マッチ売りの少年の・・・
マッチ売りの少年と1匹のネコは読んでいただけたでしょうか。まだ読んでいない人は、先に読むことをおすすめします。ぜひ、両方の作品を読んでくださいね。
「この籠に入ったマッチをすべて売るまで帰って来るのを許さない」
そう言って私は最愛の息子を雪の積もった家の前に投げ出した。
100箱のマッチが入った箱と共に。
「まってよ、お父さん!」
そんな息子の声を聴かなかったことにして勢いよく家のドアを閉める。
「………………………。」
玄関のドアによりかかり、足音が去っていくのを聞き届けぽつりと言う。
「許してくれ……」
なぜ、愛する息子にそのようなことをするのか。
しなければいけないのか。
それは、愛する妻が死んだことから全てがおかしくなっていた。
昔は家族の笑い声が絶え間なく聞こえていたこの家も私の足音しか響かない。
リビングに行くとソファの上には1人の男、その後ろに立っている2人の男がいた。
どちらも強そうで私なんかが勝てる相手ではないだろう。
「息子は追い出しました。しばらく帰ってこないと思います。」
「そうか。」
ソファに座っている男が言う。
「あのガキは我々にとって邪魔な存在だ。できればこのままのたれ死んでほしいね。」
男はにやりと意地の悪い笑顔を浮かべた。
「いっそ殺してしまおうか。」
「!?」
瞬間この男ならやりかねないと思った。
「そ、そうすればまた警察に目を付けられるのでは?」
必死に冷静を装って言う。
「私の妻が殺され、まだ警察の目にはついていると思います。その目がなくなるにはまだ時間がかかると思います。」
「う~ん。君の言うとおりだね。あのガキが殺された場合一番に疑われるのは私だからねぇ」
後ろに立っている男の一人が時計を確認してからソファの男に言う。
「マスター時間です」
「もうそんな時間か。じゃあ失礼するよ。また明日来るがそれまでにこの家には誰も入れないね?」
そう言って3人は家を出て行った。
……………。
周りを見渡すと、物騒な武器が沢山部屋に置いてあった。
息子には自分の部屋とトイレとお風呂以外の場所は行かせないようにしているのでこのことは知らない。
もしばれたら、奴に殺されてしまう。
うちの家系は警察と仲が良く信頼されている。
そんな家だからこそ捜査されないと考えた奴らが家に押し込んできて妻を殺された。
そのことを息子は知らない。
逆らえば息子も殺すとその男は言った。
そこで私は、息子を家に近づけない為に、守るために家を追い出した。
奴らが来てから、お金も自由に使えないし外出もできない。
奴らは私に食事を与えるがそれも時々で本当に少なかった。
その3分の2は息子にあげていたがさすがに少なすぎるだろう。
自由のない生活の中考えた結果息子を外に追い出せば…逃がせば息子だけでも助かるのではないかと思った
外にはたくさんの人間がいる。
きっと優しい人もいるだろう。
そう信じての行動だった。
今は冬。
きっとあの子を追い出したときの格好では風邪をひいてしまう。
私は友達の黒猫を呼び洋服の入った袋を置いている場所に案内するように頼んだ。
にゃー
この猫はとても頭が良くて頼りになる存在だ。
ネコを送り出したときはもう外は暗くなっていた。
自分の部屋に戻ろうとしたときドアの前から息子の声がした。
「お父さん、ただいま。家に入れてよ。」
ふと思い出されるさっきの出来事
「この家には誰も入れないでね?」
今、家に入れるわけにはいかない。
それにしてもマッチは売れたのだろうか。
私は厳しい父親を演じる。息子は邪魔な存在だと思わせる。
ドアを開け
「マッチは全部売ってきたのか?」
「売れるわけないよ、父さんだって今時マッチは使わないでしょ?」
必死に訴える息子を見て胸が苦しくなる。
だがここで折れるわけにわいかない。
「そんなことは関係ない!言ったはずだ、マッチが全て売れるまで絶対に返って来るな!」
涙目の息子を見てさらに苦しさが増す。
それから逃げるようにバタンッ!とドアをしめた。
ごめんな…許してくれ…
心の中でそう何度もいいながら部屋に戻る。
私も家の中ですら自由に動けないのだ。
そして、黒猫があの子に温かい服を届けられるように願いながらベットに入る。
これから寒い外で寝ることになるであろう息子を思い苦しむ。
どうかあの子を温かい家に入れてくれる優しい人が現れますように。
この願いはかなえられることなく消えた。
朝、奴らが来た。
今日は商談があるらしく私は部屋から一歩も出られない。
外側から鍵をかけられる。
ベットに座り考えてしまうのは息子のこと。
大丈夫だろうか…
いや、大丈夫なわけないよな。
お母さんが死んでお父さんに家を追い出される。
あの子は一気に家族を、家を失ってしまった。
なんどごめんとあやまっても一生許されないことだと思う。
グルグルと答えの出ない考えをしているうちに部屋のドアが開く。
「商談が無事に終わりました。今日は帰りますが引き続きこの家には誰も入れない等の約束は守ってくださいね。」
ドアから顔をのぞかせた男は私に向かいパンを投げる。
「大事に食べてくださいね」
そう言って男は帰って行った。
パンを少しだけ食べ、風呂場に向かう。
気づけばもう夜だった。
……………
……………………
…
何日かたって、あの黒猫が帰ってきた。
奴らは今日は来ない日なのでちょうどいいタイミングだ。
「お疲れ様」
ニャー
嬉しそうに鳴く黒猫
「次はパンを届けてほしい。いいかな?」
もちろんそのパンは昨日もらったばっかりのやつだ。
にゃん!
うなずいたネコの首にパンを包んだ布を括り付け見送る。
今日も外出は許可されていないのでやることはただ一つ。
どうか、無事でいてくれ。
そう祈り続けるだけだ。
………………。
………。
…。
黒猫は2日に一回のペースで帰ってきた。
ご飯などはネコ好きからもらっているようだ。
でも今日は帰ってこなかった。
来るはずの今日は
……………………。
その日久しぶりの外出が許可された。
というのも、ずっと外に出ないと近所に不信がられるというのが理由で、後ろに見張りがついて来て決められたルートしか歩けない。
もし不審な動きを見せようものならすぐに殺されるだろう。
久しぶりの外ですれ違う近所の人に軽く会釈をしながら黙々と歩く。
途中の裏路地をみると黒いものが横たわってた。
親友でありとても頭のよかったあの黒猫だった。
一瞬止まったが後ろの見張りに押されすぐに移動しなきゃいけなかった。
涙をこらえただ黙々と歩く。
家についた。
奴がソファに座っていた。
「やぁ、お帰り」
そう言って気持ち悪く笑う。
「突然だけど、この家に野良猫が出入りしているんだよね。」
「!?」
嫌な予感がした。
「私、ネコはきらいでねぇ。部下に始末させたよ。」
「いやぁ~これでこの家もますますきれいになったねぇ。」
そう言って奴は笑った。
気持ち悪いその顔で…。
瞬間今までのいかりが爆発した。
気づけば私は奴に殴りかかっていた。
「ぐはっ!?」
殴られた男はソファから落ちる。
瞬間、後ろにいた男二人が私を抑えようと来る。
手にはナイフが握られていた。
私は必死に男二人を振り払う。
そして逃げた先には”商品”の拳銃があった。
撃ったことはない。
だけどそれを手にした瞬間使い方が一瞬でわかってしまった。
ナイフを振り回してくる片方の男に向かって引き金を引く。
バンッ!
その音と共に男は動かなくなった。
一瞬放心状態になりその隙にもう一人の男のナイフが腹に刺さった。
「…っ」
痛みに驚くがそれだけだ。
その男に向かって引き金を引く。
バンッ!
残るはひとり。
私はソファの横で呆然と見つめている男に銃口を向けた。
「お前のせいで妻は死んだ。お前のせいで息子は寒い外。お前のせいで…!」
男は何か言おうと口をパクパクさせてる。
恐怖にゆがんだ醜い顔を
バンッ!
一発の銃声が響いた。
「あぁ、これでまた、みんなで…」
…………。
……。
…。
どれほど時間がたったのだろう。
私はアルバムを見ていた。
可愛い息子
優しい妻
幸せな日々
「やっと戻れるぞ。」
そう言いながら息子の帰りを待った。
服には返り血がついてるが気にしない。
ふと、焦げ臭いにおいがして玄関の方を見る。
玄関は炎で燃えていた。
もうそこから外に出ることはできないだろう。
窓から見えた最愛の息子はマッチに火をともして家に向かって投げる。
とても可愛い笑顔だ。
きっとお腹が空いているだろう。
そう思い私は金庫からお金を出して玄関やリビングにばらまいた。
「これでおいしいパンを買ってくれよ」
チャリン。チャリン。
だんだん炎は勢いを増して迫ってくる。
「こんなことで私を許してくれるのか?」
迫りくる炎の幻想、笑顔で見つめる息子に問う。
とても、奇麗だ。
後悔がこみあげてくる。
「あぁ、こんなダメな父親でごめんな。」
「もっと3人で暮らしたかった。」
涙が止まらなくなって、
「そうだ、お前の誕生日ちゃんと覚えていたんだぞ」
「ハッピーバースデー」
もう私に残された時間は少ないだろう。
「私はちゃんと守れたのかな。」
目の前に天井が落ちてくる。
私は幸せだったころの写真を抱える。
「お前を一人にしてごめんな。これしか守る方法が分からなかったんだ。」
ドサッ!と天井が私の上に落ちてきた。
全てがスローモーションに見える。
落ちてくる前にと、叫ぶ
「どうか、強く生きてくれ!!」
………………………。
……………。
……。
焼け落ちた家に一人の少年が入ってきた。
炎はもう消えている。
少年は地面にたくさん落ちている金貨を笑顔で拾う。
ふと、崩れているところの山を見る。
天上が落ちたらしい。
少年はそれを見て首をかしげるが、すぐ金貨ひろいに戻った。
山の近くにはところどころ燃えている写真がたくさん落ちていた。
その中で1枚だけ燃えなかった写真。
幸せそうな笑顔の少年とその後ろで優しく微笑む母親。そして少年の肩に手を置いて笑っている父親が写ってる家族写真だった。
「あはは」
そう言い残し少年は走り去る。
向かう先はパン屋さん。
そして親友のところへ…
END
自分の怒りをすべて父親に向けた少年。
少年は自らの手で父を殺した。
父親の愛も思い出さずに
いとしい息子を助けるために自ら悪い父親になった父。
息子に生きてほしいと願った。
その願いは―‐…………。
「お父さん、お母さんただいま!」
HAPPY・END