですね。武装だけに――。

 勘の良い方は既にお察しだとは思うが、倉庫には所狭しと武器が散乱していた。――もう一度言おう散乱していた。


「これはどういう事ですか? 戦闘具の扱いに関しては皆に教えた筈ですよね?」


 田山さんブチ切れである。

 妹達が目に見えて怯えているので、ここはお兄ちゃんである俺の出番である。


「まぁまぁ、田山さん落ち着いて」

「兄道くんは黙っていてください」


 殺気ってこういうのなんだろうね。超怖い。


「それに私は() 翰郎(かんろう)です。お間違えないようお願いします」


 田山さんの息が耳許にかかる。超気持ち悪い。

 どうやらこの世界の名前で呼ばなければならないらしい。もしかして転生者である事も秘密なのだろうか? 普通に考えれば秘密か。


 妹達はこってりと絞られた後、倉庫の片付けついでに、各々の戦闘具を持ち出す。

 佳が双剣、玖明が短剣、幸が拳鍔。防具はいわゆる皮装備と言った感じだろうか? 皮の胸当て、皮の脛当て、皮の手甲、皮の兜。というか兜するのね。なんか一気にダサい妹になってお兄ちゃんは悲しい。ただし幸だけは体操着にスパッツという出で立ちである。特には触れないけど、この子は大丈夫なのだろうか?


「じゃあ兄道くんの戦闘具も選ぼうか? 防具は皮装備一式でいいとして、武器はどうする?」


 と言われても、俺武器とか扱った事無いですし、多分扱えませんし。


「お兄様こんなのはどうですか?」


 佳が倉庫の奥から剣を引き摺ってきた。

 それは剣というにはあまりにも大きすぎた。ぶ厚く重くそして大雑把すぎた。

 それはまさに鉄塊であった。

 それ完全にドラゴン殺せるやつじゃないですか、やだー。というか、佳さん力持ちっすね。


「ちょっと持てないかなぁ」


 俺が言うと佳は悲しそうに「そうですかー」と元の場所へ剣を戻す。


「兄さん、こういうのは如何ですか?」


 玖明が持ってきたものは、大鎌である。

 確かに魂を刈り取る形をした中二心を擽る武器ではあるが如何せん持てないんだよなぁ。


「それもちょっと持てないかなぁ」


 そう言えば、玖明は「そうですか」と悲しそうに元の場所へ大鎌を戻す。玖明も力持ちなんだね。


「あに、これ」


 お兄ちゃんこれくしょんみたいな言い方をして幸が持ってきたものは――布である。

 拳に巻けと? お前にやる武器はねぇという事なのだろうか? まぁ、一番現実的ではあるのが悲しいかな。


「それも、ちょっと」


 俺がそう言うと「あに、非力」と幸は自分の拳に布を巻く。あっ、自分のだったのね。てか、持てないって意味じゃねぇよ。


 妹達があれやこれやと武器を見繕ってくれたが、如何せん全部持てないんだよなぁ。やっぱり女の子は大きいモノが好きなのかな? ナニって訳じゃないけどな。

 そんな馬鹿をやっている兄妹に呆れたのか、田山さんが一番近くにあった籠から一本の棒を取り出す。


「取り敢えず初めはこれでいいんじゃないかな?」


 田山さんが取り出した物は、木の棒である。なんなの? 某ゲームの勇者の初期装備リスペクトなの? いつか勇者の剣とか持っちゃうの?

 俺は勧められるがまま木の棒を握る。まぁぶっちゃけ角材である。某ゲームの勇者が角材持って戦ってる姿は相当笑えると思うが、実際俺が持って戦うのは相当笑えない。


「どうかな?」

「これにします」


 即答である。

 この手に吸い付く感じ、程よい重み、まさに俺の為に作られた木の棒に違いない。

 素振りをしても良い風切り音を鳴らす。木の棒、君に決めた。

 俺が素振りをしていると、妹達が俺を驚いたような目で見ていた。なんなの、そんなに木の棒を選んだお兄ちゃんに驚きなのかい?


 一頻り防具の調整を行い、孤児院の屋敷? へ向かう。

 外観は四角だったが、内観もやはり四角であった。

 白の内装に、きっちりと区分けされた部屋の数々。無機質な感じがどうも都会のビルを思い出させる。

 大きな窓が並び開放感に溢れてはいるが、生活感の薄い清潔な空間。

 本当に妹達はここで暮らしていたのだろうか?


 玄関で靴を脱ぎ、田山さんが近くの扉をノックする。

 出てきたのは齢四十くらいのおばさんであった。


「あら翰郎(かんろう)様、またいらっしゃったのですか?」

「ああ、また用があってね。佳と玖明と幸は卒院させることにしたから、そのようにお願い」

「あらら、また寂しくなりますね」


 おばさんはちらりと、妹達に慈しむような視線を送る。


「こちらは(しゅん) 兄道(けいどう)くん。兄道くん、この人は孤児院の副院長を務めている() 衞火(えいか)だ」


 おばさんは視線を俺に移すと、深々とお辞儀をした。


「初めまして、吾 衞火と申します。子供達を宜しくお願いします兄道様」


 衞火さんに強く手を握られ、俺は慌てて頭を下げる。


「い、妹達の事はお任せください。命を賭けてでも守ります、から」


 そう言うと衞火さんは一度目を見開き、そしてにっこりと微笑む。

 俺もたまには真面目なのだ。妹に関しては特にな。

 振り向くと妹達は嬉しそうに微笑んでいた。妹達にとって衞火さんはお母さんみたいなものなのだろう。なんだかよく似ているな、と思った。

 その時ふと思い出した。俺の妹も母に似た眼差しをしていたのだ。

 俺の家族。妹。

 やはり記憶が曖昧で上手く思い出せない。

 しかし予感はある。

 このまま家族が増えれば、記憶が戻ってくるのではないかという予感。

 普段は陰気な表情を崩し俺は妹達に微笑んだのだ。


 さて、夜も更け、今度こそは妹達と皆で眠ろうと思っていたが、ところがどっこいそうは問屋が卸さない。

 勿論俺は一人部屋で寂しく夜を過ごすのであった。

お読み頂き感謝申し上げます。

宜しければ、ご意見ご感想お待ちしております。

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