大掃除を頼もう
「さぁ、決めようぜ」
「上等だ。纏めてぶっ殺していいんだろ?」
「恨みっこなしだ」
ここはとあるゲーム会社である。
年を越し、新年度を向かえ、それでも終わっていない業務があった。
三矢正明、弓長晶、酉麗子、松代宗司、宮野健太。
「必要ですからね。構いませんよ」
「納得」
安西弥生、林崎苺、工藤友、瀬戸博。
計9名で運営しているこのゲーム会社。仕事とは別……というわけにはいかない。これすらも仕事だ。
「第4回、大掃除誰やるか決定戦ーー!!」
「うおおおぉぉっ!!」
これは会社の掃除を誰がするかの討論大会である。
◇ ◇
「前回はどうやって決めたっけ?スロットだったような気がする」
最初に仕掛けたのはプログラマーを担当する2人、安西と宮野だった。
「じゃあ、それで良いな。完全なランダムだろ」
簡易的に自作したスロットのアプリを見せつけ、みんなを誘う2人。
「待ってください、宮野さん!信用できません!」
「そうよ!事前に用意しているのはおかしいわ!」
これにサウンドを担当する林崎。企画を担当する友ちゃんが反論。
ゲーム会社という場所にいるため、悪意的にも有利に運ぶ操作が可能であることは熟知している。
「そうだな。だったら、ここは公平に紙を使ったクジにするのはどうだ?」
続いて、管理の三矢が9つの紙を用意し、恨みっこなしの選択をとろうと提案。確かにこれならばスロットなどといった決め方よりも、自然。
「三矢!細工してねぇだろうな!?」
「そうだー!絶対に引かない自信があるからの提案に見えるぞ!」
しかし、これもグラフィッカーを務める松代、瀬戸が反対。
「私も嫌です!三矢さんと酉さんはハズレを引く感じがしません!」
「強運では片付けられないことをしている気がします!」
続いて、安西と友ちゃんもこれには反対だった。罰ゲーム要素が強いため、運否天賦は負ける可能性が一律でありやりたくはない。少しでも、自分が勝てる手段をとるというのが、ゲームクリエイターの根底かつゲーマーの判断に相応しいのではないだろうか?
「やれやれ、ですから当番制を敷いた方が良いとあれほど言ったじゃないですか?」
次にやり方を発案したのは、社長の弓長であった。会社のトップらしい、意見。むしろ、権限を使っている気がするも。
「それはダメよ。弓長くん、三矢くん」
「俺まで入るのか」
「私も入るわよ。会社に勤務しているとはいえ、外回りがある私と弓長くん、三矢くんが公平かつ規則通りできないわ」
少人数で動かす会社であり、全ての人間が会社の中で収まっているわけではない。営業の全般を請け負っている弓長と三矢、酉の3人はこの当番制を行なうのは難しい。かといって、6人の当番制というのは不公平感が出ている。
「やっぱり、使用した後はちゃんと掃除をするルールを設けるのはどうですか?」
今度は規則を提案した林崎。使ったら、ちゃんと戻す。冷蔵庫から飲み物を出し、飲み終ったらちゃんとしまう。チョコの空はちゃんとゴミ箱に捨てるという規則正しい作法の統一。
「確かにね。それは良いかも」
「やっぱり、したらちゃんとしよう!」
女性陣は頷くも、男性陣には
「ふざけんな、非効率だろ。林崎、耳を千切るぞ」
「宮野さんと同感だな。席を外す時間が延びる」
「人によっては、掃除の仕方が違う可能性だってあるよ!」
このようにイマイチな反応。続いて案を出したのは、再び、弓長だった。
「では、勤務時間中に掃除時間を設けるのはどうでしょうか?」
「なるほどな。それなら、俺達もできるな」
真っ当な意見とも思えるが、
「馬鹿野郎!!頭が壊れてんのか!?」
「俺達、グラフィッカーやプログラマーとかはな!納期に追われてんだ!!暇なんてあるか!」
「しない人が絶対に出ます!!」
「ここが超ブラック企業だということを忘れるなーー!!」
この手法もやはり反対と賛成を完全に分けてしまった。そして、誰も突っ込まなかったが、ここまでほとんどの方法を否定していた者達が声を上げた。
「メイドを雇うって選択肢はない!?」
「そうだよな。雑用係がいれば、大分楽なんじゃねぇか?」
「デバック作業や事務用品の整備、データ入力をしてくれる人がいるとやっぱり助かる」
根本的にもう1人雇うという判断であった。仕事としては、少人数ではやっていけない環境を可能としているのだ。それだけ、ここにいる9人が特別に優れた技能とおそるべきメンタルと体力を持っている証拠である。
「ダメです。ハッキリ言って、無駄です。特にメイド絡みでしょ?」
「事務要員を雇うって言っても、採算とれなきゃ意味ねぇからな。週2日、4時間、多くとって1000円か?でも、そのくらいの穴だしなー」
「細かい調査も必要になるわ。犯罪行為や情報漏洩に繫がる可能性もある」
しかし、会社の運営を考えると雑用係という人員を作ることに難儀。危険もあるし、不定期に訪れる人間を受け入れるのはちょっと難しい。
だが、別になくはないこともある。
「それなら受付係や経理としての計算も入れればいけるか?」
「三矢さん。あなたの仕事を減らすだけじゃないですか?雇わねぇって言っただろうが?」
「鬼畜スマイルを俺に向けるな。悪かったな、弓長。どS社長め」
反省する三矢。その後で、手を挙げた安西はまったく話を聞いていないことを口にする。
「三矢さん、弓長さん!メイドがダメなら執事を雇ってもいいですか!?」
「人の話を聞いてたのか、テメェ!このBL脳が!!」
やはり、まともな話し合いでは決められない。運否天賦をしようにも、ゲーマーの危険信号が現れて拒絶を示す。規則や方法では、不公平という形が生まれ、雇用では採算と危険があって、折り合いがつかない。やはり無理なのか?
「仕方がないわね」
「え?」
「まさか……」
そして、この中でもっとも沈黙していた女性。酉が動き始めた。社長は弓長であるが、あくまでそれは代理や役職である面が強い。
このゲーム会社の根底を支えているのは、酉麗子という女性にある。
彼女の発想に追いついていたとしたら。企画の友ちゃんと、管理を務める三矢が良いところだろう。自分も含めて、真っ当な人格を持っていないこの会社において、”正攻法”というゲームプレイでは攻略できない難題。外法や無法、法外、ルールを覆す一手。手段は問わないという言葉ではなく、あらゆる手段を用いると表現する彼女のやり方。
それは、女性としては逸脱極まりない。
「松代君、瀬戸君」
「!なんですか、酉さん!」
松代の彼女でもある酉。彼についてなら、この中で一番よく知っている。その彼に非道なお願い、そして、女性好きの瀬戸にも頼み込む。
「女子トイレの掃除やお風呂場の掃除なんてできないかしら~」
自分のスタイルにも、それなりの自信とかはあるんだろう。いや、むしろ無関心か?
「私達が使う仮眠室にあるベットのシーツや毛布、枕カバーの洗濯、お洋服の取り扱い。してくれると嬉しいわー。どんな風に扱っても構わないし」
その瞬間、デカイ声が響く。ほぼ同じく。2人が
「マジですか!?酉さんのブラとパンツ、手洗いしていいんですか!?」
「パンツ、くんかくんかしてもいいの!?」
ひ、ひ、ひでぇ。ど変態2人を無理矢理、変態パワーで突き動かそうとする魂胆。
「と、酉さん……?」
「それはちょっと……」
「こいつ等に服まで預けるって事ですか?」
当然ではあるが、女性陣は赤面して納得のできない表情である。そりゃ、洗濯や掃除までやってくれるとしたら嬉しいけど。しかし、酉はしっかりと諭す」
「いいじゃない。家事をやってくれる男がいるって素敵なことよ?」
「そ、そうですけど。そこまでは……」
「私達は買い出しを担当するわ。男達は会社内の清掃や洗濯、掃除。それなら対等な分配でしょ?」
なんつーとんでもない纏め方。納得できるのか?
「だったら、洗濯しないよう家から着替えを沢山持って来れば良いよね……絶対、パンツとか触らせない」
「お風呂掃除やトイレ掃除がメインですし。ねぇ」
「休憩室を清潔にしてくれるのなら、我慢ですかね」
一番困る、女性陣はしぶしぶながらも納得。対策は取りやすい。一方で、
「サラッと俺達まで入れたな」
「それが良いかもしれませんね。分担制で決まりです」
「あーっあ、ま。悪くねぇ配分だろ」
別に女性陣のあーだこーだに興味を持たない、宮野と弓長、三矢はほどほどに、今回の役割に納得した。
◇ ◇
仕事において、無法であろうと正しい事実がある。
「整理整頓」
自ら使用する場所はしかと、管理しなければならない。整理整頓の感覚は人それぞれであり、完璧を追従するは愚。また、怠慢はさらに愚かと言える。
「掃除するって言っても、やっぱ少ないな。ゴミ出しも終わったぜ」
「仕事場以外の掃除が課題でしたからね。毎日は必要ないんですよ。週2回ぐらいのペースですかね?」
作業スペースは周囲が連携し、管理されているため、仕事に必要となる掃除というのはないのだ。ないということで一流であろうと自分達は思う。
「畜生ー。男子トイレの掃除なんてやってらんねぇー!」
「ガタガタ言ってんじゃねぇ、松代」
故に、それ以外を整える場所の数の多さはあっても、量は極めて小。
雑務も極めて少ない。
「みんなー。ケーキを買って来たよー」
「お疲れ様でーす」
「ケーキとは気が利くな。休憩にするか」
9つの皿にケーキをそれぞれを置き、テーブル席の椅子ににみんなが座った。厄介だった掃除の揉め事は終わった。
「いただきます」
雑務の疲れを甘味で癒された後、感じた事があった。9人は決めなければいけない。
「誰が皿洗いをやる?」