時は流れる
連続投稿……だと?
朝、日が昇る前に起きて、顔を洗い、意識を覚醒させる。
その後は微量の毒が入った朝食を食べて耐性をつける。
俺の概念贈与があれば耐性くらいつけられるのでは? という疑問はあるかもしれないが、できないのだ。
俺は今、【吸収】があるので口の中から腸まで能力の容量がいっぱいいっぱいであり、これ以上生命力を使おうものなら死ぬこと間違いなしだ。生命力は回復していくがそれも徐々にだから今後は無理できない。
というわけで俺は、毒物を食べたことで身体の内に取り込んだ毒物を増殖、配合、分泌できるようになった。
今はまだ微毒なため強い毒物は作れないがいつかは作ってみたい。
朝食後はひたすら模擬戦をする。
これ自体は俺が頼んだことだ。
手っ取り早く強くなるためには実践、そして必要な筋肉だけだ。
本来必要な筋肉は基礎をつけてなければつけてはいけない。
なぜなら身体が耐え切れずに壊れてしまうから。
しかしここで思い出してほしい、俺には能力があることを。
概念贈与の方ではなく【吸収】のほうで手に入れた能力のことだ。
【再生(大)】のことだ。
実はこの(大)の方も自分で考えてつけたのだ。
これが(特大)や(極)などになると使ってしまった筋肉などを強化せずに再生されてしまうのだ。
それは俺の望むところではない、強くなるためには筋肉は必要であるし、技術だけではいつかは限界がくるからだ。
まぁ、再生(大)のことだけ体質のせいだと言って訓練の師匠でもある男に見せたので、彼はこれで気兼ねなく俺を鍛えられるはずだ。
【成長力上昇(極)】【経験値獲得量上昇(極)】もうまく働いてくれているようで模擬選を行う度に頭が働くのだ。
師匠の右腕の手刀のように俺の頭に振り下ろされれば、俺は交差した手でそれを受け止めながら手刀をからめ捕り右ひざで顎を狙うとか、師匠が回し蹴りをしたら少し腰を落としてから掌底で足を跳ね上げ、残った片足を狙うとか。
いろいろな情報が頭の中に流れては取捨選択し、最適な動きを導き、フェイントがあればそれを見極める眼を養う。
自分の身体が戦闘に特化していくのがわかる。
才能が満ち溢れているのが自分でもわかっていく。
決して曖昧な感性を持つのは天才なんかじゃない。
これを持つ者が天才なのだと自分でもわかるくらいに頭がよく働くのだ。
それに伴って筋肉も俺の動きについてこれるようになっていく。
軸が安定してバランスが取れるようになっていくとトリッキーな動きもできるようになった。
「…………」
「…………」
無言で両者ともにこぶしを交えるがその間も俺は師匠の動きを取り込み、精査し、発展させていく。
足の動かし方もそう、腕の振り方もそう、決してパワーロスがないように動く。
それは洗練された動きでもあり、逆に気味が悪いとも思うだろう。
師匠の動きが一段階上に上がる。
それに伴って必要な情報も増える。
脳は絶賛全力稼動中だ。
眼もすべての動きをとらえようとあちらこちらを動いている。
感じるな、考えろ。
右手が来るのは何秒後だ?
左足のフェイントの可能性は?
間合いはどれくらいだ?
相手の視線の意味を考えろ。
情報を極め次の動きを見出せ。
「!」
「シッ!」
動いたのは俺だった。
師匠の右脚が来るのがわかっていたので足を円運動で上に流し逆にその足を捻る。
だがそこは百戦錬磨と思しき師匠だ、捻られながらも逆の脚で攻撃してきた。
それは顎を狙う一撃、しかしそこに俺の顎はなく捻った足も離し相手の腹に手を当て、
「ハッ!!」
震脚、からの腰のひねり、それを上半身に伝え、肩、腕、手に伝わる力の塊。
気を身体に透す技、それは鎧すらも透し、相手の肉体すらも透し、内臓にまで伝わる技。
内臓破壊の術だ。
それを一切の躊躇なく放つ。
ズンッ!
「……ここまでやるとは思わなかった」
「……ハァ、ハァ、ハァ、よく、言う、最後も、完璧に、決まってない」
「……当たり前だ、年期が違う、経験が違う」
とっさに地面に手をついて己の身体を後ろに飛ばし掌底は何の意味もなさなかった。
俺の身長が大きかったらたぶん決まっていたはずだ。
だから悔しがる必要はない。
しかし、脳は今の反省点などを洗い出していく。
「……少し休憩にする」
一応これでも10時間ぶっ続けで模擬戦していました。
身体が食事を受け付けるまで休み、食事は獲ってきた猪などを師匠が料理した物をあるだけ食らう。
「…………」
「ハグハグハグハグハグ」
師匠は何も言わない。
多分面倒とか、余計な感情はいらないとかだろう。
いつかは俺もこうなってしまうのかもしれない。
それでも俺は〝俺であること〟を忘れない。
午後はほとんど読書の時間だ。
まず知恵がなければとれる選択肢が狭まってしまう。
そのため俺は知恵を貪欲につけていく。
子供の柔らかい脳であり戦闘で強化した脳はたやすく本の内容を理解し、吸収していく。
この世界はマズレアと言い、大陸には一つ。
そしてその大陸には四つの国がある。
アルム帝国、ゼレテリア王国、ラル皇国、シェデヴィム。
俺が今いるところは知らされていないから現在地はわからないけれど今はそれでいい。
いつかは知ることになるだろうから。
俺がここに来てから5年という月日が経とうとしていた。
白い髪は相変わらず、身体はがっしりというよりも必要以外の筋力をそぎ落としたみたいな感じだ。
つまりは細マッチョである。
身長は10歳ながらに170センチを超えた。
最近は師匠にも勝てるようになってきた。
しかし師匠は多分組織の中ではそんなに強くはないのだろう、きっと。
だから俺は今まで以上の研鑽を積まなければならないだろう。
毒の種類に関しては三桁以降からは数えていない。
いい意味で誤算だったのが薬も作れるようになったことかな。
そして、今日、俺は多分人生での分岐点に来ているのだろう。
それは、
俺が最も必要とされる場所であり、
俺の存在に価値がつく場所。
すなわち、戦争だ。
俺は、アルム帝国からゼレテリア王国への刺客として戦場で働くことになる。
すなわち俺はアルム帝国所属ということになる。
今の俺の力ははっきり言ってわからない。
それなりに、いや、全力で努力はしたが相手には通じない可能性もある。
だが俺はやらねばならない。
そのために、俺は今から心を研ぎ、鋭く、しかし丈夫に。さながら日本刀のように心のもち用を変える。
さて、出陣だ。
◇
ここは深淵なる途。
そこに至るには己を知り、己の敵を知るバケモノがいる場所。
暗く、そして深い途に彼はいた。
「どうだ」
暗く、見えない場所で声が響く。
それはまるでカラカラに枯れた巨木が声を出したかのようだった。
それにこたえるために今バケモノの前にいるのはレンの師匠であり幹部筆頭のカガマルという男だった。
「……器は十分に育ち、素質もまだまだ底を見せない存在でございます」
「そう、か。後継者としてふさわしいか?」
「……はい」
「ならば、このバケモノと呼ばれた老いぼれも最後の務めをはたせそうだな」
「……まだまだ現役でございますれば」
「よいよい、わしの後継者として指名するに当たり、動く拠点が必要であろう?」
「…………」
「陛下より、土地をもらう手筈になっておる」
「! しかし、それは」
カガマルは身動きが取れなくなる危険性を訴えようと思ったが次の一言でその言葉も呑み込んでしまう。
「裏で存在するのが影ならば、あやつには陽になってもらう。陛下を守るためでもある」
「……はっ」
「裏にはおぬしがいるゆえな」
「……ありがたきお言葉」
「ではゆくがよい。次会うときはそやつを連れてくるがよい」
「……はっ」
そういってカガマルは消えた。
その場に残ったのは存在感が希薄な一人の老人のみ。
バケモノと呼ばれた彼も歳には勝てず、延命措置を行っても300歳までが限界であった。
帝国建国以来からのバケモノは最後のあがきを見せる。
「我が渇望してやまなかったもの、陽よ」
「それはおぬしをむしばむであろうな」
「しかし」
「それもまた運命」
「どのように輝くか」
「今しばらく見てやろう」
そう言ってバケモノは眠りにつく。
影の長、テンゾウは今日も帝国のために全てをささげている。