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第7話 女神の転生と半神化4

 なんだ、あれは……

 漆黒の虎が去っていた方向とは逆に、ルーリィの手をつないで引っ張るようにして走っていく。

 怯えていた。俺は、怯えていたのだ。もう、あれはいないのはわかっていても、全力で遠ざかろうとしている。逃げているのだ、今、とっくに去って行った魔物から。


 ――よくわからないチートに目覚めていた中島さんを食い殺したあの、魔物から。


 あれは、異世界転移して、一番最初に会っていいモノじゃない。

 あれだ。冒険者と言う職業がこの世界にあって、それにランクがあったとして、S級を中心としたパーティを組んで、多数の犠牲者を出しつつ倒すとか、そういう感じの化け物だ。

 お約束的にある程度経験を積んで、レベルUPして、なんだかよくわからんポイントとかでチートスキルも沢山とって、それと知らずにソロで倒して、一目置かれるきっかけになるような化け物だ。

 俺はまだ、力の使い方すら把握していない。

 光刃を使うための呪文のようなものは、使おうとした瞬間に頭の中に浮かび上がってきたが、それがどういう原理なのかがわからない。

 ルーリィの汚れた服は、もう一度服が欲しいと願ったら、例の光が彼女の体に巻き付き、新たな服ができた。

 そして、彼女の汚れた部分も同時に浄化されたらしく、すっきりとしていた。

 だが、それだけだ。現状、できることはそれだけなのだ。


「シ、シンくっん……はや、はやいよぅ!」


 ルーリィが息を切らせながら俺に言う。

 手をつないでいる右手から伝わる熱にぎゅっと力をこめた。

 

 ……悔しい。


 不意に俺はそんな感情を自覚した。

 俺は、ルーリィの事を気にしてやることもできないくらい、怯えているのだ。

 実際に弱音を吐くルーリィを見たところで、速度を緩めようとは思えない。

 一刻も早く、どこか人がいる場所に行きたい。

 

 奴は言ったのだ。草原に怯え、森に恐怖し、夜に震えろ、と。


 一刻も早く、一刻も早く街へ辿り着かなければ。

 草原を超えて、森を超えて、夜が来る前に街へと。


 そんな俺の焦りを他所に、道をふさぐかのように一匹の大きな兎が現れた。

 思わず立ち止まると、兎は赤い瞳にで見つめ、跳躍。


 だが。


「どけぇっ!」


 不思議な感覚だった。あれはおそらく、魔物と呼ばれる類の物だろう。

 しかし、初めての遭遇だというのに、何も感じない。

 地球の兎よりはるかに大きい。身長170センチほどの、俺の腰くらいまである。

 そしてなによりも、額から生えているまるでドリルのような角が禍々しい。


 だが、それだけだ。


 その兎が凄い速度で跳躍し、弾丸のようにその角を突き出して回転しながら向かってきても、それほどの脅威とは思えなかった。

 そう、あの漆黒の虎に比べれば。


 俺はルーリィを胸に引き寄せ、横にすっと体をそらす。

 次の瞬間には、頬をかすめるようにして兎が後方へと飛び去って行った。


「……いや、止まれないかよっ!」


 思わず突っ込む。 兎はと言えば、20メートルほど離れた場所で、角が地面に突き刺さりじたばたともがいていた。


「そんで、自分で抜けないのかよっ!」

 もう一度突っ込む。

「い、以外に間抜けな魔物さん……なのかな?」


 怖がりのルーリィもどこか呆れている様子だ。

 てか、この子、人に転生すると少し強いだけの女になるとか言ってたけど、なにかあるとすぐに泣いて漏らすし、本当に戦えるのか……?


 一連の兎のコミカルな生態になんとなくクールダウンした俺は、とりあえず近づいて行ってみる。


「まじかよ」


 俺は失笑を禁じ得なかった。

 この魔物、角が長すぎて前足が地面に届かず、角に強度がありすぎるのか、自重で曲がったり折れたりせずに後ろ足も届かずに、にっちもさっちもいかなくなっているのだ。

 なんとなく顔を覗き込んでみると、涙目で小さく「きゅう」と鳴いていた。


「あはははは、かわいいぃぃぃっ!」


 ルーリィは兎を指さして笑っている。

 兎はむっとした表情になると、びゅんとそ剛脚をルーリィに放つ。

 とっさに俺はルーリィの腕を引っ張ると、彼女の頭があった場所を足が通り過ぎて行った。

 兎は外したことを悟と、どことなく残念そうな顔をして、舌打ちをする。

 

 む、むかつく兎だ。てか、舌打ちって……



「あわわわわ」

 

 ルーリィと言えば、そのまま腰を抜かし、唇がわなわなと震えている。

 瞳に涙が滲み、そして――


「ル、ルーリィ、股間だ、股間を抑えろ! また漏らしちまうぞ!」


 ルーリィはその言葉に反射的に反応したようだ。そのままぎゅっと股間を力強く握りしめる。

 すると、ぶるぶるっと体が震え、ぎゅっと瞳をつぶり何かを耐える様にそのまま5秒ほどぷるぷると震えると、恐る恐る股間から手を放す。


「だ、大丈夫か?」


 俺が聞くと、ルーリィは股の間に視線を落とし、次に抑えていた手のひらを確認し、「うんっ!」と元気よく頷いた。


 ……いや、トイレトレーニングじゃねぇんだから……


 心の中で呟くが、口には出さない程度の空気を俺は読んだのだった。

 いくら幼女のお漏らしヒャッハァなタイプでも、事あるごとに漏らされるのは嫌だ。

 可哀想とか、そういう事じゃなくて、俺がムラムラするからなんだけど。

 しかし、我慢している姿もそれはそれでそそるな。結果的にムラムラするんだったら、まあ、どっちもでいいのか?

 よし、時と場合によって使い分けよう……。


 俺は自問をひと段落させると、未だにもがいている兎を見下ろした。


「さて」


 短いその言葉に、兎がビクッと体を震わせる。


「よくも俺の可愛いルーリィをこんな目に合わせてくれたな」


 ルーリィはそうだそうだといわんばかりに、頬をぷくっと膨らませて兎を睨みつけている。

 だが、少し腰が引けてるあたり、かわいい。物凄くかわいい。

 てかなにこの幼女、ずっとこうしてみていたい。


 だが、いつまでもそうしているわけにもいかず、名残惜しかったが俺はルーリィに訊ねた。


「ルーリィ、どうする?」

「うん、シンくん、やっちゃってよぅ」

「はいよ」


 兎が許しを請うように「きゅうきゅう」となくが、もう遅い。ルーリィも可愛いとはもう言わない。

 あれが最後のチャンスだったんだよ、兎ちゃん。


 俺は身体から光のオーラを引き出し、剣をイメージする。

 そう、あれだ。吉田さんに放ったあの魔法だ。

 だが、そこではた、と気づいた。

 あれは飛んで刺さった後に大爆発を引き起こした。

 こんな至近距離で放ったら、やばくね?

 しかし、決め手になるカードはそれくらいしかない。

 何かない物か。吉田さんにやったみたい殴るか?

 でも、それだと死ぬかどうかわからないしな。現に俺も吉田さんも死ななかったし。

 なにか、こう、もっと弱い魔法的なものはないのか!

 弾とか、短剣とか――


 ――風斬メリアドエッジ


 その瞬間だった。頭の中にそんな言葉が生まれ、俺の体を包んでいた白いオーラが緑色に代わる。

 光刃の時のように、一部が切り離されると、俺の頭上で渦を巻き始めた。

 そして、俺の口が淀みなく、その呪文めいたものを唱える。


「切り刻み、果てよ、其は連撃の刃――風斬!」


 その瞬間。緑色に染まった俺のオーラが幾筋もの剣線のようなものになり、兎を蹂躙した。

 俺とルーリィの髪が、巻き起こった風に翻弄されて暴れる。

 あれは緑色に可視化されているが風だ。

 風切りとは、対象を無数の風の刃で切り刻む、風の上級魔法だ。

 俺はその能力を把握する。

 てか、なんで上級魔法しか使えないの? 光もそうだったような……

 明らかにこれはチート能力なのだろうが、使い方がイマイチわからないので、どことなく恐ろしい物を感じる。

 ひとまず、必要な時にある程度具体的に願えば、力が顕現すると感が手もいいのだろうか――


「ふえぇ~~」


 風の余波で吹き飛ばされそうになり、必死に俺の脚にしがみついているルーリィの悲鳴に、俺は自問を終わらせる。

 太もものあたりから伝わる薄っぺらい胸の、骨ばった感触が心地よい。


 そして、風の刃の蹂躙が終わった後、兎は姿かたちもなく、血の一滴ですら切り刻まれて霧散し、消滅したのだった。

 あとに残されたのは、大地に突き刺さった、一本の角。

 やたらと頑丈そうなそれは、あの風の暴力ですら耐えて、輝きを放っていた。

 俺はそれを見て首をかしげる。そして――


「ドロップアイテム的な?」


 なんとなくそれを引き抜いたのだった。

 風の刃が偶然にもそうしたのか、ドリル的な様相から、一振りの剣のように形を変化させている。


「つっ」


 指先に疼痛を覚え、確かめると指がうっすらと切れている。


「マジでこれ柄があったら剣として使えるんじゃ……」


 そこではた、と俺は気付いた。

 服だ。俺は服が欲しいと願って服を作った。

 もし、おれのこの力が俺の願った通りに形質を変化させるものだとしたら……


 俺は念じる。この兎の角を軸とした、剣の姿を。


 すると――


 ――ホーンデビルの剣:レア


 そんな言葉が頭の中に浮かび上がり、それは完成した。


 白い刀身、雪の結晶のような意匠が施された、柄。


 ホーンデビルの剣。素人目に見ても美しい白一色の剣が完成したのだった。


 その姿を見て、あの漆黒の虎が言っていたことを思い出す。半神となったものよ、と。

 そして唐突に俺は理解した。否、浮かび上がってきた。

 白いオーラのようなものは、魔力だ。そして俺はその魔力を効率的に使えるような知識を備え、必要に応じて浮かび上がってくるのだ。

 その調子で魔力とは何かと思い浮かべてみると、案の定その知識が溢れてきた。


 魔力とは、戦闘にも生産にも使える万能の力だ。

 だが、通常は魔力量が足りなかったり、変換率が低かったりで都合よく使えるものではない。

 

 俺の力、それはつまり――


「ルーリィ、俺は人のみでありながら、神の力を宿したのだな?」


 つまり半神。人でありながら、神の軌跡を行使する、そういう意味での言葉。

 

 聞かれた彼女はきょとん、と首をかしげる。


「え?」

「え?」


 そして、ルーリィの顔色が青ざめていった。


「どうした?」

「え、えと、その、ね。シン……」


 ルーリィはそこで言葉を斬ると、意を決したように告げた。


「人に転生してから、そういう知識全部消えちゃったみたいなの……」


 ――一瞬俺は呆け、だが納得する。神の知識が納得させる。

 人に転生する、という事は神の力をなくすという事なのだ。

 知識もまた力である。


 つまり、ルーリィは、ただの幼女だ。

 そして、なぜこんなにもヘタレなのかも理解する。

 女神は転生すると平均的な女性より強いだけの存在になる。だが、彼女は幼女だ。

 力の無い幼女が多少強くなってもそれは幼女だ。


 ああ、これは……


 ちゃんとルーリィを守ってやらねばなあ。


 呑気にそんなことを考えた俺の耳に、唐突に人の怒号と悲鳴が響き、ルーリィと顔を見合わせたのだった。

街へはいけませんでした。たぶん、次回でもいけません。

でも、新しいロリでるかもしませんが、でないかもしれません。

そして新しいロリ登場のタイミングあたりから、ブレてしまったシンくんは幼女をゲットするために心を入れ替えます。


ブックマークありがとうございます。そして何度も足を運んでくださっている方も、ふらっと足を運んでくださった方も、ありがとうございます。

更新頻度は激遅ですが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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