転生、そして食事改善
◇序章
概念を武器にする漫画や小説は結構多いと思う。
たとえば死を視る眼。
これは一番身近な概念を眼に付与した武器と言えるだろう。
たとえば自然の火や地震などを身に着けることのできる実。
自然と一体化をしているためにほとんどの攻撃では死なないことが武器になるし、それ以上に自然を操ることのできる存在としての武器もある。
今、なぜそんなことを言うのかと言えば、俺が一番の武器を今考える必要があるからだ。
俺は今日、死んでしまった。
トラックと壁に挟まれて頭がつぶれて脳漿が飛び出た状態だ。
何でそんなに冷静なのかって?
なんだろう、死んで感情みたいなモノが働かないようになっているみたいなんだ。
考えることができるのは一番の僥倖と言えるだろう。
そして俺は神に出会った。
うん、確かに出会ったんだが、これがとんでもない神でな?
俺が死んだのが予定になく、予定調和が乱れる、だから異世界に行け、今なら特典を一つ付けてやる。
これが俺に下された裁決だった。
そう、裁決なんだ。
これは俺が勝手に死んだのが悪いという感じになっているんだよ。
何か、神の側近的な人が俺に温情をかけてくれなかったら特典もなく人以下の存在と成り果てていたらしい。
こればかりは神の側近に感謝をするね……死んだことは許容できないけれど、それは神のせいと思おう。
で、本題だがその特典に俺は何か強い概念を身体のどこかに付与したいんだけれど……そう、漫画みたいに。
しかし単に真似るだけでは面白くない。
そこで俺が考えに考えた結果が、
「【概念贈与】を下さい」
一応説明を求められたので説明すると、
・概念を贈与できる。
・概念という概念を『己の力量に合わせて』司ることができる。『制限付き』
・贈与できる数と質は贈与する存在の数と質に比例する。
・この【概念贈与】自体に概念を贈与することはできない。
・己の身にも概念を贈与することが可能だが、器以上の概念を付与する場合生命力を消費することで概念を贈与することも可能。
・間違えて贈与しないためにYesとNoのスクリーンが誰にも見えない形で現れる。
・贈与する際にデメリットの効果が説明される。
『よかろう。その程度ならば叶えてやる』
「ありがとうございます」
何はともあれ、これで一応の区切りはついた。
感情というモノがない状態なので死については何ら思うところはないが、これからの俺は違うからな。
『転生させるぞ』
そして俺は転生した。
◇序章~生誕~
眼が覚めると前世の記憶が俺の頭に入ってきた。
特に混乱もなく前世の俺と、今世の俺が混じり合う。
一秒もかからなかったと思う。
たぶん今世の器は俺用に空っぽにしてあったらしい。
今の俺は孤児院に身を寄せる五歳児で、いつもボーっとしているわけのわからない子供というのがこの孤児院での印象だ。
一応昨日の記憶も鮮明に覚えているが、この孤児院は結構、というかかなり貧しいみたいだ。それでもみんながみんな頑張って支え合っている。院長も信頼できる。
俺は早速ベッドに【成長力上昇(小)】と【体力回復(中)】【疲労回復(中)】をつける。
ベッドは回復とそれに連なる概念に適正があったようだ。
この適正というのはその言葉の通りだが少し例を出そう。
たとえばだが、剣の場合はやはり傷つけるモノとしての特性が強いために回復系統はあまり適正がない。
しかし、これは斬りつけたモノを回復させるという概念だからだ。
これに、使用者の回復という一文を付け加えることで適正は±0となる。
要はどの視点で考えるか、が問題だ。
さて、俺の持ち物は何かと言うと、神の温情なのか俺の親……顔も名前も知らないが、そいつらは俺のためを思ってわずかばかりの金と首飾りを置いて行ってくれていた。
そしてその首飾りだが……オリハルコン製だった。
その時点で、俺の頭は考えることをやめた。
多分、というか間違いなく温情なのだろうが……。
そしてオリハルコンはさすが伝説の金属とあってすべてのモノに適正があり、膨大な量を付け加えることができるようだった。
なので、【成長力上昇(極)】と【経験値獲得量上昇(極)】【隠蔽(極)】を付けた。
さすがにオリハルコンと言えど(極)をつけるのは3つが限界だった……まぁ、付けた概念の質が半端ないということもあったが。
成長力は外面的なモノではなく内面的なモノに絞った。それでも外面的なところもそれなりに影響を受けるとは思うが成長が速い子供だと思われる程度だろう。
内面的なモノに関しては精神やら才能の器みたいなモノまで様々だ。これを成長させなければいくら努力しても才能の壁というモノにぶつかる。
そして経験値の上昇だけど、これは努力が才能の壁まで最短距離で走破できるということだ。これにより努力の質が向上する。
最後の隠蔽はこのオリハルコンの首飾りと俺の異常性を隠すことを目的に贈与したモノだ。さすがに隠し切れない場合もあると思うし、このオリハルコン製の首飾りは真っ先に狙われる対象となりかねない。
さて、ここらへんで俺のモノは終わった。
次はこの孤児院を立て直さねばならない。
まずは食事の改善かな、そのためごみ場を漁り、革を集めて針でちくちくしてスリングを作った。それに左眼に贈与した【鑑定(極)】と【発見(極)】を駆使して毒草やらそれの効能を高める素材を集めた。死を贈与できることにも惹かれたけれどそれをしたらそれ一つの概念で両目を使ってしまうのだ。
そして両手に贈与した【錬金術(極)】【調合(極)】【器用上昇(極)】を使い調合用の器具を錬金して作り、さらに調合によって効能を高め、高温で毒は分解できるようにする。
そこで気が付く……、スリングも錬金術で作ればよかった、と。
思っても後の祭りであり、悔やんでも仕方ないと反省はするが前向きに考えることにした。
そして石英などから錬金術で作ったガラスのビンに毒液を入れてそれをまた革から錬金術で作ったベルトにつるし完了。
さぁ、狩りの時間だ。
隣接していた森に入り、獲物を探す。
【発見(極)】を使い効率よく痕跡を探し、三頭の鹿を発見する。
風下に位置取り、そこらへんの石に毒液『筋肉弛緩剤』を塗り付けてスリングに着けた概念【無音】により無音で発射される毒付きの石は俺の【器用上昇(極)】により寸分狙い違わず眼に命中し、即効性の『筋肉弛緩剤』はその場に鹿を崩れ落ちさせることは容易だったようだ。
ほかの鹿は逃げるが今は一頭だけでいい。
そこにいた鹿をこれまた錬金術で皮をつなげて作ったロープで引きづり。
両腕に付与した【剛力(極)】【怪力(極)】を使い、木に首が下に来るように調整しながら吊るす。
その鹿の喉を俺は地中から集めた鉄を使い錬金術で錬成したナイフで掻っ切った。
その切れ味は地球産のサバイバルナイフと比べても遜色などなく、俺の狙い通りに動脈をまとめて切り裂き、地面を血の色で染め上げ、鉄の匂いがあたりに充満する。
血抜きをして孤児院に戻ったころには日は傾いてオレンジ色に空を染めていた。
そして血だらけの俺を院長が見つけるや否や、悲鳴を上げて俺を抱き寄せた。
「何があったの!? その血は!?」
「狩りしてた。鹿の返り血」
俺は死んだ時の影響が残っているのか感情を出すことが苦手だ。
そして俺が淡々と言っていることもその影響でもある。
「狩り? 鹿? 何言っているの?」
「こっち」
その眼には困惑といった感情がありありとわかる。
俺は院長の悲鳴で集まってきた子供たちを無視して院長を外に引っ張り出して鹿のところまで持って行った。
「……これ、は」
「鹿、狩った。これでお腹いっぱい食える」
「……レン君が狩ったの?」
「うん」
そう言った瞬間俺は頬をはたかれた。
まぁ、予想していたことだし構わない。
親からしたら子供が狩りに行くなんて自殺行為に違いないのだから。
「はたかれた理由は分かる?」
院長は優しく諭すように語りかける。
「うん」
「言ってごらんなさい」
「勝手に行った、森は危ない」
「そうだね、今度から森に行くときは大人を一人連れていきなさい」
「えっ?」
正直驚いていた、てっきりもう金輪際森にはいくなと言われると思っていた。
「レン君は森に行くなと言っても行くでしょう?」
「……うん」
「それが私たちのためってのもわかる、でも、あまり危険なことはしないでほしいの。だから妥協案、私たちがレン君の行動を監視し危険があればそれを止めます。だから今度からは私たち大人に一声かけていくこと。これは絶対に守ってね、そうしないとレン君を怖くて外に出すことができません」
「わかった、ごめんなさい、それとありがとう」
「はい、どういたしまして。鹿を捌くから井戸で血を落としてらっしゃい」
「うん」
俺はきっと笑顔だっただろう。
そう思わずにはいられないほどに院長が俺のことをわかってくれていたのがうれしい。
そして夕餉になると、
「レン君が食料を狩ってきました。今日はレン君に感謝してからみんな食べること」
『レン君ありがとー!!』
みんな輝くような笑顔だ。
とってきた甲斐があるというモノだ。
久しぶりの肉にみんながっつくように食べている。
だからこそ俺は守りたいと思えてしまう。
この日常を、この孤児院を。
小さな俺だけの世界だけれど、それでいい。
この小さな世界だけを守れれば俺はそれでいい。
きっと明日も、明後日も、明々後日も。
それだけを胸に生きていくだろう。
いつかは外の世界を知る、みんなを守れればそれでいいのだから。
町のごみ場→ごみ場に修正しました。