特殊戦闘部隊
うーんなかなか筆が進まない……。
諸君おはよう、レン五歳、いまだに壮健だ。
さて、食料の自給をさせるために農業でもしようかと思ったがその手のことは俺には到底無理なことだった。
できるとしたら肥料を作ることなのだが、それも無駄になりそうだったので農業についてはあきらめ、そのまま俺が鹿を獲ってきては食ったり、猪を獲ってきては食ったり、熊を獲ってきては食ったり、ゴブリンを獲ってきては食ったり……違う、ゴブリンは違う、何で食えると思ったんだ俺。
そもそもここにゴブリンが出ること自体が予想外だぞ。
まぁ、それはいいとしても、だ。
俺が転生してから一週間が経ったがいまだに俺はこの世界で何をしようか迷っている。
力をつけることは決定事項ではあるが、その手段すらどうしたらいいのかわからない。
いや、思いついてはいる。
一つは俺の身体に概念贈与を贈与すること。
一番に考えているのが『ぼくのかんがえたさいきょうののうりょく』の一つである【吸収】その名の通り吸収してその力を自分に取り込むのだ。
しかし、これはいまだにできない。
理由としては【吸収】が強すぎるから、さらに身体が弱くてそれに耐えられないというのもある。
これは、はっきり言って想定内だ。
そんなにすぐに俺TUEEEEEEEEみたいなことができるはずがないとわかっているからだ。
さて、俺は今孤児院にいると言ったことはある。
あるが、孤児院はなぜか山の中腹にあって、町からも遠いしいろいろと気を付けないといけないこともたくさんある。
しかし、だ。
なぜこんなところに孤児院があるのか不思議でしょうがないのだが、院長は話してくれはしない。
まぁ、困ることではないし、人目を気にせずに身体を鍛えられることもあってか、俺にとってはいい環境と言えるだろう。
さて、今日も狩りに出かけるのだが、はっきり言って不意をうてば、動物ならどんな存在でも勝てるのだ。
今の俺にはスリングがあり、そして毒薬を作る腕もある。
それもドラゴンすら殺しかねない毒薬だ。
それは錬金術で濃縮されてさらに強力となる。
しかしそれは食べられないのでいつもは筋肉弛緩剤を使っているがね。
閑話休題。
現状ほかにも力をつけたいのが一点。
家庭教師的な存在がほしいのが一点。
町にも行ってみたいのがさらに一点。
これが今の俺のほしいモノだ。
俺には今のところスリングで殺すしかできないのだ、ほかの武術などを習ってみたい。
そして俺はこの大陸や、国の歴史について知らないということが将来枷になるかもしれない。
最後に相場や、観光などを調べてみたい。
それらが理由であり、俺の中の小さな望みだ。
さて、そんな俺ではあるが狩りから帰ってきたところ院長に話があると言われ、夜ほかの子供たちが寝入った後、大人たちにまぎれて俺は会議的なモノに参加させられた。
「みんな、会議に参加してもらってありがとう。今日の議題、というよりも問題となっているレン君です」
え? 俺って問題児認定されているの? 何か問題起こしたか?
「ああ、レン君は問題じゃないのよ。実はね、この孤児院はわけありなのよ」
そういって彼女が話した事実は信じがたいことがたくさんあった。
・毎年一人、この孤児院から有望な子供を兵に仕立て上げるために士官学校に行かせたりしているという。
・この孤児院は全員が全員、貴族の不義の子であること。
そして最後に、
「特殊戦闘部隊……」
「ええ、これは十年に一度だけ、素質のある子を特殊施設に入れて戦闘用に仕立て上げられる。君はそれに選ばれちゃったの」
「いつ?」
「今日の昼ごろに使者が来て告げたのよ」
そう言う院長は泣きそうな顔をこらえているようだった。
俺ははっきり言って弱いし、道具に頼らなかければ生きていけない。
でも、それでも、
「行く」
「! ……そう、レン君は聡いね……」
どのみち俺を差し出さねば代わりを出すか、この孤児院の存在意義を問われて貧しい財政状況がもっと貧相になるかもしれない。
それだけはしてはいけないのだ。
俺は、この孤児院を守りたいのだから。
「大丈夫、帰ってくる」
「ええ、待っているわ。いつかあなたが帰ってくるのを」
そう言って痛々しい顔で無理やり笑う。
俺のために心をだましてまで笑ってくれる。
そんな院長に感謝した。
「出発は?」
「明日よ、荷物は何もいらないから」
「わかった」
俺は、俺である最後を全うしよう。
口に布を噛ませ、声を出さないようにする。
そして俺は目の前に現れるウインドウに震えながら最後の問にYesを押した。
激痛。
布をかみしめても痛みは遠のかない。
死ぬ、死んだ方がましと思えるくらいに痛い。
ベッドにつけてある【体力回復(中)】と【疲労回復(中)】に、俺が錬金術で集め、抽出して、贈与したミスリルに【再生(大)】もあり、俺の身体は内から壊されては創られている状態だ。
もちろん壊れては治しているので俺の身体は幾分かがっしりしてだんだんと痛みに鈍くなってきているがそれでも痛みはこれでもかというくらいに増していく。
それに伴って頭痛がしてブチブチと嫌な音を立てる身体を何度も何度も再生していく。
俺がしているのは口の中から腸にかけてまでの概念贈与。
もちろん実行しているのは【吸収】。
これが必要なのだから、仕方ない。
そんなことを痛みに悶える頭で考えている。
右手に握りしめたミスリルが軋む。
まだ痛みは続いていた。
痛みで髪は真っ白になり、一片の艶もない髪へと変わってしまった。
一時間も経っていないだろうか?
終わった瞬間に、俺はミスリルを喰らった。
ギャリギャリと音がしてミスリルの味がするが当然おいしくなどない。
それでも噛んで噛んで喰らう。
すべてを喰らった頃には【吸収】は発動して俺の身体には【再生(大)】が宿っていた。
これで正真正銘のバケモノになった。
そして最後のオリハルコンは歯を強化しながら、口内を傷つけ血の味で汚しながらも喰らいきった。
【成長力上昇(極)】【経験値獲得量上昇(極)】【隠蔽(極)】を手に入れて、俺はやっと寝入った。
俺は日も昇らないうちに院長の前に姿を現した。
「あなた……っ!」
院長は最初俺とは気づかなかったようだ。
髪が白く、身体が幾分かがっしりした体型になったからだろう。
俺を抱いて院長は言ってくれた。
「ごめんね、ありがとう」
「うん」
それだけで充分だった。
それだけで報われた気持ちになれる。
院長はくしゃくしゃに顔を歪ませて俺を見送ってくれた。
横には黒いバンダナとマスク、そして忍者のような装束を付けた人が立っていた。
多分体格からして男で、俺を担ぐとこれまた木々の枝に跳んで着地を繰り返していった。
俺は目隠しをされていたためにそれくらいしかわからなかったがついたのは二時間ほど経った頃だった。
「ここがお前の家になる」
男は初めて声を出した。
その声質が感情など入っていなかった。
感情などいらない人形になれと暗に言われているようだった。
目隠しが外された。
そこにあったのは森に隠された家、その言葉がしっくりくるような家だった。
家はあまり大きくなく、たぶん四人で住めたら十分ってほどに小さいが巨大な木々の中にできた家でもあった。
洞にできた家。それが俺の家だ。
「明日から特訓だ」
「うん」
多分、いや、たぶんじゃすまされないほどの苦痛が俺を待っているだろう。
それは茨の道が生ぬるいと思われるほどに苦痛な道で、俺は何度も悩み、それを打消し、進んでいくだろう。
すべては守るため。
俺は今から修羅となる。
彼らを守るためならば殺すことも厭わない。
それが俺の唯一の贖罪であり、俺のなすべき今生の道しるべだ。
きっと明日も、明後日も、明々後日も。
守るために殺すんだ。
自分すらも殺して。