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第6話 女神の転生と半神化3

今回、シリアスモード全開かつ最後の方がグロくて展開がハードかもしれません。苦手な方はご注意ください。

 ルーリィに銃口を向けた吉田さんの吊り上がった眼は、血走っていた。

 鼻息が荒く、がちがちと歯の根が合わないほど興奮している。

 よく見ると、体中から黒いオーラのようなものが立ち上っている。

 ……吉田さんのチートだろうか。ドン引きするいがにも能があったのか……。


「なんのつもりだ?」

 

 俺はルーリィを庇うような位置に、さりげなく体を滑り込ませる。


「どけよ! そいつが俺らをここに連れてきたんだろ! だったら責任とってもらうのが筋ってもんじゃねぇかよ!」

「彼女はまだ子供だ」

「……っ」


 吉田さんが逡巡する。一応まだ理性は少し残っているらしい。

 だが、それも束の間、ぎりり、と音が聞こえそうなほど吉田さんが歯を食いしばったかと思うと――


「え?」


 間抜けな声を出したのは、俺だ。

 一瞬で距離を詰めた吉田さんが、俺のこめかみを銃底で殴りつける。  

 当たる寸前、黒いオーラのようなものが密度をまし、すさまじい衝撃が俺を突き抜けていった。

 

「シンくんっ!」


 ルーリィの俺を呼ぶ声が急速に遠ざかっていく、そんな勢いで俺は吹っ飛び、草原に何度かバウンドし、その度に大きなクレーターを穿っていく。

 二〇メートルくらい吹っ飛んだところで、ようやく止まった。

「んだ……こぇ……そぉっ」

 体中に激痛が走り、悲鳴を上げることすらできない。息がつまり、呼吸もままならない。

 それでもどうにか自分が生きていることを自覚する。

 しかし、体が動かない。動かし方すらわからない。

 ふと、俺の精神を蝕んでいるものに気づいた。

 それはひたひたと忍び寄り、囁くように告げる。


 所詮、お前はその程度だ、と。


 忍び寄り、告げたのは俺自身だ。弱い俺自身だ。

 浮かれていたのだ。リアルロリになつかれて、そのままの勢いで抱いて、異世界に転移した。

 俺だけだ、と思っていた。

 それがどういうわけか、二人ほど余計な物がひっついてきた。

 一人はおっさん。自分の子供が辱められた経験から、子供を守ることに執着しているが、トラウマスイッチが入って遠い世界に旅立っている。

 一人は若い兄さん。精神的に弱い部分があるが、さわやかなイケメンだ。

 今でこそ混乱し、理性を失っているが、まるで主人公のような容姿だ。本来なら、彼が選ばれるべきだったんじゃなかろうか、そんなことすら思う。

 そして二人はすでにチートに目覚めている。

 中島さんは無限の銃弾。吉田さんは黒いオーラ。おそらく、身体強化系かなんらかの力の具現だろう。

 対して俺は――先ほど、光が体を包み、服を作った。


 はた、と気づく。


 もしかして俺のチートって生産系なの?


 それは絶望だ。今、ここにある危機をもしかしたら乗り越えることができないかもしれない。

 吉田さんの狙いはルーリィだ。戦闘系じゃなければ、彼に後れを取ってしまうかも――と言うか現に、ぶん殴られて動けなくなってるじゃないか……

 ああ、ああ――どうして、どうして俺は……ルーリィ……俺に初めて笑ってくれた、可愛い女神。

 このままじゃ、俺は君を守れない……

 さっきまで俺は都合のいいロリをゲットできたと思っていた。

 女神である彼女を利用して、この異世界ミリスでロリを食い散らかそうと思っていた。

 でも、違った。ようやく気付いた。

 俺は、彼女を愛している。ルーリィ。俺のルーリィ。

 力が欲しい……君を守るための力が……


「吉田ァッ! テメェなにやってんだコラァッ!」


 怒号が響いた。

 この声は中島さんだ。なんという、なんという力強く頼もしい声だろう。

 ただしく、娘を守るための父親の声だ。


 俺は力を振り絞るようにして、なんとか首だけ動かすと、吉田さんが血走った眼でルーリィに銃口を当ている。

 中島さんは、そんな吉田さんに向かって銃口を向けていた。

 そんな彼からも、黒いオーラのようなものが立ち上っている。

 覚醒。そんな言葉が脳裏をよぎった。

 そうか、ルーリィの姿に娘さんを重なり、精神が復活して力が覚醒したのか。

 

 ――じゃあ、俺は?

 

 その瞬間だった。

 俺は、俺の中に胎動する力を自覚した。

 先ほどの服を作り上げたそれとは比べ物にならないほど力強く、脈動している。

 熱い。体が熱い。なにかあふれそうだ。

 実際にそれは溢れてきた。眩く輝く、光の本流。

 それは体の周りを舐める様に移動する。

 ――そして。


「ルーリィィィィィィィィィッ!」

 

 愛しい女神ひとの名前を叫んだ。


 その瞬間。あれほど苛んでいた身体の痛みが消えた。

 体がまるで羽が生えたかのように軽くなり、爆発的に力が溢れてくる。

 俺は大地を蹴った。すると、その次の瞬間には、驚愕に俺を見つめている吉田さんの姿が目の前にある。

 視界の端では涙にぬれて、絶望に青白く顔を染めているルーリィが驚いたように俺を見ていた。

 俺は吉田さんを一瞬の速度のなかで見つめながら、さっきは俺もこんな顔をしていたのだろうな、と考えていた。

 そのまま拳を握りしめ、彼の頬を殴りつける。

 すると胴体から首が抜けるんじゃないかと思うような勢いで吹き飛んでいった。

 遠くのほうで爆音が響き、土煙が上がる。


「よくも、よくも俺のルーリィをぉぉぉっ!」


 あれで死んだとは思わない。なぜなら、俺の拳が当たる瞬間、黒いオーラが吉田さんを包み込んだのだ。

 おそらく、衝撃をわずかに吸収している。

 だから、俺はイメージする。

 必殺の一撃を。

 必ず仕留める、一撃の刃を。


 俺の体にまとわりついていた光が、切り離される。

 それは空中で形を変え、一振りの剣となった。

 

 ―光刃ヘブンリーソード


 ふと、そんな名前が脳裏をよぎる。

 俺は吉田さんが吹き飛んでいった方向を指さすと、


「刺し貫け、必滅せよ、祖は一撃の刃なり――光刃!」


 まるで歌を歌うように淀みなく、口をついていた。


 ぶおん、と音が響く。

 その一瞬後には、光刃は吉田さんが倒れていると思しき場所に突き刺さり、そして――光の本流が視界いっぱいに広がった。


「よ、吉田ぁぁぁぁぁっ!」


 中島さんが叫ぶ。

 ルーリィは俺のローブにしがみついて目をつぶっていた。

 光刃とは、魔法だ。

 対象を貫き、そして大爆発を引き起こす、光の上級魔法。

 一度使うと効果まで把握できるらしい。どうやら俺のチートは生産系じゃなかったみたいだ。


 そして光が終息する。土ぼこりが舞い上がり、辺りが埃っぽい。


「シンくん……」

 ぎゅっと俺のローブ越しにルーリィの小さな温もりを感じた。

「ルーリィ」

 俺は彼女の頭を撫でてやる。すると気持ちよさそうに目をつぶった。


「殺したのか?」


 そんな俺たちに、投げつけられる言葉。

 それは、茫然とした中島さんだった。


「あれで死んでなかったらびっくりっすよ」


 肩を竦め、そう言ってやると、中島さんはなにやら難しそうに唸りだした。

 大方、自分の中の常識と現実とに折り合いをつけているのだろう。だから、放置した。

 ここはもう地球ではないのだ。その時のルールなど適応されない。


 もう、しがらみなどないのだ。


 ――なぜなら。


 俺は今、人を一人殺した。けれど、そこに罪悪感も何もない。

 ただ当然の事をしただけだ、という気持ちなのだ。

 おそらく、中島さんもそうであろう。

 だって、さっきまで俺をガンガン撃ってたしな。

 おそらく、そういった自分の行為を振り返り、戸惑い悩んでいるのだ。

 けれど、理解しなければならない。

 ここは、倫理より自らの正義が優先される世界なのだ、と。 


 吉田さんは俺の女神に銃を向けた。それだけで万死に値する。

 そして、俺はこれからもそうするだろう。

 俺のルーリィに手を出すものは、許さない。それが誰であろうとも。


 俺はルーリィに微笑みかけると、


「じゃあ、行こうか。早くミリスの人たちに会いたい」

「うん。いろいろと、ありがと、シンくん」

 

 ルーリィがべたーっとくっついてくる。

 幸せだ。この至福があれば、俺はなんだってできる。どこでだって生きていける。

 

 ――それは、気まぐれだった。

 一度はほっとこうと決めた俺だったが、これから街を探すにあたり、一応声をかけておこうと思ったのだ。


「中島さん……どうす……なっ!」


 振り向き、声をかけた俺の視界に飛び込んできたのは――


 半分になった中島さんだった。


 下半身と上半身が別れ、勢いよく血が噴き出している。

 中島さんの瞳は虚ろで、わずかにかひゅっ、かひゅっと呼吸を繰り返していた。


 そして、その横には――体長五メートルはある黒い、まるですべてを吸い込むかのように漆黒の虎のような獣が一匹、口から血をしたたらせて佇んでいた。

 そいつは俺をぎろりとにらみつけると、それ以上の興味はないと言わんばかりに中島さんに視線を落とし、そのまま下半身をばりばりと噛み砕いて飲み込んでいく。

 そして、そのまま上半身を加えると、ゆっくりと咀嚼を始めた。

 俺とルーリィは茫然とその様子を見上げていた。

 中島さんの虚ろな目に、俺の姿が反射する。中島さんは最後に、微かに口を「ゆ・い」と動かすと、そのまま虎の胃袋の中に消えていった。


「な、なんだ、これ……」


 茫然と呟いた俺を漆黒の虎の視線が捉えた。

 その瞬間、そのまま飛び退り距離を開けると、いつでも光刃を発動できるよう光を体に纏わせる。

 そんな俺を見て、漆黒の虎は口元をニタリ、と釣り上げた。

 それは嘲笑。小さきもとあざ笑う、屈辱をもたらす笑み。

 訳も分からず体震え、失禁しそうになる。

 恐ろしい、俺はこいつが心底恐ろしい。

 なぜなら。勝てない、俺は、こいつに、勝つことができない。


 ――そして。


『恐ろしいか? 転生の女神と半神となったものよ』


 まるで、地の底から大地を呪うような声だった。


『美味よなあ。神の恐怖と言うものは、美味よなあぁぁ』


 漆黒の虎はるごぉぉぉぉ、と一つ空に吠えた。


『生かしてやる。生かしてやるぞ。だが覚えておけ。我はいつでも貴様らを食い殺す。草原に怯え、森に恐怖し、夜に震え、生きることに絶望するがいい。それこそが我に馳走となるのだからなぁ。ああ、美味よ、美味よなぁ。神の恐怖と言うものはこれほどまで美味なものなのか。クカカカカカカカカカ!』


 そう言い残すと、漆黒の虎はいずこかへ去って行った。


 残されたのは、恐怖におびえガタガタと震えている俺と、恐怖の臨界を超えて気絶して、失禁どころかそれ以上のもので股を汚しているルーリィだけだった。


 そのまま腰を抜かし、俺が動けたのは、漆黒の虎が去ってから一時間後の事だった。

次回、いよいよ街行けます。行けると思います。行けるといいかもしれません。

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