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2.お兄ちゃん人類最弱だけど頑張るよ

 そんなこんなで三日程天上界で過ごしました。

 何をしてたかって?

 そりゃ、まぁ、あれよ。

 お勉強です。


 最初はまぁお待ちかねのチート能力だの、能力値再設定だのと忙しくしてたのよ。

 なにやら俺が前世で持っていた才能全てを数値化して、才能へ数値の振り直しをしたり。俺の魂の質から生まれた幾つかのチート能力から一つ選んだり。

 ちょっとイケメンになる為に容姿の才能を高めに振ったのは内緒だ。ついでに少し身長も嵩増しした。


 で色々弄った後はひたすら座学と訓練ですよ。

 何でかって?

 神様が初めて転生事業を行った時、いきなり剣と魔法の世界に転生させたらすぐ死んじゃったんだって! 五人中五人死んじゃったんだって!!


 当たり前だろ、と。


 神様も無謬ではないんだなぁ。

 そんな訳で懇切丁寧に一ヶ月の勉強と訓練の時間が設けられたらしいよ。三日で飽きた。

 俺はゲームの説明書は見ない質なんだ。

 そんな怠惰な人間にも優しいのがこの異世界転生。なんと現地に案内人を派遣しているらしい。至れり尽くせりだなぁ。

 ありがとう神様、俺頑張って異世界で生きるよ。

 顔も覚えてないけど。名前も知らないし。街中で会っても気付かないだろうなぁ。街中に神様のいる世界とか嫌だけど。あれ、これフラグにならないよね?


 とまぁ、なんやかんやあって、今俺の視界には背の高い樹の壁があります。

 私知ってます。これ、森です。大森林です。

 そして後背には白の巨塔。あの名作は関係ないよ。本当にただ無駄に高い白い塔だよ。ついでに俺はこの白い塔から出て来たみたいだが、塔には出入り口は無く天上界へは帰れないみたいだ。塔の天辺を見上げれば太陽が真上に登っている。

 塔と森の間に百メートル程の円状の空間があり、そこには白い鳥居、そして純和風建築っぽい屋敷がある。

 なんだろう、ここは日本かな? 異世界ではなく日本の秘境に連れてこられたのかな?

 まぁ、こんな白い塔がある訳ないので異世界には違いないが。


 俺は現地の案内人とやらを探す為、屋敷へと向かう。きっと、この屋敷が現地人の家なんだろうなぁ。

 門には表札があり神門(みかど)と書かれている。ご丁寧に表札の下にはインターホンがあり、俺は勿論それを押した。

 聞き慣れた音の後「はーい、どなたですかー?」とうら若い少女の声が返ってくる。

 さて、俺はこの時なんと答えたら良かったのだろうか?


「あっ、あの、今さっき転生してきた者なんですが」


 字面だけ見れば阿呆みたいな答えである。いや普通に頭悪そうな答えだな、おい。

 それにタメ口じゃないじゃんって? そりゃ人を見て言葉遣いは変えますよ。だって日本人ですもの。それに神様はタメ口でいけるタイプだったし、妹以外の女性と話すのって緊張するやん? せやん?

 まぁ、逆に妹以外の女性と会話する必要性はないがな!


 少女の呆れたような「少々お待ちください」の返事から少し待つと、玄関から一人の男が現れた。

 女の子を期待してたのにどういう事なの?

 男の年齢は三十半ばと言ったところだろうか、容姿ははっきり言って醜い。しかし不思議な愛嬌があるというか、不快感は無い。身長は低めだが体格は良く、ザ・冒険者といったファンタジーな服装をしている。


「初めまして。私は() 翰郎(かんろう)、日本名ですと田山(たやま) 吾郎(ごろう)と申します。宜しくお願いします」


 なんと驚き、異世界で初めて出会った人類が日本人である。もうここ日本なんじゃないかな?

 まぁ、転生者が複数人いるとは聞いていたが、なんだかなぁ。んー、案内人には適しているのかな?


「初めまして、(しゅん) 兄道(けいどう)です。日本名は倉本(くらもと) 俊介(しゅんすけ)と言います。よろしくお願いします」


 日本人らしくお互い軽く会釈し自己紹介を済ます。

 どうやら相手も身分は平民らしく一安心だ。というかあの表札の神門は一体なんなんだよ……。まぁいいか。

 さてこの世界では、名前の持つ意味が非常に大きいらしい。身分が高いほど名字――家名が長くなり、名は基本二文字で、偉くなれば偉くなるほど無駄に名前が長くなるらしい。

 異世界転生を行う際、名前の変更と身体の再創造を行い、異世界に適応出来るようにしている訳だ。どうやらこの世界には酸素やらなんやらは無いので普通に転移したら即死らしいぞ。


 田山さんは俺の事を上から下、下から上へと眺めて、顎を撫でる。


「さて兄道くん。大雑把な話は向こうから聞いているけれども、実際この世界でしたい事とかはあるかな?」


 田山さんの質問に俺は少し考える。

 本心から言えば、最愛の妹に会いたいのだが、その方法は分からない。


「元の世界に戻る、かな?」


 そう言えば返ってくる言葉はやはり。


「残念だけれど、その方法はまだ見つかっていないので、私はなんとも言えないな。取り敢えずそれを為すには、この世界で生き抜く力がいると思うのだけれど?」


 結局はそうなのだ。

 力がいる。


「それを得る為には何をすればいい?」


 何処の世界でも、答えは同じだ。


「努力かな?」


 田山さんの顔が醜く歪む。おそらくは笑っているのだろう。

 にしてもこの人も転生者だろうに、何故こんなに醜い容姿を選んだのだろうか? ちょっとした謎だが気になるな。


神光星陸(じんこうしょうりく)は努力が必ず実る世界だからね。頑張ればいつかは夢は叶うよ」


 優しい反吐が出る世界だ。


「何年くらい頑張れば夢は叶いますかね?」

「ざっと千年は掛かるんじゃないかな?」


 田山さんは顎を撫でる。


「人間をやめたくなったら相談に乗るよ」


 その視線に俺は身体が竦んだ。

 何というか、もうこの人は日本人の感覚で生きていないのだなと理解出来た。


「ごめんごめん。取り敢えず、兄道くんにはまずはじまりの村に行ってもらうよ。坡蓋大森林(はかいだいしんりん)を北に抜けた所にあるんだけど、そこでまずは武装、それに力を付けてもらおうかな」


 田山さんは醜く笑う。俺は頷く。

 力をつけなければ、今の俺は冗談抜きで一般人より弱いからなぁ。

 なぜなら、俺は数値化した才能を、容姿以外は全てチート能力に振っているからだ。

 なので剣と魔法の世界に来たのに、剣も魔法も使えない無能なのだ。

 この世界の人間は一般人でも、元の世界の人間より遥かに強いらしいので、俺は一般人より弱いことになる訳だ。そしてこれが俺のステータス。どん!


 俊 兄道/男/三十歳

 職業/無し 称号/お兄ちゃん

 生命力/百(固定値)

 魔无量/五十(零)

 筋力/三(一)

 頑丈/二(一)

 器用/

 敏捷/二(一)

 魔力/一(零)


 技能/無し

 才能/容姿★★★★

 神威/兄は妹の為に、妹は兄の為に(熟練度/五百二十八)


 何で全部漢数字やねん、見づらいだろ! とまぁ、数値を見た感じ雑魚ですね。

 じゃあ、チート能力使えばいいじゃんって思うじゃん?

 俺のチート能力は妹の数だけ強くなる神威(かむい)だから、妹がいないと話にならないのである。いや、元の世界に妹が一人いるので、全く力が無いという訳ではないが、雀の涙みたいなものだ。

 ついでに神威とは神の威であり、神より授かった力の事を言う。


 俺の神威は、妹が出来るとその妹の能力の一割を自身の力に出来るものなのだが、チート能力にほぼ全振りした結果、妹の能力の六割が貰え、かつ妹も強化されるという能力になっている。


 つまり、妹を是が非でも作らなければならないのだ。

 あー待ってろよ、異世界の妹達。

 俺がお兄ちゃんだ。


 そうして俺と田山さんは大森林を抜けた。

 特に魔物とかそんな感じの奴とも出会うこともなく、安全な旅であった。田山さんの背中のぬくもりを感じながら――。

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