1.お兄ちゃん異世界転生するってよ
ふと思いついたのでやっていきたいと思います。
よろしくお願いします。
意識が覚醒すると、俺の目の前には白い世界が広がっていた。
何だかふわふわした気分で、思考はおろか視覚すら定まらず、妙な焦燥感と不安が頭を渦巻く。
何とかしなければ、早く早く――と気持ちが逸るが全身の感覚が希薄で、どうにもならない。
しばらくすると鈍化した思考が徐々に現状を認識し始め、それと共に白い世界は白い部屋と規模を縮小していく。
どうなってるんだ? と辺りを見回していると、ぼんやりと光が照らす部屋にふと影が差し、気付けばそこには一人の男がいた。
――男? 男だよな?
いかん、本当に頭が回らない。
何故か男へと視点を合わせられず、ぼやけた印象と、ただただ白い色を感じた。
唐突に現れたその男は胡散臭い笑顔を顔に貼り付けこちらを眺めている。
「ようこそ天国へ、倉本 俊介くん」
倉本 俊介。
そう、俺の名前だ。確かに俺の名前である。
にしても、この男は何を言っているのか? 冗談にしても笑えない。いや、逆に笑えるのか?
そう思い直し俺が笑うと、男は面白そうに口角を少し上げた。
「ここが天国なら俺は死んだのか? そしてあんたは天使様かそれとも閻魔様か?」
俺が言うと、男は「まぁ、ここは天国じゃないけどね」と胡散臭い笑顔を浮かべる。
天国じゃないんかーい! と突っ込みたい気持ちは抑える。なんだか面倒だし。それによくよく考えると本当にここは何処なんだろうか? 遅らばせながら、ようやっとまともな思考力が戻ってきた気がする。
「ここは何処? あなたは誰?」
記憶喪失ではないが、本当に記憶がぼやけていて、こんな所にいる理由も、目の前の男の情報も無い。
今分かるのは倉本 俊介という名前と、酷く執着していたあの事、そして謎の焦燥感だけだ。
「ここは天上界、神様の住む所かな? そこにいる私は、つまりはゴッド。神様ということにしておくよ」
曖昧な言い回しだ。
嘘か本当かは分からないが、取り敢えずは突っ込みは入れずに男の言葉を飲み込む。
「あっ、ごめんごめん。もう一つの質問に答えてなかったね。君は死んでるから、そこのとこよろしく」
ついでのように付け加えられた言葉に俺は、だろうな――という感想だけ抱いた。
まぁ、滅茶苦茶心臓が五月蝿いけど、俺は冷静だ。
うーん、少しずついつもの感じが分かってきたぞ。
「で、その天上界とやらで神様を目の前にいるこの状況は何なんでしょうかね?」
神様だろうが態度を変えたりはしない。それが俺のポリシーでジャスティス。まぁ、生きにくくはあるが、それなりに楽しかった気がする。確か。
それに俺が畏まるのは彼女の前だけだ。そう、最愛の妹。俺が死んでどうしてるかな? 泣いてなければいいが。
「そうだね。君は残念ながら一度その生涯を閉じてしまった訳だが――。私は思いました、異世界で二度目の人生を送ってもらおうと」
ドヤ顔で言った神様を見て俺は、なんかこの神様頭悪そうだなと思いました。
というか、頼んでもいないのに第二の人生を異世界で送れとか、静かに眠らせてくださいよ。頑張って生きてきた時間への冒涜ですよ。
まぁ、別に頑張って生きてきた記憶はないけどな!
「でもお高いんでしょう?」
そう返せば、
「それが何と今なら、チート能力や能力値再設定、異世界の知識、その他諸々付けて無料! 無料ですよ、奥さん」
誰が奥さんやねん、にしてもこの神様ノリノリである。
なんだろう、やっぱ神様とかって孤独で会話が恋しいのかな?
唯一神とかだったら対等な相手いないし、つまらなさそうだよね。
にしてもチート能力か――。なんだかお約束的なものが出てきちゃったけど、きっと異世界も剣と魔法の世界なんだろうなぁ。
「転生する世界の名前は神光星陸。みんな大好き剣と魔法の世界さ」
やっぱりなぁー。
チラチラと神様を見てたらやはり答えてくださった。
この神様、どうにも俺の心を読んでる節があるんだよなぁ。
「神様なら行間くらい読むのは容易い事だからね」
ほらね。
俺は正直コミュ障だから言葉足らずだったりするんだが、神様とはスムーズに会話のドッヂボールが出来る。会話とは殺し合いで殴り合いなのだ。コミュ障なら自然とそうなる。
「まぁ、何となく置かれている状況は分かったけど、俺が転生しないって言ったらどうなるの?」
神様は胡散臭い笑顔を浮かべ。
「勿論死んでもらうよ」
いやー、今日一番の笑顔でしたよ。胡散臭いね。
勿論死にたくない俺は素直に転生の話を受けるのでした。
お読み頂き感謝申し上げます。
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