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難儀を楽しむススメ

両親(わたしたち)から継いだ黒髪は光を跳ね返し、その瞳はフィルの曽祖父の瞳と同じ(らしい)金色。

トンビが鷹を生んだような妙にきれいなわが子。

三歳の時に熱を出して寝込んだ以外は大病患うこともなく。

物事の理解が早く、ほとんど手をかけない。

子供同士の喧嘩で負けることもなく、そして時折母親の仕事を複雑そうな目で見ている。


息子が三歳の頃から疑っていた。五歳の年に確信に変わったので、とりあえずひっかけてみた。


「鳴くよウグイス」(←日本語)

「へいあんきょ…って、え?」(←日本語)


ああ、日本語だ。

してやったりという気持ちが口の端を釣り上げた。

詳しく聞いてみると生まれ変わったとのこと。

しかもフラッドル国創立者の一人で、私のメシのタネご本人。

やっぱりもともとは日本から流れてきたらしい。

どこまで覚えてんのっつーかどこから記憶があったのと聞くと、生まれる前からと答えられた。

記憶は人生まえのとき丸ごと分保持しているけど、本人の記憶というよりは、自分の頭の中にある記録を読むような感じらしい。へえ。そりゃ便利…なのか?

今後の希望もついでに聞いてみた。

前世が波乱万丈だったから今回は穏やかに行きたいらしい。

そこそこの職を見つけてそこそこ可愛い奥さんもらって天寿を全うしたいと。


「日本帰りたい?」

「俺はどっちでもいいけど母さんは?」


うーんここでの生活にも慣れたし、今帰って家族がいる保証はないし。

いきなり消えた娘がどうしているかぐらいは知らせたいがそんな手段無いし。


「無理に帰ろうとは思ってないよ」

「あっさりしてるね」


そうでもないさ。

まあ、私は君の夢を応援してるよ。


「あ、言っとくけど生まれ変わり(それ)と私のしつけは別だから。

私の腹から生まれたのは厳然たる事実なわけで。

つまり私はお前をしつける義務があるわけだ。舐めた口は許さんからそのつもりで」


その時の息子の顔は人食い虎を見た人間みたいに青かった。



息子は元々物静かな子だったが、バレてからはかなり明るくなった。

フィルの前でも吹っ切ったのか日本語をべらべらしゃべるようになり、フィルは頭の良さにびっくりしていた。


実はこのあたりで、私は別の星というよりは異世界にトリップしているのだと占い師(同郷の異世界トリッパー)に教えてもらった。

異世界トリップってのはつまり、パラレルワールドにタイムスリップ込みで放り込まれる現象らしい。大体ファンタジーな使命を持っていて、なぜか日本でよく起こるんだと。まさかこんな所で日本の失踪率の真相を知ることになろうとは。

異世界に特別な力を持って放り込まれるのをチートと呼ぶらしい。確かに何も持たず放り込まれた私にとってはチート(ずっこい)かもしれない。



息子は年をおうごとにどんどん見目麗しくなっていく。

息子よ、攫われるなよ。面倒だから。

軍事力関係ではビロウに頼めば何とかなるだろうが、あそこにも男の子と女の子がいるからなあ。

一度引き合わせたら両方に気に入られてて思わずふいた。人タラシは健在ですか。すげえな息子。これがチートと言うものか。


ちなみに娘もできた。こちらはフィルと息子がデロデロになっている。

甘やかさないように何度彼らの頭を叩いたことか。

そして義父母まで孫を構い倒し始めたあたり、一族総出かと遠い目をしたくなった。



娘のほうも別口の生まれ変わりだった。しかも日本からの。

前世で結構悲惨な人生だったので、普通の穏やかな人生、病気と縁のない人生を送りたいということで、中流家庭の私を母として生まれたらしい。

神様空気読みすぎだと思う。

まさかとは思うが、異世界もとのほしにゆかりのある人間をひとまとめにしようとしてないよな?

ちなみに娘は兄と比べると地味だが、かわいらしい顔立ち。

やはり両親(わたしたち)から継いだ黒髪と、黒い大きな目。

いつまでたってもフィルと息子は娘を猫かわいがりしたがる。でももともと娘はちやほやされるのが苦手らしく、あんまりきついことを言わなくてもまっすぐ育ってくれた。


それで娘のほうだが、妙な属性を持っているらしい。

歩くとイケメンが引っ掛かるというかイケメンを釣ってくるというか。

変態が釣れない点だけが救いだが、ビロウさんちの息子を一目でタラシたときは笑うより前に恐ろしさを感じた。

その場でビロウに誘拐対策を聞く羽目になった。



で何のかんのと月日が流れて。

とっくに異世界(こっち)歴のほうが長くなった私と、今でも傍らから離そうとしないフィル。

義理の両親のつてで社交界に出るようになった子供たち。


息子は自分の規格外の能力にくじけかけながらも今回の人生で初めてシスコンに目覚めたおかげか、取り囲んでいる女性陣からは生ぬるい視線を送られ、前回と比べて地味な人生(自称)を歩んでいる。


適齢期真っ只中の娘は求婚者をかわすのにきゅうきゅうとしている。

娘への求婚者たちについては、息子が大体対処しているから、目下、求婚者たちの最初にして最大の障害は息子である。

母親である私ができることはあんまりない。いつか娘が結婚相手に望んだ相手ができたときに、その人が死なないように弁護してやるくらいだろうか。


フィルは娘にべた甘だから娘が嫌がる結婚をさせる気はないみたいだし、無理に結婚をごり押しされるような弱みは持っていない。

義理の両親は政治にも経済にも顔が利くし、息子は軍事に顔が利くし一つの勢力を持っている。


息子が長じてからは娘の誘拐は計画段階で犯人を吊るし上げているし。しみじみ万能だな息子。

それを妹にだけ傾けているから平和だなあ世界。うん。

娘に幸せな結婚及び夫婦生活をしてもらいたいと思うが、どうかなー。



まあ、そんなこんなでちょっと難儀な暮らしは続行中です。


本編 了。

ここまで主人公と筆者にお付き合いくださり、ありがとうございます。


あと数話番外編で完結の予定です。

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