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ちょっとチートな生活

俺は両親を尊敬している。特に母を。

前世の俺は異世界トリッパーでチート要素万歳だった(ただし顔は除く)。

しかしそのチートな能力でいろいろいろいろ難を逃れたり、面倒に捕まったりした。

母は、この世界にほとんどチート能力なしで落っことされたと聞いた。

言葉もわからず、持ち物は寝た時の着の身着のまま。

あそこで第一から第三村人があの三人じゃなかったら、


「多分お陀仏だったわ」


としみじみ振り返っていたのが思い出深い。

俺は落ちた当初から言葉はわかったし、喋れたし、書けたし、さらに言うなら様々な知識も理解できた。

当時のことを母に聞かれてちらっと話したら、ほっぺたをつつかれた。

甘んじて受けた。だって一瞬遠くを見ていた母の眼がマジで怖かったから。

神に対して呪詛の一つも吐いてるんじゃなかろうか。

母を見つけ、養い、最終的に捕まえた父は、尊敬している。

なんだかんだいって仕事もきっちりこなしているし、家族に対して文句なく愛情深い。

ちょっと母に対して重い愛を叫ぶことはあるが、基本、良い父親といえる。

そんな父とノリよくアツアツな母。

いくら異世界から来たなんてトンデモ経験があっても、普通は転生とかあっさり信じないよな。

前世の記憶があっても俺は母にはよっぽどのことがなければ、服従すると決めている。

ちょっと最初のほうから思い出してみよう。



まず俺は現代日本うまれの都会育ち。

普通に会社に入社して営業をやっていた。

大学は工学部だったけど、仕事は全く関係ないところになった。飲み会帰りで自宅のマンションに帰って寝た。

起きたらこの世界だった。

最初は夢かと思った。なんか中世から近代革命っぽい雰囲気だったし。

寝ぼけて、目の前にいる人間に、俺の朝飯知らね?って聞いたら噴き出された。

ないならいいや俺寝なおすから、と言って寝入りかけたら、なぜか襲撃された。その目の前の人を狙ったものだったらしい。

俺寝起き悪いし、夢だと思っていたので向かってくる相手をちぎっては投げちぎっては投げ。異様なほど体が動いたのを覚えている。筋肉を使うんじゃなくて、重心を流す感じ...といってもわかりにくいが、ほとんど力を使わずに圧倒できた。


アー長い夢だな。俺サイキョーものは気分いいわー。わははははは。


とか思いながらもう一回寝ようとしたら、助けたらしい人にたたき起された。

なんか革命に力を貸してほしいとかどうとか。

しっかりたたき起されてようやく頭が働いてくる。


あれ?ここどこだ?夢か?

目の前の人間のほっぺたを引っ張ってみると結構伸びた。

俺は痛くなかったので夢かと思った。

したら、自分のほっぺた抓れ!と怒られた。

もっともだと思って引っ張ってみたら、しっかり痛かった。

そう、痛かった。


夢じゃない...?うわあ―なんかいろいろやっちまった。

とにかく目の前の人物に促され、アジトの一つで話し合うことになった。

そこでいろいろ知識を得た。

まずここは現代日本でも地球でもないこと。

だって、地図はあるのにアメリカや日本がない。

なんかでっかい大陸がごろごろと、あと点在する島。

未踏の地は結構あるらしいが、わかる範囲でも地球とは似ても似つかない大陸群。

俺も日本じゃたいがい非常識なほうだが、ここが地球じゃないことは分かった。

地球じゃないのか…あのマンガの続きももう読めないんだろうか。

たそがれてはみたものの、現実主義者寄りの俺は今持っているものを点検することにした。

そしてわかったこと。

どうやら俺にはチートな力を多種多様に持っているようだった。

見える聞こえるしゃべれるそれぞれのレベルが地球にいた時より格段に上がっている。

目を凝らすと三軒先の窓側に置いてあるメモの切れ端の文字が読める。

耳に集中すると防音扉の向こう側の音が拾える。人の悪口言ってんじゃねーよ手下その1。

そして、言葉が自動翻訳されている。

各国出身者を連れて来てもらい五~六ヶ国語しゃべってもらったが全部通じた。

何このチート。

こんな力もらっても何もすることねーぞ。


身体能力も当然のごとく上がっていた。

魔法こそ使えなかったが、俺の身体能力はむしろ魔法でもかかってんじゃないだろうかと疑うほどだった。

手加減一発で計測器がぶっ壊れた時は笑うのを通り越して泣きたくなった。

力加減の方法は分かりやすかった。

自分で自分にスイッチを入れるっていうか。

力こめて殴るぞーと強く思えば思うほど力に変換して吹っ飛ぶ感じ。

適当に触る分には適当にしか力は出ない。

そういえば、さっきの大立ち回りは寝ぼけてたからか良く飛んだ。


力はすごかったけど頭は?と思って色々テスト受けてみたら、自分でも引くくらい頭がよくなってた。

頭の中にネットの検索窓がある感じ。

調べれば大体ヒットするし、関連もばっちり。

そして一度引けばローカルの俺の記憶にインストール。

頭の出来が違いすぎて怖い。

ネタのつもりで「俺の今後」と検索してみたら、取りうるルートがいくつか本当に出てきてふいた。


一つは能力使いまくって最強ルート。

周りは敵ばっか。

老後も最悪。

でも権力と名誉と女は手に入る。


次に世捨て人ルート。

面倒事はサクッとオールスルー。

名誉も権力も女も手に入らないけど、穏やかな老後が送れればいいじゃない。


次に歯車ルート。

おとなしく大きなシステムの歯車になっちゃいなよ!という腹の立つルート。

何が悲しくて異世界来てまでシャチクやらなきゃならんのだ。


そして、一番マシそうな、ベタールート。

目の前の奴を助けて革命を起こし、あくまで片腕として、身を粉にして働く。

死なない程度に頑張れば結果はついてくる。そしてそこそこ高い地位と名誉が手に入る。女は努力次第と書いてあるあたりが俺っぽい。

そして、敵も多いが味方もちゃんといるところが素敵だ。

最強ルートだと味方すらいないからな。

うん。

世捨て人は無理だから、おれの生活環境向上のために、ベターな道を選ぼう。

という、あまりにも手前勝手なルート選択の末、結局は国を起こして創設者の一人に収まり、この世界では童顔扱いの顔で、女性関係もそこそことなった。

革命手伝った相手が王族だったとは後になって気付いたが、まあ、やることやったし、問題点はしっかり引き継いだし、結構面白い一生だったなー。

晩年は内臓も弱くなったので、毎日呑み納めとばかりに酒を飲みまくった。

しかし結局アル中にもならず老衰で死んだ俺は、やっぱりチートであってもヒーローじゃなかったんだと思う。

眠るように逝った。


で。

暗い暖かいところにたゆ立っていた。

これが死後の世界というのなら、俺は天国いきだったのだろうか。

と思っていたら、頭に激痛が走った。

あまりの痛みに泣き叫ぶ。


光が満ちた。

音がはじけた。

初めて照明弾を食らった時のような、光という衝撃が襲う。

どうやら俺は生まれ変わったらしい。

暖かさに包まれる存在であるということに安堵する。

目を向けると、母は消耗してはいたが、眼がきらきらとしていた。

俺の祖国に近い顔立ち。

黒い髪に黒い眼は死ぬ前の世界では珍しいわけじゃなかったが、日本人の凹凸の少ない柔らかい顔が、ひどく懐かしく、うれしかった。

すっと意識が遠のく。

母の顔を見て、赤ん坊のもともとの魂が、俺の意識をゆっくり溶かしていく。

いや、お互いに溶け合っていくようだった。

莫大な容量を持つ赤子の魂が、俺を受け容れ溶け合っていく。

俺は赤子で赤子が俺になっていく。

過去に俺でしかなかったものが、赤子として生まれ変わった......。


それからの記憶は、全てが唐突につながった、三歳のころまで下ることになる。

三歳までは赤子の知識のみで生活していた。

過去の俺の記憶に頼ることなく、人並みの成長を、日々おこなっていた。

言葉も早くもなく、遅くもなく。

初めて父の部屋に入ったときだった。

この世界の地図と、父の蔵書の中に見えた英語。

そして母がたまたま書きつけていた日本語が視界に入ったとき、かつての俺の記憶と今の俺の記憶がつながった。

いきなり大量の記憶や思い出を思い出した俺は、高熱を出して三ディート寝込んでしまった。

両親にはものすごく心配をかけてしまった。

俺はかつての俺の記憶と、生まれてから三歳までの記憶までも詳細に思いだすことになった。

今となっては、かつての俺の記憶は、

おれがかつてしでかしたことであり、

詳細な映画フィルムのようでもあり、

何かあったときのネタ帳となった。

いつでも引き出せる大昔のデータバンク的扱い。

なんとなく、自分の身体的チートや頭脳的チートも引き継いでる感じはあるが、これは年相応に地道に伸ばしていけばいいだろう。


まあ、そんなこんなで、英語や日本語が懐かしくて、父の資料をあさったり、母の日本語を聞いたりしているうち、家族だからということで警戒心がかけらもなかった俺は、母が振ってきた日本語に素で答えてしまった。

当年五歳。

人生最大の不覚。

その時の確信に満ちた母の、してやったりという顔と、過去の俺の名前まで当てられた時は、ちょっと本気で母親最強説を信仰したくなった。

前世の俺のおふくろも怖かったが、今回の母も負けず劣らず恐ろしい。

母親って何だか妙なくそ度胸があるんだよな。

なんかぜってえ勝てない感じの。

そこで前々から疑っていたこと、母が実は異世界トリッパーだったことを聞かされた。

自分が異世界トリッパーだから転生があってもおかしくないよね、っていうか俺の行動が怪しすぎたらしい。

普通の幼児にあるまじきおとなしさ。

しかも母がわざと置いていた日本語の文書には、こっそり目を通していたのもばればれ。

ちなみに、わざと間違った日本語をかいて反応もうかがっていたらしい。

母が策士過ぎて怖い。

しつけの件を宣言したお母様には絶対逆らわないと心に誓った。

人生経験なら俺のほうがデータとしてはだけどたくさんあるのに、正直勝てる気がしねえ。

その後は開き直って日本語英語フラッドル語ふつーにバイリンガルやって、母とこの世界での日本文化再現にいそしんだ。


そうこうしているうちに母が第二子懐妊。

そして出産。

父は一晩中部屋をうろうろしていた。

俺も落ち着かない。

過去の俺は、この世界で家族を持たなかったから。

この世界では無事に産まれてくるかどうかは、神様次第なところがある。

この世界に俺たちを落としてくれやがった神だけど、出産くらい無事に終わってくれ、と初めて神に本気で祈った。

産声が聞こえた時のことはほとんど記憶にない。

けども産婆さんが母子ともに健康ですよとかけてくれた声に、全身の力が抜けたのはよく覚えている。

ここまで力が入っていたとは思わなかったからびっくりした。



妹ができた。

前世は一人っ子だったから、兄弟というものに実は憧れていた。

兄弟のようなやつらはいたけど、本当に血を分けた妹はこれが初めてだ。

猿みたいな真っ赤な顔だったけど、とても嬉しかった。

血を分けた妹。

俺が全力で守るのにそれ以上の理由なんていらない。

何がなんでも、絶対守ってやるからな。

余談だが、妹の名前決めは本当に難航した。


その妹まで前世の記憶持ちだとわかったときは、心底驚いた。

母が変なスキル持ってるんじゃねーかと思ったが、そういうわけでもないらしい。

舌っ足らずで話してくる妹はむちゃくちゃ可愛い。

さらに舌っ足らずな日本語で恥ずかしそうにしているところは、父と一緒になって悶えた。

母からいい加減にしろとチョップを食らった。

家族っていいなと思いました、まる。


そして以降俺は自他共に認めるシスコンとなり、害虫どもをたたきつぶす役目を自任している。

前世と比べてかなり充実してると思う。


この幸せを与えてくれた母親には、成人した今でも毎年花を贈っている。



もちろん、それは、赤いカーネーション。



そしてシスコンの道を走り続けます。

それでもモテるイケメン爆発しろ。

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