過激なファイアー!!
私の名前は「源勝」。平仮名で「みなもと・しょう」。ボランティア使節団の日本人医師だ。…と言っても、新米医師だが。
フランスの友人に遺書兼誘拐の手掛かりとして日記をつけるようススメられ書くになり、これで3冊目である。実際、友人はこの手法で危機を脱している。ススメられた当時は日記なぞ、正気度を削られるアイテムだと思っていた。ああ、窓に!みたいな。
誘拐された場合の為に外見を記載しておこう。
痩身中背の黒髪眼鏡三白眼。台湾の友人に教わった太極拳のお陰で少々は筋肉があるが、衣服を着るとビジュアルは完全に某現代視覚研究の斑●目である。従姉には大爆笑されるが、髪染めるとハゲそうだし。
因みに、日記が日本語なのはテロリストやゲリラにみられても大丈夫なようにである。
初回なので今に至る経緯も簡単に書いておこう。
我が家は江戸時代末期からの医師の家系で、祖父は第二世界大戦で軍医もしていた。祖父は前妻後妻妾との間に5男2女の子供を持ち、その末っ子が父である。
兄姉が医師や薬剤師になる中、父は設計士になった。カルシウムで出来た骨より、鉄骨が好きだったのだろう。
しかし、祖父は「ぶるァあァ!」とブチ切れた。ドロップキックやアルゼンチンバックブリーカー飛び交う激しい親子喧嘩の末に孫を医師にするという事で和解。しかし、更に問題が。
祖父が酒に酔った勢いでボランティア医師団の顔役に私を参加させると約束してしまった。勝手に!!
・・・お陰でアフリカの僻地に飛ばされてしまいましたとさ♪
と、言う訳でオタク生活と別れて半年。来週にはようやく帰国出来る!!・・・とぬか喜びさせられぬ様にこうして念のために新しい日記をつけている。
「ん?」
私がボランティア医師団の寝床であるテントで日記をつけているとフランス人の友人であるジャンの叫び声が聞こえるじゃん。今月に入って5回目か?
先週はトイレの最中にサソリに尻を刺されたり、一昨日は現地スタッフが置きっぱなしのスコップを夜中に踏んづけて股間を殴打したりとツイて無い男である。そんなお騒がせ男に付き合ったコチラも月の初めにあった過激派の襲撃でピリピリしていた分、少しの騒ぎでも様子を確認していたのに疲れていた。「またか」と思っていた。諸君、ここ重要。
後で後悔する事になる。馬鹿バカ私の間抜け!!
完全な無警戒ではなく、枕元にあった医療カバンを引き寄せる。しかし、その程度。
タンタン!とかパラララ!!とか聞こえてきた。ラノベ慣れした諸君にはお馴染みの銃声である。
いや、猛獣と同じですよ。自分の身に降りかかるキノコ…いや火の粉はタマッタものでは有馬温泉。
もっと早い段階で気が付いていれば彼らと遭う事もありませんでした。テロやゲリラにお馴染みのアサルトライフルと昭和の漫画のような腹巻き爆薬と言う装備の男がテントに突入してきたのは。
ココでようやく事態を把握。しかし、その瞬間に太ももを中心に衝撃が。
声をあげるより先に熱くなる太ももの痛みに意識を奪われないように歯を食い縛る。アドレナリンのお陰でその後の顛末をスローで確認出来てしまった。
私を撃った男に同室の太極拳の達人、ヤンが体当たりを喰らわせてからの連撃で奴の銃を蹴り飛ばす。
傷の手当てや侵入者の確保やヤンへの称賛で混乱していると、撃たれた私に顔を向ける。まて、試合じゃないんだ。志●村うしろ、後ろ!
警告の声をあげようとして空気を吸い込んだ口から出たのは苦痛の悲鳴だった。
もう一度言おう。馬鹿バカ私のフール!!
彼が私の心配をする優しさが致命的な隙をうまれた。
パン!と乾いた音が響き、ヤンがコチラに向かって倒れる。
再び、アドレナリンが私を掻き立てる。今度は怒りでだ。
素早く医療カバンの中のあるモノを取り出す。
素早く、
正確に、
憧れた漫画の神様の描いた無免許医師の様に練習したメスを穿つ!
磁石に吸い付く様に侵入者の右手にメスが刺さる。
今度は侵入者が悲鳴をあげる番だ。ざまあ!
刹那的な愉悦は次の瞬間に消え去る。
奴の左手が動くのが見えた。
ええ、もう。ナレーションがいたらこう言うだろう。
「ポチっとな♪」
私の世界は焔と爆音に包まれ、
私は意識を失う。




