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3-1.俺たちの住まうゲーセンに敵はいない!

注意。ゲーセンの話です。将棋のとき以上に、知ってる人しかわからないことがありそうです。すみません。

 そして俺は辿りつく。


 いや、正確には道を一つ見つけただけだ。「辿りつく」は言い過ぎだろう。けれどそれは間違いなく、俺にとって偉大な一歩だった。

 数億年の歴史の中で輝き、数億年後にも誇れる偉業――、だと思う。


 そして、その偉業の成果・・は仰々しく、その身に相応しくない口調で謳う。


「いいかい、リン。この世の全ての『極化使いマクスウェルオーナー』を倒すんだ。そうすれば、君は君の望む世界へと至れる。きっとそこには、君の望む『彼女』もいるだろうね」


 俺に道を示す友ココノエ・サクラは雄弁に、そして演劇のように語る。

 その大仰な喋りとTシャツにジーパンという姿はミスマッチでシュールだ。しかし、それでも彼女に僅かの照れもない。これが彼女の素というわけだ。


「ああ、わかった。サクラがそう言うなら、俺はそれを信じるよ」


 それに合わせ、俺も雄弁に、そして演劇のように答える。

 俺もパーカーにジーパンという凡俗な姿だが、サクラに合わせてやる。馬鹿をやるとしても、みんな一緒ならば楽しいものだ。


 サクラは背中に背負った剣道の竹刀袋を背負いなおし、道を先導する。


「グッド。いい答えだ。ならば闘争だ。今すぐにでも殺し合いだ。魂を賭けた愛情表現だ。幸い、一人目の『極化使いマクスウェルオーナー』はすぐそこにいる」

「なっ! この街に『極化使いマクスウェルオーナー』がいるのか!?」

「当たり前だよ。立花町は異界中の異界。特異点中の特異点。魑魅魍魎が跋扈し、時によっては魔王がいたりもした。『極化使いマクスウェルオーナー』は自然とここへ集まるように、出来ている・・・・・

「ま、魔王? え、なに、うちの街って魔王とかいたの? いきなり、ファンタジーすぎないか?」

「ふふっ、まず『魔王』に食いつくあたり、いつかのリンとは大違いだな。いい具合に俗世にまみれている。それが嬉しくもあり、悲しくもある」


 物悲しそうな表情でサクラは微笑む。

 

「食いついて悪かったな。俺くらいの年代の男なら、魔王なんて素敵ワードを見過ごせるわけないんだよ。これはもう脊髄反射のレベル。思春期男子の魂は常に宿敵を求めているんだ」

「ほう、それは面白いことを聞いた。君の魂への解釈は、私にとって興味深い。いや、真理に近いため、聞き逃せない」

「ま、まて。ごめん、今の冗談。真面目に受け取られると凄い恥ずかしかった。できれば忘れてくれ」

「ふふふ、残念ながら私の記憶形式は人間のそれとは違ってね。忘れたくても忘れられない。全次元の根源、アカシックレコードの底へ自動記録される。ゆえに、今の君の台詞は取り消せない」

「つまり、今の俺の恥ずかしい台詞は、世界に永久保存されたのか……?」

「イエス。私と対面している以上、覚悟してくれたまえ」

「気軽に冗談も飛ばせねえなそれ……。もし、お前の前でネタがすべったら、それが永遠に残るのかよ……」

「ふふっ、そう怯えなくて良い。そもそもアカシックレコードにアクセスできる存在なんて数少ない。そして、そんなことができる存在は、君のすべったネタなんて気にも留めないさ」

「そりゃそうだな。よし、今日も明るく楽しくをモットーにやってやるぜ!」


 俺は自分の信条を宣言し、元気に歩く。


「それで、どこへ向かってるんだ?」


 そして、前を歩くサクラに聞く。


「ふふっ、教えよう。我らが怨敵、『極化使いマクスウェルオーナー』が待つ舞台っ、それは――!」

「それは?」


 サクラはばっと両手を広げ、上半身だけこちらを向いて楽しそうに叫ぶ。


「――立花町駅前にあるゲームセンターだ!!」


 そして、俺の初戦の舞台を宣言した。

 これもまた、大仰な話だったわりに凡俗な場所なので、ひどくシュールだった。



◆◆◆◆◆



 俺たちはゲーセンまでやってきた。市駅から徒歩3分の場所だったので、とても移動が楽だった。


 そして、そのゲーセンに入った瞬間、ざわつく声を拾う。


「おい、あいつ、あれだぜ。あの『呪われた子供ヴェリスズノヴァ』だ!」

「まじかよ、あれが……! 立花町の『勝率九割九分ダブルナイン』!」


 なんだか、妙に聞き覚えのある二つ名を囁かれていた。


 恥ずかしくて死にそうな二つ名だと思いながら、その名の主を見つける。

 アーケードゲームの一席に、ひときわ異彩を放つ少女が一人いる。


 まるでモデルのような長身。身体の造詣が神に愛されているとしか思えない完成度。

 そんな絶世の美少女が、やたら凶悪な顔でディスプレイと睨み合っている。

 

 そして、急にガッツポーズと共に立ち上がり、高笑いを始めた。


 周囲のギャラリーもどよめく。


「流石、戦績18941戦18759勝182敗。勝率99%の化け物だ……」

「他の対戦ゲームも軒並み99%らしいぜ……」


 その会話の内容から、この少女がゲームに強いことがわかる。


「ふふっ、ふはははは! この私に勝てる猛者はいないのかしら!」


 強いのはわかるが、同時に頭がおかしいこともわかる。

 唐突に悪役笑いをあげながら、口頭で挑戦者を募りだした。

 

「相変わらず、残念な女子高生だ……。性格が悪すぎる……」

「ああ、顔はいいが、頭がやばい。ゲームに勝って高笑いとかほんと頭おかしい」

「というか学校やってるときにもゲーセンにいるらしいからな、あれ。社会不適合者なのは間違いない」


 ギャラリーたちも俺と同じ感想のようだ。

 遠巻きに見学しているが、絶対に関わろうとしない。


「よし、名乗りを上げろ。リン」


 しかし、俺の盟友は無情にも俺を生贄に捧げようとする。


「え……? もしかして、あれが俺の探していた『極化使いマクスウェルオーナー』?」

「そうだね、あれが君の運命の敵だ。魂レベルで惹かれあう、ドゥームライバルだ」


 あ、あれが……?


 サクラはひどく真剣な表情で、頭おかしい少女を睨む。


「おい、サクラ。流石の俺でも騙されないぞ?」

「いや、騙すも何も、本当のことだ」

「まて、まてまて、これって世界の命運がかかった戦いなんだよな? 『極化使いマクスウェルオーナー』は世界を歪ませる異端分子で、その力はあらゆる異能でも対抗できない存在なんだよな?」

「ああ、あの子は『極化マクスウェル』を使ってゲーセンで無双している。世界の歪みだ」

「しょぼいな、世界の歪み!」 

「ちなみに、彼女の能力は――」


 俺とサクラが話していると、それに目をつけた少女が声をかけてくる。


「――なに見てんのそこ!? やる気あるなら乱入しなさい!」

「あ、いえ、すみません。やる気ないです。乱入しません」


 反射的に敬語で答える。ぶっちゃけ、死ぬまで他人でありたい。


「ハッ、チキンが! 筐体に100円飲まれて死ね!」

「100円飲まれたくらいじゃ死なねえよ……」


 俺はできるだけ少女から距離をとる。

 そして、俺は忌憚のない意見をサクラに述べる。


「おい、サクラ。あれは放置してていいんじゃないのか? 別に、あれが居ても、さほど世界は困らないだろ……」

「それは駄目だ。あのまま彼女がゲームで勝ち続けたら、このゲーセンの歪みが頂点に達してブラックホールが形成される」

「想像以上に大迷惑!?」

「それでも一段階目の現象だ。ブラックホールが形成され、世界が歪み、時間の概念が崩壊する。そして、世界は消失し、次には隣接する平行世界にまで影響が現れ、連鎖的に全次元が終末を迎える」

「規模でけえな! ゲーセンの一迷惑客のくせに!」

「過ぎたる力を持ちしものがゲーマーを志したばっかりに、世界はこのゲーセンを軸に再構成されてしまうわけだ……」

「一介のゲーマーが神に至るっていう字面が嫌だなぁそれ!」


 このようにいつも通り俺がサクラと喋っていると――。


「ん、ん? 今、神って言った!? もしかして、私のこと!?」


 聞きつけた少女が介入してくる。満面の笑みで、とても嬉しそうである。


「神と聞いて振り向くやつ、初めて見たよ!?」

「いやー、私ってばあれじゃん。ほとんどのゲームの全国ランカーじゃん。そりゃ、必然とネットとかで神って呼ばれるようになるわけよね。私はそう思っていないんだけど、ほらファンの子が勝手に言っちゃうんだよね。私自身はそんなつもりはないんだけど、ほら勝手に、ね? というか、私が神を名乗らないと、神のハードル上がっちゃうしね。ネット上から神が減っちゃうじゃん? みんなのことを考えると、神であらざるを得ないっていうか、神のほうが私に擦り寄ってくるっていうの? もう私こそが神なんだなーって思っちゃうわけなのよ」

「自意識過剰極まりすぎ! 果てしなくうざい!」

「う、うざいとか言うなぁ!」


 急に少女は半泣きになった。「うざい」がトラウマワードのようだ。

 打って変わって不機嫌となった少女は、俺をびしぃっと指差しながら叫ぶ。


「そもそも、あんたらゲームセンターで彼女連れたぁ、良いご身分じゃないのぉ!? ここはデート気分でくるようなところじゃねえだよ! ここは戦場なんだよ! カップルは戦死しろ! あんたらみたいなのがいるから、対戦相手を求めて独り身でくるゲーマーがコンプレックスで欝になるんだよ!!」

「ばっ、おまっ、勘違いすんな! 俺とサクラはそんなんじゃねえよ!」


 サクラが彼女と言われて、俺は慌てて否定する。


「照れるね、リン」


 隣では顔を赤くしてるサクラがいた。カワイイ。


「しかも、なにそのテンプレ的反応! ツンデレ系男子なわけ!? というか下の名前で呼び合ってるとかっ、羨ましすぎて吐きそう! 初々しい青春とかやめてください、死んでしまいます!!」


 俺たちの反応を見て、まるで毒ガスを食らったかのような反応で少女は苦しみ乱す。

 そして、何度かのたうちまわったあと、ゆらりと立ち上がる。


「――ふっ、ふふふっ、ふふふふフフフっ! 彼女の前で恥をかかせてやるっ! リア充共はみな殺す! ミナゴロス!!」

「必要以上に怖い! というかプレッシャーというか波動みたいなものがびしばし伝わってくる!? なにこの正体不明の波動!」


 立ち上がった少女の髪が正体不明の風によって揺らめく。

 その風は確かな力を持って俺の身体を蝕み、拘束する。威圧感とかいったレベルではない。もはや、オカルトに近い超常現象だ。


「彼女の『極化マクスウェル』能力は、72人の『極化使いマクスウェルオーナー』の中でも一二を争うからね。ただそこに居るだけでも、世界への影響力だけは凄まじい。――いや、しかし。ちょっと世界が変わるだけで、こうも変わるのか。不安定な子だ」

「まて! なんで、いきなりラスボス級と戦うわけ!? これ初戦だぜ、初戦! そういうのは下から順に行こうぜ!?」


 72人の『極化使いマクスウェルオーナー』と戦うのは聞いていたが、まさか上から順に戦うとは思っていなかった。こういうのってもっと手頃なのから始まると信じていた。


「あ、私は三階のバッティングセンターで打ってるから、あとよろしく」


 しかし、サクラは俺の話など一切気に止めず、すたすたと歩いていく。


「このタイミングでスルー!? ちょ、まて、サクラァ!」

「ふふっ、バッティングセンターとか久しぶりだな。何千年ぶり、になるのかな。あのときはどちらが先にホームランを一万本打つかゲームをして、リンを泣かせたものだ。腕が衰えていなければ、160キロの速球も軽く打てるはず……」

「思いのほか上機嫌!? 見たこともない笑顔じゃん! 思いのほかカワイイ!」

「私のマイバットが唸るぅ!」

「思いのほかキャラも壊れた!? というかその背中の、バットだったんかい!」


 サクラは竹刀袋からバットを取り出し、走り去っていった。

 そして、俺と少女だけが取り残される。


「あんたの彼女、変なやつね。あそこまでの電波、この私でもびっくりだわ」

「いや、おまえも負けず劣らず電波だからな?」


 どこもかしこも電波だらけだ。俺の身体に悪影響がないか、本気で心配になってきた。


「しかしっ、あんたの彼女が残念な子だったとしても! 一切、手は抜かない! むしろ、ヒートアップ! あんな頭のかわいそうな子に彼氏がいて、なんで私にはおらんねん!?」

「それは知らん」


 もう突っ込みする気もなくなってきた。

 俺はため息をつきながら、仕方がなく少女と戦うことにする。 


「はあ、しゃあないか……。おい、対戦するゲームはどれだ。教えろ」

「おっ、やるか? やるのか?」

「やる。おまえ倒さんと世界がやばいらしいし」

「――ん? そりゃ、私は世界を代表する超美少女だけど? 別に世界征服は企んでないよ? あえて言うならゲーム業界の征服くらいしか狙ってないよ?」

「それは勝手にしろ。とにかく、こっちにはこっちの事情があるんだ。さっさとやろうぜ」


 俺は余計な突込みを避けて、ゲームを催促する。

 すると、少女は色々とゲーセン内を歩き回り、一つのゲームを指差した。


「そう、じゃあこれ。最近出たゲームだから、一番フェアでしょ」


 よくあるロボットもののアクション対戦ゲームだ。

 特殊なコントローラではなく、普通のレバースティックとボタンだ。勝負するには丁度いい。


「それでいい。けど、ちょっと練習させろよ」

「え、もしかして、全く触ってないの?」

「ああ、やったことない。おまえはどうなんだ?」

「もう千戦以上こなし、勝率99パーセントをキープ中。流石私。平日の朝からゲーセンに張り付いているだけはある」

「それ以上何も言うな。おまえが残念ということしか伝わらん」

「なぜこの偉大さが凡人には伝わらないのかしら……」


 俺は筐体の前に座って、100円を入れる。

 飲まれもしないし、死にもしない。問題なくゲームを始めれる。

 しかし、その前に――。


「魔眼『前世の瞳プロト・エターナルフォースブリザード』発動――」


 俺は隣の少女にも聞こえないほど小さな声で、自分の『極化マクスウェル』能力を発動させる。

 口にするのは滅茶苦茶恥ずかしいのだが、言葉にしないと発動しないという罰ゲーム方式なのだ。仕方がない。


 そして、俺はこのゲームを『認識』する。

 五感を超越し、脳の処理を凌駕し、世界の理の根本から、あらゆる意味で、それの本質を『認識』する。


 それは世界を改変する力だ。


「――ん、お金入れたから、もうできるよ?」


 隣の少女が、スタート画面で微動だにしない俺を見て不思議がる。


「ちょっと説明見てるんだよ」


 嘘は言ってない。

 筐体にはゲームの説明が乗っている。少女は俺がそれを読んでいると思って静かになる。


 その間に俺は全てを知る。

 このゲームの全情報を『認識』する。


「――なるほど、このゲームは60分の1秒を軸に構成されていて、――そして、各キャラクターに設定された当たり判定へどれだけ攻撃判定をヒットさせるかという勝負なんだな。基本的にはスポーツの考え方と同じでいいな。ならば当然、勝利条件を満たすためにルールの限界まで手を尽くすのは前提だ。――まずはこのゲームのルールと仕組みを理解して、勝ちやすい行動を見つける。0と1で構成されている以上、突き詰めればジャンケンと同じ原理になるはずだ。あの頭おかしい女の勝率が99%である以上、このゲームには必勝法に近いものもあるだろう。理論値の終点さえ見つければ、あとは読み合い。――俺の得意分野だ」


 そして、俺はさらに『認識』を広げる。

 ゲーセンの休憩所に置いてあるゲーム雑誌から、このゲームの情報を入手する。スマートフォンを取り出し、ネット上から有益な情報を最短時間で探し、それを理解していく。


 俺は小さな声で自分にだけ語りかける。

 傍から見たら気持ち悪いだろうが許して欲しい。これも能力の延長なんです。なぜか罰ゲーム方式の能力なんです。


「お、おう」


 隣で引いてる子がいるけどスルー。


「――ゲームのシステム、バランス、傾向、仕様も全て記憶。その中で最も勝利しやすいキャラクターを選別する。――強パターン、強技、強行動にあたる思考回路を構築。それをミスなく人間の稼働時間の限界まで徹底し続ける技量と経験を脳に負荷完了。脳の習性を相手の特定行動をインプットしたら自動で対策行動をアウトプットするように変更。最適化しつつ、思考能力と言語能力も保ち、――あとは冠理倫太郎としての柔軟性を残して、最終調整を行うだけ」


 俺はゲームのスタートボタンを押す。

 そして、迷いなくこのゲームで一番強いであろうキャラクターを選び、練習を始める。


 隣の少女は目を輝かせて、「なかなか勘がいいわね。それ強キャラ」と上から目線で話しかけてくる。

 適当に相槌を打って、俺はゲームを進める。

 ステージ1から限界まで時間を使い、情報で構築した仮想世界と現実との距離を縮めていく。


 その最中――。

 

 「あ、そこは違う」「そうじゃないって言ってるじゃない」「ここはこうなって」「ほほう、筋がいいわね」「やるじゃん。というか本当にやったこないの?」「うえ、なんで初見でコンボできるの? なにそれ怖い」「現時点最大ダメできちゃうんだね。すごいね。初めてとか嘘だろてめえ」


 と隣がまじうるさい。

 適当に相槌を打つんじゃなかった。なんだか調子に乗ってやがる。

 そして、数十分ほどの時間が過ぎ、ゲームのCPU戦をクリアする。


「ふう」

「っふー」


 俺たちはいい汗をぬぐって、大きく息を吐いた。

 俺は脳みそをフル回転させたから汗をかくのはわかる。けど、なんで隣の少女まで汗をかいてるんだろう。不思議だ。


 そして、少女はUMAを見つけた科学者のような顔をして、俺に語りかける。


「私ってば対人ゲームで一方的に誰かをボコるプレイしかしたことなかったけど。こういう風に隣でプレイしてもらうのも悪くないわね……。友達いないから、全然知らなかったわ……」


 本来、ゲームってのはそういう楽しさが先に来るはずなんだが……。

 この可愛そうな少女は逆だったらしい。


「っていうか、誰かと一緒にゲームするのって、超たのしいぃーーーーっ!」


 そして、今にもヒャッハーと言いだしそうな顔で両手をあげて興奮している。


「そうか。でも明日からは俺以外のやつで頼むな。他人だからな、俺たち」

「冷たい! え、なんでっ? なんでなんで? これもう私たち友達じゃない? マイベストフレンドじゃない?」

「俺の友達のハードルはそんなに低くない。おまえのそのテンションの高さは、俺の提示する友達の条件を大いに逸脱してる。本当にすまない、おまえの友達にはなってやれない」

「そんな神妙に断るなよぉ! 別にいいじゃない! 彼氏になれとまでは言ってないじゃん! ちょっと友達になるだけ! ちょっとだけだからぁ!!」

「その無駄にでかいシャウトが友達なくしてるって気づけ……。いいから、もう戦るぞ」


 断固として友達であることを断り続け、俺たちは勝負に入る。

 向こう側に少女は座り、100円を入れる。


 当然、少女も同キャラを選び、対人戦は始まった。

 同時に俺はこのゲームの必勝法を実践する。


 しかし、実践するといっても、大したことはない。開始位置から全く動かないだけだ。


「……ん、ん?」


 向こう側から不思議そうな声が聞こえてくる。

 それでも、俺は動かない。


 相手が攻撃してきたら、それを迎撃する。

 そして、隙を突く。リスクは限界まで負わない。ノーリスクでやれることだけをやる。


 リスクを負いそうな場合は絶対に動かない。絶対にだ。


「――ちょっと、あんたかかってきなさいよ! これじゃ時間切れで両方負けよ!?」

「このゲーム、先にしかけたら不利なんだ。悪いが、俺はずっと待たせてもらう」

「そういうのやめよ! そういう冷めるプレイは暗黙の了解で避けるのがゲーセンのルールなのよ!?」

「限られたルールの中で勝利条件を満たそうとしているだけだぞ?」

「それ、あんた元ネタ知らずに本気で言ってそう!」

「いいから、攻めてこいよ。俺はこのままでも一向に構わないんだが?」

「おまえハイスラでボコるわ!」


 ちなみにこのゲームにハイスラなんてボタンはない。ロボットアクションゲームだしね。

 そして、盤外の精神攻撃の試合になり、逆上した少女が無茶な攻めを行って俺はそれを悠々と迎撃。


――完全勝利。


 また勝ってしまった。敗北を知りたい。


「よし、これで帰れる」

「あ、あんた……!」


 向こう側から顔を真っ赤にした少女がやってくる。


「俺の勝利だな。それじゃあ、俺はこれで――」

「――もう一度よ! 今度は本気でやってやるわ!」


 俺が帰ろうとした瞬間、背筋に寒気が走る。


 少女は言葉通り、本気になっていた。

 周囲の空気が歪み、視認できない『何か』が溢れ出ている。


 それが『極化使いマクスウェルオーナー』の波動であることを、俺は直感的に理解する。この『何か』こそが、世界を歪ませる力の源。世界崩壊の因子。人類の敵である証だ。


 世界を改変する資格者は名乗る。


「――そういえば名前を聞いてなかったわね。私は三季崎春散。あんたは?」

「――俺は冠理倫太郎だ」


 俺と春散は睨みあう。

 そして、春散はゆっくりと次のゲームへと俺を誘う。


「こっちのゲームやるわよ。悪いけど、こっちなら負けないから」

「いいだろう。けど、練習はさせろよ」

「もちろん。横で見ててあげるわ」

「いや、それは普通にいらない」


 次のゲームはメジャーな格闘ゲームだった。

 俺は同じ工程を繰り返し、また同じような戦法で春散に勝とうとする。


 しかし、今度は彼女も本気だ。

 ゲーマーとしての本気ではない。『極化使いマクスウェルオーナー』としての本気――。


「――『紡績破邪の隻手デストラクション・マリス』。相手は死ぬ」

「なにこれ。コンボが終わらないんだけど……」


 コンボというコンボが全て繋がって・・・・いるため、余裕の10割コンボを食らってしまう。

 次のラウンドも同じ方法で負けてしまう。

 ぶっちゃけると小足が刺さるとゲーム終了というひどいゲームになってる。


「あははははっ、ざまあ! 私の勝ちね! 私を本気にさせたのが悪いのよ!!」

「いや、いやいや! あきらかに画面おかしかったろ! バグってレベルじゃねえぞ!?」

「勝てばいいのよ! まさか、さっきガン逃げしてたあんたが文句言わないわよね?」

「上等だこら……! もう一度だ!」


 そして、俺たち三戦目を開始する。

 無論、俺も遠慮なく『極化マクスウェル』能力を発動させる。


「――魔眼『前世の瞳プロト・エターナルフォースブリザード』。相手は死ぬ」


 これにより、俺はゲームのフレームの世界――、つまり、60分の1秒を常に正確に『認識』できるようになる。


 いわゆる、クロックアップってやつである。

 コマ送りになった世界で、俺はコマンドを入力していく。


「触られると死ぬなら、触らせなければいい――!」

「なにその反応! おかしくない!?」


 常に超反応で無敵昇竜を繰り出す俺に、春散は異常を感じたようだ。

 だって、どんだけ固めていようと60分の1秒の隙間さえあれば、見てからノーリスクで切り返せるのだ。そりゃ、異常の一つや二つは感じるだろう。小足見てからってレベルじゃない。


「こ、こいつ!! ――『紡績破邪の隻手デストラクション・マリス』!」


 更なる能力の発動を感じる。


「ちょちょっとまて、なにこれ! 連続ガードになってる! おまえ、繋げすぎ!」

「これ一度ガードさせたら勝ちだわー。死ぬまで殴れるとか、繋げる力まじ強いわー」

「画面が完全にバグゲー!」


 ゲームとしてあってはならない映像がディスプレイに写っている。

 延々と殴り続けられるのを防御する俺のキャラ。これはひどい。


 タイムアップ近くまでそれは続く。


「削れ死んだ……」

「あはははは、はは、ごほっごほっ、ははは! どうやら、やはり私のほうが強いみたいね!!」

「こいつ許さん!」


 まだまだ甘かったようだ。

 今度は能力で時間を操作してやる。俺の能力ならばその真似事ができる。


 次こそ絶対の勝利を確信して、100円を入れる。


「再戦だ! ――魔眼『前世の瞳プロト・エターナルフォースブリザード』!」

「こいよ、リン! ――『紡績破邪の隻手デストラクション・マリス』!」


 その無益な戦いは日が暮れるまで続いた。


 長く苦しい戦いだった。

 痛く見苦しい戦いでもあった。


 俺たちは当然のように従業員から注意を受け、当然のように出入り禁止となった。

 警察呼ばれそうになった。というか、病院を薦められた。

 そして、周囲から「おい、あいつ! エターナルフォースブリザードのやつだぜ!」って囁かれるようになった。


 そりゃ、オリジナルの技名を叫びあいながらプレイしてたらそうなる。痛いとかいうレベルじゃない。


 追い出され、ゲーセン前で2人して途方にくれていたところ、満足げなサクラが3階から降りてくる。こうなるのはわかっていたらしい。じゃあ、止めて欲しかった。


 その後、サクラの提案で近くのレストランへ行くことになり、俺と春散はゲームについての持論をぶつけあったりした。

 無駄に早食い対決とかしたりして、夜にはサクラの家でゲーム大会をした。

 当然、能力ありだ。


 夜中に自分の考えたオリジナル能力名を叫びながら対戦ゲームをする俺たちは、とても幸せだった。遠慮なく技名を叫べる幸福を知ってしまった。もう後戻りできねえ。


 こうして、俺と春散は三巡目の世界でベストフレンドになったのだった。

 中二病友達とも言う。





9・1 また一人称をミスしてしました……。

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